「君たちはどう生きるか」。同じタイトルの小説、その小説にインスピレーションを得てアニメーション映画の巨匠が発表した劇場長編が第96回アカデミー賞にて、長編アニメーション映画賞を受賞した……といったことは抜きにしても、世界中の生きとし生けるものにとって「どう生きるか」は、生涯を通して問い続けるテーマと言えよう(←おおげさ)。

今回は、バンクーバーにてNukeアーティストとしてハリウッド映画などのVFX制作に携わるのと並行して、B級ホラーもの自主映画制作にも取り組んでいる大槻直貴氏に自身のキャリアをふり返ってもらった。自分の活動原点は「映画の呪い」だと語る大槻氏の生き方とは?

記事の目次

    迷うぐらいなら、チャレンジ! そのくり返しで、道を切り拓いてきた。

    筆者が大槻氏のことを知ったのは、昨年末。大槻氏が2023年に発表したホラー短編『Wheels of the Devil』のブレイクダウン動画をSNSに投稿したことからであった。

    そのブレイクダウンからは、作り手が確かな技能と審美眼を有していることが窺えた。一方では、令和の時代に80年代にブームとなったホラー映画への愛を存分に感じる自主映画に、良質なインビジブルエフェクトが施されていることに「何事!?」と、驚きと興味の感情を抱き、半ば衝動的にコンタクトを取ったのであった。

    『Wheels of the Devil』予告編
    こちらをご覧いただければ百聞は一見にしかず。『13日の金曜日』シリーズなどの80年代ホラーテイストあふれる画に思わずニヤッとさせられる。本編もYouTubeで公開中(Flying Chorizo Pictures公式サイトから視聴できる)。正直、本編はストーリーも演出もツッコミどころが多々あるのだが、それこそが大槻氏がねらったB級路線である(劇伴も秀逸)

    ——今日はよろしくお願いします。大槻さんは現在、バンクーバーでNukeアーティストとして活動されているのですか?

    大槻直貴氏(以下、大槻):
    現在はバンクーバーのSony Pictures Imageworksで、リード・コンポジターとして働いています。最近の参加作品には『RED ONE』(2024)、(2023)、『Spider-Man: No Way Home』(2021)などがあります。

    ——いずれもハリウッド大作ですね! バンクーバーというか海外のVFXベンダーへの転職はいつ頃、どのように行われたのですか?

    大槻:
    バンクーバーには2016年の冬に来たので、今年でVC9年目に入りました。最初の1年はMPCバンクーバーで、シニア・コンポジターとして『The Mummy』(2017)、次いで(2017)に参加しました。その後、Method Studiosを経て、Sony Pictures Imageworksへ移籍しました。SPIには、通算で6年近く在籍しています。

    ——いつ頃から海外のVFX業界で働くことを計画していましたか?

    大槻:
    そもそもで言うと、幼少期までさかのぼります。映画制作に携わりたいと思ったのは、子どもの頃から金曜ロードショーなど、TVで放映されていた映画を毎週かかさず観ていたことが大きいです。

    山間の小さな町で生まれ育ったこともあって娯楽が限られていたというか(笑)。まだ見ぬ広い世界を疑似体験できる「映画」にハマっていきました。

    ——どんなジャンルの映画をよく観ていましたか?

    大槻:
    TV放映される作品なので、自ずとエンタメ大作が中心でした。『バック・トゥー・ザ・フューチャー』(1985)や『ジュラシック・パーク』(1993)といったハリウッドブロックバスター作品はもれなく夢中になりましたが、特にハマったのがゴジラです。子どもの頃が平成VSシリーズの世代で、新作が公開されると、いつも劇場へ観に行ってました。と言っても田舎なので、2本立て(ムーブオーバー)になったタイミングで隣町の小さな映画館へ連れて行ってもらう感じでしたけど(笑)

    ——平成のニューシネマパラダイスですね(笑)。その映画愛は、どのように映像制作へとつながっていったのですか?

