前作から10年の月日を経て登場したシリーズ最新作『ARMORED CORE VI FIRES OF RUBICON』で描かれた、斜陽の惑星ルビコン3はどのようにして生まれたのか。前回のメカデザイン&アニメーション篇につづき、本記事ではエンバイロメント、VFX、カットシーンについて紹介する。
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寂寥感漂う斜陽の星、現実と地続きのSFを描く
プレイフィールを損なわないよう段差や引っかかりをつくらないレベルデザイン上の工夫とビジュアルコンセプトが合致した“シンプルで複雑な”エンバイロメントを紐解く。
朽ちた惑星・ルビコン3
かつては資源開発によって栄え、現在は災害跡地となっている惑星であるルビコン3は、「オールドSF」「寂寥感」というキーワードで表現された。
象徴的とも言えるのは、星を覆うような巨大構造物「グリッド」。これは惑星開発の過程で建造された採掘プラント兼高層輸送網であり、時間の経過がもたらす物静かな雰囲気を醸し出している。
フィールド制作のフロー
高速移動にストレスを感じさせないコリジョン設計
ブーストによる高速移動が中心である本作は、フィールドに存在する床の段差や小さな突起物に引っかかるだけで移動のスピード感が失われてしまう。そこで、コリジョンについても、プレイの快適性を損なわないよう、デザイナーと企画が協議をくり返しながら調整された。
建物内部を描くインテリアシェーダ
壁面のディテールを補うタイリングテクスチャ
街灯の配置システム
コリジョンの項目で紹介したように、本作のエンバイロメントは複雑そうに見えて段差や引っかかりの少ないシンプルなつくりになっている。このため、物量や密度感を増す目的で街灯やフェンスなどの破壊可能オブジェクト(ぶつかっても移動の快適性が損なわれないオブジェクト)が多数配置されている。
ルビコン儀
本作はミッション制のためシチュエーションごとにエンバイロメントのデータは切り分けされているが、各ミッション同士の位置関係や地勢的な状況がひと目でわかる「ルビコン儀(地球儀のルビコン版)」が制作され、様々な面で重宝された。
ルビコン儀はブリーフィング画面やミッション選択画面にも登場する。ミッションの中では「◯◯越え」といった内容も多いが、これはプレイヤーが乗り越えるべき困難や問題を解消するプロセスとして示されており「この場所で何が行われるのか、その結果プレイヤーの現在地や取り巻く状況がどのように変化するのか」という要素に説得力をもたせるためには地球儀に相当するオブジェクトが必要だったとのこと。
実際には、ある程度のミッションがつくられたのち、それぞれのミッションの位置関係をある程度マージするかたちでルビコンの情報がまとめ上げられた。この際に見えてきた地勢的な情報がエンバイロメントにも反映されている。
ルビコン儀は球体モデルに大陸や山、各種造形のモデルを貼り付けるかたちで制作。1人のデザイナーが3~4ヶ月をかけて制作したという。
物理現象としてリアルに発生し得るVFX をつくる
魔法ではなく、物理現象としての爆発、銃撃。レーザーやプラズマも可能な限り現実に即した範囲内に収める工夫を行い、美麗なビジュアルと実在感を共存させた。
武装や属性に応じた多彩な機体エフェクト
本作では『ELDEN RING』でも使われた内製のエフェクト制作ツール「FX Editor」を拡張し、シェーダ面を強化した「FX Editor 2」が使用されている。『アーマード・コア』はシリーズを通して銃撃戦がメインとなる作品であり、複数種類の飛び道具を撃ち合う戦闘がくり広げられるため、非常に多くの攻撃用VFXが制作されている。
本作ではディレクター側で武器の属性ごとに色や表現の設定を固め、デザイナー側がこの方針を基に制作するフローを採用。例えば、レーザーは青、プラズマは紫、コーラルは赤、パルスは緑といったカラー情報が設定されており、厳密にルール化することで色相環上でのゲーム記号の棲み分けが図られた。なお、最も難しかったのは「パルス」の表現で、ディレクターとの口頭でのやり取りを基に調整を重ねていったとのこと。
プリセットで表現する爆発
爆発はプリセットを用意して表現している。エネルギー系爆発、プラズマ系爆発、コーラル系爆発の3種類に加えて黒色火薬系の現実に即した爆発を作成し、それぞれサイズちがいや指向性の有無によって細分化。
さらに、それぞれの爆発エフェクトごとに通常版と簡易版を用意した。なお、プリセット化された爆発以外に、バズーカやグレネードは固有の爆発エフェクトとなっており、具体的には爆発後に煙の形が残留するような表現が追加されている。
描画負荷を考慮した簡易エフェクト
本作では描画処理の負荷に応じて通常の爆発エフェクトと、高負荷時に使用される簡易版の爆発エフェクトが使い分けられている。
スケール感を調整した環境エフェクト
環境エフェクトは、マップのライティングやフォグの影響が決まった後に足していくイメージで制作されている。SFをイメージしたメカニカルな地形が多い本作では、マップの光源に対するオーダーも多かったとのこと。
描画負荷軽減のため、破壊可能な照明は動的光源、クレーンの電飾などオブジェクトに付属するライトはマップ側のエミッシブで対応するなど適宜使い分けている。また、本作では常にどこかで煙や火花が上がっているような状況が多くなるため、バトルとの兼ね合いを考慮してやや抑えた調整が施されている。
シェーダのカスタマイズによる特殊表現
エフェクトのマテリアルは事前に用意されており、複雑な表現を行う場合はアーティスト側でカスタマイズすることも可能だ。
没入感を底上げする慣性の表現
本作では薬莢やミサイルに慣性を乗せている。例えば、薬莢は慣性を受けて放物線軌道が変化し、自機が横にスライドしながらミサイルを撃てば、弾道(Trail)はまっすぐではなく慣性の影響を受けて曲線を描く。その弾道はプレイヤーの移動速度や発射初速、あらかじめ設定された慣性の減衰係数を基に計算される。
ストーリーへの没入を促す考え抜かれたカットシーン
従来のタイトル同様、字コンテや絵コンテを基に内製ツールでカットシーンを制作。演出意図に加え、どんなアセンブルでも見た目が破綻しない実装の工夫に迫る。
カタパルトからの出撃シーン
本作はストーリーが重視されており、出撃シーンも「自分自身でアセンブルした機体がそのまま参加している」という没入感が得られるような工夫が随所にみえる。
垂直カタパルト射出のシーンでは、射出の瞬間に慣性で機体が沈み、その後一気に浮上する。なお、画像のACは二脚だが、四脚やタンクでも機体に対応した同様のシークエンスが再生される。
画面の手前を機体が横切り、ダイナミックに着地するシーン。「メカにお芝居をさせると野暮ったくなるため、演出するとしたら“着地”と“重厚感”が最も重要になります」(シネマティックディレクター・山岸孝明氏)。
機体のスラスターはその演出のための重要な要素になるが、本作ではアセンブル次第でブースターから出る炎の色やノズルスカートの位置に無数の組み合わせがあるため、インゲームとズレないよう、スラスターを統括するパラメータから呼び出すしくみを本作専用に用意した。
また、このシーンではエンバイロメントの巨大構造体を冒頭でしっかり見せているのもポイント。インゲームでは見せることのできないアングルをシーンのながれの中に取り込み、世界観を感じさせると共に、シームレスにインゲームに接続することで、その世界に身を投じる没入感を高めている。
ガレージからの出撃シークエンス
本作では「ガレージでアセンブルを行う」という、過去作にはない“機体を愛でる空間”が生まれたため、出撃シークエンスもカットシーンとして表現した。ハッチの開閉やオペレーターのセリフなどが同時進行し、戦場に向かう緊張感を表すシーンとなっている。
また、この際のオペレーターのセリフはブリーフィング的な説明でもアクション中の示唆でもない、プレイヤーに向けた心情を示す内容が多く、シナリオを示す意味でも効果的なシーンとなっていた。
ただし、シリーズを通しての特色である「自由なアセンブル」とカットシーンは相性が悪い。その理由はアセンブルごとに全長や肩幅などの機体サイズが大きく異なるからだ。このため、どんな組み合わせでも背景と干渉しないよう、エンバイロメント側とも相談しながらカットシーン制作を行なった。
出撃後のゲームスタート画面
ミッション冒頭で着地後立ち上がってゲームが始まる演出は、過去作はシステムで制御していたが、本作ではカットシーンで制作している。カットシーンはライティングやポストプロセスなど様々な要素がコントロール可能であるため、より演出面にフォーカスすることができたという。
画面の周囲に表示されるHUDについては、別途動画で作成し重ねている。「動画からインゲームのHUDへの切り替わりが継ぎ目として現れないように、段階的に置き換えていくことでシームレスに見せています」(山岸氏)。
なお、この後のカメラが背後に引く演出では、どのアセンブルでも同じ見た目になるよう、機体の高さに応じてカメラ位置をオフセットしている。
CGWORLD 2024年1月号 vol.305
特集:海洋堂 デジタル造形移行への挑戦
判型:A4ワイド
総ページ数:112
発売日:2023年12月8日
価格:1,540 円(税込)
TEXT_神山大輝(NINE GATES STUDIO)
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada