VFX業界にとって毎年恒例となった白組の年賀ムービー。今年は、お雑煮。「直来(なおらい:神道の祭祀や儀式の締め括りに、神前に供えた神饌(しんせん)や神酒(みき)を神職や参列者が共に飲食する神事)」にちなんだモチーフとのことだが、ブレイクダウンからお察しの通り、ほぼ全ての要素が3Dで仕上げられている。今年も制作スタッフへのインタビューが実現したので、彼らの画づくりを紹介したい。

記事の目次

    美味しさにどれだけ迫れるのか。VFX的に難易度の高い食べ物シズルへの挑戦

    ——2026年は「お雑煮」とのことで、2024年の「天ぷら」、2025年の「寿司」に続く、食べ物シリーズの第3弾と言えますが、当初から食べ物をモチーフにすると決めていましたか?

    白組:
    そうですね。当初から食べ物に決めていました。VFXのシズルカットは難易度が高いので、どれだけ美味しさに迫れのるかにチャレンジしました。

    ——制作期間や使用されたツールを教えてください。

    白組:
    仕事の合間でのべ10日ほど使って制作しました。参加したスタッフは全部で7名ですが、主に作業していたのは3名です。
    使用したツールは下記の通りです。

    【ソフトウェア】
    Houdini / Blender / Substance 3D Painter / RealityScan / Nuke / Davinci Resolve / Illustrator / Maya(※ごく一部のUV展開など補助的に使用)
    【プラグイン】
    GeoTracker for Blender
    【撮影機材】
    Blackmagic Pocket Cinema Camera 6K Pro、ECM-MS2

    ——今回の制作におけるCG・VFX的なトピックを教えてください。

    白組:
    私たち的には6つのトピックがあります。順番に紹介しますね。

    <1>Houdiniをメインツールに

    今回シーン構築を含めたメインツールをHoudiniにしました。HIPファイルを開いて、ノードをコピーするだけでデータのやりとりができるのでチーム作業がとてもスムーズでした。

    そもそもHoudiniは、シーン構築するツールとしてとても優秀だと感じています。Alembicに変換するとか、シェーダを組み直すといった手間がなく、全てノードにまとめておいて、コピペだけで追加や差し替えといった作業をスムーズに行える点は他のツールにない独自のアドバンテージだと思っています。あらゆるデータがノードひとつにまとめられるのがとても便利です。

    HoudiniのUI

    <2>プロシージャル操作だけで餅をつくる

    餅は、モデリングも画像テクスチャもいっさい使わずに、全てプロシージャル処理だけで作成しました。

    質感はRedshift「Maxon Noise」の組み合わせだけで表現しました。RS Maxon Noiseは様々なノイズタイプが用意されているので、組み合わせることでかなり色々な表現が可能です。プロシージャルに作成することでソフトの横断がなくなるので手返しが良く、思考錯誤がしやすかったです。ちなみに2年前の天ぷらもRS Maxon Noiseを活用して作りました。

    「RS Max Noise」ノードツリー(一部)

    餅が膨らむシミュレーションは、Vellumを使って2回に分けてシミュレーションをかけることで表現しました。

    1回目は、外側の硬い皮用。軽く中のもちを膨らませて、しぼませることでパキッと割れていく皮の動きを表現。そして2回目は、外側の硬い皮をアニメーション付きのコリジョンとして扱い、中のもちを大きく膨らませています。simを2回に分けることで、外側の硬い皮が最初の初動で割れた後は固まるような表現に仕上げることができました。

    ▲ 餅が膨らむ表現(1回目のシミュレーション)
    ▲ 餅が膨らむ表現(2回目のシミュレーション)

    <3>お雑煮の液面

    お雑煮の液面はまず、表面張力の表現に「Volume SDF」を使いました。SDFは表面が0になるボリュームデータです。つゆ(液)と具材をSDFにして、1つにマージしてぼかすことで、表面張力風の形状にしています。簡易的な方法ですが、これだけで十分なクオリティになりました。

    ▲ Volume SDFによる表面張力の表現

    つゆが揺れる動きは、「Ripple Solver」で端を球で叩いてプルンとさせているだけです。こちらも簡易的な液体表現ですが、それらしく見せることができました。

    また、液面に浮く油膜はpscaleでランダムな大きさにしたパーティクルをメッシュ化したものです。Ripple Solverで作成したつゆの液面にrayで貼り付けています。

    ▲ 液面のFX。Ripple Solverの挙動をキャプチャしたムービー
    ▲ 液面の油膜は、Ripple Solverで作成したつゆの表面にrayを貼り付けて表現

    油の動きにはちゃんと流体simを使っていますが、なるべく軽くするように工夫しました。軽くする上では、かなり薄い液面を作り、具材をコリジョンとした状態でVorticity(渦の速度)をONにするとノイズで表面に流体の渦を作り出すことができました。

    この渦の回転データのVelocityデータをパーティクルに適用することによって、浮いた油が渦をまいて動くような様を表現しています。

    ▲ 油膜の流体シミュレーション

    <4>お椀や七輪は、プロシージャルモデリング

    おわんや七輪などのモデルは、全てHoudiniによるプロシージャルモデリングで作成しました。

    マテリアルはSubstance 3D Painterで作成しています。モデルをHoudiniで作ることによって、後からの修正がやりすかったのが良かったです。マテリアルについては、とにかくリファレンスを見ながら丁寧に描き込みました。

    ▲ プロシージャルモデリング「網」
    • ▲ プロシージャルモデリング「お椀」
    • ▲ プロシージャルモデリング「椀の蓋」
    • ▲ プロシージャルモデリング「七輪」
    • ▲ プロシージャルモデリング「箸」
    ▲ Substance 3D Painterによる質感設定「お椀」
    ▲ Substance 3D Painterによる質感設定「七輪」

    <5>3DCGシーンのルックを、現実空間で再現する

    手はフォトグラメトリーで綺麗な形状を取得するのが難しく、近接に耐えられる質感や形状を詰めるのも大変なので、当初から手の部分のみ実写素材を使う想定でVFXの設計を行いました。ねらった画を描くにあたり、一番コストパフォーマンスの高いアプローチを選ぶことがVFX制作の肝だと考えているからです。

    今回の手は一瞬映る脇役です。3DCG要素が約9割という作品だったので、3DCGシーン上でおわんの形状とカメラワーク、シーンのライティングを決め込むことにしました。

    さらに、フォトグラメトリーベースの簡易的な手のモデルを使って実写撮影した手の動きをトレースして、CGに対する影響を再現しました。CGを実写(現実空間)に持っていき、さらにCGシーンへ再輸入するという手順をふむことでコスパとクオリティを両立した手の表現を目指しました(詳細は後述)。

    ▲ 3DCGシーンでルックを設計
    • ▲ CGシーンの設定を再現して実写を撮影
    • ▲ フォトグラメトリーで作成した手のモデルを使って、リフレクションと影を表現

    <6>CGによるシネマティックなレンズ効果の表現

    今回はボケもCG上で追加しています。凸レンズのような形状のガラスオブジェクトと、周囲の光を遮断するトンネル状のオブジェクトをカメラ前に置くことで、本物のレンズのようなボケと口径食を表現しました。ただし、これはあまり理論的なものではなくて、あくまでも画的に良いところをねらって設定しました。

    ▲ 現実のレンズを模したオブジェクト

    食べ物シズルへのこだわり

    ——食べ物シズルを3DCGで表現する上でのこだわりを教えてください。

    白組:
    お餅についてはシズル感を出すために、焦げのグラデーションと透明感、そしてライティングにこだわりました。


    焦げは単純に白色から茶色へのグラデーションにしただけでは作り物感が出てしまうため、本物の餅が焼かれる様を観察して白から濃い黄色、赤茶色、そして焦げた黒の部分へと変化していくように設定しました。

    特に黒い焦げは実際焼いてみると意外とできませんが、これがないと”餅らしさ”が足りなかったので演出的に入れています。

    白組:
    餅の白い部分の質感は、SSSとガラス系のリフラクションを混ぜて表現しています。本当の餅は大量の繊維が詰まっているような構造だと思いますが、それをCG的に解釈して再現しました。さらに、この白い部分の質感にもSimulationを使っています。

    餅の内側の膨らんでくるところは、最初は水気のあるツヤツヤの質感ですが、外気に触れるとすぐにカサッとした質感になります。それを表現するために、外側の皮から内側の膨らむ餅にAttributeを飛ばして、外皮からある程度の距離まで離れたら時間減衰で乾いていくような処理にしました。これは濡れた質感の表現によく使う手法です。

    ▲ 餅が焼かれて膨らむ際の質感にもシミュレーションを利用

    白組:
    餅のライティングでは艶の複雑さを意識しました。例えばそのままエリアライトを置いただけでは、餅やお椀の蓋のようなシンプルな形状だと艶が均質になり過ぎてしまいがちです

    そこで今回は、ソフトボックスの形状のオブジェクトをエリアライトの前に置き、より複雑な艶が出るようにセッティングしました。ソフトボックス自体の質感もマットにはせず、リフレクションを入れるのがコツです。

    ▲ 現実のソフトボックスを3DCGで再現

    白組:
    お雑煮は、餅以外の要素は実際に料理した食材をフォトグラメトリーしたものを利用しています。動かないオブジェクトはCGでイチから作るよりも実物をフォトグラメトリーしたものをベースにした方が、コスパ良く美味しそうに見せられるため、この手法を採りました。

    シェーダは全ての食材にSSSを入れています。余談ですが、RedshiftのランダムウォークのSSSマテリアルをつゆのリフラクションに入れると、黒い筋が出るというエラーがありました。そこで、つゆの液面よりも下はポイントベース、つゆの液面はランダムウォークのSSSに設定することで、このエラーを回避しつつ、なるべくリッチな表現になるようにしています。

    CGシーンのルックに合わせて実写撮影を行うために

    ——実写撮影では、CGシーンで設計したルックを数値的に再現されたとのことですが詳しく教えてください。

    白組:
    まずHoudini上でシーンライティングの設計を行い、それを現実空間で再現した状態で撮影します。さらにその実写撮影時のコンディションをCGシーン上で再現することによって実写とCGの相互影響を表現するようにしました。

    そのために、CGで作成したお椀の蓋を3Dプリンターを使って実寸で出力しました。とは言えこれもひと筋縄ではいかず、最初に出したものは持ちづらくて、大きさにも違和感があるなどの不具合があったため、モデルを修正したものを改めて出力したりもしています。

    3Dプリントしたお椀には、CGシーン上の質感に近づけるために簡易的な塗装も行いました。制作期間が短かったので、金色部分は省いています。

    ▲ 3Dプリントで作成したお椀

    白組:
    撮影では、お椀と同じ直径の紙をバミリとして机に貼った上でお椀を配置。それを基準にカメラとライトを決めていきました。

    ざっくりとした位置と角度はCG上で距離を出しておいて再現。その際、カメラから出した映像とCGのレンダリングイメージをOBSでリアルタイムに重ねてみながら微調整を行いました。

    ライティングでは、現実とCGのグレー玉と銀玉を並べて確認しながら調整していきました。これらの調整を細かく行なったことで、位置、角度、ライティングや反射まで限りなくCGと実写を近づけることができました。”逆HDRI”ですね(笑)

    ▲ 実写撮影の様子。カメラはBMPCC 6Kを使用

    ——蓋を開ける手の表現についても作業手順を詳しく教えてください。

    白組:
    撮影時に限りなくCGに合わせた素材が撮れていたので、手の部分はポン乗せでもほぼ馴染みました。

    ですが、このままでは手の影響(落ち影や反射など)がCGシーンに及ばないため、影とリフレクションを表現するためにCGでも手を作る必要がありました。

    そこで実写撮影時にフォトグラメトリーで手をスキャンしたものを、BlenderのRetopoflowを使って軽くリトポ。それにリグを入れてSubstance 3D Painterで簡易的なスキンテクスチャを描きました。

    手のフォトグラメトリーでは演者に息を止めてがんばってもらってもどうしても細動があるため、フォトグラメトリーで綺麗なデータを得るのが難しいのですが、これぐらいの表現であれば問題ありませんでした。

    RealityScanによる手のフォトグラメトリー
    • ▲ リトポが施された手のモデル
    • ▲ Substance 3D Painterで簡易的なテクスチャが施された手のモデル

    白組:
    実は椎茸の彫り文字でもフォトグラメトリーが活躍しました。

    彫り文字を担当したスタッフが実物に彫ってくれましたが、ちゃんと茹でるとどうしても縮んで文字が崩れてしまいました。そこで軽い茹でに止めた状態の椎茸をフォトグラメトリーしたものを利用しています。

    • ▲ 彫り文字が施された本物の椎茸
    • ▲ 椎茸のフォトグラメトリー。撮影時に作ったお雑煮はスタッフで美味しくいただきました。クリスマス前でしたけど(笑)

    見た目のリッチさだけでなく、五感を刺激する映像表現を追求する

    ——仕上げ作業についてお聞かせください。

    白組:
    ほぼフル3DCGの作品ですが、DaVinci Resolveで編集とカラーグレーディングを行いました。

    食べ物の場合、濃いギトギトなグレーディングにするとどんどん美味しさから遠のいてしまうので、ナチュラル方向だけど撮って出しではないラインを探りました。こうしたルックでもカラーグレーディングは必須の工程です。

    ▲ DaVinci Resolveによるカラーグレーディング

    ——フォーリー作業(音響効果)も皆さん自身で行われたとか?

    白組:
    はい。集音にはソニーの「ECM-MS2」を使いました。コンパクト設計なのに良い感じに広がりのあるステレオサウンドが録れるので気に入ってます。

    餅は実際焼いてもさほど音が出なかったので、焼くときに押し付けるなど、餅をイジめて出た断末魔(プシュ~という音)を使いました。そのほかにも木の蓋を鳴らした音や、スタッフが自宅で録音した環境音などをミックスしています。

    ——公開後の反響を教えてください。

    白組:
    このインタビューは年明け直後のものなのでSNSぐらいしか見ていませんが、それでもたくさんのコメントやリポストなどしていただけて嬉しかったです。

    前作の寿司では、会う人会う人から「面白かった!」と言っていただけたこともあり、今回もお雑煮という食べ物にチャレンジしたという背景もあります。

    私たちは、見た目としての「格好良さ」や「リアリティ」だけを追求しているわけではありません。食べ物であれば美味しさや香りまで感じられるような、五感を刺激する映像を目指しています。今年もがんばります!

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    https://cgworld.jp/article/202501-SHRGM-HNY-VFX.html

    INTERVIEW & EDIT_NUMAKURA Arihito