最大40人対戦&クロスプレイ対応アクションレースゲーム『Faaast Penguin』。開発を手がけたヒストリアに、同社初となる自社パブリッシング作品である本作のメイキングについて聞いた。

記事の目次

    ※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 318(2025年2月号)からの転載となります。

    グローバル展開を見据え計算されたアートスタイル

    シュールで可愛いペンギンがリゾート地を舞台にレースをくり広げる、最大40人対戦のサバイバルアクションレースゲーム『Faaast Penguin』。本作を開発したヒストリアは『Caligula2』(2021)、『ライブアライブ』(2022)などのコンシューマタイトル開発を行う“Unreal Engine専門” のゲーム会社だ。

    『Faaast Penguin』
    発売・開発:ヒストリア
    リリース:配信中
    価格:基本プレイ無料
    Platform:PS5、Xbox Series X/S、Nintendo Switch、Steam、Epic Games
    ジャンル:サバイバルアクションレースゲーム
    faaast-penguin.com/ja
    ©historia Inc.

    開発環境はUE5で、DCCツールとしてMayaSubstance 3D PainterSubstance 3D DesignerHoudiniを活用。開発当初から「多人数でカジュアルに遊べる、ペンギンが滑るレースゲーム」というコンセプトが一貫しており、アートの方向性も“楽しさと気持ち良さ” がダイレクトに伝わるビジュアルが目指された。

    写真左から 佐々木 瞬氏、千葉広大氏(以上、ヒストリア)

    コンセプトキーワードは「陽気、爽やか、パーティ感」。これと同時に、グローバル展開を想定したデザインのわかりやすさも求められていたため、子ども向けのデフォルメ調ではないリッチな質感表現も追求されている。

    ゲームの舞台となるのは「ハワイトロピカル」「エジプトサンド」など世界各国のリゾート地を模した4つのワールドだ。当初はリゾート要素はなく、ステージ上に大きなフルーツなどを配置するなどして楽しげな雰囲気を演出していたが、アートディレクター千葉広大氏がプロジェクトに合流したタイミングで方針を転換。

    実在するリゾート地をテーマにすることで「行くだけで楽しい、帰ってきたくなるゲーム」というポジティブな感情をユーザーに与えると同時に、今後増えていくコースのバリエーションも出しやすくなったため、各ワールドをペンギンが旅行するという世界観でまとまる方向となった。

    では具体的なコンセプトメイキングの過程や、Houdiniを活用したコースの制作手法について解説していこう。

    Point 1:幅広いユーザー層を意識したコンセプト設計

    ペンギンがリゾート地を旅するコンセプトに至るプロセス

    なぜ操作キャラクターがペンギンなのか? この理由のひとつとして、プロデューサーを務めるヒストリア代表・佐々木 瞬氏は「感情が読めないから」と説明。ペンギンは表情が読みにくく、何を考えているかわからないため、多人数マルチプレイゲームにおいて問題になりやすい“悪意をもってエモートを使う行為” が発生しにくいとのこと。本作は誰でも気軽に、気持ち良く遊べるマルチプレイゲームとしての立ち位置が目指されており、プレイヤー間のコミュニケーションもストレスフリーになるよう工夫されている。

    ただし、「カワイイ」に寄せすぎるとプレイヤー層を限定してしまうため、本作では“キュート” ではなく“ファニー” な方向性のペンギンが模索されることに。現実のペンギンの特徴をデザインに落とし込みながら、できるだけシュールで陽気な見た目になるよう調整がくり返された。

    一方のリゾート地については、当初はハワイやエジプトといった実在の土地ではなく、「南国」「砂漠」などの汎用的なキーワードを掲げて制作されていた。しかし、砂漠ワールドの制作中、アメリカの砂漠やエジプトの砂漠がモチーフとして混ざりあい、リアリティがなくなってしまい「旅行に来た」実感が伴わない結果に。

    コンセプトとの乖離を危惧した開発チームは旅行雑誌などを読み漁り、最終的に「見た目のそれらしさだけでなく、食べ物などの文化が反映されて初めて“異国のリゾート” として成立する」と判断。

    これによって砂漠は「エジプトサンド」、南国は「ハワイトロピカル」、ジャングルは「パラオブランチ」など、実在する地域との紐づけが行われている。唯一オリジナルとして制作された「スカイフライ」は、文字通り空を飛ぶ飛行機をモチーフとしたワールドで、金網など金属系の要素も採り入れられた。

