224日(木)、オンラインカンファレンスVirtual Production Day 2022が開催された。初開催となるこのカンファレンスはバーチャルプロダクション、特にインカメラVFXにおけるメリットや課題、今後の展望などを語り合うことを目的として実施。ソニーPCL21日(火)にオープンしたばかりの常設バーチャルプロダクションスタジオ「清澄白河BASE」を会場として、多彩なセッションが行われた。

本稿では各セッションから、スローネの結城崇史氏(代表)が登壇したクロージングセッション「『インカメラVFX元年』いかにインカメラVFXの撮影が実現したか?そして今後のこの技術の可能性はいかに?」の模様を記す。

記事の目次

    LEDの背景とUEのリアルタイム3Dレンダリングで撮影

    結城崇史氏(スローネ)

    まず結城氏は自身がインカメラVFXを導入するに至るまでの過程として、順にNHK大河ドラマ『八重の桜』(2013)放送時に携わった鶴ヶ城のプロジェクションマッピング「はるか」、NHKドラマ『精霊の守り人』シーズン22017)でNcamのリアルタイムプレビューを使った背景プロジェクション、NHK大河ドラマ『いだてん』(2019)でLEDによるスクリーンプロジェクションやテックビズ(プリビズ)にてUnreal Engineを用いたことなどに触れていった。

    最近のNHKドラマ『天使にリクエストを~人生最後の願い~』2020)やNHKドラマ『しかたなかったと言うてはいかんのです』(2021)ではLEDによるスクリーンプロジェクションが主となり、ナショナルジオグラフィックエクスプローラーの取り組みを紹介するTHE SPARKWHERE EXPLORERS BEGIN2021)ではインカメラVFXも用いてロサンゼルスと東京をリアルタイムで中継した。そして今年のNHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』でも、初回から一部インカメラVFXが使われているそうだ。

    結城氏は続けてLED+2DからLED+3Dへと移り変わる過程を解説した。LED+2DVFXにおける常套手段としてグリーンスクリーンを用いて車の窓外をポストプロダクションで合成する方法から変わって、『いだてん』において選手村やシベリア鉄道の窓外、『天使にリクエストを~人生最後の願い~』において窓外を表現する方法を例に挙げた。

    つまりこれまでグリーンバックに実写を合成するポスト処理の仕事だったものが、手前をセット、奥をLEDとすることでリアルタイムにその場で撮れる、先に撮影しておいたものと同期させて撮影できる、ポスト処理が限りなく少なくなるといった利点があったという。

    こうした過程を語った上で、結城氏は今回LED+3Dをカンファレンステーマの本題に定めていた。LEDを背景にUnreal Engineのリアルタイム3Dレンダリングを用いる方法をインカメラVFXと呼んている。

    インカメラVFXを実現するために考察すべきポイント

    次に結城氏は具体的にリアルプロダクションとグリーンスクリーンでの撮影と比較しつつ、どのような利点がインカメラVFXにあるのか、コスト、撮影環境と撮影条件、ピクチャークオリティ、ワークフロー、メンタルとチームワークなどの観点から述べていった。

    コストについては今までは山や海に行ったり、ホテルや飛行機などを使ったりといったロケに関わるものがあった。それらがインカメラVFXでは必要なくスタジオで済ますことができるようになっている代わりに、LED、システム、美術などスタジオに関わるコストがある。

    美術ではLEDの分、奥まで制作していたもののコストが削減されることになり、費用対効果や採算ラインを考える感覚が必要になっている。数カットであれば確実にグリーンバックが安いところ、何十カットあってもLEDの映像があれば撮影できてしまうため、採算ラインは出ている。

    撮影環境と撮影条件についてはプロデューサーがロケのスケジュールを立てるとき、曇りだったので行ってみたら雨や雪が降っていて撮影が中止になるという天候の問題、冬のシーンを撮影する必要があるのに春という季節の問題、夜の撮影をしたいのに朝しか空いていないといった時間の問題などがある。

    撮影の時間帯に関わることでは、マジックアワー。例えば夕日が沈むキレイなシーンを自然の中の何十分の限られた中で撮影しなければならないところ、インカメラVFXならじっくりと撮影できる。また、夜8時までしか収録に参加できない子役も、夜のシーンを朝10時から撮影でき、時間的な制約から開放される。

