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TBSが主催する短編映画コンテスト「DigiCon6 ASIA Awards」は、日本を含めたアジア13の国と地域で開催されたアジア最大規模の映像フェスティバルだ。その第27回授賞式が今年も開催された。

11月8日(土)、TBS赤坂BLITZスタジオにて授賞式が開催され、応募された全934作品の中から、韓国のDahee Jeong氏の『Society of Clothes』が最高の栄誉であるGrand Prizeに選出された。本記事では授賞式の模様をレポートする。

記事の目次

    アジア各地域の個性豊かな作品が集結した「DigiCon6 ASIA Awards」

    TBSテレビが主催する「DigiCon6 ASIA Awards」はアジアの13地域から優れたコンテンツクリエイターを発掘することを目的とした映像フェスティバルだ。受賞者や才能を感じさせる若手クリエイターに作品のクオリティや魅力をアピールする場を提供し、新規ビジネスや活動、海外コンテスト応募などに向けた可能性を探る支援を行なっている。

    15分以内のアニメーションであれば、CG(2D/3D)、ストップモーション/クレイなどジャンルは問わず応募可能。プロ/アマ不問で、アジア出身・在住のクリエイターか、アジアにおいて制作された作品を対象としている。

    第27回ではイラン、インド、インドネシア、韓国、スリランカ、台湾、中国、日本、バングラデシュ、香港、マレーシア、モンゴル、ラオス(※50音順)のそれぞれの地域でDigiCon6 Regional Awardsが開催され、最優秀作品を選出。それらの中から「DigiCon6 ASIA Awards」の各賞が決定された。

    授賞式では前半に日本の優秀作を選ぶ「DigiCon6 JAPAN Awards」の結果を公開した後、「DigiCon6 ASIA Awards」が発表された。

    DigiCon6 JAPAN Awards:Special Jury Award(審査員特別賞)

    『小さな世界の終わり』田久保はな

    かわいい動物のキャラクターが登場する作品だが、内容は平和な日常から戦争へ緩やかに進んでいくシリアスなストーリーだ。

    作者の田久保はな氏が「自分が世の中に感じている切実な、戦争や大きな社会の流れへの恐怖を込めてつくりました」と語るように、漠然とした不安が現実になっていく恐怖を描いた意欲作。キャラクターのデザインは内容とのギャップを出すために、かわいい動物にしたという。

    『Manual Complex』万屋一心

    コミュニケーションに対しての畏れや不安を表したストップモーションの作品で、主人公とユニークなクリーチャーとのカウンター越しの手振りと身振りで話が進んでいく。

    制作した万屋一心氏は、言葉での表現に限界を感じ、自分のトラウマや相手のことがわからないという葛藤を作品に込めたという。「コミュニケーションに正解はない。皆さん気負わずにコミュニケーションを取ってほしい。自分も含めて」と受賞のコメント。

    『goodbye waves』YANG RUIHAN

    審査員から誰にも似ていない、沈むような切ないビジュアルのトーンのオリジナリティを評価されて受賞した。この作品は、自身の経験した暗い思い出の気持ちを記憶するためにつくられたという。

    受賞したYANG RUIHAN氏は意外にも「ビジュアルのことは深く考えていません。好きなように好きな絵を書くだけ」と語る。計算や意図的なものではなく、素直に内面から出てきた表現が評価された。

    『おばけ猫のレシピ』はるおさき

    亡くなった猫のおばけを見つけるストーリーは、はるおさき氏の実際の体験をモチーフにしている。「アニメの中でもいいから、一緒にいたいと思って描きました」と制作のきっかけを語る。1枚1枚の絵が美しく、アニメーションは絵が連続したものということを改めて思い出させてくれたと評価されての受賞だ。

    DigiCon6 JAPAN Awards:主要部門

    Best Sound Design Award:『そうぞう』中田未空

    作品全体の構成の中で特に音が良かった作品に贈られる賞で、全体の空気感や質感、肌触りが映像と音を通して伝わってくるということが受賞へつながった。特に、クリームソーダのシュワーとする音や蝉の声などが印象的だが、音だけではなく映像表現も評価された(残念ながら中田未空氏は仕事の都合で来場できず、コメントはなし)。

    Animation Best Character Award:『田舎星』Oh Hey Do

    シュールなキャラクターたちが活き活きと描かれた作品で、ベストキャラクター賞は作中のキャラクターだけではなく、制作したOh Hey Doの3人の個性的なキャラクターも評価しての受賞となった。

    「私たちが高校生だったときに、周りにいた女子高生のキャラクターを描きたいと思って制作を始めました。評価していただいて嬉しい」(キャラクターデザイン担当:西野朝来氏)、「日本の社会では無意味なものや必要のないものがなくなっている気がして、でも、人間の尊厳の部分はそこにあるという気持ちでつくりました」(立体物収集担当:平田裕美氏)、「3人のキャラクターがあってつくられた作品です」(絵コンテ・ストップモーション担当:小林真陽氏)とそれぞれ受賞のコメント。

    Animation Best Comedy Award:『マミ子のウン子』大野恭照

    浮気されてヤケ食いしたヒロインのウンコが意識をもって動き出し、憎い相手をやっつけるというアクションコメディ。怒涛のアクションと勢いが評価された作品だが、受賞した大野恭照氏は「午前1時か2時くらいにトイレで思いつきました。それ以上でも以下でもない(笑)」とクールなコメントで会場を笑わせた。

    Animation Best Art Award:『dipolar bipolar』李 全鍇

    1枚1枚の絵が完成していて、アートを冠した賞にふさわしいと評価されての受賞。現代美術館に1日いたような満足感を得られる作品と高評価だった。

    作者の李 全鍇氏は欠席したが、「本作は私自身を治療する旅であり、内面の苦境にある人々を理解する窓口となることを願って制作しました。この栄誉を猫と犬と共に過ごした全ての人に捧げます。私たち皆が自身の情緒に優しく接し、互いの世界により共感できるようになりますように」との受賞のコメントが読み上げられた。

    Animation Best Story Award:『私を見つけて』 まる あかり

    体や心に傷のある人にインタビューし、寄り添っていきながらアニメーションで表現した作品。ドキュメンタリー的な新しいスタイルで、アニメーション業界に光を与えたと評価された。

    「社会的だったり、精神的だったり、問題を抱えて居場所がないと感じている3人の女の子を取材して、届けてくれた声を形にできないかと思ってアニメーションにしました」(まる あかり氏)。

    JAPAN Gold:『手』WANG JING

    DigiCon6 JAPAN AwardsのGOLD AwardにはWANG JING氏の『手』が選出された。

    審査員は人間の成長の中でのグロテスクなもの、また、真逆の透明なものが1つの映像に同居していて、アニメは人間の内面を映し出す表現と改めて認識させてくれたと高く評価。

    WANG氏は制作のきっかけを「日本に来て初めての一人暮らしからの発想がありました。感情が具象化されて頭に浮かびました。次回作は家族の話の予定です」と語った。

    DigiCon6 ASIA Awards:受賞作品

    Animation Best Story Award:『Statue』Young Chan Jeon (KOREA)

    続いて、後半はDigiCon6 ASIA Awardsの各賞が発表された。

    Animation Best Story Awardには、コミカルで馴染みやすいキャラクターや絵柄を使いながら、深い内容を描いた点を評価され、韓国のYoung Chan Jeon 氏の『Statue』が受賞した。独裁者の像を偶然壊してしまった男が、次の世代に偶像化されていくさまをシニカルに描いている。

    「難しいテーマを共感できるエンターテイメントとしてつくりたいと考えました。ファシズム、集団の狂気などを、架空の話ではなく、実際に起きていることを面白い内容で表現しました」(Young氏)。

    Animation Best Art Award:『Glasses』Yumi Joung (KOREA)

    Animation Best Art Awardを受賞した『Glasses』は、メガネを壊すという、誰でも経験のあることから奇妙な世界に入り込んでいくというストーリー。観ている人に素晴らしいジャーニーを体験させてくれたという点を評価された。

    「これは、自分の既存の眼鏡から新しい自分を探すストーリーです。ループされる空間は物質の空間。そのような空間は自分が気づくまでくり返される特殊な空間です」とYumi Joung氏は作品のコンセプトを語ってくれた。

    Grand Prize:『Society of Clothes』Dahee Jeong(KOREA)

    最後に、Grand PrizeにはDahee Jeong氏の『Society of Clothes』が選出。

    人が登場せず、衣服だけが生活している奇妙な世界を描いた作品。人は服を着て、社会から求められてる自分を演じているということを示唆しており、日常の小さなストレスを静かに表現していると評価された。

    Dahee氏は「DigiCon6は様々な国や地域のフィルムメーカーが集まって文化交流ができる機会だと思っています。このような大きな賞をいただけて嬉しく思います」と挨拶。「韓国、フランス、カナダの多数の方々に助けていただきました。韓国では独立アニメーションには国から支援があります。この作品をつくってここまで来ることができるようにしていただいた韓国の公的機関KOCCAにも感謝を申し上げます」と述べた。

    ▲Grand Prizeを受賞したDahee Jeong氏(写真右)ⒸTBS

    今年の上位3作は全て韓国が受賞した。韓国が国としてアニメーションづくりを支援していることも要因のひとつかもしれない。

    授賞式の合間にはDigiCon6のイメージキャラクターMAILOO & ANNLEEのアートコミック「MAILOO & ANNLEE」(シリアルナンバー付きで発売中)が紹介された。『PUI PUI モルカー』の見里朝希氏が原案のキャラクターを、アニー賞を受賞したイラストレーターの上杉忠弘氏が描いた作品だ。

    「自分がアニメーションをつくるきっかけとなった『コララインとボタンの魔女』の上杉さんに描いていただいて感無量です」と見里氏。上杉氏は「イラストレーションでマンガがつくれるのかが挑戦でした。DigiCon6のような短編のアニメを作るイメージでつくりました」と制作した気持ちを語ってくれた。

    この授賞式の様子は、受賞作品のダイジェスト映像とともに、地上波でも以下日程で放送予定だ。興味のある方はぜひ観てみてほしい。

    【TBSテレビ地上波放送】
    放送日:2026/1/31(土)26時28分〜27時58分 
    ※放送時間は変更になる場合がございます。
    ※放送終了後、TVerでの見逃し配信およびU-NEXTでの配信あり。(期間は未定)

    TEXT_石井勇夫 / Isao Ishii(ねぎデ)
    EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)