    こうした地域やテーマの選定はプランナーが行い、アーティスト側は2Dコンセプトアートで具体化。例えばパラオであれば山岳地帯と森林では大きく様相が異なるため、2Dアートの段階で詳細な地域とルックの全体像を固めていく。そこから必要アセットの洗い出しとポリゴン数などを決めたのち、モデリング作業がスタートする。

    キャラクターのデザイン・ルックの模索

    ペンギンおよびアザラシのデザイン変遷。

    ▲初期のペンギン。ややイワトビペンギンに寄っている
    • ▲千葉氏が合流した後、本作の特徴でもあるビビットなアウトラインが模索された。この時期はモコモコなペンギンや、つやつやした羽の質感も試されている
    • ▲コース上にはアタックで踏み台にできるアザラシ(ステージギミック)がいる。「視認性がいい」というゲーム的な理由でピンク色になっており、全体的に可愛らしいデザインが検討された
    • ▲初期のアザラシ3Dモデル
    • ▲「可愛いとアタックで踏み台にしづらい」という意見が続出。最終的にサングラスをかけることで悪者感を出し、アタックしても罪悪感が沸かないようなデザインに変更された

    ステージの方向性

    本作には4ワールドが存在し、それぞれ4コースずつ、合計16コースがプレイアブルとなっている(運営開始時点。現在は「イタリアクラインチ」など別コースも存在する)。

    • ▲特定の地域をモチーフにしていなかった時期の「砂漠」
    • ▲エジプトをモチーフにした「砂漠」。植生が変化し、遠景にはオアシスと集落も見える
    • ▲特定の地域をモチーフにしていなかった時期の「南国」
    • ▲ハワイをモチーフにした「南国」。遠景にはハワイを象徴する高級ビーチリゾート、ワイキキビーチのようなモチーフが見える

    Point 2:絶妙なデフォルメ感を目指したキャラクター制作

    視認性とユニークさを両立するルック開発

    40人が同時にレースを行う本作において、キャラクターの視認性は特に重要な要素となる。これを解決するのが、千葉氏の合流後に検討された「黄色やオレンジなどのビビットなアウトライン」だ。

    このアウトラインはUE5のマテリアルパラメータを改良し、LineColorIDを変更することで指定可能となっており、ディレクショナルライトの位置から算出した片側一方向に表示されるようになっている。派手なアウトラインが入ることで視認性が高まるだけでなく、本作らしいルックのユニークさが強調された。

    また、キャラクター用のシェーダもエンジン改造によって独自のシェーディングモデルを実装。本作のコースのライティングは青みがかった影が出ないよう全てベイクされており、ライトビルドの際は間接光がもち上がる設定となっている。

    ペンギン側は疑似的なリムライトのようにライティングの影響を受けるが、例えば砂漠のコースでは全体が黄色みがかってしまうため、これを防ぐために中心部はライトの影響を受けないよう設定。これによってペンギンのお腹あたりは常に白くなっており、コースに埋もれて見にくくなる問題を防いでいる。

    本作のもうひとつの特徴は、ペンギンの見た目が変わる「スキン」やレース中の乗り物である「カート」、走行中のカートから出る「トレイル」、そして一定条件を満たすと発動できる「スペシャルライド」など、豊富なカスタムパーツが用意されていること。こうした追加アイテムはおよそ3週間に1度開催される期間限定イベントや、2ヶ月に1度のシーズン切り替わりの際に追加されるほか、キャンペーン用に制作されることもある。

    追加アイテムの実装については、プランナー側がワールドや施策に沿ったテーマを設定し、実装するアイテムのアイデア出しを行なっている。ハロウィンであれば魔女やドラキュラのスキンに加え、お墓のようなカートや魔女のホウキを模したスペシャルライドなどを用意し、確定したリストをアート班に共有。アート側は2Dイラストで設定画を起こし、その後3Dアートが進行する。

    アセットのレギュレーションはスキンが2万ポリゴン、スペシャルライドは1万ポリゴンが上限として定められており、スキンは最大でも2Kテクスチャ(2,048×2,048)。スキンはペンギン素体から制作し、カートとスペシャルライドは完全にユニークで制作されている。

    キャラクターのシェーダ

    ▲アウトラインの検討。様々なカラーを割り当て、使用色を8色設定した
    ▲アウトラインで使用できる色一覧
    ▲UE5マテリアルのパラメータ設定
    • ▲砂漠での独自シェーダ(左)と通常のシェーダ(右)の比較。左のペンギンはビビッドなアウトラインが表示され、キャラクターの中心部分はライトの影響を受けずに白く描画されている。右のペンギンでは、やや背景に埋もれてしまう
    • ▲ハワイでのシェーダ比較
    ▲独自シェーダでは不要なノイズを抑えるためポストプロセスのSSAOの影響を受けないように設定されている。画像は独自シェーダ(左)と通常シェーダ(右)のアザラシにSSAOを強めにかけた状態

    多種多様なカスタムパーツ

    本作にはバリエーション豊かなスキンが用意されている。

    ▲スキンの一例。画面左から「雪の女神ポリアフ」「魔女のハロウィンドレス」「三角コーン」
    ▲「魔女のハロウィンドレス」設定画。全身衣装に加えて帽子やホウキなどの装飾品が多い
    ▲スペシャルライド「ハロウィンホウキ」
    • ▲カート「亡者の眠り」。揺れものが設定されており、骨の部分がレース中に動く
    • ▲トレイルの一例「ファイアーボール」。翼の先から出るトレイルも、追加アイテムとして変更可能だ

    Point 3:レースに華を添えるエフェクト

    Niagaraで制作された独特なエフェクト

    本作のエフェクトはジャンプの土煙やアタック、トレイル、スペシャルライド発動など多岐にわたるが、いずれもNiagaraで制作されている。要素の多いUIが直感的なプレイフィールにつながりにくいとし、スペシャルライドの発動条件である「サバ缶」取得時のポップアップや、アタックが再使用可能になることを示す「クールダウン」も全てNiagaraによるエフェクトで表現。

    画面上のUIを少なくし、ペンギンに対するエフェクトでゲームの状況を伝えることで、レース展開だけに集中できる環境をつくり上げた。直感的でわかりやすいプレイフィールはグローバル市場でも好意的に受け入れられている。

    こうしたエフェクトはレースゲームにおいて重要な疾走感の演出にも寄与している。疾走感は気持ち良さに直結する要素ではあるものの、単純に移動速度を速くしてしまうとゲームスピードも高速化し、コースをよく見て判断する遊びの妨げになってしまう。

    こうした理由から、本作では疾走感の演出のために集中線の表示と、ダッシュ時に一瞬カメラが引き、FOVが変更される仕様を採用。走行中に疾走感を出す集中線にはポストプロセスマテリアルを使用し、カスタムブラーでノイズを変形させて用いている。

    メッシュを利用したエフェクト例としては、期間限定イベント「Happy Halloweeeeen!」に登場するエモート「ヴァンパイア伯爵」がユニークだ。無数のコウモリに変身し、移動先にコウモリが集合して再びヴァンパイアに戻るという内容で、キャラクターを消す処理をプログラム側で制御し、コウモリはVATで変形させる合わせ技でのエモートとなっている。

    シーズンやイベントごとに量産する必要のあるエモートやトレイルなどの新規追加アイテムについても、チームの距離が近いからこその協業体制によって、可能な限りクオリティが追求されている。

    エフェクトの種類

    • ▲アタック時のエフェクト
    • ▲【左画像】のNiagara設定画面
    ▲ジャンプの土煙
    • ▲翼の両端から出るトレイル
    • ▲アタック後は3秒間のクールタイムが発生し、その間は再度アタックを行うことができない。クールダウンが完了したことを知らせるエフェクトによって、プレイヤーは再びアタックをしかけることができるようになったと認識できる
    • ▲10個集めるとスペシャルライドが発動できるサバ缶取得時のエフェクト……
    • ▲ペンギンの頭上にポップアップしているサバ缶もNiagaraで制御している
    ▲スペシャルライド発動時のエフェクト
    • ▲「ヴァンパイア伯爵」のコウモリ化するエモート……
    • ▲無数のコウモリはVATで羽ばたくように見せている

    ポストプロセス

    ゲーム中はスピードに応じて集中線が描画される。

    • ▲通常走行時の集中線
    • ▲カスタムノードを活用した独自のブラー表現

    (2)モーション&コース制作編に続く(近日公開予定)>>

    CGWORLD 2025年2月号 vol.318

    特集:株式会社萌と『株式会社マジルミエ』
    判型:A4ワイド
    総ページ数:112
    発売日:2025年1月10日
    価格:1,540 円(税込)

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    TEXT_神山大輝(NINE GATES STUDIO)
    EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada