最大40人対戦&クロスプレイ対応アクションレースゲーム『Faaast Penguin』。開発を手がけたヒストリアに、同社初となる自社パブリッシング作品である本作のメイキングについて聞いた。

記事の目次

    ※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 318(2025年2月号)からの転載となります。

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    最大40体のペンギンが同時にレースするUE専門集団ヒストリア初の大型タイトル『Faaast Penguin』(1)キャラクター&エフェクト篇

    Point 1:コミカルでオーバーなモーション制作

    スクワッシュ&ストレッチを意識、独自リグでスケールも自由自在

    モーションの方向性は「わかりやすく、オーバーな動き」。レースゲームである関係上、コースの先を見通すためにカメラは引きのアングルが多く、個別のキャラクターの小さな動きが見えづらい。これに加えて画面内に収まるキャラクターが最大40体と多いことから、なるべく目立つモーションを制作する必要があった。

    このとき意識されたのは、海外アニメのようなスクワッシュ&ストレッチ表現だ。弾力感のあるモデル変形を実現するため、独自のリグによって体の部位全てにスケールがかけられるように設計。お腹を縮めたり腕を大きくしたりくちばしを伸ばしたりといった変形を行い、アニメーターがコミカルなポーズを作成していく。

    『Faaast Penguin』
    発売・開発:ヒストリア
    リリース:配信中
    価格:基本プレイ無料
    Platform:PS5、Xbox Series X/S、Nintendo Switch、Steam、Epic Games
    ジャンル:サバイバルアクションレースゲーム
    faaast-penguin.com/ja
    ©historia Inc.

    アニメーションはポーズを作成後にUE5側のブレンドで対応。例えばジャンプモーションでは、ジャンプ時に全体が縦に長く引き伸ばされるようにメッシュを引き伸ばすことで初速の勢いの良さを表現し、着地の際は全体が大きくつぶれた形状でかがむようになっている。

    他にもスペシャルライドは手前に向かって大きめにポーズをとったり、被ダメージ時には大きくねじれたモデルになったりと、要所で大胆なモデルの変形が行われている。

    写真左から 佐々木 瞬氏、千葉広大氏
    以上 ヒストリア

    ペンギンの素体は1種類で、お腹部分とヒレの部分に補助骨が入っているのが特徴だ。歩行などの際にぽよぽよした「お腹の揺れ」が再現できるよう、この補助骨を用いて手付けでアニメーションを作成している。ほかの揺れものはChaos RBAN(Rigid Body Animation Node)を使用しており、いずれもUE5上で制御できるため自由度が高い。スキンによってはコリジョンが密集する部分もあるため、その際はコリジョン同士の干渉をOFFにして対応した。

    エモートを除いた基本モーションは、レース中の滑走やスペシャルライドの発動、ジャンプ開始と滞空、着地などを個別にカウントすると45種類。フェイシャルはモーフターゲットで“マル” や“バツ”、糸目など目の形状を制御し、口角の上げ下げによって表情を作成。表情はブレンド時に破綻がないよう1フレームで変化する仕様となっている。

    自由度の高いリグ

    • ▲ペンギンの素体。フェイシャルやトサカの揺れなどを表現する顔周辺のボーンと、お腹の揺れを表現する補助骨を除いて、比較的シンプルな構造
    • ▲「魔女のハロウィンドレス」ボーン構造。帽子があるため頭頂部は間引かれている
    • ▲「三角コーン」は特徴的な見た目をしているが、ボーン構造やアニメーションは共通。エモートはそれぞれユニークで制作しているものの、スキンに応じた調整は行なっていない。特定のエモートでは手がないのにプロップを持てることから「念力が使える」とファンの間で人気
    • ▲「亡者の眠り」では揺れ動く手の骨に対してボーンが割り当てられている
    • ▲引き伸ばす前のデフォルト状態
    • ▲ヒレやお腹にスケールをかけて引き伸ばした状態

    スクワッシュ&ストレッチを意識したモーション

    アニメーションにはスクワッシュ&ストレッチが意識されており、オーバーでコミカルな表現のためペンギン自体が大きく変形する。

    • ▲ジャンプ開始。全体的にストレッチしており、縦に伸びている
    • ▲ジャンプが終了し、着地した際のポーズ。弾力があるように潰れており、スクワッシュが意識されている

    Chaos RBANによる揺れもの設定

    揺れものはChaos RBANによるシミュレーションで再現。

    • ▲スケルトンツリーでカプセル形状を追加し、ペンギン頭部【画像】や……
    • ▲各スキンの服飾部【画像】に対してシミュレーションを行なっている

    ペンギンの表情を豊かに見せる

    表情はモーフターゲットで設定。

    • ▲口角の上げ下げは……
    • ▲左右それぞれ変更可能
    ▲口角と同様に、目の形状も片目ずつ設定可能
    ▲リザルト画面でペンギンが寝ているときのモーション。口角を上げ、目を「糸目」にした状態

    Point 2:個性豊かなリゾート地を駆けるコース制作

    Houdiniを活用して効率的にステージを制作

    本作には「ハワイトロピカル」「スカイフライ」「パラオブランチ」「エジプトサンド」の4ワールドが存在し、それぞれのワールドに対して4つずつコースが制作されている。リリース時点で実装されていたのは合計16コースで、シーズン3時点では「イタリアクランチ」など3つのワールドが追加され合計12コースが新たに登場している。

    制作フローとしては、最初に企画側でモチーフとなる地域を決定し、その後ハワイであればモアナルア・ガーデンの「モンキーポッド」などアートに入れ込みたい要素を抽出。これを受けて、アート班がモチーフやギミックを組み込んだ2Dのコンセプトアートを制作する。この間、レベルデザイナー側が同時並行でコース制作を進め、ある程度固まった段階で3DアーティストがUE5上でエンバイロンメントのつくり込みを行うながれとなる。

    本作のコース制作では、Houdini EngineおよびHoudiniがヒストリアのゲーム開発で初めて導入された。これにより、レベルデザインの時点で、グレーボックスではなく完成に近い見た目を確認しながらの制作が可能になっている。

    手法は2種類あり、ひとつはUE5で引いたスプラインに対して、Houdini Engineでスプラインに沿ってコースのメッシュを自動生成するというもの。あらかじめ通路コースの始点、中間、終点のパーツモデルをモデラーが制作し、「氷」「砂」といったデータテーブルに登録することで、実際の見た目と遊び心地のままイテレーションを回すことができる。

    もうひとつは、UE5のランドスケープで作成した地形をレベルデザイナーが指定したスプラインに沿って切り取り、Houdiniでメッシュ化する方法だ。ランドスケープはレベルデザイナーでも扱いやすい機能である上、3Dモデルを組み合わせてコースを作成した場合はコリジョン的な引っかかりをケアする必要があるため、作業効率を見ても有用なワークフローとなった。

    マテリアルは、UE5のマスターマテリアルで汎用的に制作されているが、各コースに存在する「うずしお」や「ビッグウェーブ」など、そのコースの印象を決定づけるユニークなオブジェクトに対しては千葉氏によって個別にマテリアルが設定されている。

    スプラインからのコース生成

    シンプルな形状のコースはUE5のスプライン機能を用いて制作。UE5のスプラインメッシュ機能でも規定のモデルに基づいてコースを曲げたり伸ばしたりすることはできるが、太さを一部変えたり局所的に穴を開けたりすることが難しいため、結果的にUE5のスプライン機能を基にしたプロシージャルなメッシュ生成をHoudini側で行うかたちになった。

    ▲スプラインを用いて生成されたコースの一例
    ▲コースの幅や厚みなどのパラメータはHoudini Engineの機能でUE5側から制御できる。ただし設定が細かいため、レベルデザイナーが使いやすいようパラメータをラップするためのユーティリティを自作して対応した
    • ▲メッシュを生成するためには、始点、中央、終点の3つのモデルが必要。これはアーティストがMayaで制作し、データテーブルに登録している
    • ▲UE5で設定したスプラインに沿って生成されたメッシュ

    ランドスケープの地形をHoudiniでメッシュ化

    コース制作でランドスケープが用いられているのも本作の特徴。Mayaで細かくパーツを制作し、組み合わせて広いマップを作成することもできるが、その場合はパーツの境目でコリジョンが干渉したり(本作は“滑り降りる”ゲームのため、滑らかさが重要)、レベルデザインの変更のためにアーティストが作業する必要があったりするため効率が悪い。そこで、レベルデザイナーが独自にコースを制作できるよう、UE5標準機能として使いやすいランドスケープが用いられた。

    ▲ランドスケープ機能によって制作された地形をメッシュ化するために、範囲を設定する。お菓子の型抜きのようなかたちで、くり抜く範囲をレベルデザイナーがスプラインで設定
    • ▲Houdini側で生成されたメッシュ。表面はランドスケープ通りで、厚みはランドスケープの高さ情報から取得して自動生成
    • ▲ランドスケープをメッシュ化し、レベル上へ配置。この時点で滑り心地は確定しているため、すぐにアーティストがエンバイロンメント作業に入ることができる

    背景マテリアルの設定

    本作は、各コースに必ず1つはユニークなランドマークが存在する。こうしたランドマークは、基本的にはMayaでモデリングし、UE5側でマテリアルを設定している。

    • ▲ハワイトロピカルの「巨大うずしお」は、中心に吸い込まれるように進行するコース
    • ▲うずしおのマテリアル。穴の中心部に近づくほど白い飛沫が発生する仕様となっており、水流を表現するためのUVモデルもユニークで制作されている。また、水の反射は照り返しが強すぎると視認性が低下するため、アーティストがキューブマップを調整するかたちで擬似的に再現している
    • ▲同じくハワイトロピカルに登場する「氷のビッグウェーブ」。ハワイと言えば波乗りということで、大波がそのまま凍ったようなモデルを制作した
    • ▲マテリアルでは擬似的な反射や透過を入れており、フチの部分が白くなる霜表現も入れ込んでいる。こうした特殊なマテリアルは千葉氏が制作することが多いという

    2種類のLOD

    LODは最大7段階で、レースゲームとしての性質上コースの先まで見通す必要があることから細かく設定されている。基本的にはUE5で自動生成を行なっているが、葉っぱが重なる部分などマスクが必要な場合は手作業でLODを作成した。

    • ▲UE5による自動LOD
    • ▲手作業で制作した葉っぱのLOD

    VATで表現するモブペンギン

    ステージの装飾に使われている遠景のモブペンギン。処理負荷軽減のため、アニメーションはVATで制御されている。

    モブペンギンの一例。この他にも様々なバリエーションが存在する
    ▲VATのマテリアル設定
    ▲アニメーション情報が格納されたテクスチャ

    CGWORLD 2025年2月号 vol.318

    特集:株式会社萌と『株式会社マジルミエ』
    判型:A4ワイド
    総ページ数:112
    発売日:2025年1月10日
    価格:1,540 円(税込)

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    TEXT_神山大輝(NINE GATES STUDIO)
    EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada