京都市と、NPO法人アニメ産業イノベーション会議(以下、ANiC)は、2024年3月に「アニメ×ゲームジャムU25* in 京都」というハッカソンを共催した。関係者による座談会を通して、本イベントの成果を紐解いていく。なお、本記事は前後編に分けてお届けする。

記事の目次
    ※本記事は月刊 『CGWORLD + digital video』vol.310(2024年6月号)掲載の「UnityのAnime Toolboxを活用しこれからのアニメ制作に挑戦 アニメ×ゲームジャムU25* in 京都」を再編集したものです。

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    「アニメ×ゲームジャムU25* in 京都」前編:UnityのAnime Toolboxを活用し、これからのアニメ制作に挑戦

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    アニメ×ゲームジャムU25* in 京都

    25歳以下および、業界経験の浅い方を対象とした、ゲームエンジンのUnityを用いてアニメをつくるハッカソン。
    対面ハッカソン開催期間:3月9日(土)~10日(日)/ブラッシュアップ期間:3月11日(月)〜17日(日)/作品発表・講評会:3月22日(金)
    主催:京都市、NPO法人アニメ産業イノベーション会議(ANiC)
    協力:ユニティ・テクノロジーズ・ジャパン株式会社、京都デザイン&テクノロジー専門学校、インテル® Blue Carpet Project、ミュージックワークス、株式会社ゲームクリエイターズギルド・ゲームクリエイター甲子園、京都クロスメディア推進戦略拠点(KCROP)
    運営:KYO-CCE Lab事務局 [運営:株式会社ツクリエ]
    anic-japan.org/topics/animexgamejam-u25inkyoto

    Unity上でアニメの多段マルチを再現し、奥行きを表現

    CGWORLD(以下、CGW):「朱雀大路」の作品制作は、「火を表現したい」という進さんのアイデアを起点に進めていったそうですね。


    進 倫久氏(以下、進):作品の規定の中に「暗転から始まり暗転で終わる」という仕様があったので、暗闇の中に火が灯り、物語が展開し、火が消えて暗闇に戻る表現にすれば収まりが良いと思いました。さらに制作テーマが「転生」だったので、「だったら火の鳥を出そう。チーム名はかつて京都に実在した朱雀大路という道からとろう」という感じで、イメージを膨らませていきました。


    CGW:印象に残った経験は何ですか?


    :初めて描いた絵コンテを、糸曽さんに添削してもらったことですね。そのやり取りを通して作品の構成がほぼ決まり、「こういう感じだよね?」と言いながら祐莉乃さんが主人公の三面図や背景画を即座に仕上げてくれたので、滅茶苦茶ありがたかったです。


    糸曽賢志氏(以下、糸曽):僕が絵コンテを見せてもらった時点で、すでに最後までのながれは描き上がっていたので「この短時間で立派だな」と思いました。ただ、「左脚が義足で、ハンディキャップがある」という主人公の設定がわかりづらかったので、もっとキャラ性を立たせる見せ方にした方が良いとアドバイスしました。当初は屋内にカメラを置いて、主人公の背中越しに庭や空を映すレイアウトだったのですが、それだと主人公の後ろ姿しか映らないからもったいないと思ったんです。限られた尺の中で主人公のキャラ性を立たせるために、「こんなレイアウトはどうだろう?」という案をホワイトボードに描いていきました。


    :顔が見えないのは確かにもったいないなと、指摘されて気がつきました。


    糸曽:僕が添削したというよりは、皆で「だったらあれが良い」、「これが良い」というようにワイワイ話しながら決めていったので、そのながれがすごく良いなと思いました。

    対面ハッカソン期間中の、チーム「朱雀大路」の様子

    ▲9日のハッカソンスタート直後、「朱雀大路」のメンバーの話を聞くメンターの小宮氏
    ▲進氏の意見を聞きつつ、レイアウトの提案をするメンターの糸曽氏
    ▲糸曽氏がホワイトボードに描いたレイアウト案
    ▲糸曽氏のレイアウト案を参照しつつ、Unity上で背景アセットを組み上げる大塚氏
    ▲10日12時から行われたリモートでの音声収録の様子
    ▲10日18時からの中間発表で、進捗報告をする「朱雀大路」のメンバー