    大槻:
    小学校高学年になると、近所のTSUTAYAが行きつけになり毎回5本ほど借りては観るをくり返していました。特定のジャンルに偏らないよう、できるだけ色々なジャンルを観ようとしていましたね。

    例えば5本借りたなら、アクション×2、SF、ホラー&ラブストーリーとか。大体ラブストーリーは最後に回すので、観ずに返すこともありました(笑)。

    自分の足で歩いて作品を探し、実際に手に取り、それを観てまた新たな発見があるというレンタルビデオショップは、今思えば貴重な体験だったと思います。ストリーミングは便利ですが、どうしてもジャンルに偏りが生まれて、偶然の出会いは少なくなるので……。レンタルビデオ屋ロスですよ。

    ——めちゃくちゃ細かく思い出していただき、ありがとうございます(笑)

    大槻:
    たくさんの映画を観るうちに、自分で撮ることにも興味が出始めたのだと思います。あとは父親の趣味がビデオカメラとPCだったことも大きいはず。小さい頃、ゴジラのソフビを使って河川敷で戦う様子を撮ってもらったことを憶えています。

    両親の理解があったことや環境を提供してもらえたことには感謝してもしきれません。

    大槻直貴/Naoki Otsuki
    Sony Pictures Imageworksバンクーバーにて、フルタイムのリード・コンポジターとして活動中。学生時代から映像制作に取り組んできた経験を活かし、カメラやレンズなど実写撮影に関する確かな知識の下、実在感のある画づくりを得意としている。日本で活動した時期を含めて15年以上にわたり、コンポジター、デジタルアーティストとして活動するのと並行して、バンクーバーでオリジナルのショートフィルム制作にも取り組んでおり、2020年に結成した自主映画チーム「Flying Chorizo Pictures」では、ホラー短編『WHEELS OF THE DEVIL』(2023)を発表した。
    https://flyingchorizo.com](https://flyingchorizo.com/

    ——部活で映像を作ったりもしましたか?

    大槻:
    高校の文化祭で、クラスの出し物として実写短編を撮ったぐらいですね。ただ、将来は映画をつくる仕事がしたいと思っていたので、大学は京都造形芸術大学(現・京都芸術大学)の当時あった映像・舞台芸術学科 映像芸術コースを選びました。クラス全員が映画に興味があるという、自分にとって夢の環境でした。

    ——大学時代は、どんな作品を?

    大槻:
    実写アクションものが多かったです。TSUTAYAのアクション棚はほぼ制覇するぐらいの勢いでアクション映画を好んで観てきたので(笑)


    仲間内で自主映画を作っていく中で、「やっぱり爆発は必須だね」的な話から、本当に爆破する予算も場所もないのでBlenderを使ってCGで作ってみたり、当時はめちゃくちゃ高かった爆破系のストックフッテージのDVDを海外から取り寄せてAfter Effectsで合成するようになりました。

    もっと言えばAfter Effectsを知ったのも、かなり後なので、当初はPhotoshopで1フレームずつ人物を消してゴムツールで抜き出して、連番にしたものをPremiereに読み込んでいたりもしました。今考えると恐ろしいです。

    ——『ターミネーター2』制作時のILMみたいですね(笑)。3DCGソフトへの抵抗はありませんでしたか?

    大槻:
    まったくありませんでした。

    中学生ぐらいから父親のPCを使って、Hot Soup Processor(HSP)でプラグラミングして遊んでいたりもしていたこともあったので。

    むしろカーチェイスを撮りたいのに免許もない、潰せるクルマもない、だけどBlenderを使えばカーアクションを自分でもつくれるはず! と期待しかありませんでした。



    ——その後の就職活動では、CG・VFX制作現場を選ぶというのは珍しいですね。ご自身で演出や撮影を手がけている学生さんの場合、実写の現場に進まれる方が多い印象があるもので。

    大槻:
    時代の巡り合わせ的なものがあるかもしれません。自分より上の世代になると、就職してからCGを作りながら習得する面が強かったと思うし、なによりもソフトウェアがもっと高価でしたし。

    だけど、自分の場合は学生のうちから実写VFXを作ることができました。

    もちろん映画の現場にも興味がありましたが、裸一貫で飛び込む勇気はありませんでした……。そこでデジタルアーティストとして働きながら自主制作の資金を貯めた方が、何かと良いのではないかという結論に至りました。

    『Wheels of the Devil』(2023)©Flying Chorizo Pictures

    ——キャリアのスタートはコンポジターではなく、デジタルアーティスト(ゼネラリスト)だったそうですね。

    大槻:
    東京のあるCGプロダクションにゼネラリストとして入社しました。採用面接時は、映画の案件も手がけていると聞いていたのですが、実際に担当したのは映画の仕事ではありませんでした……。

    仕事自体は楽しかったし、チームで働くことやレビューやスケジュール管理などを含めてCG制作全体について働きながら学ぶことができたことには感謝しています。ですが、どうしても映画の仕事がやりたくて……。

    そう思って悶々としていたところ、隣の席だった先輩に「君がやりたい実写合成作業はコンポジットという工程で、コンポジターという職種があるんだよ」と教えてもらい、「それだ!」と。

    その先輩にマリンポストを紹介していただき、無事に中途採用で入社することができました。

    ——晴れて、映画のVFX制作に携わることができたわけですね。マリンポスト時代について教えてください。

    大槻:
    マリンポストでは契約社員的な立場でコンポジターとして4年ほど働きました。

    案件の合間に、まとまった日数のお休みをいただけたので1ヶ月ほどアメリカの各都市を旅して回ったりも。具体的な計画があったわけではありませんが、当時から将来的には海外で働くことを目標にしていました。

    マリンポストでは本当に多くのことを学びました。

    実作業のテクニックだけでなく、代表でVFXスーパバイザーの田中(貴志)さんにレビューしてもらったときの、田中さんの指示のされ方などから、「こういう画の場合は、あの部分に気をつけると良いのか」などと画づくりのセンスを具体的に身に付けられたのが大きかったです。

    「俺は良いと思うけど、田中さんが見たら何て言うかな?」などと、スーパバイザーをイタコすることでコンポジターとして成長できたと思います。

    『Wheels of the Devil』(2023)©Flying Chorizo Pictures

    ——マリンポストを離れた後は、どのように活動されましたか?

    大槻:
    フリーランスのコンポジターとして、2年半ほど日本で活動を続けました。

    これまでにお世話になった方々に新たな案件へ誘っていただく一方で、積極的に色んな場に顔を出すようにしました。

    営業というわけではありませんが、クリエイターの集まりにはできるだけ参加して「〇〇でコンポジターを探している」といった話を聞いたり、以前から興味のあったプロダクションさんの方と知り合ったのを機に会社を訪問させていただきながら、実際の仕事につなげていきました。

    特に大きかったのは、白組 調布スタジオの案件に参加できたことです。山崎 貴監督の『寄生獣』(2014)にコンポジターとして参加したことを機に、Nukeを習得する機会をいただけました。

    ——大槻さんの仕事のされ方というか、生き方には一貫して”たくましさ”を感じます。

    大槻:
    いやいや。人に恵まれてきたというか、周りの方々に助けていただきながらやってきただけですよ。これまで機会をくださった方々には本当に感謝しています。

    ただ、待っていても何も変わらないので受け身にはならないように心がけています。それは今でも変わりません。

    面白そうなプロジェクトの噂を聞いたら、心当たりのツテをたどってアピールしたりとか。『シン・ゴジラ』(2016)のときもそうでした。

    最初はどこが担当するのかわかりませんでしたが、どうしても参加したくて。知り合いのアーティストに聞いてみたり、直接の面識がない方には紹介してもらえそうな方に連絡してみたりと、積極的に動いていたら「白組 三軒茶屋スタジオが担当するから大槻くん、ゴジラが好きならどう?」と声をかけていただき、参加することができました。

    映画 『シン・ゴジラ』(2016)トレイラー

    大槻:
    子どもの頃に夢中で観ていたゴジラの新作に参加できて感慨深かったです。

    『シン・ゴジラ』に参加できたことで、自分の中でいったんの区切りがつきました。

    「じゃあ、次はハリウッドかな」などと思っていたら、『ブレード・ランナー』の続編企画(※『ブレードランナー 2049』)が始動したことを知りました。

    もちろん『ブレード・ランナー』の大ファンだったので、これは挑戦しなくてはと思っていたら、フリーランスの先輩たちから「バンクーバーのVFXスタジオ見学に行かないか?」と誘ってもらえたのです。

    ——ピンポイントでつながっていくのが本当にすごいと思います。もちろん、普段から積極的に活動されている賜物だと思いつつ……。

    大槻:
    やったことがないことでも、チャンスが訪れたらやってみるようにはしています。バンクーバーのVFXスタジオ訪問でも、誘ってもらってから実際に行くまでの間にリールは作りましたが、あとは現地でアピールするのみというか。

    ——どんな風にアピールを?

    大槻:
    「はじめまして、日本のすごいコンポジターです。明日から働けますよ」などと、拙い英語でアピールしました(笑)。その後、上手くつながって、リクルーターの方を紹介していただけたりしました。

    そのうちの1社だったMPCから帰国後に改めてインタビューを受けて、無事にジョブのオファーをもらえました。たしか2〜3週間後にVC入りする必要があったので、あわてて部屋を引き払って、準備しました。ただ、ブレードランナーは別ブランチが担当した案件だったので参加できませんでしたけど(苦笑)

    ——海外では、積極性が大切ですね。

    大槻:
    バンクーバーのVFX業界で働いてみて、本当にそう思います。

    海外ではスキルだけでなく、自信をもつことも大切。謙虚になりすぎないというか、少しでもできそうだと思ったら「やってみます」と言った方が良い結果につながると思います。

    『Wheels of the Devil』(2023)©Flying Chorizo Pictures

    ——バンクーバーでの自主映画制作についても教えてください。大槻さんが結成されたFlying Chorizo Picturesとは、どのようなチームですか?

    大槻:
    自分と、バディのMarkham Samuels/マーカム・サミュエルズのふたりで作ったチームというか、インディーズ作品のブランドです。

    今後も作っていくなら個人名ではなく、Webサイトのドメインを取得してブランド化させようと話し合って決めました。ビジネスとして始めたものではないので、遊びに近いですけど(笑)

    ——『Wheels of the Devils』がFlying Chorizo Picturesの第1作になりますか?

    大槻:
    いえ。実は、この企画は2018年に始めたものの一度、頓挫しているんです。

    ——いったい何が!?

    大槻:
    当時、中古のキャディ(キャデラック)に乗っていたのですが、オイルも垂れ流しでヘッドガスケットにも致命傷を負っていて、修理費を考えると廃車にした方がいいコンディションでした。つまり、ぶっ潰していいクルマを手に入れたわけです。中学生の頃からの夢だったカーアクションをついに撮れるぞと。

    SNSでインディーズ映画のコミュニティを見つけて、仲間募集の声がけをした結果、熱心なチームメンバーにも恵まれ企画がスタートしたのですが徐々に関係者が増えていき、うっかりLAから役者を呼ぶことになってしまったり、費用が膨れ規模は大きくなっていきました……。

    当初は超低予算、なんなら自分でカメラを持って撮るくらいの規模感で進めていたので、その枠組みの中に収まるはずもなく撮影途中で空中分解。

    誰かのアイデアを受け入れるだけではなく自分の思い描く方向へチームと向かうことの課題、そもそもの自分の英語力の不足によるコミュニケーション不足の課題などが浮き彫りになりました。恥ずかしながら大失敗の大挫折でした。

    ——フォローというわけではありませんが、異国の地で自主映画を撮ることの大変さが伝わってきます……。

    大槻:
    「もう映画づくりは終わりだ……」と思っていたのですが、しばらくすると忘れるんですよ(苦笑)

    2020年、コロナ禍に入ってプロダクションが一斉にストップして時間ができたのを機に、再スタートしました。

    キャディを手放す前に一本撮るという当初のコンセプトに立ち返り、新たにメンバーを募集して、一人ひとりとちゃんと面接して、「このプロジェクトは自主制作なので予算は限られています」などとしっかりと事前に説明した上で、了承してもらってから参加してもらうようにしました。

    あと大事なことは他人まかせではなく、自分で決める。予算の管理も自分でしっかり行いました。後から考えると当たり前のことですけどね。

    再始動後の現場スナップ

    ——挫折のダメージは相当大きかったと思うのですが、何か後押しするものがあったのでしょうか?

    大槻:
    挫折で辞められるならよかったんですけどね、もう呪いみたいなもので辛くても辞められない。

    あとはバディの存在ですね。彼は2018年に最初の呼びかけをしたとき、照明担当として参加してくれました。

    コロナ禍の当初、ステイホームの時間つぶしがてら『The Egg』という短編を撮ってYouTubeで公開したら、彼から「REDのカメラを買ったから、また一緒に何か作ろう」と連絡があったんです。

    ——それは嬉しい!

    大槻:
    本当に。彼自身でも自主映画を作っていて、彼の企画には自分がプロデューサーとして参加する。逆にFlying Chorizo Pictures企画には、DP兼プロデューサーとして彼に手伝ってもらうといった感じで、持ちつ持たれつで交流しています。

    • 大槻氏のバディこと、Markham Samuels/マーカム・サミュエルズ氏
    • サミュエルズ氏のRED EPIC DRAGON 6K。中古品とのことだが、個人で購入したのは驚きだ(大槻氏によるとVCに勤めているのだとか)

    ——もうひとつ教えてください。『Wheels of the Devils』クライマックスで描かれる呪われたキャディが崖から落ちるシーンは、アラスカで行われているイベントのフッテージをVFXで加工したわけですか?

    大槻:
    そうです。『Glacier View Fourth of July Car Launch』という、アラスカのGlacier View(グレイシャー・ビュー)という小さな町でアメリカの独立記念日(7月4日)に開催される恒例イベントで、廃車予定のクルマに仮装を施したりした状態で、10数台、崖から発射(Launch)させるんです。

    元々は、主催者が所有していたクルマが事故で全損したため、自分の私有地で始めたものが段々とスケールアップしていったみたいです。

    2019年の『Glacier View Fourth of July Car Launch』模様を、大槻氏が撮影した動画

    ——アメリカらしいイベントですねえ……。どうやって見つけたんですか?

    大槻:
    バンクーバーに来てから、無許可でカーチェイスの撮影ができそうな場所を探すのをルーティンワークにしているんですよ(笑)

    Googleマップを見たり、ネット検索したりするなかで偶然見つけました。2018年にこのイベントを知って、翌年現地を視察。そして2020年に自分のキャディで参加して発射した様子を撮影するつもりだったのですが、コロナ禍になったため、その計画は断念しましたが……。

    ——そこで、2019年に撮った実写素材をVFXで作り替えたわけですね。

    大槻:
    そういうことです。ちなみにキャディは、やはり手間をかけていると段々愛着が湧いてくるもので、ぶっ壊す代わりにキャデラックのメカニックをやっていたというおっちゃんに格安で売りました。今でも走っているみたいです(笑)

    ——大槻さんが就活時に考えた「VFX制作を仕事にしつつ、本当に好きな映画はインディーズで作り続ける」という構想がバンクーバーの地で花開いたわけですね。

    大槻:
    そう言っていただけるのは嬉しいですが、自分としては課題だらけです。いくつかの映画祭に出品しましたが、全敗だったので……。

    ——なるほど。

    大槻:
    ルックやムードは自分でも気に入っているのですが、シナリオに課題を感じています。映画はお話が全てなのに、そこが置いてけぼりになってしまった。もしシナリオやプロデュースを手伝ってくれる方がいたら、ぜひ連絡をください。

    次作は原点回帰として、ホラー映画の醍醐味にこだわったものを作りたいですね。サイコ野郎が女の子を追いかけ回す、血飛沫満載のスプラッター表現をしっかり描きたい……などと、アイデアをふくらませているところです。

    今回のインタビューはすごくありがたかったのですが、自分としてはまだ結果を出せていません。

    B級ホラーなどと呼ばれるジャンルで、本当に面白いものをつくろうと全力で取り組まれている人たちがプロアマを問わず世界中にいるので、それに比べたら自分たちはまだまだ……。

    その現実をしっかりと受け止めて、面白いと思ってもらえる映画をちゃんと作れるようになりたいです。

    『Wheels of the Devil』(2023)©Flying Chorizo Pictures

    ——最後に、CGWORLD読者に向けてハリウッド映画を手がけているコンポジターとしての画づくりのアドバイスをお願いします。

    大槻:
    コンポジット作業が中心の方、コンポジターを目指す方は、マニュアルで撮れるカメラを買ってください。そして実際に、色々と撮ってみてください。

    フルCG表現の場合は少し変わってきますが、実写合成の場合は、フィジカルなカメラの工学的な仕組みをいかにして再現、反映させるかというアプローチで画づくりをすることが上達への近道です。

    自分で撮って肌身をもって理解できていることと、頭の中だけで原理を知っているのでは大違いなので。

    そして、コンポジターは映画制作のしんがりを務めるポジションです。

    いつもパーフェクトな素材が提供されるとはかぎりません。また、通常よりも短い期間で、同等のクオリティに仕上げる必要に迫られることもあります。

    そうしたときにこそ、コンポジターとしての真価が問われます。通常であれば、ライティングなど、前工程に戻して対処してもらうものをコンプのゴリ押しで対応する。そんなときにもフィジカルなカメラの原理を知っていることが武器になります。

    自分はそうしたゴリ押しのコンポジットワークを「パワー・コンポジティング(Power Compositing)」と勝手に呼んでいます。ダサいネーミングに、力技だという意味を込めて(笑)

    日本のコンポジターやデジタルアーティストは、こうした力技(見た目ありきの画づくり)の経験が多いはず。

    一方、海外のアーティストは意外とそうした経験がないので、「こんな素材じゃ、俺はできないよ」などとあきらめてしまう人がわりといるんです。そこで差がつけれるはず。

    「与えられた条件下で、最大限のパフォーマンスを発揮するには?」「このタイムラインなら、クオリティラインはこれぐらいだ」といったことを意識しながら結果を残していくと、スーパバイザーから「あいつなら絶対になんとかしてくれる」といった信頼を得ることができて、キャリアアップにもつながるはずです。

    『Wheels of the Devil』(2023)©Flying Chorizo Pictures

    INTERVIEW & TEXT_NUMAKURA Arihito