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    インフルエンサー、YouTuber、フォロワー数●●万人、バズる、映える......。これらは、昨今のWebマーケティングにおいて欠かせない用語の一部だ。3DCG&デジタルクリエイターがSNSをきっかけに活躍しているのは確かである。今回インタビューを行なったきむらえいじゅん氏もまた、ユーモアに溢れた独特なテイストがSNSで話題となり飛躍を遂げたクリエイターのひとりといえる。しかしこのように書くと、SNSで話題になることが「成功への鍵」だとミスリードを起こしてしまいそうで甚だ心配である。大切なのはSNSでバズらせることではなく、たとえくじけやすくても、心が折れることなく楽しく自分らしく表現し続けていくことではないだろうか。きむらえいじゅん氏のユーモアに溢れたインタビューを、前編と後編の2回に分けてお届けしよう。

    [VFX]タワーPCマンション - 2020.03.28

    きむらえいじゅん/Eijun Kimura

    映像作家
    Twitter:きむらえいじゅん[.mov] (@kuro_40)

    身の回りのものからテーマを見つけて少しずつ範囲を広げていく

    CGWORLD(以下、CGW):今日はよろしくお願いいたします。

    きむらえいじゅん(以下、きむら):よろしくお願いします。

    CGW:今回は、きむらさんの独特な感性の源となっているものに少しでも触れることができたらと、そういった趣旨のインタビューです。ということでいきなりですが、きむらさんの幼少時代から順にお話をお聞かせください。

    きむら:子供のころは運動が大好きで、さらにアニメもゲームも映画も何でもかんでも大好き、みたいな感じでした。 あと、すごくパソコンが好きで憧れを抱いていた記憶があります。2000年代の初頭くらいで小学1年生くらいのときですね。家庭用PCがあまり普及していない時期でしたが、「小学生になったら自分のノートパソコンが欲しい!」と思っていました。

    CGW:「モノ」としてPCの存在に憧れていたんですね。

    きむら:はい。ダンボールでPCを作ったりしていましたし(笑)。当時はまだインターネットも「ピーヒョロロ」のダイアルアップの時代で、ネットをするにもお金がかかっていましたよね。だからPCを持っていても特にやることがなくて、せいぜい『ポムポムプリン』とかのゲームをやるぐらいだったんですけど。

    押しボタンの隠しコマンド

    CGW:それってオンラインゲームじゃないですよね。

    きむら:はい(笑)。インストールするタイプのゲームですね。でもとにかく「テック系」 みたいなものにロマンを感じていた幼少期で、すでにギーグ的な素養があったのかもしれないですね。ただ、「ギークっぽいけどスポーツも好き」みたいなところもあって何でも人より早く上達するタイプではあったのですが、ある一定のところまで行くと上手くならなくなって辞めてしまう一面もあったんですよね。そういうところは今でもあるのですが、「上手くない自分が恥ずかしい」みたいな感情が子供の頃はすごく強かったです。

    CGW:自信を失くして興味がなくなる、みたいな感じだったのでしょうか。

    きむら:どうだろう。子供の頃から「成果主義的」だったというか(笑)。「できている自分」に安心していたい、という気持ちが強かったような気がします。勉強も同じで得意科目は人よりもできて成績も良かったのですが、中学3年生になって少しずつ成績が下がってくると、「がんばっているのにできないのは恥ずかしい」という思考になってしまって。そこで「がんばっていないんだからできなくてあたりまえ」っていう言い訳を考えつく、みたいな(笑)。そういう小賢しいところがある中学生でした。

    CGW:なんだかわかる気がします(笑)。少し斜に構えていたんですね。

    きむら:これは自意識の話になるかもしれませんが、子供の頃は「人からどう見られるか」をマジで気にしていました。まぁ、今でも気にしてはいますけどね。

    CGW:当時はどんなことにハマっていましたか?

    きむら:中学では部活でバスケットボールをやりつつアニメにどっぷりとハマっていました。この時期からネットに触れはじめたというのもあり、TVからニコニコ動画まで、やってるアニメは深夜枠まで軒並み観る、みたいな日々でした。高校に入って少し舵を切ってバンドをはじめたのですが、相変わらずアニメは好きなままで。アニメを観つつバンドではオリジナルの音楽を作って大会に出るといった、青春みたいなこともしっかりやっていました。

    CGW:そこから大学へ進学されたんですよね。何を専攻されていたんですか?

    きむら:大学では保育の学科に進んだんですよ。なので、ペーパーですが保育士の資格も一応持っています。......という感じで、今ではこういったオフィシャルな場で話す「ダシ」として資格を使っています(笑)。

    CGW: なるほど、資格がしっかりと活かされていますね(笑)。

    きむら:結局、大学を卒業したら映像の道に進むことになるのですが、大学で学んだことはすごくためになりました。保育実習をするときに計画書を作成するんですけど、それが今でも映像を作る際の企画書を書くときに活かされています。......ていうか、無理矢理活かしているだけかもしれませんけど(笑)。細かい話になるのですが、保育実習の計画書には「狙いと方法」という項目があるんですよ。「こういう状態の5歳児だからこういう遊びをします」とか「こういう関わり方をします」とか。それで先生から「狙いと方法を逆転しちゃだめだよ」と言われていたんですけど、それって映像を作る上でも同じなんですよ。仕事で映像を制作する上で「こういう映像表現をするための言い訳」として「狙い」とか「意図」があるのはちがうし、「狙いと方法」が逆転するとだいぶ変わってきますからね。

    CGW:その他に大学時代に学んだことが活かされていることはありますか?

    きむら:大学に入る直前に、動画をインターネットに投稿するということを始めたんですよね。その動画は今でも僕のYouTube チャンネルに上がっていて恥ずかしいんですけど。

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    CGW:どんな動画なんですか?

    きむら:MacBookの開封動画です。それ以降、大学に通いながら趣味でYouTubeをがんばっていくという日々でした。

    CGW:YouTubeに動画を投稿しようと思ったのはなぜですか?

    きむら:ちょうど面白い投稿者がたくさん出てきてYouTubeが盛り上がり始めた頃でした。瀬戸弘司さんとかPDRさんなどの動画を観て「面白い! 自分もこういうことをやってみたい!」と、自分も真似して開封動画に挑戦してみようかなと。次第に「どんな投稿者の動画が人気で、どういう動画が面白いのか」とか「自分にできることは何だろう」と試行錯誤して動画を作るようになっていました。ただ、レビューをするにしても実際にモノを買わなければいけないじゃないですか。お金もないことだしモノを買わなくてもできる動画をやろうと、「時事ネタ」みたいなことをやり始めたのですがピンと来なくて。そんなとき、あるイベントで某有名YouTuberとお話しする機会があって、アドバイスしてもらったんですよ。「僕が時事ネタをするのであれば、朝から晩までニュースサイトに張り込みます」というアドバイスだったんですけど、スゲェと思った反面「俺には無理!」と(笑)。

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    CGW:なるほど(笑)。そこからどういうふうに考えが変わったんですか?

    きむら:その後も色々と動画を撮ってみたんですけど、「他の人がやってないことをやらなければ」という意識を強く引きずっていました。とはいえ今の自分から大きく逸脱するのも大変なので、「今あるフォーマットにプラスアルファしていこう」と考え直して、これまでの作風に少し手を加えたものを投稿し始めました。

    CGW:開封動画にひと手間加えていくということですか?

    きむら:そうです。開封動画の冒頭に格好良いプロモーションビデオ風の動画を加えてみたら、あわよくば案件でも来るんじゃないかと(笑)。

    【CM風】"beats studio wireless"でおしゃれな動画作ってみた。

    ▲きむら氏が制作したプロモーションビデオ風の映像

    CGW:色々な考えがあると思いますが、「方向性を変えて新しいことに挑戦する」ではなく、「今あるフォーマットにプラスアルファしよう」と考えたのはなぜですか?

    きむら:全部新しいもので再スタートするとなると、頓挫するリスクが高いじゃないですか。「ちょっとでもやったことあるもの」と「新しいもの」のバランスをとりつつ、「新しいものの分量がこれくらいだったら耐えられそう」と思える範囲で少しずつはじめて行って、少しずつ自分の範囲を広げていく、みたいなのが「保守的に広げていくやり方」っていうか(笑)。

    CGW:安全運転ですね。

    きむら:はい(笑)。一気に新しいことをやろうとして、それでもしダメだったら落ち込んじゃうじゃないですか。落ち込まない人はどんどん新しいことをやると良いと思うけど、落ち込んじゃうタイプの人は「ちょっとずつ」「落ち込まない程度に」進めて行かないとダメになっちゃうんですよ。今の自分に近いところから少しずつ広げていって、「これならカタチになりそうだな」っていう感じで進めていくのが安心なんですよ。挫折すると、もう1回挑戦してみようと思ったときに「でも、あのとき失敗したし......」と古傷が疼きだしてしまうので。

    CGW:子供の頃、「がんばってないからできなくて当たり前」と斜に構えたところがあったとおっしゃっていましたが、そういった延長線上の手法なんですかね。

    きむら:そうですね。「斜に構えたキッズ」ではあったし、小さい頃からイキリというか「人とはちょっとちがうぞ」っていう「中二心(ちゅうにごころ)」みたいなのは、いまだにありますね。で、自分に対する期待も高いから苦しいときもあるんですけど、そんなチンケなプライドのおかげで今でもなんとか続けることができている部分もあるんですよね。

    CGW:「何をプラスアルファするか」も大切だと思うのですが、選定基準はどんな感じなんでしょう?

    きむら:「どうすればYouTubeでみんなに喜んでもらえるか」とか「どうすれば自分のチャンネルを大きくできるか」みたいなことを考えたことがあったのですが、とあるYouTuberさんの本に「テーマは自分の半径30cm以内で決めろ」みたいなことが書かれていたんですよ。なるほどと。どうしてもネタって尽きるし、遠いところから新しいものを取ってこようとするとすごく大変ですよね。でも、見慣れたものや身近なものだと手を出しやすくなります。やるかやらないかの選定基準としては、「それが程度許容値内だったらやってみる」みたいな感じです。

    CGW:ところで、動画撮影や編集の技術は独学なんですか?

    きむら:独学です。動画撮影を始めた当初は「たくさん撮ったものの中から好きなものを選ぶ」という感じでした。とにかく「カメラアングルを変えたら何か変わるだろう」みたいな手探りで作っていたんですよね(笑)。映画でも観て参考にすれば良いのに、当時は自分で色々やってみたいって感じだったのかな。

    CGW:自分が持っているものでいかに人を楽しませるか、面白いと思うものを共有したいという切り口で映像の世界に入り、現在は映像作家として活躍されていらっしゃいますよね。きむらさんの場合、映像作家を目指されていたわけではないですもんね。

    きむら:そうですね。映像はそれなりに好きですがとにかくアニメが好きで、おそらくアニメみたいなことがやりたかったんだと思うんですよ。でも絵が描けないし苦手だから、こういう映像を作っているのかもしれません。あと、人と話したり自分の気持ちを伝えることもあまり得意じゃない気がしていて、「これ面白いよね」と思うものを見つけると、気持ちが先走っちゃってもう言葉にならない感じになって、それを映像にすることでようやく人に伝わるかたちになるというか......。こう言うと格好良くなりすぎるので抵抗がありますが、「映像は会話のためのツール」というか「みんなとの関わりを保つための1つの道具」みたいになっているように思います。

    CGW:言葉で説明するより、映像で示した方がダイレクトに伝わりますし。映像が作れるって強いですよね。さて、大学を卒業後はそのまま就職されたのですか?

    きむら:いえ、就活が怖くてそのまま何もせず卒業しちゃいました(笑)。大学3〜4年生の頃には映像の仕事をいくつかやらせてもらっていたので、「このままで何とか行けるんじゃないかな〜」と気楽に思っていたら全然ダメで(笑)。だから社会人1年目はマジでキツかったです。

    CGW:大学時代にもらっていた映像のお仕事というのは、企業のCMのような映像ですか?

    きむら:そうですね。YouTubeの広告などで、自分で撮影して編集するみたいなことをやっていました。卒業後もそんな感じで仕事をしていこうと思っていたんですけどぱったりと途切れてしまい、気が付いたら「仕事も技術も何にもねぇ!」という現実に直面することになってしまってですね......。

    CGW:プロとして通用する技術が足りていなかったんですね。

    きむら:はい。いざ社会に出てみると、自分は何にも持ってないというか完全に「無の状態」だったんですよ。YouTubeの編集代行が流行り出す前から動画編集をやってはいたので、かろうじて職にありつけるかどうかぐらいの状態でしたが、 「ちょっと編集ソフトが使える人」くらいでしかなくて。これはいかん! とようやく本気になって、これはもうちゃんと映像編集の勉強しなきゃダメだと、社会に出てからAfter Effectsを勉強しはじめるという(笑)。

    CGW:それまで映像編集にどんなソフトを使っていたんですか?

    きむら:Final Cut Proを使っていました。

    CGW:After Effectsはどのように勉強されたのですか?

    きむら:初心者用の参考書を買ってきて、それを読みながら毎日After Effectsを触っていました。1年間毎日、起きてから寝るまでの間はAfter Effectsを触ってない時間がないっていうぐらい。初心者用の参考書なんて「願(がん)かけ」として、抱きしめながら寝ていました(笑) 。

    CGW:必死ですね(笑)。

    きむら:そうですね。寝る直前まで読んで起きたらまた読む、みたいな日々でした。仕事はほぼなくて、大学時代の友達が勤めている会社からお声がけいただいた仕事を少し手伝うくらいで。

    CGW:不安が満ち溢れていますね......。

    きむら:はい。ある日、あまりにも不安になりすぎて、中途採用で会社に入ろうと面接に行ってみたりもしたのですが......、まぁ何というか「僕も大学で映像やっていたんで〜」みたいなひどいメンタリティで臨んだものだからどこからも相手にされなかったんですよ。それで「くやしい!」ってなったんですけど、まあ当たり前ですよね。そんなナメた態度で就活に臨んで何を悔しがっているんだ、って話なんですけど(笑)。

    CGW:......お気持ち、分からなくもないです(笑)。

    きむら:で、あまりに悔しいものだから高校時代の友達に連絡して「無償でやるからバンド(アマチュア)のミュージックビデオを撮らせてくれ!」とお願いして、2本くらいMVを撮らせてもらったことがありました。そこでようやくAfter Effectsの練習と実験を兼ねた試みを色々とさせてもらい、そのMVを実績として公開させてもらうことができたんです。

    cook look happening! - Ain't Over Yet! [Music Video]

    CGW:練習と実績を一度にこなしたんですね。最大効率で詰めましたね(笑)。

    きむら:はい(笑)。とにかく「一石何鳥」でやっていかないと時間がない!と、とにかく一度にいろんなことをしました。絵コンテの基本すら分かってないから、「アニメを参考にして描いたらこんな分量になっちゃった」みたいな感じで、30枚くらい絵コンテを描いたりして。

    CGW:聞けば聞くほどオリジナリティに溢れていますね。自分の弱みをバネにしつつ、得意なものを武器にちゃんとかたちにしていますからね。ところで、アニメの絵コンテは何を参考にされたんですか?

    きむら:そこはもう、僕の大好きな『おおかみこどもの雨と雪 絵コンテ 細田守 (ANIMESTYLE ARCHIVE) 』(アニメスタイル編集部)を見て真似しながら描きました。あとは『HUNTER×HUNTER』ですね。漫画って「1コマで伝える力」が強いし画的にも映えるし色々と参考になるなと。

    ▲MV制作できむら氏が描いた絵コンテ

    CGW:そういったところでも自分の好きなものや得意なものを採用していくんですね。絵を描くのが苦手でも、アニメや漫画といった「好きなものを味方にしていく」というか。

    きむら:そうかもしれませんね。僕は「ゲリラ的な手法」と言っているんですけど、プロ向けのバリバリ本気の本を読むとなると「だめだ〜!」となってくじけちゃうんですよ。だから、ちゃんと軍隊に入ってしっかり訓練してきた人からすると「あいつのやり方はなってない」と思われるんだろうなという意識はあります。でも、僕なりに長く続けるためにやっていることなので、「こういう方法で正しく制作してください」と言われてしまうと、逆に飽きて辞めてしまうかもしれないなと。

    CGW:そうですね。自分に合ったベストな方法ってあるし、「これが正解」という手法なんてないですよね。

    きむら:まぁ、動画も人に教わったら上達も速いと思うし間違いないとは思うのですが、そのせいで「作家生命」みたいなものが尽きてしまうこともあるんじゃないかなと。僕は子供の頃、スポーツや趣味などいろんな習い事をさせてもらったのですが、親のお金でやらせてもらってるからか「ちゃんと結果を出さなければ」とか「教えてもらっているんだから、ちゃんとできるようにならないと」といったプレッシャーがすごくあって長く続かなかったんですよ。でも動画制作は、パソコンをはじめ何から何まで自分のお金でやっているので、「上手くやらなきゃヤバい」という周りに対するプレッシャーがないんですよ。「まあ、最悪上手くできなくて辞めちゃっても自分の責任だし」っていう思いがあるんですよね。

    CGW:ご自身の強みと弱みを理解してちゃんと活かされていますよね。おそらくすごく責任感が強くて、期待に応えようとする真面目さが根本にあるんでしょうね。きむらさんの手法は確かにゲリラ的かもしれませんが、むしろとても自然なやり方のようにも思えます。

    きむら:「健やかなやり方」かもしれないですね。でもこの手法も一長一短なんですよね。すごくハイエンドな所に行きたい人は「先人の知恵を借りる」とか「巨人の肩に載る」みたいなことをしていかないと、人生の時間が足りなさすぎると思うんです。そういう優秀な若い人たちが今はすごくたくさんいるし、僕としてもそういう人たちと真正面で戦っても勝てないのがわかっているから、なるべくそういう人たちとカチ合わないようにしたいんですよ。カチ合わないようにしつつ、そういった優秀で実力のある人たちとの違いを出していかないといけない。ここはひとつ、仲良くしていきたいですね(笑)。

    後半へ続く(2月22日(火)公開予定)

    INTERVIEW&EDIT_三村ゆにこ / Uniko Mimura(@UNIKO_LITTLE