2020年に始動した電音部は、バンダイナムコエンターテインメント(以下、BNE)が展開する音楽原作キャラクタープロジェクトだ。本作の数あるエリアのひとつである、シンサイバシエリアによる、リアルタイムキャラクターライブの舞台裏を2回に分けてお届けする。
デジタルの体験と、現地の体験の両方を大事にしたい
2025年1月現在、電音部には12のエリアがあり、BNEが展開するエリアと、パートナー企業が独自に展開するエリアの2種類で構成されている。本記事で取り上げるシンサイバシエリアは、電音部の始動時に5エリア15体の3Dキャラクターモデル開発を担ったILCAと、その関連会社で多くのアイドルを輩出してきたディアステージが手を組んで展開している。
「2022年の末頃に統括プロデューサーの子川拓哉さんから "エリアをひとつ起ち上げませんか?" とお声がけいただき、"ぜひ!" とお答えし、福嶋麻衣子さんと一緒にプロデュースすることになりました。2023年7月28日に活動を開始し、10月29日に大阪のアメリカ村で生身のアーティスト(OKINI☆PARTY'S)による1st LIVEを行いました。チケットは発売開始15分で完売したので、お客さんの熱量は当初から高かったです」とプロデューサーの西野恭平氏はふり返った。2024年2月3日には3Dキャラクターによるリアルタイムライブ配信も成功させ、生身のアーティストとキャラクターを組み合わせた多次元プロジェクトとして挑戦的な展開を続けている。
シンサイバシエリアのアーティストはインターネット上での顔出しを一切やらないため、現地に足を運ばなければ顔を見られないという制約が、生ライブの価値を高めているという。「ライブの配信技術や視聴環境は今後さらに発展するでしょうが、それが進むほど、現地で生ライブを体験する価値も高まっていくと思います。2010年のILCA設立以来、当社はデジタルコンテンツをつくり続けてきました。だからこそ、デジタルの体験と、現地の体験の両方を大事にしたいという思いが強いです」(西野氏)。
3Dキャラクターによるライブの制作は2024年に新設されたILCA LabのX team(クロスチーム)が担っており、自社製リアルタイムトラッキングシステムのVINUSSをはじめ、様々な技術を開発している。以降ではシンサイバシエリアを事例に、その詳細を紐解いていく。
VINUSS(Virtual Idol Nurturing Universal Support System)
ILCA Lab X teamが開発した自社製リアルタイムトラッキングシステム。UnityとOptiTrackに対応しており、電音部シンサイバシエリアをはじめ、様々なコンテンツ制作で活用している。
手戻りのない分業により、約4ヶ月で3体のモデルを制作
X teamはプロデュース、企画、デザイン、プログラム、スタジオからなる5つのグループで構成されており、シンサイバシエリアを含む、様々なXRやライブ関連のプロジェクトを並行して手がけている。「シンサイバシエリアに関しては、キャラクターデザインからストーリーやライブの内容まで一任されているので、自由にやらせてもらっています。BNEさんは、それを楽しみながら見守ってくださっている感じです」(西野氏)。
キャラクターデザインにあたってはILCAで社内コンペが行われ、X team以外に所属する人も含む7人の2Dアーティストから、多彩なデザインが提案された。「素晴らしいアイデアが集まったので、その中からイメージに合う要素を抽出して組み合わせ、さらに大阪らしいド派手で楽しい要素も追加し、現在のデザインへと仕上げてもらいました。三面図をつくる前にキャラクターモデルディレクターの田澤(太陽氏)に確認は依頼しましたが、3D化を考慮してデザインに制約を設けることはしませんでした。西野も私も、"百戦錬磨の田澤なら、なんとかしてくれるだろう" と思っていたんです(笑)」と演出ディレクターで、アーティストの統括も担っているよしずみ氏は語った。
ILCAの社内コンペを経て決定した、キャラクターのデザイン画
電音部の始動時にILCAが手がけた15体の3Dモデルは、BNEから提供されたリファレンスモデルのミライ小町に倣ってつくられている。一方でシンサイバシエリアの3人の3DモデルはILCA独自のつくり方をしており、田澤氏のディレクションの下で、加部 亜紗美氏(キャラクターモデラー/2Dアート)と、ILCA VIETNAMというベトナムの関連会社のスタッフが分業しながら進めていった。「本格的な作業開始は8月で、約4ヶ月で3体を仕上げてほしいという話だったので、分業することにしました。頭部と髪は加部、衣装のつくり込みはILCA VIETNAMが担当し、統合と最終調整は私が担っています。メインツールはMayaとUnityで、Substance 3D PainterとDesigner、Photoshopも使いました」(田澤氏)。
分業に際しては、最初に田澤氏が素体、および衣装のブロックモデル(粗いモデル)をつくり、パーツの分け方なども示した上でILCA VIETNAMに引き継ぐことで、手戻りを防いだ。加部氏がモデリングをする際には、三面図を忠実に再現するのではなく、デザイン画の印象は確実に継承しつつ、より可愛く見せるためのバランス調整を行なっている。「2Dのイラストをそのまま再現しても3Dで見た場合に可愛く見えるわけではないので、自分なりのアレンジを加えています」(加部氏)。統合後の最終調整で最も難航したのは揺れものだったが、リハーサル時のダンスモーションなどを使ってテストと調整を重ねることで、破綻を解消していった。
ILCA VIETNAMも協力したモデリングと、その後のリギング
lilToonを使い、イラスト調のルックを表現
ブレンドシェイプによる、感情豊かで可愛い表情
タコをモチーフにした、ド派手で楽しいステージモデル
No.2は、1月24日(金)に公開します。INFORMATION
月刊『CGWORLD +digitalvideo』vol.315(2024年11月号)
特集:デジタルハリウッドの30年
定価:1,540円(税込)
判型:A4ワイド
総ページ数:112
発売日:2024年10月10日
TEXT&EDIT_尾形美幸/Miyuki Ogata(CGWORLD)
文字起こし_大上陽一郎/Yoichiro Oue
PHOTO_弘田 充/Mitsuru Hirota