京都市と、NPO法人アニメ産業イノベーション会議(以下、ANiC)は、2024年3月に「アニメ×ゲームジャムU25* in 京都」というハッカソンを共催した。関係者による座談会を通して、本イベントの成果を紐解いていく。なお、本記事は前後編に分けてお届けする。
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INFORMATION
アニメ×ゲームジャムU25* in 京都
25歳以下および、業界経験の浅い方を対象とした、ゲームエンジンのUnityを用いてアニメをつくるハッカソン。
対面ハッカソン開催期間:3月9日(土)~10日(日)/ブラッシュアップ期間:3月11日(月)〜17日(日)/作品発表・講評会:3月22日(金)
主催:京都市、NPO法人アニメ産業イノベーション会議(ANiC)
協力:ユニティ・テクノロジーズ・ジャパン株式会社、京都デザイン&テクノロジー専門学校、インテル® Blue Carpet Project、ミュージックワークス、株式会社ゲームクリエイターズギルド・ゲームクリエイター甲子園、京都クロスメディア推進戦略拠点(KCROP)
運営:KYO-CCE Lab事務局 [運営:株式会社ツクリエ]
anic-japan.org/topics/animexgamejam-u25inkyoto
Unityを活用すれば、短いスパンで試作を重ねることができる
CGWORLD(以下、CGW):本イベントを京都市と共催したANiCはどのような組織なのか、ANiC 理事長の松本 淳さんからご説明していただけますか?
主催・運営・ファシリテーター
松本 淳氏(以下、松本):ANiCは2019年に設立されたNPO法人で、高い技術力をもつ日本のアニメ産業を、さらに発展させるための様々な提言やサポートをミッションとしています。「アニメ×ゲームジャム」の開催は今回が2回目で、アニメをつくる人とゲームをつくる人の交流や、イノベーションの促進を目的としています。伝統的なアニメ制作のワークフローはガチガチのウォーターフォール型ですが、Unityなどのゲームエンジンを活用すれば、短いスパンで試作を重ねることができます。僕はアニメスタジオにも、IT開発の現場にも所属していたことがあるので、「アニメ×ゲームジャム」を通して、これからのアニメ制作を参加者に体感してほしいと思っています。
CGW:実際、アニメ制作にゲームエンジンを活用するケースは年々増えており、CGWORLDでもよく取り上げます。第1回の「アニメ×ゲームジャム」はいつ開催したのですか?
橘 茂生氏(以下、橘):2022年です。Discordを使ったオンライン開催だった点と、年齢制限は設けなかった点が第2回との大きなちがいでした。今年の3月開催の第2回では、京都デザイン&テクノロジー専門学校で2日間の対面ハッカソンを実施し、さらに7日間のオンラインでのブラッシュアップ期間を設けました。「若いクリエイターを発掘・支援したい」という京都市の希望を受けて25歳以下を対象にしたので、業界未経験の学生さんの割合が高くなっています。第3回も今年の夏、京都市での開催に向けて準備を進めていますので、ANiCのWebサイトで発表する続報をお待ちください!
CGW:楽しみにしています。京都市が共催することになった経緯も教えてください。
三輪由美子氏:京都市は京都国際マンガ・アニメフェア(略称:京まふ)や、インディーゲームの祭典・BitSummitなどの大規模イベント開催が活発なのですが、産学官の距離が近いという京都の良さを知ってもらえる密度の高いイベントも開催したいというねらいがありました。一方で、京都市には芸術系の大学や専門学校が数多くありますが、京都の学校で学んだクリエイターの卵の多くが東京の会社に就職してしまうという課題を抱えています。だからグラフィニカ京都スタジオ 代表の小宮彬広さんや、ライデンフィルム京都スタジオ 室長の坂本一也さんにも演出のメンターとして協力いただき、京都のアニメスタジオの魅力も参加者に伝えていただきました。
橘:加えて、アニメーション・映像監督の糸曽賢志氏さんにも演出のメンターを依頼しました。それとは別に、Unityのメンターとして林 和哉さんと、まつだすさんにも参加していただきました。本イベントではUnity上で映像編集作業ができるAnime Toolboxというテンプレートの活用もテーマの一部にしていたので、対面ハッカソンの初日の午後には、林さんが各チームのテクニカル担当者を対象とした短時間のAnime Toolbox講座を開き、使い方を説明してくださいました。
メンター(演出)
メンター(Unity)
対面ハッカソンのタイムスケジュールと会場
会場:京都デザイン&テクノロジー専門学校
本イベントには17人が参加し、9日11:15からの「アイデアピッチ」で提案された4つの企画を基に、4チームが編成された。ハッカソン開始後は、メンターたちによる絵コンテや、演出、Anime Toolboxなどの指導も行われ、参加者の制作をサポートした。規定の尺を超え、1分30秒以上の作品をつくるチームも現れた
CGW:本イベントを開催するにあたり、特に配慮したことを教えてください。
橘:初対面の若い人たちが即席のチームでアニメをつくることになるので、「きっと緊張するだろうな」と予想していました。だから初日の午前中の雰囲気づくりには特に気を配っています。僕と一緒にファシリテーターを務めてくれた北村英之さんや、ANiCの理事で審査員も務めた濱中 良さんと開始直前まで相談を重ね、アイスブレイクやチームビルディングの段取りを練り上げ、リラックスできる雰囲気になるよう努めました。
濱中 良氏:アニメクリエイター、ゲームクリエイター、クリエイティブプロデュースの3つの役割で募集した人を固まりすぎないようにした上で、つくりたい作品の方向性が合う人同士は同じチームにする必要があったので、チームビルディングは難しかったですね。参加者の皆さんにもご協力いただき、チームをつくることができました。
橘:モチベーションや技術力は人によって差があるので、そのバランスをとることも難しかったです。
CGW:モチベーションの温度差は、アニメ・ゲームを問わず、プロの現場でもよく聞く課題ですね。この座談会に先立ってANiCのYouTubeチャンネルで作品発表・講評会の番組を視聴したら、チーム「ORANGE JAM」とチーム「朱雀大路」は、「15秒〜30秒の映像」という本イベントの規定を超える、1分30秒以上の長尺作品をつくっていて驚きました。
橘:その点も、われわれの課題として残りました。完成作品が30秒を超える長尺になったチームには、それを編集して、予告編のような30秒版も提出してくださいと伝えました。長尺の本編も審査対象とするか迷ったのですが、公平性を重視し、30秒版で審査させていただきました。第3回の開催時には、よりわかりやすく審査方針を伝えるように努めます。
松本:アニメの仕事をしていると尺は絶対に守るべきものですが、つくりたいだけつくってしまうチームが現れたのは誤算でした。熱量の表れでもあったので、評価してあげたいという思いとの間で葛藤がありました。
審査員
4チームの作品と、受賞結果
全員が自分の得意とする役割を自発的に見つけて進めていった
CGW:ここからは最優秀賞であるゴールド賞を受賞した「朱雀大路」のメンバー4人と、その作品制作に協力した「ORANGE JAM」のメンバー1人にも話を伺います。まずは自己紹介と、本イベントへの参加理由をお聞かせください。
ハッカソン参加者(17人中、インタビューに参加した5人のみ掲載)
