昨今急激に盛り上がりを見せているVTuberシーン。いまや1万人以上ともいわれるVTuberたちの中で、しっかりと存在感を発揮しているのが宗谷いちかだ。VTuberグループ「有閑喫茶あにまーれ」のメンバーとして活動を行う一方で、その歌唱力の高さからアーティストとしても注目を集めている。
昨年11月には、誕生日を記念した、自身2度目となるソロライブ「Ichika Souya 2nd Q Re:18:2」を開催。新時代的な映像表現と組み合わされた圧巻のパフォーマンスでファンを熱狂させた。今回はそんな2ndソロライブの舞台裏に迫る。
●Information
『Ichika Souya 2nd Q Re:18:2』
2021年11月20日(土)20:30 OPEN/21:00 START
アーカイブ配信チケット:5,500円
アーカイブ販売期間:11月20日(土)23:00〜
LIVE Blu-ray期間限定販売中!
価格:11,800円
販売期間:11月20日(土)22:30〜1月10日(月)23:59
●STAFF
Director:窪田敦之
Creative Director/3DCG Director:栁 淳哉
Technical Director:藤井康輔
Camera Switching:藤井祐希
Sound Director:江口真彦
Movie Editor:藤井祐希/原 理恵/中尾 真波土
Product Manager:北村智史
Line Producer:堤 駿介
Floor Assistant:倉重諒人
Promotion:平木洋輔
774inc. CEO:ななし
「東京」×「VTuber」を盛り込んだ世界観演出
CGWORLD(以下、CGW):まず、「Ichika Souya 2nd Q Re:18:2」とはどういったイベントでしょうか?
ななし氏(以下、ななし):774inc.代表のななしです。「Ichika Souya 2nd Q Re:18:2」は、774inc.所属のタレントである宗谷いちかの誕生日を記念して開催したオンラインライブです。宗谷いちかのソロライブとしては2度目となりまして、私はライブ全体のプロデュースをさせていただきました。
ななし氏
774inc. CEO
www.774.ai
林 範和氏(以下、林):ライブの制作を担当したBalus代表の林です。
窪田敦之氏(以下、窪田):私もBalus所属で、本件のディレクターを務めました。
CGW:今回のライブのコンセプトを教えてください。
ななし:コンセプトは「東京」と「VTuber」を繋げる「バーチャルライブでの新しい映像演出」でした。
東京オリンピックが開催され、世界中から注目された東京を舞台に、VTuberがもつ「仮想現実的なファンタジー感、見た目はアニメキャラクターのようであるが、確かに現実に存在している」という要素を「VIRTUAL - ANIME - REAL」と定義し、それぞれが混ざり合う映像演出を組み立てました。
CGW:今回は渋谷、原宿、そして新宿と3つの街をモチーフにしたステージが登場しましたが、それぞれのコンセプトはありますか?
ななし:東京を象徴する街のひとつである「渋谷」はバーチャルやサイバーパンク的な、近未来を感じる仮想現実的な表現を意識しました。続く「原宿」はポップカルチャーの街として捉え、アニメ要素やゲーム要素を採り入れています。最後は「地下鉄」や「路地裏」、「ビル街」といった東京のありふれた街並みを「新宿」に見立て、仮想現実とリアルが交差した世界を表現しました。
CGW:お話の通り、かなり力の入ったライブ演出になっていたと思いますが、今回の企画・制作はいつ頃からスタートしたのでしょうか?
窪田:企画の立ち上がりが2021年の8月中旬くらいで、そこから打ち合わせを重ねて、具体的にコンセプトが固まったのが9月の頭でした。
そこから、歌う曲やステージ、演出をどうするかといった具体的な内容を詰めていって、10月中旬にはリハーサルを行なっています。いちかさんがお怪我をされてしまった関係もあり、最終的には11月20日に開催が延期されることになりましたが、制作側としては当初の予定である11月頭に開催できるよう準備を整えていました。
林:この3ヶ月弱という制作期間は弊社としては平均的ではあるんですが、通常のライブの場合は1ステージで実施することが多いので、ステージ数を考えると今回はかなりタイトなスケジュールでしたね(笑)。アセット制作の物量が非常に多かったので、Root Studioさんをはじめとした外部の会社とも連携をとりながら突貫で進めていきました。
CGW:具体的にはどんなメンバーで制作にあたられたのでしょうか?
窪田:ライブ当日のメンバーも含めると、Balusからはディレクター、3DCGディレクター、テクニカルディレクター、カメラ・スイッチング、サウンドディレクター、プロダクトマネージャー、配信スタッフが各1名。加えて映像エディター2名とフロアスタッフ数名で合計約12名が参加しています。
外部パートナーさんからは、3Dステージ制作(Root Studio)12名、3Dキャラクターモデル制作(MUGENUP)2名、カメラマン4名、ダンス指導・アクター1名の合計約19名の方にお手伝いいただきました。また、いちかさんご本人にも、キービジュアル制作やグッズ制作のディレクターを担当していただいたり、774inc.さんのスタッフの皆さんもご協力くださっています。
林:774inc.さんとはこれまで何度もイベントを作ってきているので、今回もいつもの社内メンバーを中心にという感じでしたね。
CGW:いつもの布陣で臨まれたということですが、これまでとは異なる試みなどはありますか?
窪田:今回は全部が新しい挑戦だったんですが、個人的に強く感じたのは、リアルなライブのステージとはまったく違う考え方で作っていたということです。通常のライブであれば、映像や照明で演出を作った上で、そこにカメラワークが加わるというかたちで演出が進んでいくと思います。
ただ、今回は、ステージが街中や電車、路地裏という何の変哲もない場所だったので、いかに画的な変化や工夫を入れて、お客さんを飽きさせないようにできるかというところが大きな課題でした。そこで特に大きな要素となるのがカメラワークだろうということで、今回のオンラインライブでは、普段テレビの音楽番組などを担当されているカメラマンさんにお手伝いをお願いしました。
林:これまでは社内のスタッフで行うことが多かったんです。というのも、バーチャルカメラと実写のカメラって、やることにズレがあるんですね。例えばピントを合わせたり、ずっと被写体を追いかけ続けたりだとか、実際のカメラでは手動でやらなくてはいけないことが、バーチャルカメラでは自動で行えます。ただ、今後、カメラワークをもっと凝っていこうと考えたときに、リアルのライブを撮ってきた経験豊富なカメラマンの方の力をお借りしたいということになったんですね。
ななし:UnityなどCG系のツールでカメラを操作する場合、どうしても点を打つような感じになりがちで、ライブ感のある、シームレスな発想ではなくなってしまうことが多いんです。そこで普段は実写で音楽番組などを撮影しているカメラマンさんに相談させてもらい、繋がりのある映像を目指していきました。
その過程でひとつ面白かったのは、「バーチャル空間上でタレントを撮る場合、視聴者に刺さる画づくりが難しい」ということをおっしゃっていたんですよね。機械的に一定の動きをしているカメラワークの中に人の手によるカメラワークが入るというところで、どうしていくのがいいのかという部分は結構すり合わせをさせていただきました。
窪田:最終的には実写と変わらないというかたちに落ち着きましたね。
ななし:良い画は良い、ということですね(笑)。結果として、そこはバーチャルもリアルもあまり変わらないということでした。ですが、バーチャルライブでリアルなカメラワークを再現しているライブはあまりないので、新鮮に映ったのではないかなと思います。あとは、それこそバーチャルではなく、物理的な機材の使用も提案していただきました。
CGW:それはどういった機材でしょうか?
ななし:RONINというカメラが揺れないようにするための機材(カメラジンバル)ですね。RONINに一眼レフカメラを取り付けて、普段カメラマンさんが使用している機材の状態で撮っていただいたんですが、大きくちがう点はその一眼レフカメラで撮影しているわけではなく、カメラにマーカーがつけられていて、そのマーカーの動きをバーチャル上のカメラに連動させて撮影を行なっているところです。アナログ+デジタルというような感じですね。バーチャルカメラという方法もありますが、普段のカメラの方がカメラマンさんは使い慣れていますし、費用も抑えることができました。
CGW:それは面白い方法ですね! カメラマンの方は、撮影中の映像を確認できるんでしょうか?
ななし:マルチビューの映像をカメラに取り付けたスマホに返してあるので、自分の撮っているカメラの映像は確認することはできるのですが...…ただ正直なところ多少ラグがあるので、ほとんど感覚と経験則でやっていただいた感じですね。
窪田:カメラのスイッチングも、カット割りなどはほとんどなく、スイッチャーさんがリアルタイムで判断して行なっていました。
ななし:だからこそ、ライブの臨場感が出せたのかなと思っています。
CGW:物理的なツールを用いた画期的なアイデアでしたが、一方でCGのツールとしてはどのようなものを使用されていましたか?
