産業用XRデバイスメーカーとして業界トップクラスのデバイスを製造・供給するフィンランドVarjo社の「Varjo XR-4」シリーズ。フィンランド語で「影」を意味するVarjoは自動車、メディカル、ミリタリーなど、精密さが求められる産業分野で多く採用されており、その精度と性能の高さが知られている。
国内の販売代理店である株式会社エルザジャパンは2024年7月5日(金)、東京にて「Varjoセミナー」を開催。Varjo社より招聘された副社長とシニア・ソフトウェア・エンジニアによる基調講演や、XR-4を採用するパートナー企業によるセッションが用意された。また、会場には、XR-4の実力を体感できる体験デモスペースやソリューション展示ブースもあり、ハイエンドXRデバイスの実力と実際の活用事例に触れられる、良い機会となった。
Varjo XR-4シリーズとは
Varjo XR-4シリーズはVarjo社の最新ヘッドセット。3,840×3,744ドットのMiniLED(51PPD)のディスプレイを2基備え、水平120°×垂直105°と広い視野を確保することにより、限りなく両眼視に近いXR体験を可能とする。
色表現ではsRGB98%・DCI-P396%という広色域をカバー。輝度は200nit、コントラストは1:10000(部分駆動)と純粋な視覚充実度を備える。また、MR用途に欠かせないフロントカメラは2,000万ピクセル、22msの超低遅延のパンフォーカス・フロントマウントカメラを2基搭載する。NVIDIA GeForce RTXシリーズはもちろん、プロフェッショナルワークフロー向けGPUのNVIDIA RTX 6000 Adaなどに最適化されている点も特長のひとつ。OmniverseやUnreal Engine、OpenXR、Autodesk VRED、Unityなど、プロユースの各種ツールとのインテグレーションも充実している。
<Varjo XR-4製品情報(エルザジャパン)>
www.elsa-jp.co.jp/products/detail/arjo-xr-4-standard/
基調講演「Future of enterprise XR」産業分野で高まるVarjo XR-4の需要
本セミナーのメインセッションは、Varjo社副社長(Vice President)のヨアヒム・デッカー氏(Joachim Dekker)による基調講演「Future of enterprise XR」。スライド資料を用いながら、エンタープライズ向けXRの将来的な展望について話が展開した。
デッカー氏はMRマーケットを、カバーする範囲が広い順に、「汎用型MR」、「エンタープライズ向けMR」、「ワイヤレス統合システム」、「統合システム」の4セグメントに分類。
「汎用型MR」とはコンシューマー向けMRデバイス、いわゆる民生品のことで、MetaやAppleが供給するデバイスが担う分野である。
「エンタープライズ向けMR」はVarjo社が2016年以降、とりわけ自動車業界にフォーカスしてデバイスを供給してきた分野。汎用型デバイスよりも高性能で低レイテンシなデバイスが求められる。
3つめの「ワイヤレス統合システム」は、警察など法執行機関によるミッションクリティカルなトレーニングなど、戦略的な訓練で利用するMRデバイス。政府のシステムやソフトウェアとの連携など、特殊な対応が必要になる。
最後の「統合システム」は、フライトシミュレータなどに代表されるような、何かしらの機器と統合して使うもの。
「Varjo XR-4は、汎用型MRを除く3つの分野で活用されています。自動車の共同デザインやレビュー、防衛システムや宇宙開発関連のコクピットトレーニング、航空管制業務などのミッションクリティカル、医療分野での研究や診断、治療などです」とデッカー氏。
スライドでは、自動車メーカートップ20社中16社、アメリカの防衛産業20社中16社、その他医療関連企業7社という採用実績が紹介された。
Varjo XR-4の大きな特長についてデッカー氏は「世界初、アイトラッキングが可能な20メガピクセルのオートフォーカスカメラを搭載しています。視野は前世代のXR-3から50%も広くなりました。また、本体四隅に内蔵されたインサイドアウト・トラッキングでユーザーの位置を正確に把握できます。そして、自動IPD調整機能を搭載していますから、眼鏡をかけていても瞳の距離が自動で測定されます」と話す。
その他、ノイズキャンセリング機能付きの内蔵マイク、DTS対応の空間オーディオスピーカー、(前世代ユーザーからのレビューを受けて)パワーボタンを装備。ヘッドセットは重さを感じないよう、後頭部側にバランスを調整しているという。
セッションはXR-4を導入した企業のケーススタディ紹介に移った。
ケーススタディ
そしてセッションは、現在テックプレビュー中のiPhoneアプリ「Varjo Teleport」の紹介へと進んだ。「Varjo Teleport」は、入力画像データからガウス分布を重ね合わせて3D映像を生成する、「3Dガウスシアン・スプラッティング(Gaussian splatting)」技術を応用した3Dスキャンアプリ。機械学習を併用することでモデル生成の簡易化と高速化を実現する。
そして話題はApple Vision Proにも及んだ。「Apple Vision Proがリリースされたのは、われわれとしても非常に喜ばしいことです。それはXRという非常に重要なテクノロジーがユーザーに浸透して、業界が前に進んでいくということを意味するからです。
ただし、われわれのXR-4とApple Vision Proは大きく異なります。XR-4はハードとソフトの両面からローレベルのシステムへのアクセスを提供しますし、ポリシーやエコシステムの制約はありません。導入した企業とわれわれが共同で最適化とカスタマイズを行い、企業のシステムと深く統合できるからです。また、特別なセキュリティ認証とセキュアなサプライチェーンを介して製品を提供できる点もXR-4ならではです」(デッカー氏)。
基調講演の締めくくりとしてデッカー氏はXR業界の未来について、Varjo社の数字をベースに予測。
「2022年は1.2億ユーロ(約209億円)の規模のところ、5年後の2027年には11億ユーロ(約1,919億円)まで成長するでしょう」と話す。グラフを用いた2027年予測には、「エンタープライズ向けMR」、「ワイヤレス統合システム」、「統合システム」の3つの分野が満遍なく成長する様子が描かれており、「これからも、この3つのセグメントにフォーカスしてテクノロジーを開発していきます」とデッカー氏は締めくくった。
最終セッション「In depth look to Varjo Base」――Varjo XR-4をコントロールする「Varjo Base」の全貌
セミナー最後のセッションは、Varjo社のシニア・ソフトウェア・エンジニアのサムリ・ヤースケライネン氏(Samuli Jaaskelainen)による「In depth look to Varjo Base」。Varjo XR-4をコントロールするソフトウェア「Varjo Base」の設定方法やパラメータの詳細な解説を中心としたセッションだ。(「In depth look to Varjo Base」セッションスライド)
セッションで紹介されたのは「Varjo Baseとは何か」、「最高の描画品質を実現するために」、「最高のMRを得るためのコンフィグ」、「XR-4 Focal Editionのセットアップ」、「空間オーディオの使用方法」、「トラッキングシステムの選択」といったテーマ。
「最高の描画品質を実現するために」では、XR SDKによってどのように解像度やフォービエイテッドレンダリング(中心窩レンダリング、ユーザーの注視部分を高解像度で、それ以外を低解像度で描画する手法)の設定が変化するか、どう設定すべきかについて、図表と共に解説。
「XR-4 Focal Editionのセットアップ」では、75Hzと90Hzで視野とエリアサイズがどう変わるかを紹介。「従来の90Hzに加えて新たに70Hzモードが追加されました。この70Hzモードを使うことで、視野が広がり、フォーカスしている部分のサイズが大きくなります」とヤースケライネン氏は話す。
セッションでは続いて、「デモについてのTips」、「Workspaceの設定」、「その他の高度な設定」、「トラブルシューティング」の解説に進み、締めくくられた。
オープニングスピーチとソリューション紹介セッション
オープニングスピーチ
本セミナーのオープニングスピーチには、XR/メタバース/VTuber専門メディアの「MoguraVR」編集長、久保田 瞬氏が登壇。XR業界全体を俯瞰した最新事情について話を展開した。
グローバルのXR市場は年々順調に推移しており、これからも伸びていくと推測。特に2000万台販売されたと言われるMeta Quest 2の功績は大きく、ユーザー数の増加に付随してニーズや使用方法が多様化、拡大しているという。ただし、普及率については予想を下回っている。2016年のある予測では、2020年までに50%の北米家庭にVRデバイスが普及するという予想だったが、2024年時点でもまだ20%程度に留まっているそうだ。エンタープライズ向けのXRデバイスについては、2016年頃から少しずつ企業が動き始め、2018年頃から現在まで、企業の採用事例が加速傾向にあるという。
久保田氏はXRの価値は「フィジカルな現実とバーチャルを融合すること」にあると捉え、そのゴールのひとつは「究極的な体験装置」だと話す。「これまでは、文字や言葉、写真、動画などを通じて、自分の体験の解像度を下げて伝えるのが人間のコミュニケーションでした。しかしXRを使うことで、体験そのものをデリバーできます」(久保田氏)。
ゴールはもうひとつあり、それは「空間インターフェイス革命」だと久保田氏。「Appleが動いたことで注目されている、XR空間内、3次元上でコンピューティングすることです。これまでのように、モニタやテレビ、スマホといった2次元の画面に縛られることのないインターフェイスへのアクセスが可能になってきています」。
最後に久保田氏は「いろんな製品が出るたびに、『もしかしたらこれはブレークスルーになるんじゃないか?』と期待値が膨らみやすいXR界隈ですが、実際はひとつひとつの技術の積み重ねで、少しずつ前に進んでいるのが正直なところです。ですから、ユーザーとしては『最新のものはどうなっているのか?』と体験するプロセスを繰り返すことで、これを使って何に取り組めるのか考える、そういった向き合い方が良いと思います」と述べ、スピーチは締めくくられた。
パートナー企業によるソリューション紹介
セミナーでは日本でVarjo XR-4を採用した企業3社によるソリューションも紹介。展示デモ会場におけるソリューションデモと併せて、XR-4運用の実際に触れることができる機会となった。
<フォーラムエイト:XR-4のアイトラッキング機能を交通標識の精度検証に活用>
フォーラムエイトでは、自動車に関連した都市計画や防災などに活用できるアプリケーションを販売。Varjo XR-4のアイトラッキング機能を活用してドライバーの視線情報データを収集する。
高速道路の標識設計を検討する際に、ドライバーがどんな標識を何秒見たかといったデータを集めたり、自動運転の車両が普及するとドライバーはどう感じるかを視線データから評価したり、国土交通省が公開しているPLATEAUのデータを使ったリアルな道路でドライブシミュレーションを行ったりといったものだ。
<NeU:脳波測定とXR-4によるアイトラッキングを並行して脳を研究>
東北大学と日立ハイテクの共同出資による脳科学カンパニーNeUは、脳科学を産業に応用するためのシステムやサービスを開発・提供する企業。Varjo XR-4からは視線データ、脳活動計測装置からは前頭前野の血流量を計測することにより、認知と脳の働きに関する情報がより良く集められる。
マーケティング的なアプローチとして、商品の陳列棚を模した360°映像を用意し、ユーザーが商品を手に取った際に視線がどのように動き、どこに注視するかを計測するソリューションなどを提供する。
<LP-RESEARCH:バーチャル空間内でのリアルタイムコラボレーションにXR-4を活用>
慣性計測ユニット(IMU)やVR/ARのトラッキングシステムを手がけるLP-RESEARCHは、IMUとVarjo XR-4を組み合わせたリアルタイムコラボレーション作業ソリューション「LPVR」シリーズを提供する。ユーザーたちは遠隔からバーチャル空間にアクセスし、同じビジュアルを共有しながらインタラクションを得ることができる。
LPVRシリーズには、位置情報ベースのVRトラッキング、車載用VR/ARトラッキング、ARのための車両ローカライゼーションなどがある。共同でカーデザインを行う用途のほか、VR展示会の実施、現実の自動車に乗車しながら仮想空間内でのドライブシミュレーションなども可能となる。
お問い合わせ
株式会社 エルザ ジャパン
法人:www.elsa-jp.co.jp/inquiry/bis/
個人:www.elsa-jp.co.jp/inquiry/user/
TEXT_kagaya(ハリんち)
PHOTO_川田 航平
EDIT_中川裕介(CGWORLD)