毎年、さすがのハイクオリティさで話題をあつめている白組の年賀ムービー。今年の題材は、寿司! そしてシリーズで初めて実写合成作品となった。

ムービーの後半は、ブレイクダウンで構成されているため、「シャリもCGだったのか!?」などと驚かれた方も多いはず。

1月下旬になってしまったが、今年の年賀ムービー制作を担当した白組スタッフへのインタビューが実現したのでここにお届けしよう。

記事の目次

    干支シリーズを経て、2024年から食べ物シリーズが展開中

    今回インタビューに応じてくれた白組スタッフによると、年賀ムービーが始まったのは2010年頃だという。元々は、公式サイトや年賀状用のイラストとしてオリジナルアートの制作が行われていたものから発展して、CGアニメーションを制作するようになったそうだ。

    最初は干支を題材にしていたが12年が経って1周したため、2024年から食べ物シリーズがスタート。

    食べ物を選んだ理由は、難易度の高さ。美味しそうなシズル感を出すのはCGの中でも難しい、そしてリアリティのある画づくりを追求している白組ならではの表現ということで「食べ物」に決めたというのは、さすがである。

    白組の公式サイト(WORKS)からも視聴可能

    ここからはQ&A形式でお届けする。

    ※株式会社白組の意向により、年賀ムービーの制作に関してはスタッフの個人名は伏せています。

    ——まずは、制作に携わったスタッフ数・編成(役割)を教えてください。
    白組:3DCGとコンポジット、そして寿司職人を演じた者、撮影・録音・カラーグレーディングを担当した者、そしてモデリング担当の3名で制作しました。

    ——制作期間を教えてください。
    白組:期間としては1ヶ月ほど費やしましたが、仕事のすきま時間で作業を行なったので実質10日ほどです。

    ——去年までの年賀ムービーはフルCGアニメーションだったと思うのですが、実写合成ものは今回が初めてですか?
    白組:年賀ムービーとしては初ですね。これまではフルCGで作っていたことを受けて、今回は企画当初からVFXの基本である実写合成を用いることを決めていました。
    実写合成の中でも、手で触れるものをCGに差し替えるのは難易度が高いので、握り寿司もあえてCGで表現することにしました。

    2024年の年賀ムービー(Vimeoにて視聴可能)。食べ物シリーズの第1弾として、天ぷらが選ばれた

    ——年賀ムービーの後半が、種明かしのブレイクダウンになっていたことも新鮮でした。
    白組:食べ物シリーズでは、オチとしてメイキングも入れています。「あれはCGだったの?」「逆に、そこは実写だったのか!」などと、VFXの面白さを多くの人に楽しんでもらえたら嬉しいです。

    ——ブレイクダウンなしだと、全て実写だと思う人もいるかもしれませんしね。実写撮影はどのように行いましたか?
    白組:社内で撮影、ライティング、録音まで、全てを行いました。香盤などは特になく、仕事の空き時間にその場にある機材を使って、ノリと勢いで撮影しました。

    寿司を置いているつけ皿は、百均で300円で売っていたものです。撮影時のガイド用の寿司も、百均の緑の粘土を寿司の形にこねて作りました。

    撮影風景(その1)。その場にある機材と道具を使って、一連の撮影が行われた。桶は緑色のヨガマットの上に置いて撮影
    撮影の様子(その2)。演者が手に持つ寿司は、緑色の粘土で造形したものを使用

    ——実写素材の内訳を教えてください。
    白組:寿司職人、手前のお客さん、桶・お皿が実写です。それ以外は全てCGで制作しています。

    ——制作で特にこだわったポイントを教えてください。
    白組:やはりマグロの表現には、一番こだわりました。美味しそうに見えるように、SSS(サブサーフェイス・スキャタリング)感、やわらかさ、プルプル感は特に意識しました。

    ちなみにマグロの色は赤黒い方が粋な店感があるので、当初はもっとずっしりとした赤色でした。ですが、新年の年賀ムービーということで、あえて清潔感を優先した明るい色味に仕上げました。

    マグロの作業UI。Blenderを用いて、こだわりの質感が作り込まれた

    ——確かに観ていて、高そうだと思いました(笑)
    白組:ちなみにエッジを緩めると牛肉っぽく見えてしまうので、エッジを立たせるのが魚っぽく見せるコツです。刺身は四角いものを柵切りするから角が立つんです。
    ネタの動きも高級店を意識して、ただシャリにネタが乗っているのではなく、空気を含んだシャリをネタがやわらかく包みこんで沈むアニメーションを付けました。

    マグロにディテールを足している作業UI。複数のモディファイアを重ねて、表面の凹凸感を出している。寿司の形状も、寿司ではなく「鮨」を。高級店で出される細めでシャープでカッコいいフォルムを追求した

    ——高級店の「鮨」を意識されたのですね。
    白組:はい。ほかにも、実際に使われている寿司職人の道具や、銀座の名店の店先や内装をオマージュしてデザインに取り入れました。日本酒のお猪口も、高級店でよく出てくる片口にしています。

    Blenderで作られた板場アセットの一部。実際に高級店で使われている道具を再現
    3DCGワークにはMayaも使用。冒頭の店先カットは、モデリングからレンダリングまでMayaで行われた
    店内カットは、背景の棚や壁のみMayaでモデリング&レンダリング。手前のカウンターは、Blenderでモデリング&レンダリング。担当者の得意なソフトで作業が行われている

    ——日本酒の隣にあるシャンパンもリアルでした。あれもCGなんですよね?
    白組:はい、シャンパンもCGです。最初は、日本酒だけで作っていたのですが、画に動きがほしいと思い、シャンパンも入れることになりました。パーティクルで泡を作り、寿司職人も屈折で入れてます。

    ——確かにシャンパンのグラスの中に職人が映り込んでいますね(笑)。ほかにもCGと実写の馴染みでこだわったところはありますか?
    白組:背景がほぼCGなので、コンポジット作業では実写が浮かないように注意しました。レンズのボケが自然になるようバランスを細かく調整。実写の寿司職人の影をCG側に落とすなど、CGと実写、相互の影響には気をつけました。

    馴染みとは少し異なりますが、シャリのSSS感やマグロの色や艶、実写の皿にCGでリフレクションを足して、よりリッチな画になるようにコンポジットワークを行いました。

    ——サウンドデザインやカラーグレーディングも社内で行われたそうですね。
    白組:音は、実際に寿司を握ったり、食べたりして集音しました。こじんまりした部屋の空気感を音からも感じられるように、エフェクトでリバーブをかけるのではなく、実際の部屋の空間の反響音をそのまま使っています。

    カラーグレーディングについては、タングステン系のオレンジ一色にならないよう、いかに青い場所を作るかを意識しました。服や黒いところに青を入れて全体のトーンバランスを調整しています。

    カラーグレーディングは、DaVinci Resolveで行われた

    ——白組スタッフさんにとって、年賀ムービー企画はどのような存在ですか? 若手の登竜門とか?
    白組:「白組ができる最高のCG芸を見せる」というのが、最初からの企画趣旨です。

    普段はクライアントがいたり、別に監督がいたりしますが、白組オリジナルのプロダクトとして年賀ムービーを作ることにしています。その意味では、若手とかベテランとかは関係なく、有志が集って楽しみながら作り込んでいます。

    ——最後に、公開後の反響を教えてください。
    白組:CGに見えなかった!」「わからなかった、騙された!」といった感想が多くて、よっしゃーと思いました。

    ——ありがとうございました。今後のご活躍も楽しみにしています!

    TEXT_NUMAKURA Arihito