2022年は、Midjourneyをはじめとする画像生成AIが登場してクリエイティブ業界を席巻した年であった。画像生成AIを活用したコンテンツ制作事例は世界各地で見られ、今後ますます事例が増えると予想される。そこで本稿では海外の事例を紹介することで、画像生成AIの活用動向を俯瞰する。

記事の目次

    ※2月27日(月)追記:『Zarya Of the Dawn(暁のゼイヤ)』の著作権について、アメリカ著作権局から2月21日(火)に再審議の結果が出されたことを受け、その内容を追記いたしました

    1ジャンルとなりつつある画像生成AIコミック

    画像生成AIを活用したコミックに関しては、日本では3月9日(木)に発売される『サイバーパンク桃太郎』のような事例がある。作家・漫画原作者のRootport氏がMidjourneyを用いて描いたSF作品だ。

    一方、海外の事例としては、CNETが2022年11月11日に公開した記事(日本語記事はこちら)で画像生成AIコミックシリーズ『The Bestiary Chronicles』を紹介している。

    このシリーズは、TVドラマ『ウエストワールド』(2016〜)をテーマにした体験型コンテンツを手がけたクリエイティブ・ディレクターSteve Coulson/スティーブ・コールソン氏が制作。映画『ミッドサマー』にインスパイアされた『SUMMER ISLAND』を含む同コミックシリーズは、全てMidjourneyによって作画された。

    ▲『The Bestiary Chronicles』の出版元Campfire Entertainmentのサイトより。コミックは無料でダウンロードできる

    コールソン氏はMidjourneyを単なるツールとは考えておらず、画像生成AIによるコミック制作を人間とAIによるジャズセッションのようなものととらえている。こうしたコミック制作の舞台裏を解説した電子書籍も発表しており、この書籍には作画に用いたテキストプロンプト(AIに画像を生成させる際に入力する文字列)などが収録されている。

    テック系メディアStealth Optionalは2022年8月30日、フォトグラファーのKris Kashtanova/クリス・カシュタノバ氏が制作した画像生成AIコミック『Zarya Of the Dawn(暁のゼイヤ)』紹介している。画像生成AI活用事例としては初期のものであるこのコミックは手術後の療養生活を利用して制作され、18ページ分を作画するのに1,500回の画像生成を行なった。写真専門メディアPetaPixelが2022年9月27日に報じたところによると、同コミックはアメリカで初めて著作権が認められた画像生成AIコミックとなった。


    【※2/27追記】
    もっともその後、アメリカ著作権局がこの著作権をめぐって再審議した結果、2023年2月21日(火)にAIが生成した画像の著作権は認めないがコミックのテキストと画像の配置についての著作権は認める、という判断を下した。この判断に対してカシュタノバ氏と担当弁護士は2月23日(木)、AI生成画像にも著作権が生じることを訴えていく姿勢をInstagramを通じて表明している。

    ▲『Zarya Of the Dawn(暁のゼイヤ)』

    画像生成AIコミックの制作ノウハウを紹介するコンテンツも多数存在する。例えばカナダ在住の映像作家Elvis Deane/エルヴィス・ディーン氏は、画像生成AIコミックの制作を解説したYouTube動画を、制作したコミックとともに公開している。

    I made a comic book using AI generated art in Midjourney

    またWebサイトPrompt MuseにはMidjourneyを使ってコミックを制作するノウハウを解説した記事をはじめとして、DALL-E 2やStable Diffusionの活用法もまとめられている。

    期待されるゲーム開発における活用

    テキスト入力から短時間で画像を生成できる画像生成AIは、ゲーム開発を効率化する技術として注目されている。VFXとゲーム開発で24年のキャリアのあるJussi Kemppainen/ユッシ・ケンパイネン氏は、画像生成AIによるゲーム開発効率化を実証するためのプロジェクトを立ち上げ、その開発過程をブログ記事として連載している。

    そうした記事のひとつでは、画像生成AIを活用したキャラクターメイキングが解説されている。AIによるキャラメイクで問題となったのはパースペクティブがずれていたり、キャラメイクに活用するのが難しい角度からのイラストが生成されたりすることであった。この問題は、イラストから3Dモデルを作成する段階で解決した。

    ▲ケンパイネン氏のブログ記事「AI assisted graphics: Character modeling」より

    ケンパイネン氏の試算によると、画像生成AIを活用した場合、ゲーム開発におけるキャラメイクで2日、背景制作に3日の工数短縮が見込めるとのこと。以上のような画像生成AI活用ゲーム『Echoes of Somewhere』の開発は現在も継続しており、完成したら無料での公開が予定されている。

    画像生成AIによるゲーム開発効率化に関しては、ゲーム業界メディアGame World Observerが2022年12月14日に特集記事を公開している。この記事では現役のゲーム開発者のツイートが数多く引用されているが、その多くが画像生成AIによるゲーム開発効率化は限定的であり、例えば『サイバーパンク 2077』のような AAAゲームの開発を劇的に短縮するようなことはあり得ない、という見解を示している。

    リリース済みのゲームに画像生成AIが活用されている事例には、テキストアドベンチャーゲーム『AI Dungeon』がある。このゲームはダンジョンの探索のような冒険に関するテキスト記述を読んだ上で、プレイヤーがテキストで行動を入力すると、行動に対するリアクションを表現するテキストがAIによって生成されるというものである。

    2022年8月19日に公開された同ゲームの公式ブログ記事では、プレイ中のテキストを入力として画像生成AIのStable Diffusionで生成した画像を表示する機能を実装したことが発表された。テキストに合わせた画像が表示されることで、プレイにより没入できるようになると考えられる。

    ▲『AI Dungeon』のプレイ画面

    活用シーンが広がる画像生成AI

    画像生成AIはコミックやゲームにとどまらず、様々なジャンルやコンテクストで活用されている。アートディレクターのKaren X. Cheng/カレン・X・チェン氏は2022年12月21日、Stable Diffusionを活用してインテリアデザイン画像を生成する事例をTwitterに投稿した。この事例ではStable Diffusion 2の機能のひとつであるDepth Guidedを利用して、ミニチュアの部屋に3次元的な画像を投影している。チェン氏は、コスモポリタン誌の表紙を画像生成AIのDALL-E 2で制作したことでも知られている。

    アーティストのBjørn Karmann/ビョルン・カルマン氏は2022年11月10日、AR技術と画像生成AIを組み合わせ、スマホで撮影した光景の一部を画像生成AIで生成した画像に差し替えるデモ動画をTwitterに投稿した。このデモで紹介された技術は、近い将来、画像編集アプリに実装されるかも知れない。

    インド・デリー在住のAI研究家Madhav Kohli/マーダヴ・コーリ氏は2023年1月11日、大気汚染が進んだ未来のデリー住民の姿を画像生成AIで制作してTwitterに投稿した。この事例は問題を提起するアート技法であるスペキュラティブ・デザインに画像生成AIを活用したものと言える。

    動画クリエイターのailoubfreitasは2023年1月8日、画像生成AIによって世界各国をスーパーヴィラン(ヒーローコンテンツにおける敵役)にした画像をInstagramに投稿した。日本は侍のような姿をしており、スペインは闘牛における牛をモチーフにしているのが興味深い。

    映画『アベンジャーズ/エンドゲーム』(2019)を監督したルッソ兄弟は2022年12月6日、マーベル映画のヒーローを個性的な映像感覚で知られる映画監督ウェス・アンダーソンの登場人物風に生成した画像をInstagramに投稿している。この事例のように既存の画像を指定した画風に簡単に変化させられるのが、画像生成AIの強みである。この強みは、例えばアート作品制作時におけるブレインストーミングに大いに役立てられるだろう。

    画像生成AIが登場したことでイラストレーターは職を奪われるのではないか、という危惧が一部では散見された。しかしながら、画像生成AIをどのように使うのかを決めるのは人間である以上、画像生成AIによってクリエイターが完全代替されることはない。そして、以上の事例からわかるように画像生成AIはその使い方次第でクリエイターのアイデアを今まで以上に実現してくれるのである。

    TEXT_吉本幸記 / Kouki Yoshimoto
    EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)