    小宮彬広氏(以下、小宮):今回の4チームは、アートドリブンのチームと、テクニカルドリブンのチームにはっきり分かれていた点が面白いなと思いました。「朱雀大路」の場合は、祐莉乃さんがご自身のアートの力で皆を引っ張るアートドリブンのチームでした。皆のアイデアや要望を片っ端から絵に起こし、Live2Dで動かしていく様子が強く印象に残っています。それを受けて、テクニカル担当の大塚さんや美莉乃さんがUnity上で実装する方法を考え、プロデューサーの進さんと、2Dアニメーターの小林さんが肉づけをしていきました。すごくバランスの良いチームだったと思います。


    大坪祐莉乃氏(以下、祐莉乃):普段はチームでゲームをつくっているのですが、「誰かが先行して描き始めないと終わらない」ということを何回か経験していたんです。だからどんどん描いちゃおうと思って、ひたすら描き続けました。

    「朱雀大路」の主人公の三面図と、Visual Compositorの作業画面

    ▲祐莉乃氏が描いた、主人公の三面図。油絵学科の学生ならではの面で描くスタイルが個性的なルックを生み出しており、審査員の平澤 直氏は第一にその点を評価していた
    ▲「朱雀大路」の作品内のシーンの大半は、Anime Toolbox内のVisual Compositorというノードベースのグラフエディタを用いて表現した。この作業画面では、板状のオブジェクトを重ね合わせたり、様々なエフェクトを適用したりすることで、冬のシーンを表現している

    CGW:板状のオブジェクトを重ね合わせ、シーンの立体感を表現する手法は特徴的ですね。


    祐莉乃:私は昨年の7月頃からLive2Dを愛用しているので、2Dの絵をパーツ分けして動かすことには慣れていました。今回はUnityを使ってアニメをつくるイベントだったので、描いたパーツをUnityにインポートして、Unity内で動かしたり、カメラワークを付けたりすることにも挑戦してみました。


    林 和哉氏(以下、林):Unity上でアニメの密着マルチやマルチプレーンカメラを再現して、奥行きを表現しようという発想が面白いと思いました。対面ハッカソンの時点では、カメラ移動で奥行きを表現するところまで到達できていなかったのですが、その後のブラッシュアップ期間で上手くまとめてくれました。トライ&エラーをくり返し、結果をリアルタイムに確認しながら調整を重ねた成果だと思うので、Unityを使った意味がすごく表れていて嬉しいですね。

    「朱雀大路」のアセット

    ▲【上】夏のシーンと、【下】秋のシーン用の背景アセット
    ▲クライマックスのシーン用の、主人公と背景のアセット。板状のオブジェクトを重ね合わせることで、複数のBOOKを多段マルチで組むアニメの撮影手法を再現している

    「朱雀大路」の完成映像

    ▲上のカットのレイアウトは、糸曽氏の提案を受けて盛り込まれた。木々の枝と葉はオブジェクトを分けてあり、葉にアニメーションを設定している。さらにパーティクルに紅葉や雪のテクスチャをアサインし、落葉や降雪を表現した
    ▲【上】から【下】へとカメラがトラックバックするシーンでは、前述のセット内でカメラを動かすことで奥行きを表現している
    ▲主人公が火の鳥に転生し、空へと飛翔するシーンのアニメーションは小林氏が担当した

    実際に体感することが、イノベーションの一番の近道

    CGW:審査基準についても教えてください。


    松本:①映像としてのクオリティ、②構成・着眼点のユニークさ、③ゲームエンジンならではの表現、④技術力の高さ、⑤チームワーク、からなる5つのポイントを設定しました。


    大前広樹氏(以下、大前):僕個人が審査で重要視したのは、枝葉末節よりもまずアニメ作品として観る側に伝わる作品になっているかという点です。その上で、表現の豊かさや、ユニークさ、制作上の工夫、技術の活かし方、上手な手の抜き方、チームワーク、生産量といった点を個別に評価しました。


    濱中 良氏:僕がすごく印象に残っているのは、2日目の中間発表(対面ハッカソンの終了前)の際にメンターの皆さんが指摘したことを、全チームがちゃんと受けとめて、解釈して、改善してきた点でした。林さんが語ったようにUnityを使った意味があったと思うし、イテレーションの重要さを改めて感じました。


    糸曽:「朱雀大路」の作品は、何よりも発想が面白いなと思います。ハンディキャップをもつ主人公が、春夏秋冬のいろいろな時間をひとりで過ごした後、戦火に巻き込まれて死を受け入れる瞬間、「あ、やっと死ねるんだ」と思って笑顔になるという展開は、見る人をドキッとさせるし、面白いと感じました。さらに火の鳥に転生して飛翔することで、起承転結の「転」がくり返される構成が非常に秀逸でした。短編映像制作においては、起承転結の「起」と「承」の部分で視聴者の心を掴むことが重要で、さらに「転」を重ねることで、掴んだ心を離さないことが重要です。それをやってのけた点は、本当にすごいと思いました。


    小宮:アニメ制作の仕事は、様々な専門家の力を結集する総合芸術です。本イベントに参加してくださった4チーム、17人の皆さんは、各々の強みを活かし、協力し合い、短期間で素晴らしい作品をつくってくださったので、それを肌身で実感できたと思います。僕自身、改めてそれを実感したし、自分たちのワークフローを見直す貴重な機会をいただけたとも感じています。


    大前:新しい表現と新しい世界をつくっていくのは、昔も今も常にまだ定石のない世界に自ら飛び込んでいく者たちです。熾烈なAIの開発競争が続く今、新しく生み出されるツールが、新しい才能にスポットライトを当てるのは想像に難くありません。それは今までのアニメとその制作手法を否定するものではありませんが、そうした開拓者たちが観る側の心を掴んだとき、新たなレイヤーとなって制作手法に大きなうねりをもたらすでしょう。未来を創る開拓者たちの表現と挑戦に注目しています。


    三輪由美子氏:初めて京都で開催した「アニメ×ゲームジャム」で、京都らしい和を感じる作品が生み出されたことを嬉しく感じています。第3回も、がんばって盛り上げていきたいです。


    祐莉乃:対面ハッカソンの初日終了後、美莉乃も含めた5人でお好み焼きを食べに行き、いろいろな話をして仲良くなりました。その後は全員が連日Discordをつなぎっぱなしにして作業に没頭したんです。終始綿密なやり取りができたから、ここまでクオリティを高められたのだと私は考えています。チームメンバーの皆さんと、貴重な機会を与えてくださった主催者の方々に深く感謝しています。ありがとうございました。


    松本:今回の「アニメ×ゲームジャム」を通して、若い参加者の皆さんがこれからのアニメ制作のあり方のひとつを示してくださったことを、本当に嬉しく感じています。この記事を読んで興味をもった方は、ぜひ第3回に参加して、ご自身で体感してみてください。運営スタッフとしての参加も歓迎です。実際に体感することが、イノベーションの一番の近道ですから。

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    「アニメ×ゲームジャムU25* in 京都」前編:UnityのAnime Toolboxを活用し、これからのアニメ制作に挑戦

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    アニメ×ゲームジャム F.F. -For Freshers- in 京都 開催決定!

    対面ハッカソン期間:2024年8月10日(土)~8月11日(日)
    ブラッシュアップ期間:2024年8月12日(月)~8月18日(日)
    対象者:業界を目指す若手や新人

    詳しくは公式ホームページをご覧ください

    月刊『CGWORLD +digitalvideo』vol.310(2024年6月号)

    特集:ローポリから始める3DCG
    定価:1,540円(税込)
    判型:A4ワイド
    総ページ数:112
    発売日:2024年5月10日

    詳細・ご購入はこちら

    TEXT&EDIT_尾形美幸/Miyuki Ogata(CGWORLD)
    文字起こし_大上陽一郎/Yoichiro Oue