林:主なツールとしては、UnityとMaya、MotionBuilderですね。今回のライブは弊社が運営するライブ配信プラットフォーム「SPWN」で行われましたが、Unity上でSPWNでのライブ用ツールを開発していまして、それをベースに動かしているかたちになります。
窪田:SPWNのシステムの特徴として、手動でパーティクルや照明の操作ができるようなしくみになっています。もちろんシーケンスを組んで曲に合わせて自動で操作することもできます。
林:リアルなライブの話だと、それこそ東京ドームとかのライブでは、同期信号で照明も音も自動的に操作しています。ただ、小さい会場でやるライブの場合は、かえって同期信号を組むことのほうが大変なので、あえてやらなかったりするんです。
バーチャルでも同じで、シークエンスを組むことに時間をかけるよりも、パーティクルや照明を凝ったものにするために時間を使った方が良いんじゃないかとか、やりたい内容によってリソースをどう分配するかというところでどちらの方法が適しているかを選びますね。
ななし:ライブ感を大事にしたいという私の意思にスタッフの方々が合わせてくださいました。映像を流すだけではない、二度同じものは生まれないライブ感や非日常感を視聴者の方に味わってほしいなと思います。
開幕で観客の心を掴んだバーチャルの「渋谷」
CGW:渋谷では「バーチャル」や「サイバーパンク」をコンセプトにしたということでしたが、具体的にどのようなコンセプトで演出をされましたか?
窪田:ステージ=演出というところがあるので、難しいんですが、渋谷は同じステージ内で4曲分のパフォーマンスをするので、単調にならないようにというのは結構意識していました。
ななし:カメラスイッチングのテンポも一本調子にならないように曲に合わせて変えていたり、ズームインやズームアウトなどカメラワークにもバリエーションをつけ工夫しました。また、バーチャルならではのシームレスな衣装チェンジも、今回のステージのために新しく作成したボディスーツで登場し、3曲目のイントロからはアイドル衣装になります。
窪田:『怪物』のパフォーマンス中には、ボディスーツにプロジェクションマッピングを行なって視覚的な変化をつけています。
ななし:衣装に映像を流したらどうだろうというアイデアを叶えていただきました!
窪田:画を変える工夫というところでは、『夜のピエロ』でバックダンサーを登場させました。
ななし:このバックダンサーは、もともとは「渋谷の群衆を表現したい」という窪田さんのアイデアから始まっていて、当初はフラッシュモブのようにできないかという案も出ていましたね。その上で、主役がダンサーに埋もれてしまわないようにするということを念頭に、ダンサーの配置を探っていった結果、最終的にバックダンサーのかたちに落ち着きました。
CGW:飽きさせないための工夫が随所に散りばめられていますよね。では、ステージ自体の制作についてはどのような流れで進んでいきましたか?
窪田:最初に「東京」というコンセプトがあって、「渋谷」「原宿」「新宿」をステージにしようというのが決まっていたので、ステージを先行して作っていきましたね。ステージを先に固めていって、楽曲のセットリストも各ステージに合わせるかたちで組んでいきました。
ななし:実は今回、どのステージでもコンセプトアートは作っていないんです。渋谷について言えば、ベースとなるモデルがあったので、それをどう世界観に合わせていくかの相談を重ねていきました。
窪田:言ってしまえば、渋谷ってライブをするための場所ではないので、それをどうすればライブステージとして見映えのするものにできるかというところについては試行錯誤しました。カメラを設定したあとでも、光るオブジェクトを追加しようとか、バックに映像を流そうとか、探り探りやっていった感じです。
ななし:そうでしたね。ステージを作る上での大前提として、「バーチャル」というコンセプトはありつつも、あまり非現実的になりすぎないようにしています。なので、あえて信号や横断歩道を残しているんですね。あくまでも現実の街並みがバーチャル空間では舞台になるというところがポイントでした。
CGW:みんなが知っている渋谷でいちかさんが歌っているということですね。
ななし:そうですね。バーチャルってどこか遠いものという感覚があるかと思うんですけど、そんなことなく繋がっているものというのを感じてもらえたら嬉しいです。
あらゆる“カワイイ”を詰め込んだポップな街「原宿」
CGW:「アニメ」や「ポップカルチャー」をテーマとした原宿ではどのようなコンセプトで演出をされましたか?
窪田:原宿は渋谷とは全然違っていて、街並みをそのまま再現するというよりは、原宿という概念を抽出してデフォルメするという考え方でした。そのポップさとか可愛さという部分の擦り合わせを行うのは大変でしたね。抽象的な概念ですし、ほんの少し色味や色の数が変わるだけでまったく違った印象になってしまうので、ビジュアルベースで相談しながら少しずつ詰めていきました。
ななし:結構苦労しましたね。
窪田:そうですね。ただ、発想としては一番シンプルで、横スクロールをやろうというワンアイデアから始まっています。それをベースにどう味付けするかということだったので、ある意味一番ブレなかったステージではありますね。
CGW:デフォルメされたステージの中で、突然SDキャラクターになったいちかさんが登場したのは驚きました!
ななし:これをリアルタイムで行なっているって意味がわからないですよね(笑)。SDのキャラクターをモーションキャプチャで動かしたらどうなるのか、誰もよくわかっていないまま作っていましたから(笑)。ただ仕上がりとしては世界観を伝える演出にできたと思っています。
窪田:この原宿ステージへの転換部分もこだわった点でして、今回セットの転換が多いので、ワンパターンにならないように、いちかさんの主観カメラからスタートさせました。いったん暗転して次のステージに切り替わるという方法が一番簡単なんですが、それをやってしまうと、どうしてもそこでライブ感が消えてしまうんですよ。あとはSDキャラクターのお披露目シーンということで、視聴者の期待感を高めたいという意図もありました。
ななし:見てくださる方にとって、ライブは本来特別な時間なんですよね。普通なら実際に会場へ足を運び、熱があって、音がある、特別な時間です。オンラインライブは視聴環境が普段の生活と変わらないので、没入感が薄れるきっかけがたくさんあるんですよね。だからこそ、余計な説明を省き、次々にビジュアルをぶつけて情報処理の隙を与えず、特別な時間にしてもらおうと意気込んでいました。見てくださる方の気持ちを逃さないという意味で、転換はこだわったところですね。そういう工夫が詰まっているのが原宿ステージだと思います。
CGW:視聴者の気持ちを離さない工夫がたくさん詰まった原宿ステージですが、ステージ制作についてはどのように進めていきましたか?
窪田:原宿のステージは竹下通りがモチーフになっていて、すごくわかりやすかったので、参考となる資料を基にモデリングを進めていただいた感じですね。
ななし:原宿に関しては演出の方向性ははっきりと決まっていたんですけれど、トンマナですごく苦労したんですよね。アウトラインに色を入れるのか、この色でいいのか、このポップさでいいのか、みたいな感じで話し合いを重ねました。そういうアート面での落とし込みが大変でした……。それと、竹下通りを象徴するものが意外となくて、アーチくらいなんですよ。なので、それを逆手に取って、あえて説明的なつくりにはせずに、「アニメ」というコンセプトを前面に押し出すかたちにまとめました。
※トンマナ:「トーン&マナー」の略。色調やデザインなどに一貫性をもたせるための決まり
バーチャルと現実の架け橋となった「新宿」
CGW:最後のステージとなる新宿は「リアル」がコンセプトになっていました。こちらの演出はどのようなコンセプトで進められましたか?
窪田:新宿は「リアルな場所として」というコンセプトだったので、みんなが普段からよく目にしていて、かつ新宿っぽさがある場所として「地下鉄」「路地裏」「ビル」を選びました。またビルの屋上はライブのラストを飾るステージということもあり、スケールを大きく見せることは意識しました。
CGW:「地下鉄」「路地裏」「ビルの屋上」と新宿のあらゆる面がステージとして表現されましたが、それぞれどのように制作を進めていったのでしょうか?
窪田:地下鉄も路地裏も当然ライブ用に作られた場所ではないので、その中で1曲分の時間をもたせなくてはいけないというのは、当初から悩みのタネでしたね。結果的には電車の移動自体を演出として取り込んで風景を変えたり、路地裏はワンカットにしたりと飽きさせない工夫をしています。この2つのステージは他のステージよりも、「作品として見せる」という意識を強くもって演出しているかもしれません。
ななし:地下鉄のステージでいうと、難しかったのは、リアルな電車にするのか、それともファンタジーの電車にするのかという点ですね。手すりの揺れとかのリアルさはあった方がいいけど、広告はベタベタ貼られていない方がいいというような。このステージは「VIRTUAL - ANIME - REAL」のなかで、REALへと繋ぐ役割を担っていたので、現実感と作りもの感のバランスは相談させてもらいました。そのバランスは新宿ステージ全体を通して一番悩んだ部分かもしれませんね。
窪田:逆に言うと路地裏とかは実際にモデルができてから、どう使うかを悩んだステージですね。作ったモデルの中で、どこがワンカットに適しているのか、CG上でロケハンをして調整していきました。
ななし:画変わりしないというのは嫌だったので、こっち側は明るいけど反対側は暗いというような、ワンカメでもシーンが変わって見える場所を選んでいますね。本人にも実際に立って歩いてもらい、
窪田:そして最後がビルの屋上ですが、元データがあった渋谷やモチーフがはっきりしていた原宿とはちがって、結構難しかったですね。
ななし:最初に上がってきたときには、真ん中のビルだけが高くそびえ立っていて、その他のビルは遠く下の方にあるという感じだったんですよ。やりたい表現としては街全体をステージにすることでしたので、本人が立つビルと他の建物との距離感、ライトや映像ビジョンなどの見え方を考え修正していきました。
窪田:社内のCGアーティストが外部の会社と密に連絡を取りながら、調整を重ねてくれました。
ななし:そんな試行錯誤の末、現実感はないんだけど、でももしかしたらそこにあるかもしれないというステージに落とし込むことができました。
「Ichika Souya 2nd Q Re:18:2」が予感させる「バーチャル」のこれから
CGW:今回のライブを終えて手応えはいかがですか?
窪田:最近オンラインライブ自体が広まってきていますが、実はVTuberたちってオンラインライブのパイオニアで、表現としても先を行っていると思うんです。でも、それがVTuberのライブだからというところで、まだまだ見てもらえていない部分があって、それはすごくもったいないなと感じています。
今回はそこを意識して、VTuberのファンでなくても楽しめるものを作ろうということで、映像表現として頑張りました。本当に良いものが作れたなと思っていますし、もっと多くの方に届けられるものを作っていきたいなと思っています。
ななし:今できる目一杯で頑張れたかなと思っています。もちろん、これで満足ではなくて、まだまだできることがたくさんあると思うので、これからも「弊社のタレントでしかできないモノ」を目指していきたいですね。
VTuberに関わってきて感動したこととして、「推し(タレント)がイベントを行なっていたから、普通に生活していたら絶対に行くことのなかった遊園地に行って観覧車に乗った。好きだった推しのおかげで新しい体験ができた」と言っていたファンの方がいたんです。これってバーチャルがリアルに繋がっているなと感じ、そういう新しい体験が生まれるイベントを今後もできたらいいなと思っています。
いつか野球とかBBQとかやりたいですね。野球場の観客席でみんながグラウンドにスマホをかざすと、その中で野球をしているタレントがいて皆で応援したり、河原でタレントと一緒にBBQできたり……そういう新しい体験ができる空間を作れたらなと(笑)。
林:今回のコンセプトの中にも「アニメ」というキーワードがありましたが、今後、そういう世界観をセットにしたコンテンツ——例えばアニメ作品のメディアミックスであったりとか、2.5次元舞台のようなものだったりと——が、バーチャルライブで行われていくだろうと見込んでいます。
その上で、VTuberとアニメのちがいを考えると、シーンを使い分けられるかどうかというところが大きいと思っていて。VTuberのライブはワンシーンでやってしまうことが多い一方で、アニメ作品にはストーリーがあるので、どうしてもシチュエーションを変えなくてはいけないという部分があります。そういう意味では、今回のライブで空間ごと作るという挑戦ができたのは良かったなと思っています。
「Ichika Souya 2nd Q Re:18:2」の舞台裏はいかがだっただろうか。バーチャルの存在であるVTuberだからこそ可能な映像表現を突き詰めて作られた今回のオンラインライブ。VTuber界だけでなく、ミュージックシーン全体を見渡しても、これほどの完成度のライブはなかなかないだろうと感じさせられた。これからますます進化を見せていくバーチャルライブから目が離せない。
TEXT_野澤 慧 / Satoshi Nozawa
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)