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TBSが主催を務めるアジア最大規模の短篇映画コンテスト「DigiCon6 ASIA Awards」が今年も開催された。26回目を迎えた今回は10月19日(土)にTBS赤坂BLITZスタジオにて授賞式が行われ、応募された1,393作品の中から最も優れたGrand Prizeには、村本 咲氏(日本)のアニメーション作品『パーキングエリアの夜』が選ばれた。本記事では授賞式の模様をレポートする。
アジアの若手クリエイターを支援する「DigiCon6 ASIA Awards」
「DigiCon6 ASIA Awards」はアジアの14地域から優れたコンテンツクリエイターを発掘することを目的として、TBSテレビが主催する映像フェスティバルだ。現在の若手クリエイターに作品のクオリティや魅力をアピールする場を提供し、受賞者や才能を感じさせるクリエイターには新規ビジネスや活動、海外コンテスト応募などに向けた可能性を探る支援を行なっているという。
15分以内の短編であれば、CGアニメーション(2D/3D)、ストップモーション/クレイアニメーション、実写映像などジャンルは問わず、応募資格もプロ/アマ不問で、アジア出身・在住のクリエイターか、アジアにおいて制作された作品を対象としている。
第26回ではイラン、インド、インドネシア、韓国、スリランカ、タイ、台湾、中国、日本、バングラデシュ、香港、マレーシア、モンゴル、ラオス(※50音順)のそれぞれの地域でDigiCon6 Regional Awardsが開催され、最優秀作品を選出。それらの中から「DigiCon6 ASIA Awards」の各賞が決定された。
授賞式では前半に日本の優秀作を選ぶ「DigiCon6 JAPAN Awards」の結果を公開した後、「DigiCon6 ASIA Awards」が発表された。その他にも国際アニメーション映画祭と日本のアニメーションの歴史についてのプレゼンテーションや、DigiCon6 ASIA公式キャラクター「メイルー&アンリー」の新企画の発表、INEI ART ACADEMY Atelierによるコンペの発表があった。
DigiCon6 JAPAN Awards:Youth Award
『学校おいでよ!』 ひがし 沙優
まずは18歳以下のYouth Award部門の3作品が発表された。
1作品目にはひがし 沙優氏の『学校おいでよ!』が選ばれた。撮影も編集もスマホで行われた今どきの作品だ。実際には誰とも会わずにつくった作品のため、リモートで撮影するときも細かいところまで演出を伝えて演技をしてもらったという。司会の上白石萌音氏も思わず「学校に行きたくなりました」とコメントしてしまうような楽しい作品となっている。
『PICTO』 蓬田悠太
2作目は蓬田悠太氏の『PICTO』が選出。フル3DCGでつくられたピクトグラムが動き出す冒険譚だ。2年連続受賞の蓬田さんは、CG制作で一番好きな作業はリグをつけてキャラクターを動かすところとカメラワークだという。「DigiCon6は初めて賞をもらえたコンテンストなので、再びここに立てて嬉しい」と喜びを語った。
『御簾山』 大友心晴
Youth Awardの最後は大友心晴氏の『御簾山』。審査員から「余白も含めて構成されている作品」と評価されたように、古典の世界を情緒豊かに描いた作品だ。音がないのが印象的だが、特に意図はしておらず、「学校の課題でつくった作品で、講評では音を入れた方が良いと言われた」という裏話も。
DigiCon6 JAPAN Awards:Special Jury Award(審査員特別賞)
『劇場版バナナの皮で滑って転ぶうさぎ』 長坂康平
続いてSpecial Jury Award(審査員特別賞)の4作品が発表された。
1作目は長坂康平氏の『劇場版バナナの皮で滑って転ぶうさぎ』。SNSで連載されていた作品がまとめられたもので、様々なシチュエーションで、うさぎがバナナの皮で滑って転ぶ姿がオムニバスで描かれている。うさぎがバナナで滑って転ぶアイデアについて監督の長坂氏は「深い意味はなくて、頭に浮かんだ面白いことをさらに面白くできないかと考えてテーマにしました」と説明。休止中のWebでの連載も再開する予定だとのことで、新作が期待される。
『ヨビとアマリ』比留間 未桜
2作品目には、比留間 未桜氏の『ヨビとアマリ』が選ばれた。比留間氏は過去に6回も応募しているという常連。最初の応募は17歳のときだったという。
「あっという間でした。でも、毎日つくっていたときを思い出すとそんなこともないのかなと思います。この作品は白紙のトランプという、トランプなのにトランプじゃない存在に親近感が湧いて、私がどうやって社会にコミットしていったらいいのかを考えてつくりました」とテーマを語った。
『神々来々』 武田 椿
武田 椿氏の『神々来々』は思春期の若者へのメッセージ性が強い作品で、審査員からはアニメーションだからこそできるストレートに伝わる表現と高い評価を得た。
武田氏は見た人の背中を押すような、人の応援になるような作品をつくりたいと考え、「学校で自分というものが摩耗していくことはありがちですが、大人になったら居場所が選べるようになるというところを中学生、高校生に見てほしい」と語った。
『私の横たわる内臓』 副島 しのぶ
副島 しのぶ氏は2019年にシルバーを受賞しており、今回で2度目の受賞となる。
『私の横たわる内臓』は、監督自身が「一度見るだけじゃわからない、難解なものをつくってしまったなと思っている」と語るように、一見では理解が難しい作品だ。しかし、審査員からは「二律背反の命に畏怖や敬愛する気持ちを感じて魂が震える問題作」と評されるような難解だが奥深い世界を表現している。
副島氏は、今後は人間中心社会の中で、自分が自分以外の生物、社会、環境とどうやったら繋がれるのか、身体を使って考えていきたいと抱負を述べた。
DigiCon6 JAPAN Awards:主要部門
Animation Best Story Award:『私は、私と、私が、私を、』 伊藤里菜
『私は、私と、私が、私を、』は、表立って語られない「美容整形」を題材に、自己の体験を基にしたドキュメンタリー作品だ。一風変わったタイトルに込められたのは、「自分が思っている自分のイメージと他者から見えるものはちがうことが多い。複数の自己が存在することから付けたタイトル」ということだった。
審査員からは、コンプレックスで暗くなりがちなテーマを、最後にあっけらかんと表現するような強さがあり、見ていて気持ちがいい作品と評価された。
Animation Best Character Award/Animation Best Art Award:『夜猫』 林 俊健
Animation Best Character AwardとAnimation Best Art Awardは林 俊健氏の『夜猫』がダブル受賞となった。不思議な世界の猫たちを主人公にした、豊かな色彩と躍動感あるアニメーションが印象的な作品だが、審査員からは背景美術や色彩などのアート要素のクオリティの高さと、猫たちのアニメーションの圧倒的な動きと生命感がリンクした表情が高く評価されての受賞となった。
監督の林氏は、制作で大切にしているのは美術の美しさとキャラクターの感情を出すことだといい、まさしく2つの賞にぴったりの作品と言える。また、キャラクターを猫にしたのは猫が好きで、特に猫の液体のような特性を活かして、水の表現を考えついたからだという。
GOLD Award:『パーキングエリアの夜』村本 咲
DigiCon6 JAPAN AwardsのGOLD Awardには村本 咲氏の『パーキングエリアの夜』が選出された。深夜のパーキングエリアでの日常を、ユーモアを交えて淡々と描いている作品だ。メッセージが強くなりがちなショートムービーの中で、起承転結のない物語を11分も飽きさせることなく、観客が思わず「あるある」と言ってしまうようなキャラクターたちの愛らしい営みを描いて笑いに昇華したことが評価された。
監督は舞台にパーキングを選んだ理由を「旅よりも道中が好きで、特に名古屋から東京へ向かう深夜バスのパーキングが好きでした」と語り、キャラクターの「あるある」な行動も実体験からのものだという。
DigiCon6 ASIA Awards:受賞作品
Special Jury Award(審査員特別賞):『BATTERY MOMMY』Seungbae Jeon
続いて、後半はDigiCon6 ASIA Awardsの各賞が発表された。
Special Jury Award(審査員特別賞)には2作が選ばれ、1つめは韓国・Seungbae Jeon氏の『BATTERY MOMMY』が紹介された。フェルト人形を使ったストップモーションアニメで、優しい雰囲気の作品だ。ほのぼのとした中にも、ドキドキするアクションがありエンターテイメント性が高く評価された。
司会の上白石氏も「思わず触りたくなるキャラクター」と感想を話した。Jeon氏は制作に18ヶ月もかかって大変だったという苦労に加え、特に見てくれる人に温かいメッセージをどうやって届けるかを深く考えたとのことだ。
Special Jury Award:『playground』Fazlollahasadi Samaneh
2つ目の『playground』はイランのFazlollahasadi Samaneh氏が受賞した。子どもの臓器移植をテーマにした、社会問題を正面から捉えた作品だ。映像は重いテーマを淡々とした美しいイメージで表現しており、実写ではできないアニメーションならではの表現が評価された。
Samaneh氏は、題材にしづらいテーマで、特に子どもが主役なので難しいとも思っていたが、講評を聞いて観客に伝わっていたので安心したという。「臓器を差し上げるのは、特に子どもの場合は大変な問題があります。子どもだけではなく、大人でも一歩を踏み出すこと、勇気を出して人の命を助けること。簡単に言うと、思いやり」とテーマを説明した。
Best Live Action Award:『Kaanam』 Harsha Perera
Best Live Action AwardはスリランカのHarsha Perera氏の『Kaanam』が選ばれた。 盲目となってしまったカメラマンが、親切な女性と知り合うことを通して再び写真を撮るようになるが、最後は女性に自分の気持ちを告げずに別れていく話だ。
監督のPerera氏が25才という若さで重厚なテーマを選んだきっかけは、姉が息子を亡くしたことだったという。演技では視力を失うということを正確に描きたかったとのことだ。
Animation Best Story Award:『Wind Goes On』Lee Ka Yin(Morph Workshop.)
Animation Best Story Awardは Lee Ka Yin氏(Morph Workshop.)の『Wind Goes On』が受賞した。開発が進む香港の公営住宅での少女たちの別れを描いた、郷愁を誘うノスタルジックな作品だ。
題材を思いついたのは、香港の公営住宅にトンビが住みついているというドキュメンタリーを見たことだった。香港では当たり前のことが、他国の人からみてユニークに見えるのが面白いと思ったからだという。
Yin氏は「世界中で、故郷から離れないといけない人がいます。そのときの気持ち、子どもの頃の郷愁、思い出を忘れないでという気持ちでつくりました」と話した。
Animation Best Art Award:『夜猫(NIGHT OWL)』 林 俊健
Animation Best Art AwardはDigiCon6 JAPANに続いて林 俊健氏の『夜猫』が受賞した。DigiCon6 JAPANのAnimation Best Character Awardと合わせると3冠となる快挙だ。
先ほどの授賞式と同様、審査員から物語とキャラクターが鮮やかな色彩とリンクしながら展開していく、アニメならではのエンタメ感が素晴らしいと絶賛。次回作が楽しみと期待された。改めて林氏は「先生と友人のおかげで作品を完成できてよかったです。次の作品もがんばります」と次作への意気込みを語った。
Grand Prize:『パーキングエリアの夜』 村本 咲
最後に、栄えあるDigiCon6 ASIAのGrand Prizeを受賞したのは、こちらもDigiCon6 JAPANに引き続き、村本 咲氏の『パーキングエリアの夜』。
2冠となった村本氏は壇上に再び上がると「びっくりしています。1年前はモグラのように引きこもってつくっていたので、2つも賞をいただけるなんて嬉しいです。つくってよかった」と喜びを語り、感謝を伝えたい人という質問には、パーキングエリアでの録音に付き合ってくれた両親を挙げた。
次回作については「まだ何も考えていなくて。ひとつつくるのにすごく消耗してしまうので、温めている感じです」と、まだ決まっていないようだが、次回作への期待は高まる。
今回の授賞式は今までと少し趣向が変わり、前半と後半の間に世界のアニメーション映画祭と日本の関わりについてのコーナーや、公式キャラクター「メイルー&アンリー」の新企画の発表とコンペがあり、授賞式以外のコンテンツも盛りだくさんだった。
イベントの最後、「メイルー&アンリー」のデザインを手がけた見里朝希氏は「私が最後に参加したのが2018年だったので、かなり懐かしい気持ちです。最近、商業作品に関わっているのですが、また個人制作をやりたくなりました」とふり返った。
また、DigiCon6に応募する意味について「クリエイター同士の交流や、 プロの審査員の方が作品を見てくださる。そういうことをやったおかげで今の仕事があって、監督になっている。映画祭に応募しなかったら『PUI PUI モルカー』も生まれなかった」と語った。
自身が生み出した「メイルー&アンリー」に関しては、「はじめは映画祭のPR用として制作したものが、ここまで広がるとは。参加してくれるクリエイターを通してメイルー&アンリーが共に成長するキャラクターになってほしい」と期待を語ってくれた。
この授賞式の様子は、受賞作品のダイジェスト映像とともに、U-NEXTで配信中だ。興味のある方はぜひ観てみてほしい。
TEXT_石井勇夫 / Isao Ishii(ねぎデ)
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)