大塚大地氏(以下、大塚):僕は東京在住で、青山学院高等部の学生です。Tech Kids Schoolというプログラミングの塾で、小学6年次に初めてUnityを触りました。中学在学中は学校の勉強が忙しく、Unityを触る時間を捻出できなかったのですが、高校1年次にN Code LaboというN高等学校が運営するプログラミングの塾に通い始め、今は先生に教わりながらUnityでゲームをつくっています。「アニメ×ゲームジャム」は内容が面白そうだったので、人脈を広げることを目的に参加しました。「朱雀大路」では、Unityの実装や、3Dアニメーション、撮影、音響、編集を担当しています。
林 和哉氏:初日に大塚さんと初めてお会いして、その年齢を聞いて驚きました。もち込んでいるガジェットの数がやたら多いし、名刺ももっているし、居住まいが堂々としていたので、とても17歳には見えなかったんです。「ひとまわりサバを読んでませんか?」と思いました(笑)
大塚:僕のお小遣いは全部ガジェットに消えている感じですね。名刺を持参したのは塾の先生の入れ知恵です(笑)
大坪美莉乃氏(以下、美莉乃):私も東京在住で、法政大学 理工学部 応用情報工学科の学生です。ハッカソンには以前から興味があったので、双子の妹の祐莉乃を誘って参加しました。
大坪祐莉乃氏:私は武蔵野美術大学 油絵学科 グラフィックアーツ専攻の学生で、「ムサビゲームラボ!」という大学非公認サークルの代表をしています。別大学の美莉乃も同じサークルに所属して、普段から一緒にゲームをつくっています。私たちは子どもの頃からゲームクリエイターを目指してきたんです。サークルではLive2Dを使ったキャラクターアニメーションをつくることが多いので、「朱雀大路」のキャラクターもLive2Dで動かして、大塚さんや美莉乃にUnityへ実装してもらいました。そのほかにも「朱雀大路」では、コンセプトデザイン、キャラクターデザイン、背景アートを担当しています。
CGW:姉妹でテクニカルとアートを分担しているのはユニークですね。
美莉乃:私は「ORANGE JAM」のメンバーでしたが、「朱雀大路」のメンバーはけっこう難しいことに挑戦しようとしていたので、物語の前半部分のUnityへの実装を手伝いました。その代わりに、祐莉乃が「ORANGE JAM」のアニメーションを手伝ってくれました。
小林弘季氏(以下、小林):僕は京都産業大学 外国語学部 アジア言語学科の学生で、大学2年次から本格的な絵の勉強を始めました。以前から「アニメーターになりたい」という思いはあったのですが、周囲に同じような趣味や志望をもつ人はいなかったので、細々と絵の練習だけを続けてきました。Unityや3DCGに関する知識は全然なかったのですが、「絶対良い経験になるから」という知人の勧めで本イベントへの参加を決めました。「朱雀大路」では、物語の後半に登場する火の鳥の2Dアニメーションを担当しています。
CGW:火の鳥のアニメーションは、作品発表・講評会で審査員の方々が「演出・技術の両面で高度なことをしているから、予告編に入れなかったのはもったいない」と絶賛していましたね。
小林:スタート直後の話し合いでは僕の知らない技術用語が飛び交って、積極的に話に入れる雰囲気ではなかったのですが(笑)、たまたま描いたラフな炎のアニメーションに対して、メンバーたちが「それ、良いね」と言ってくれて、火の鳥を担当することになりました。
進 倫久氏:私は会場となった京都デザイン&テクノロジー専門学校の学生で、ゲームクリエイター専攻に所属しています。ゲームのプランナー志望ですが、面白いものをつくることに幅広く興味があり、Unityでアニメをつくるという試みにも魅力を感じたので参加を決めました。「朱雀大路」では原案、構成、脚本を担当しています。私たちのチームは、全員が自分の得意とする役割を自発的に見つけて進めていったので、各々の強みを活かした素晴らしい作品に仕上がったと思います。
INFORMATION
アニメ×ゲームジャム F.F. -For Freshers- in 京都 開催決定!
対面ハッカソン期間:2024年8月10日(土)~8月11日(日)
ブラッシュアップ期間:2024年8月12日(月)~8月18日(日)
対象者:業界を目指す若手や新人
月刊『CGWORLD +digitalvideo』vol.310(2024年6月号)
特集:ローポリから始める3DCG
定価:1,540円(税込)
判型:A4ワイド
総ページ数:112
発売日:2024年5月10日
TEXT&EDIT_尾形美幸/Miyuki Ogata(CGWORLD)
文字起こし_大上陽一郎/Yoichiro Oue