理系出身でイラスト制作歴は専門学校で学んだ2年間のみ。しかもポートフォリオにはゲーム制作ツールで制作したゲーム動画や素材を提出……。そんな型破りなスタイルで内定を勝ち取り、ゲーム業界の2Dデザイナーとして活躍している新人クリエイターがいる。

コロナ禍や生成AIで社会の激変が続く中、就職活動に臨む学生に求められる考え方、そしてゲーム会社が求める人材像とは何か。本人と関係者に話を聞いた。

記事の目次

    コロナ禍で変わった人生の設計図

    開発職で2Dデザイナー、ゲーム業界を目指す美術系学生に人気の職種だ。それだけに就職は狭き門であり、夢を叶えられない学生も多い。

    こうした中、理系大学を経て専門学校で2年間、絵の勉強をしただけで2Dデザイナーとして内定を獲得した学生がいる。2023年4月に入社し、現在は株式会社ジーン(大阪府大阪市)で2Dデザイナーとして活躍する原田 要氏だ。

    採用の決め手は、ゲーム制作ツール「RPG Developer Bakin(以下、Bakin)」で作成した素材やゲーム紹介動画をポートフォリオに加えたことだったという。

    原田 要氏

    株式会社ジーン
    第1開発部 2Dデザイン部 デザイナー
    www.xeen.co.jp

    原田氏は、山口県出身で山口高校卒業後、兵庫県立大学理学部に進学し、生物科学の研究職を目指していた。高校時代からプラナリアやゼブラフィッシュなどの生体組織に関心があり、「自分が学びたい研究室で進路を決めた」という。山口高校は旧制中学からの伝統をもつ、県下随一の進学校で、筆者の母校である徳山高校ともゆかりがある。山口大学をはじめ、地元志向の生徒が少なくない中で、原田氏が研究室を見据えつつ進学先を決めた点に驚かされた。

    「もともと大学院に進学するつもりで、就職活動もしていませんでした。それなのにいきなりゲーム業界で就職したい、だから専門学校に行かせてほしいと言い出したので、親も驚いていましたね。最終的には自分が選んだことだから、と納得してくれました」。

    きっかけとなったのがコロナ禍だ。大学3年生の冬休みに研究室への立ち入りが禁止され、下宿先で巣ごもりの生活が続いた。思いがけず空いた時間で、小説を書いたり、音楽をつくったりと、自由な時間を費やした。そんな中、一番しっくりきたのが「絵を描くこと」だった。そこから転じて子どもの頃、ゲームに夢中になったことを思い出し、ゲーム業界で2Dデザイナーになりたいと考えるようになったという。

    「1999年生まれで、世代的にはゲームキューブやWiiが流行していたですが、実家にはファミコンがあったんですよ。初期の『ファイナルファンタジー』シリーズや、『スーパーマリオブラザーズ3』などを遊んでいました。高校受験を前に、ゲームで遊ばなくなりましたが、改めてコントローラを手にして、自分が本当に描きたかったものを再確認しました」。

    さっそく下宿先のPCを使用し、デジタルイラストを描き始めた原田氏。絵の経験は子どもの頃に落描きをして遊んでいた程度で、本格的にイラストを描いたのは、これが初めてだった。最初は板タブレットを使用していたが、すぐに液晶タブレットを購入するほど、のめり込んだという。そのかたわら卒業研究も無難にこなし、卒業後は京都芸術デザイン専門学校のコミックイラストコースに進学した。

    「進学先は全国を視野に入れて資料を取り寄せました。画力を伸ばすために、コミックイラストコースが最適だと考えました。その中でも京都芸術大学と連携していることが、京都芸術デザイン専門学校を選んだ決め手になりました。実際に京都芸術大学の校舎が通りを挟んで反対側にあり、芸術大学の雰囲気を感じられたり、ホールや施設を活用できたのが良かったです」。

    専門学校でイラストを学ぶ多くの学生と同じく、キャラクターを描くのが好きだったという原田氏。好きな漫画家やイラストレーターを聞くと、三嶋くろね氏の名前があがった。もっとも、単にキャラクターを描くだけでなく、絵を描くことで世界観を表現できることや、そのためにゲームという表現が一番しっくりきたことが大きかったという。

    授業の中では、背景を描く授業が一番印象深かったという。実際、背景は世界観を伝える上で重要な要素になる。「講師の方がつくられた、独自の資料で講義をしていただきました。一点透視図法をはじめ、背景を描く上で基礎的なテクニックを学びました」。専門学校でも数少ない大学卒業組だったこともあり、自然と実習やグループワークでまとめ役となり、様々な課題に取り組んだ。

    連戦連敗のなか、ゲーム制作を決意

    充実した学生生活を送ってきた原田氏だったが、就職活動は一筋縄ではいかなかった。エントリーした企業数は30~40社にのぼったが、連戦連敗が続いた。中でも夏休みに長期インターンに行き、手応えを感じていた企業から「お祈りメール」が届いたときは、さすがに落ち込んだそう。そんなときにゲーム雑誌で「Bakin」の記事を読み、心が動いたという。

    「BakinのPVを見て、感動しました。発売が待ち遠しくて、10月にSteamで早期アクセスが開始されると、すぐに購入しました。プログラムはまったくわかりませんでしたが、操作が直感的で、アセットやプリセットが大量に揃っていたため、すぐにつくり始めることができました。ちょうど就職活動に行き詰まっていた時期で、本当にゲーム制作が好きなのか、実際につくることで確かめてみようと思いました」。

    ▲「Bakin」で原田氏が作成したゲーム『Our Hour Traveler』の一部

    改めて説明すると、「Bakin」はいわゆる日本風のRPGをはじめ、様々なRPGをつくることができるツールだ。3DCGのステージ上で、2Dキャラクターや3Dキャラクター、さらにはイラストなどを重ね合わせ、高度なポストエフェクト処理を加えて表示するスタイルで、プログラミングの知識を必要とせずに、本格的なゲームをつくることができる

    ゲームUIの制作ツールなどの機能もあり、RPGだけでなく、アドベンチャーゲームやインタラクティブな要素のあるプレゼンテーション資料など、様々なコンテンツをつくることも可能だ。

    原田氏がBakinを購入してから約2ヶ月後、処女作『Our Hour Traveler』が完成した。中世ファンタジー風の世界観で、冒険者の少女4人からなるパーティが、薬草を求め、モンスターが跋扈する山道を進んでいく。主人公の少女が宿屋で目覚め、街中で仲間と待ち合わせて草原を進み、モンスターと戦いながら山道を進んで、ラスボスと対決。最後に薬草を入手するといった内容だ。

    プレイ時間は小一時間ほどと、ちょっとした「お使いイベント」だが、これを1人でつくるとなると話は別だ。原田氏は睡眠時間を削ってつくり上げたという。

    ▲『Our Hour Traveler』のタイトル画面。ロゴはツールの解説動画などを基に、独学で作成した
    ▲イベントシーンではキャラクターの立ち絵と共に、台詞がフルボイスで流れる。ボイスは音声合成エンジン「CeVIO AI」で作成された

    「Bakinでの制作が楽しくて、夢中になってしまいました。自分の考えた世界観を、RPGという形式を通して、手軽に表現できたからです。制作と平行して就職活動も続け、ホームページでジーンが新卒採用を続けていることを知り、エントリーしました。制作の過程でつくったキャラクターやUI/UXデザインの素材に加えて、ゲームの紹介動画も制作し、ポートフォリオに盛り込みました。すでに10月になっていたので、これでダメだったら就職活動を諦めるつもりで臨みました」。

    ▲ステージは3D、キャラクターは2Dの組み合わせで表現されている。ステージはタイルの組み合わせでエディットされている。キャラクターのドット絵とアニメーションはCLIP STUDIO PAINTで制作された

    ジーンでは書類選考を経て、一次面接、二次面接と選考が進んだ。その間もゲームの完成度を高め続け、作品を提出した。その結果、晴れて内定を獲得することに。原田氏に評価されたポイントを聞いたところ、「『絵を描きたい』だけでなく、『ゲームをつくりたい』という姿勢をアピールできたのが、内定につながった理由ではないか」と自己分析してくれた。

    ▲レトロRPGに慣れ親しんでいたこともあり、バトル要素を組み込むのは当初から既定路線だった。エフェクトはサンプルデータが使用されている

    現在は2Dデザイナーとして、アーケードゲームの開発に携わっている原田氏。1年目ながら、テクスチャ制作やデータ実装に加えて、アイテムのデザインなどにも取り組んでいる。

    将来の抱負について聞くと「理系大学出身ということで、タスク管理やスケジュール管理などのノウハウが活きている気がします。一方で専門学校ではCG制作のツールの使い方やテクニックが学べました。今後は2Dデザインだけにとらわれず、プログラマーや3Dデザイナーとのコミュニケーションを深めて、よりよいゲームをつくっていきたいです」と話してくれた。

    最後に就職活動でBakinのようなゲーム制作ツールを使用する意味について尋ねたところ、次のようなコメントが返ってきた。

    「ゲーム業界志望のデザイナーであれば、ツールの使用はオススメしたいです。特に私が使用したBakinはサンプルが充実しているので、自分で作成したアセットを差し替えるなど、簡単なところからつくり始めてみてはどうでしょうか。実際にゲーム会社で働き始めてみて、ただ『絵を描きたい』だけでは、長く活躍するのは難しいと実感しています。そのためにも一度ゲームをつくって、自分の適性を見極めてみてほしいです」 。

    画力だけでは物足りなかった

    このように紆余曲折を経て、2Dデザイナーとしてのキャリアを歩み始めた原田氏。では、採用側のジーンでは、どのような点を評価したのだろうか。同社で企画部部長をつとめる秋山惟行氏に話を聞こう。

    秋山惟行氏

    株式会社ジーン
    第1開発事業部 企画部 部長
    www.xeen.co.jp

    秋山氏は専門学校を経て同社に入社し、15年目の40歳。PlayStation 2から3への移行期に、業界に飛び込んだ。プログラマーからディレクターを経て、現在は企画部門の責任者だ。そのかたわら「アートもUIも、企画と関係性が深い」という理由から、2Dデザインの面倒もみている。

    秋山氏によると、当時の原田氏の評価は「純粋な画力だけでは採用にいたるか微妙だった」という。一方で「Bakin」でゲームを制作した経験や、ポートフォリオの完成度、さらにはコミュニケーション力などが後押しした。

    その上で、「基本的な制作スキルの有無が前提であることは変わらないが、今後はゲーム制作ツールを使ってポートフォリオを厚くしたり、面接でプレゼンテーションに活用するながれは、増加していくのではないか」と語ってくれた。

    ▲原田氏がジーンに提出したポートフォリオその1。『Our Hour Traveler』で制作した素材以外に、インターンで制作した課題や、デッサンなど、様々な要素が含まれている。また、これ以外にゲームの紹介動画も提出された

    その背景には、同社の特徴とゲーム業界の変化がある。ジーンは大阪市に本社を構える、社員数が約250名の中堅ゲームディベロッパーだ。クライアントからの依頼を受け、アーケード・コンシューマ・スマートフォンなど、多様なプラットフォーム向けに、ゲームの企画立案から開発まで様々な開発業務を進めている。

    激動するゲーム業界で生き残っていくためにはクライアントからの様々な要求や、業界の変化にいち早く対応していく柔軟性が必要だ。実際、ゲーム業界では過去十数年で、コンソールゲームからモバイルゲーム、そしてPCやXRデバイスなど、プラットフォームの多様化が進んだ。業界全体が内製ゲームエンジン偏重の技術開発から、Unity、そしてUnreal Engineでの開発へと舵を切り替えたのも、そうした理由からだ。秋山氏は、今後もこうした状況が続くと考えている。

    ▲原田氏がジーンに提出したポートフォリオその2

    もう1つのながれとして、ゲームの大作化とハイクオリティ化がある。今やコンソールゲームだけでなくモバイルゲームでも、数十億円の開発費を投じて、数年かけて新作タイトルを開発する事例が増えてきた。中でもグラフィックのハイクオリティ化のながれは著しく、優れた人材が求め続けられている。

    ゲームの大作化が進むと、開発チームの分業化が進展する。特にデザイナーは顕著で、2Dデザイナーと3Dデザイナー、さらには個別の職種に分かれている。その結果、個々の職種で求められるスキルが上がっていく。

    一方でゲーム開発の目的は「面白いゲームをつくる」ことにあるため、職種ごとのクオリティの追求が、ゲーム全体の面白さに直結するとは限らない。そのため「デザイナーには『絵を描きたい』という気持ちだけではなく、『ゲームをつくりたい』という意識がないと、無用なトラブルになりかねない」というわけだ。

    「これまでもゲームが2Dから3Dに変わったとき、変化に移行できず、ゲーム業界を去ったデザイナーがたくさんいました。内製ゲームエンジンからUnityやUnreal Engineに移行したときも同じです。近年では海外の協力会社にグラフィックアセットの制作を発注する事例も増えています。そこで求められるのは『絵が描ける』だけでなく、自分以外のデザイナーも管理する能力です。今後は生成AIを用いたゲーム制作も増加していくと考えられます。環境の変化に対する適合性や柔軟性がますます必要になります」。

    ▲原田氏がジーンに提出したポートフォリオその3

    そのため原田氏に期待することも、デザイナーとしての職人的なスキルを追求しつつ、将来的に他のデザイナーをコントロールする立場にステップアップしてもらうことだという。

    特に近年ではツールの改良に伴い、デザイナーの平均的なスキルが上がっている。職人的なスキルを磨き続けていくよりも、多くのデザイナーを束ねて、組織で成果を出していける人間に成長してもらう方が、新人にとって正しいのではないか。2Dデザインチームからそうした要望があり、原田氏の適性とマッチしたという。

    「創業して10年続くゲーム会社は1割にも満たないと良く言われます。これは、10年単位で企業を取り巻く環境が変化してきたからです。今後ますます変化のスピードが加速していく中で、企業はどのように持続的に成長できるか、次世代にバトンタッチしていくかが問われています。そのためにゲーム業界を目指す方には、デザイナーとしての基礎的なスキルが確立されていることと、自分がつくるアセットがどのようにゲーム内で使用されるか、説明できる力が必要だと考えています」。

    もっとも、そうした力は目には見えない。そのため企業は新卒採用で面接を通して、その力を見極めようとしてきた。新卒採用は可能性重視と言われるゆえんだ。

    一方でBakinのようなゲーム制作ツールで、ゲームを1本つくってみるという経験は、学生のもつ力を可視化させやすい。言い換えれば、これはデザイナー志望者であっても、ゲームデザイン的な視点や経験が求められるということだ。誰もがゲームをつくれるようになった時代だからこそ、専門的なスキルと俯瞰的な視点の両方が求められる。秋山氏の話から、そのような考えが伝わってきた。

    インターンシップを通して人材を育成

    最後に原田氏の母校でもある京都芸術デザイン専門学校についても触れよう。常勤教員で原田氏の担任も務めたコミックイラストコースの池田翔平先生に話を聞いた。学生時代に美大で油絵を専攻した後、縁あって専門学校の講師になった経歴をもち、学生の担任業務に加えて就職支援も行なっている。

    池田翔平氏

    京都芸術デザイン専門学校
    コミックイラストコース 常勤教員
    www.kid.ac.jp

    そんな池田先生に原田氏の印象を聞くと、「大学を経て入学してきたこともあり、最初からゲーム業界志望という目的がはっきりしていました。授業を通して画力もどんどん上がっていきました。

    一方で、就職活動は苦戦していました。そんな中、Bakinに関する情報を自分で見つけてきて、ゲームづくりを始めたのには驚きました。成果物をポートフォリオに組み込み、結果的に内定に至ったのは素晴らしいと思います。本校でも珍しいケースだと思います」という答えが返ってきた。

    もっとも、そうした背景には同校が進めるプロジェクト型インターンシップの取り組みもありそうだ。キャラクターデザインコース、コミックイラストコース、ビジュアルデザインコースの学生280名が、コースをまたいで5~6名のチームを組み、それぞれのスキルを活かしつつ、地元企業から提示された課題に、約10日間かけて取り組んでいる。1年生の前期に取り組む夏インターンと、後期に取り組む春インターンがあり、どちらも必修科目だ。

    インターン先は様々で、印刷業界や飲食業界で企業の認知度を高めるためのマンガ、アニメ、リーフレット制作に取り組むなど、地元企業と連携して進められている。学生はこうした経験を経て個々のスキルを伸ばし、適性を見極めつつ、2年次から就職活動に臨んでいく。2年次では就職活動を通して学生が自分自身でインターン先を開拓し、選考につなげていくことが期待されている。

    「夏インターンでは社会や仕事について知ること。春インターンではグループワークを通して自分の強みや適性を見つけ、成果物を企業にプレゼンしてもらうことを目的としています。原田さんもゲーム会社でのインターンを通して、ゲームの企画書やキービジュアル、UI/UX制作などに取り組んでいました。年齢的にも経歴的にも、自然とグループのまとめ役をしてくれていました」。

    こうした中、2024年春からグランディング京都スタジオの協力で、Bakinを用いたインターンシップが実施された。これまでは静止画の制作止まりだったが、Bakinを使えばプログラマーが不在でも、インタラクティブな作品が制作できる。チュートリアルにはBakin開発元の株式会社スマイルブームも協力した。まずはテストケースとして実施し、ノウハウを蓄積した上で、今後も拡大していきたいという。

    余談だが、筆者が勤める専門職大学でも同様の取り組みを行なっている。しかしインターンは2年生の春からで、同校の1年生の夏から学生を送り込むという速度感に驚かされた。ほんの半年前まで高校生だった学生を企業に送り出すのは、よほどの自信やバックアップ体制がなければできない。受け入れ側の企業や行政との信頼関係や、長年の実績があっての施策だと推察される。今後、同校からどのような人材が輩出されていくのか楽しみだ。

    最後に一連の取材に同行した、スマイルブームで取締役を務める徳留和人氏に感想を聞いた。

    東京ゲームショウ2023で会場スタッフから原田氏のことを聞き、すぐに学校の方に連絡を入れました。やり取りを重ねつつ、ポートフォリオやBakinでつくられたゲームを拝見したところ、かなりツールを使いこなされていると感じました。そのため、すでに数年のゲーム制作歴がある方だろうと思っていました。

    それが今回のインタビューを通して、まったく制作の経験がなかったことや、イラスト制作が専攻であること、ゲームづくりを学び始めて、わずか数年であることに驚かされました」。

    徳留和人氏

    株式会社スマイルブーム
    取締役
    smileboom.com

    徳留氏によると、クリエイターが熟練したツールからまったく新しいツールに乗り換えて新規に創作活動を行う例は「極めて珍しいというか、ありえない」という。特に就職活動のような人生の転機で、しかもそれまで内定がとれずに行き詰まっていた状況で、「デザイナー志望の学生が2ヶ月も時間を割いてゲームをつくろう、などとは思わない」というのだ。

    理系大学出身という点や、研究者志望だったという地頭の良さに加えて、思い切りの良さや、一度決めたら最後までやり抜く力を併せもっている点を考えても、「さもありなんとは、やはりならない。ただただ、やり遂げたことに驚かされる」という。その上でBakinのリリースを通して、1人の人生が大きく変わった現場に立ち会えたことに、改めて感謝したいと述べた。

    実際、Bakinに出会っていなければ、原田氏はゲーム業界で働いていなかった可能性もある。一方でジーンの秋山氏が語ったように、Bakinなどの制作ツールでつくったゲームをポートフォリオに組み込めば、すぐに内定がとれるという甘い話ではない。

    ひとつだけ言えるのは、変化が激しいゲーム業界において、常に最新の情報を収集し、メタな視点でデザイナーとしての生き方を再定義し続ける姿勢が、学生のうちから求められている……そんなふうにまとめられそうだ。今後の原田氏のクリエイター人生にエールを送りつつ、筆を置きたい。

    TEXT_小野憲史 / Kenji Ono
    EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada