多くのFPS/TPSでは銃は破壊の手段として使われるが、『Dreams of Another』ではその銃が“世界を創り出す” 装置となる。この逆転の体験を成立させる鍵が、ポイントクラウドの異色の活用だ。キュー・ゲームスの開発陣に、根底にある哲学とその独特な開発スタイルについて聞いた。
※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 329(2026年1月号)からの転載となります。
技術から表現を探る独特の開発スタイル
本作の舞台は“夢” の世界。主人公であるパジャマ姿の男が機関銃を手に、大小様々な粒子が漂う抽象化した空間へ向けて射撃を行うと、弾が着弾するたびに空間が具体的な形を帯びていく。この過程そのものが体験の核となっている。
開発・発売:キュー・ゲームス/リリース:発売中/価格:3,960円/Platform:PS5、PSVR2、PC(Steam)/ジャンル:アクション/アドベンチャー
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本作の企画は、“善と悪” のような単純な対立構造への懐疑から出発している。キュー・ゲームスのクリエイティブディレクターBaiyon氏は「人間は簡単に二項対立で割り切れるものではなく、その多くはグレーに位置する」という前提に立ち、ゲームとしてシンプルかつ多様な解釈が成立する表現を模索していた。
「ゲームにおける“銃は人を倒すための道具” という前提を逆にすることで、実験としてみんなに問いかけたかったんです」(Baiyon氏)。この発想がゲームデザインの基盤となった。
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このように強力なコンセプトをもつ本作だが、芸術家が思うがまま絵を描くようにつくられたわけではない。開発は、キュー・ゲームスによる綿密な技術検証から始まっている。Baiyon氏の創造性を最大限に引き出すために、どの技術が適切かを検討し、その結果として採用されたのがポイントクラウドであった。
CEOのディラン・カスバート氏は、「技術面から着想し、新しい表現の可能性を探るところから始めるのが僕たちのスタイルなんです」と語る。特定の技術を起点に、クリエイターの思想を反映する開発アプローチは、一見先鋭的に見えるが、同社では長年一貫して採用されてきた手法である。
「キュー・ゲームスの開発の中でも、実験を尖らせたのが本作です」とBaiyon氏。実際、開発初期にはR&Dに約半年を費やしたことで、以降の開発がスムーズに進行した。では、その具体的な開発過程を紹介していく。
ゲームの文脈を逆転させる批評的なコンセプト
射撃によって世界を創り出す逆転の発想
『Dreams of Another』の特異性は、ゲームにおいて一般的な、敵の撃破を体験させるゲームデザインから距離を置いている点にある。FPSをはじめ、多くのゲームでは様々な銃器によって敵を射撃したり、オブジェクトを破壊したりするものがほとんどだ。
本作では、この前提をあえて反転させている。銃撃は破壊ではなく“創造” として機能する。Baiyon氏は、単純な撃ち合いや勝敗の構図を超える体験を目指した。「ゲームという文脈の中で銃という記号を用い、人間が抱える矛盾や葛藤を創造の側に乗せたいと考えたんです」(Baiyon氏)。
同じ頃ディラン氏は、YouTubeでUnityのポイントクラウド技術を扱った動画を目にし、点群が織り成すビジュアルから、「これで何かできないか?」と考えていた。その後、Baiyon氏によって、点群が動くしくみと“破壊と創造”というテーマが結びつき、コンセプトはより明確になっていった。
「銃で撃ったとき、飛び散った点群が元のポジションに細かくなって戻っていく様子をポイントクラウドで描けば、創造の表現になるのではないかと考えました。そこで自分のテーマと技術が一気に結びついたんです」(Baiyon氏)。
開発の初期段階では、既存のポイントクラウド表現を幅広く調査した。VJ映像などでは、点群が集約し、ひとつのビジュアルを描き出すものが多い。しかしBaiyon氏は、その“集まる” 動きの逆、すなわちポイントが拡散していく動きを分析するため、点群映像をあえて逆再生し、粒子が広がっていく過程を観察した。
このアプローチは、既存のメジャーな表現手法を踏襲しないための重要な判断であり、結果として本作のコンセプトを具体化していく基盤となった。
『Dreams of Another』のビジュアルは、Baiyon氏が描いたコンセプトアートを起点に構築された。アートワークとポイントクラウド技法を組み合わせることで、氏の作家性をテクノロジーによって引き出す開発プロセスが形成された。
コンセプトアート
「抽象化」と「具体化」
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▲「抽象化」状態のビジュアル。本作では、ポイントクラウドが巨大で透明な円形として存在している段階を「抽象化」と定義している。夢の世界の曖昧さを表現するようにぼんやりとした風景が描かれる -
▲「具体化」状態のビジュアル。プレイヤーが銃撃を行うと、抽象的だった点群が不透明で小さな粒子へと収束し、建物や物体が姿を現していく。この状態を本作では「具体化」と呼んでいる
作家性を支えるポイントクラウド技術
“抽象”と“具体”を行き来する独自の表現を確立するまで
『Dreams of Another』では、ポイントクラウドを“夢の世界の曖昧さ” を支える主要な表現として採用している。巨大で透明な粒子として存在する「抽象化」と、銃撃によって形を帯びていく「具体化」を行き来することで、空間が徐々に立ち上がる構造になっている。
ポイントクラウド表現を成立させるため、開発初期には約半年にわたるR&Dが行われた。これは「いかにしてBaiyon氏のコンセプトをこの技術で表現できるか」を検証する期間であり、透明度の扱い、密度、生成方法、負荷といった課題に対して多角的に取り組んだ。
技術検証を主導したのは、シニア/グラフィックプログラマーのホセ・ルイス・オルティス・ソト氏。本作のポイントクラウド表現は既存ツールに依存したものではなく、Unity上に自作のCompute Shaderや専用描画処理を構築しながら進められた。
開発初期の点群は全て不透明で、しかも非常に重い状態だったが、R&Dを経て透明表現の手法が確立された。
「夢の世界が舞台なので、抽象化した状態の点群はコンセプトアートのようにボヤっとしてほしかったんです。プロトタイプで透明が使えたときは感動しました」(Baiyon氏)。この表現上のブレイクスルーによって、作品のトーンが一気に固まったという。
ポイントクラウドで特にこだわったのは、点群を「全て2D」で描画する点である。ひとつひとつの粒子が常にフラットなテクスチャ付きの四角ポリゴンとなっており、これを大量に配置して“3D的な密度” をつくり出す手法が採用されている。
開発初期には、このフラットな点群にどのように厚みや奥行きを感じさせるかが課題となった。複数の生成方式が比較され、最終的に「テクスチャを貼った四角ポリゴン」による描画方式が選択された。
3Dモデルからポイントクラウドに変換する過程にも試行錯誤があった。変換のたびに点群の分布が変化してしまうため、「モデルを作成したら、ポイントクラウド変換して見た目をチェックして修正」という工程をくり返す必要があった。
「当初はローポリゴンのモデルの方が表現には適しているんじゃないかと思ったんです。ところが点群生成の負荷が大きかった。途中から細分化したモデルにしましたね」(ホセ氏)。
ポイントクラウドは初期状態では重い技術ではあったが、最適化によって最終的な描画負荷は大幅に改善された。本作はPCとPS5でリリースされており、特にPS5のGPU上ではAsync Computeを活用した並列化やバッファ整理によって、高密度の点群をリアルタイムで描画する環境が整えられている。
ポイントクラウドの描画
ポイントクラウドによる描画は、主に3Dモデルの頂点情報とテクスチャ由来のカラー情報のみを使用している。しかし、点群でビジュアルを表現するために、安定性も含めた方法が模索された。
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▲続いて四角ポリゴンでプロシージャルな形状を作成する手法が試された。画面右下のスフィアを基に、UV形状をなぞる四角ポリゴンを生成するものだ。だがこちらはルックがコンセプトに合わず、負荷の高さからボツとなった -
▲これらの試作を経て、最終的にテクスチャを貼った四角ポリゴンを使用する手法に決まった。少ない頂点数かつ処理も高速で透明表現も可能であり、テクスチャパターンも自在に扱える利点があった
各オブジェクトの点群は、一度メッシュからベイクされるだけで、その後の生成や削除は行わない。また法線やPBRライティング用のマテリアルサンプリング情報もベイクしている。
URP 14のDeferredパスを利用し、PBR Litベースのシェーダで描画。さらにダイナミックライト、リフレクションプローブ、SSAO、不透明および透明な点のシャドウにも対応。その結果、オリジナルのメッシュに近い見た目でオブジェクトの点を描画できた。
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▲ポイントクラウド適用前のメッシュ。各モデルは細かくつくられており、テクスチャが設定されている -
▲ポイントクラウドを適用させたビジュアル。【ポイントクラウド適用前】のメッシュとテクスチャを基に、点群が形づくられる
ポイントクラウドのベースモーション
ポイントクラウドの各点には、ふわふわと動くベースモーションが設定されている。これは時間ステップごとに更新されるブラウン運動を基盤としたもので、各点が保持する原点位置でサンプリングした2Dノイズテクスチャによって動きが制御されている。そのため点群は絶えず揺れ動き、夢の世界にふさわしい不定形さを帯びる。
▲ノイズテクスチャの例
抽象化と具体化の遷移
本作のポイントクラウドにおける「抽象化」(下図左)と「具体化」(下図右)の遷移は、2チャンネルの3Dテクスチャによって制御されている。
1つ目のチャンネルは、ワールド空間上での基礎的な抽象度を規定するもの。2つ目のチャンネルは、プレイヤー操作やイベントによって上昇し、時間と共に減衰する一時的な抽象度を管理する。この二層構造により、持続性のある“世界の曖昧さ”と、一時的な変化が共存できるしくみが構築されている。
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▲具体化状態のポイントクラウド。本作の点群は全て、元となる3Dモデルと対応づけられている。点群はモデルのスペキュラ、エミッシブ、ノーマル、メタリックといったPBR属性をベイクして保持しており、どれだけ継承するかというパラメータがシーンごとに設定されている -
▲抽象化と具体化の中間状態。ポイントクラウドは完全な具体化から完全な抽象化までの間を連続的に補間する。補間されるパラメータはスケール、アルファ(透明度)、ステージのテーマカラー、散乱オフセット、ベースモーション
60fpsを実現するための最適化
ポイントクラウドのルックは完成していたものの、初期のPS5実機テストでは処理が追いつかず、60fpsには到達しなかった。大きな要因として点群の更新処理を頂点シェーダ側で行なっていたことがあったため、処理をCompute Shaderに移行し、描画とは別の経路で計算できるようにして改善。
ただし、それでも負荷は高く、GPUとCPUそれぞれの処理のながれを見直す必要があった。描画パスを簡略化し、不要なデータを削るなどの調整を加え、さらに必要に応じて3Dモデル側の頂点数を削るという地道な改善も行い、最終的に安定した描画が実現している。
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▲不要な点群生成を避けるため、同一メッシュが複数箇所で使われるケースでは、Oriented Bounding Box(OBB)を用いて生成範囲を制御し、無駄な点群をブロックした -
▲視認されない内部メッシュにも点群が生成されていたため、内部構造を削除して点数を削減。オクルージョンやバックフェイスに隠れる部分の負荷を抑えた
“夢の世界” の質感を支える動きと演出
ポイントクラウドの挙動を踏まえた演出アプローチ
Baiyon氏が掲げた “普通のゲームとは異なる”、“FPS/TPSの逆を行く” というコンセプトは、アニメーションにも直結していた。通常、ゲームのアニメーションはアクションの手ごたえを表現するためにきびきびと動かすことが多い。しかし本作では、あえてその逆を目指している。
グラフィックデザインマネージャーの倉橋 豊氏は「キビキビ動くと、夢の中には見えないんです」と語り、本作ならではのリズムを探り続けた。「ゆっくりした動きだとゲームとしてどうなんだろう、という難しさはありました。でも、本作のアニメーションは、ポイントクラウドという技術と“夢の世界” という舞台だから成立しているんです」(倉橋氏)。
Baiyon氏も「動きを考えるときは、チームのアニメーターや荻野(後述)と、トライ&エラーをくり返しながらつくってもらっていました」とふり返るように、一般的なアニメーション制作とは異なるアプローチが必要とされた。
実際のアニメーション表現は、キャラクターの挙動そのものをポイントクラウドで描くというものだ。点群には揺らぎのベースモーションが付与され、その上に、さらに元となる3Dモデルのモーションを重ねることで“夢の中” らしい不確かさと存在感が共存する動きを実現している。
VFXアーティストの荻野 聡氏も、カットシーン制作においてBaiyon氏のコンセプトを重視した。「カメラワークを大事にして、ゆっくりと柔らかく動くようにつくっています。何となくの方向性と、自分のもっている方向を合わせて“こうだろう” とかたちにしていきました」(荻野氏)。
Baiyon氏も「荻野にリクエストするときは、各シーンでこういう動きをしてほしいと伝えつつも、いろいろ意見を交わしながら一緒にかたちにしていきました」と語り、相互のフィードバックを重ねながらトーンをつくり込んでいった。
エフェクト表現も同様に“夢の世界” の質感を重視している。UnityのVFX Graphでエフェクトを組み上げたあと、それをポイントクラウドに置き換えることで、本作特有のビジュアルへと統合している。
揺らぎを活かした独自のアニメーション構築
ポイントクラウドのアニメーションは、常に揺らぎをもつ独特の挙動が特徴だ。点群は環境とのランダムな相互作用を基に、力の加算や速度・位置の積分などを含めた処理により更新される。これにより、可変フレームレートでも破綻しない柔らかな動きが得られている。
点群を直接操るエフェクト表現
本作のエフェクトは、点群の“抽象度変化” だけでは動きに限界があったため、点群そのものを操作するしくみが導入された。点群同士の重なりを検知するボリュームと、点群にどんな変化を加えるかを指示する処理を組み合わせ、引き寄せる・押し出す・爆発させるといった動きをCompute Shader 内で直接処理している。
大規模ステージを支える点群管理のしくみ
背景に関しては、ワールド全体が大規模であるため、ポイントクラウドをそのまま扱うと更新にも描画にも莫大な処理が必要になる。
そこで本作では、ステージ全体の点群をスパースハッシュグリッドによる“セクター分割”で管理している。各セクターは、点群の更新処理と描画カリングの両方で用いられ、必要な範囲だけをアクティブにすることで無駄な処理を避けている。
ステージ内の点群データは各セクター単位でGPUメモリ上に保持され、LOD制御や可視範囲の切り替えにもこのセクター構造が活用されている。
CGWORLD 2026年1月号 vol.329
特集:映画『果てしなきスカーレット』
判型:A4ワイド
総ページ数:112
発売日:2025年12月10日
価格:1,540 円(税込)
TEXT_葛西 祝/ Hajime Kasai
EDIT_小村仁美(CGWORLD) / Hitomi Komura、山田桃子 / Momoko Yamada