    現場の運用とオペレーションリスクについても技術的にハードルが高いところがある。通常の撮影であれば何十年も積み重なったノウハウがある一方で、インカメラVFXは未知の技術であるため色々なトラブルがあり、何日も家に帰れない日を過ごしたこともある。そうした運用のリスクをベースに、役者がインカメラVFXを前にして、実際どこまで撮影できるのかという問題もある。

    ピクチャークオリティーについてはインカメラVFXにはモアレの問題があり、できるだけ被写界深度を浅くして、手前にピンを合わせて他はボカして撮影したい。パンフォーカスもなかなか厳しく、グリーンスクリーンで撮影した方が効果的かもしれない。

    ワークフローについては、プリプロかポスプロかの問題がある。VFXワークでは事前にアセットやCGを制作するプリプロワークがあって、撮影後にポスプロの中でシーンを完成させるが、インカメラVFXでは、実際に本物のオンセットで撮影をしていく。そうするとプリプロに今まで以上に時間がかかってくる。

    極端な話、その問題は脚本づくりや台本づくり、本が最初からあるのかないのかにも関わってきて、なかなかプリプロにかける準備ができないことになる。無駄なことをしないためにどうすればいいか、コストにも関わってくる問題になる。

    メンタルとチームワークについては、技術部、撮影部、照明部、各チームとの連携がより必要で、密にならないといいものができないし、今まで以上にコミュニケーションを図っていかなければならない。

    それと同時に、ロケに行かなくていいとなると車両はどうなるのか、美術のセットを半分しか作らなくていいとなると残りの仕事が減るかもしれないなど、デリケートな部分にも波及する。そのためメンタルとチームワークは非常に大切な部分だと結城氏は語る。

    どのように『鎌倉殿の13人』でインカメラVFXを?

    そして結城氏は『鎌倉殿の13人』で、どのようにインカメラVFXを用いたかを話した。導入のきっかけは、2020年秋にInter BEE 2020Epic Games Japanのセッション「バーチャルプロダクションにおけるUnreal Engineの活用について」でモデレーターを務めたことだという。

    こちらは『鎌倉殿の13人』本編ではなくテスト撮影

    そのタイミングで『鎌倉殿の13人』の演出陣にインカメラVFXの紹介をした。2021年の初頭に勉強会として、いくつか実例や簡単なデモを制作して実演を行い、同年3月に自分たちでもテスト撮影として、美術チームが制作した撮影ボードに基づいて簡単な撮影を試みた。

    LEDのスクリーンには映像を映すだけでなく環境光的な効果もあることから、スクリーンをカーブさせ、どこまでカメラを動かせるのか、3度、6度とカーブの角度を変えながらチェックした結果、9度とした。準備段階ではアーティストが描いたイメージボードでシーンを制作した。

    4月から本格的に撮影準備を開始。そして8月にインカメラVFX収録の第1回、12月に第2回を行なった。202219日からの本放送で、冒頭からインカメラVFXのシーンを届けることができた。

    LEDのスクリーンでは役者が実際の映像を背景にして演技できるため、気持ちがグリーンバックより入りやすく、感情のこもった芝居になるような気がする、と結城氏。そのため撮影的な環境はもちろん、役者に対する背景映像としてのアシストという意味では、映像のクオリティを引き上げる強力なツールであることは間違いない。

    Unreal Engineで制作した『鎌倉殿の13人』第1話冒頭のプリビズ

    最後に結城氏は「CGというツールが入ってきて今までできなかった映像を制作できたように、インカメラVFXでも新しい映像表現ができるようになっている。まだまだ色んな可能性があるが、システムトラブルで映像が動かないこともあり、自分も勉強しなければならない状態。この分野で頑張っているみなさんと新しい技術や新しい映像表現を一緒に開拓していけたら」と話を終えた。

    Virtual Production Day 2022

    https://expo.nikkeibp.co.jp/vpd/2022/

    TEXT & PHOTO_真狩祐志 / Yushi Makari https://forumia.booth.pm/
    EDIT_小村仁美 / Hitomi KomuraCGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada