対戦アクションゲーム『ジョジョの奇妙な冒険 アイズオブヘブン』、『NARUTO-ナルト- 疾風伝 ナルティメットストーム4』、対戦格闘ゲーム『GUILTY GEAR Xrd -REVELATOR-』、TVアニメシリーズ『ブブキ・ブランキ』、IDOLiSH7(音楽ゲーム)『RESTART POiNTER』MV。2015年末∼2016年前半に相次いで発表されたこれらの作品は、いずれも3DCGを多用しつつ、日本のセルアニメが培ってきた表現方法を様々なやり方で再現している。その取り組みが発表されたCEDEC 2016のセッション(※)「セルシェーディングの進化はどこへ向かうのか?これからの3Dアニメ表現について考えるラウンドテーブル」の模様を通して、セルルック3Dの最新事情を紹介しよう。
芦塚慧祐氏(テクニカルアーティスト)
株式会社サイバーコネクトツー
2012年サイバーコネクトツー入社。テクニカルアーティストとして、最近では『ジョジョの奇妙な冒険 アイズオブヘブン』(PlayStation®4/PlayStation®3/2015)、『NARUTO-ナルト- 疾風伝 ナルティメットストーム4』(PlayStation®4/2016)などのコンシューマタイトルに携わる。シェーダプログラム、および描画表現の開発を担当。
www.cc2.co.jp
本村 C. 純也氏(テクニカルアーティスト)
アークシステムワークス株式会社
2002年アークシステムワークス入社。テクニカルアーティスト兼リードモデラーとして、対戦格闘ゲーム『GUILTY GEAR Xrd』シリーズのビジュアル制作に従事。
www.arcsystemworks.jp
鈴木大介氏(取締役/CGスーパーバイザー)
株式会社サンジゲン
2006年に松浦裕暁氏(代表取締役)らと共に株式会社サンジゲンを設立。映画『009 RE:CYBORG』(2012)、TVアニメシリーズ『蒼き鋼のアルペジオ -アルス・ノヴァ-』(2013)、『ブブキ・ブランキ』(2016)などでモデリングやCGディレクター、スーパーバイザーを務める。
www.sanzigen.co.jp
仲道 える沙氏(ディレクター)
有限会社神風動画
2014年神風動画入社。ディレクター兼デザイナーとして、美術やテクスチャ、コンポジットなどを担当。最近では『ガッチャマンクラウズ インサイト』OP(2015)、『ドラゴンクエストモンスターズ ジョーカー3』PV(2016)、IDOLiSH7『RESTART POiNTER』MV(2016)、『ウルトラジャンプ』CMシリーズなどを監督。
www.kamikazedouga.co.jp
何を追求すれば、アニメらしくなるのか?
本セッションでは芦塚慧祐氏が進行役となり、サイバーコネクトツー、アークシステムワークス、サンジゲン、神風動画における、セルルック3D制作の最新事情と今後の展望が語られた。本記事では、Webへの画像・動画掲載が許可された以下の3作品に焦点を当て、アニメらしさを追求するための多様な取り組みを紹介する。
●陰影表現を追求した、対戦格闘ゲーム『GUILTY GEAR Xrd -REVELATOR-』
●生き生きとした表情を追求した、TVアニメシリーズ『ブブキ・ブランキ』
●フェティシズムを追求した、IDOLiSH7(音楽ゲーム)『RESTART POiNTER』MV
Title01:陰影表現を追求した『GUILTY GEAR Xrd -REVELATOR-』
対戦格闘ゲーム『GUILTY GEAR Xrd -REVELATOR-』に登場するキャラクターたちは、3DCGで表現されているにも関わらず非常にアニメらしいビジュアルを実現している。その開発に携わったアークシステムワークスの本村氏は「とにかく陰影制御にこだわりました」と解説する。アニメの画は、線画、色指定、陰影指定の3要素に大別できる。1枚1枚の画をアニメーターが手で描く2Dアニメの場合、3要素の表現はアニメーターのセンスに委ねられる。
3DCGの場合には、3要素をレンダリングして組み合わせることでアニメらしいビジュアル(セルルック)を実現する。基本的に3要素の制御はコンピュータが担うため、高速で正確な処理が可能となる。ただし、コンピュータは指定通りにデータを処理する計算機であり、人間のように美醜の判断ができるわけではない。「特に難しいのが陰影制御です。アニメの陰影は、アニメーターによってデザインされています。物理的に正確かどうかといった理屈ではなく、人が見て美しいと感じるかどうかが判断基準になっており、コンピュータがつくる陰影とのちがいは歴然です」(本村氏)。
コンピュータが制御する場合、ほしい位置やタイミングで陰影を出せない、明るい部分と暗い部分の境界線がガタガタになるといった問題が発生しがちだという。しかもゲームではリアルタイム&インタラクティブなレンダリングが必要とされるため、後から手作業でレタッチするといったプリレンダーの3DCGなら可能な対処法は使えない。
「アーティストが意図を込めてデザインした陰影にこそ、プレイヤーは価値を見いだし、カッコ良い、カワイイと感じてくれます。まだまだコンピュータだけに任せておくことはできません。本作に登場するキャラクターの3Dモデルには、陰影を制御するための様々なデータを埋め込みました」(本村氏)。以降では、本作における陰影制御とその手法について、静止画・動画を交えて紹介しよう。
Title02:生き生きとした表情を追求した『ブブキ・ブランキ』
2016年1月∼3月にシリーズ前半の12話が放映されたTVアニメ『ブブキ・ブランキ』。10月からの後半12話の放映に向け、サンジゲンでは現在も制作が続いている。1話あたりの尺が約20分、カット数が約300カットにのぼる本作を、同社では1話あたり約1.5ヶ月サイクルで制作している。「とにかくシビアな時間管理が求められます」と鈴木氏は語る。しかも、本作は登場キャラクターの数が非常に多い。作中に登場するロボットはブランキと呼ばれ、5人1組のチームで操縦する。主人公チームを筆頭に多くのチームが登場するため、キャラクターの総数は数十体におよぶ。
これらのキャラクターは基本的に3DCGで表現されているが、良質な手描きアニメに引けを取らない、生き生きとした表情の実現にこだわったという。キャラクターに表情や動きを付け、生命を吹き込むのはアニメーターの仕事だが、その中には経験豊富な人もいれば、まだまだ成長途中の人もいる。「誰が担当しても、一定クオリティの表情を、スケジュールを守ってつくれるようにするため、まずは大量のモーフターゲットを制作しました」と鈴木氏は解説する。以降では、本作のキャラクターアニメーションについて、表情(フェイシャル)を中心に紹介しよう。
「サンジゲンでは、アニメーターが好きに顔をいじることを昔から奨励してきました。その結果、手描きアニメの『ゆらぎ』みたいなものを3DCGでも再現できればという期待があったからです。礼央子様の場合は特にそれが顕著で、話の後半になるほど、すさまじい表情を見せてくれるようになりました」(鈴木氏)。
ディズニーをはじめとする欧米のアニメーションは、1秒間に24枚(24コマ)の画を連続再生することで動きを表現しており、これをフルアニメーションと呼ぶ。その一方、日本では手塚治虫氏がTVアニメ『鉄腕アトム』(1963∼1966)の制作を指揮した時代から、1秒間に再生する画の枚数を減らしてきた。これをリミテッドアニメーションと呼び、画の枚数が12枚の場合は2コマ打ち、8枚の場合は3コマ打ちとなる。フルアニメーションの1枚あたりの画の再生時間は1/24秒だが、2コマのリミテッドアニメーションなら1/12秒、3コマなら1/8秒となる。当初は制作負荷を減らすために採用された手法だったが、それが日本アニメの特徴となり、アニメらしさを表現する上で不可欠のものとなった。サンジゲンだけでなく、本セッションに登壇したほかの3社も、様々な方法でリミテッドアニメーションを再現している。
「『ブブキ・ブランキ』の場合、基本的には3コマ打ちで、動きの内容やシチュエーションによっては、2コマ打ち、フルアニメーションも併用しています。手描きアニメは同じカットの中でもコマの打ち方が変わったりして、これといった法則性は見当たりません。3DCGでの再現を始めた当初、『どんなコツがあるんですか?』と手描きのアニメーターの方に質問したら『そんなものは経験だよ!』と言われました(苦笑)。『俺たちには無理かもな』と思っていたのですが、自分たちが見てきたアニメを再現するつもりでコマを打っていくと、徐々にアニメらしい見映えの動きをつくれるようになり、今にいたります」(鈴木氏)。
Title03:フェティシズムを追求したIDOLiSH7『RESTART POiNTER』MV
「IDOLiSH7(アイドリッシュセブン)」は、2015年8月にリリースされたバンダイナムコオンライン初の女性向けリズムゲームアプリだ。神風動画では、本作の主人公である7人の男性アイドルグループが歌う楽曲『RESTART POiNTER』のMVを制作した。
本作のメインターゲットは女性だったため、女性のこだわり、女性が求めるフェティシズムを追求したと仲道氏は語る。「ディレクターの私をはじめ、モデリングチーフ、アニメーションチーフなどの主要スタッフを女性が占めている一方、スタッフの中には男性もいました。制作を通して男女のフェティシズムのちがいを実感できたカットがあったので、その制作過程をご紹介します」(仲道氏)。
セルルックに限らず、3DCGの技術レベル・表現レベルは年々高くなっており、コンピュータによって自動化できることも増えてきた。それでも、観る人の心を揺さぶる魅力的な画づくりのためには、アーティストの意図が込められた調整は欠かせない。全てをコンピュータで自動化することは不可能だからこそ、アーティストがセンスを発揮する場が消えることはなく、アーティストが手を入れやすい制作環境の構築は不可欠と言えるだろう。
TEXT_尾形美幸(CGWORLD)
PHOTO_弘田充