実在感あふれるクリーチャー表現を持ち味とするCGアーティスト 安岡篤志氏が、沖縄にインスピレーションを得たオリジナルCG短編映画『ウチナー★ヒーローズ』の制作に取り組んでいる。約20年のキャリアを持つベテランが、なぜ今、沖縄の文化をモチーフにした怪獣作品を世界へ届けようとしているのか? なぜ今、日本の特撮というジャンルを3DCGで表現しようとしているのか? 現在CAMPFIREでクラウドファンディングにも挑戦中の安岡氏に、その思いを聞いた。
沖縄発のオリジナルCG短編映画『ウチナー★ヒーローズ』【オリジナル怪獣短編映画】
— 安岡 篤志 / Atsushi Yasuoka (@noribros) January 19, 2026
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CAMPFIREでクラウドファンディングに挑戦中(募集終了は、2026年3月14日(土))。
camp-fire.jp/projects/920846/
沖縄を舞台にしたオリジナルCG短編『ウチナー★ヒーローズ』は、クリーチャー表現を得意とする安岡篤志氏が、企画・脚本・演出からCG制作までをひとりで手がけている意欲作だ。海外展開を視野に全編英語セリフで構成されており、破壊や爆発といった臨場感ある特撮的ビジュアルと、愛くるしいデザインのキャラクターたちの珍妙なやり取りを共存させることで、日本のお家芸とも言える怪獣特撮の新基軸を目指している。
安岡篤志/Atsushi Yasuoka
Director / CG Artist / Creature Designer
1976年生まれ、山口県下関市出身。クリーチャースタジオ 代表取締役社長。現在は、沖縄発の映像プロジェクト『ウチナー★ヒーローズ』を世界へ届けることを目指し活動中。
蝶を追いかけていたら、山を登っていた。
——安岡さんは、CADオペレーターからCGアーティストへ転身されたそうですね。その動機を教えてください。
安岡篤志(以下、安岡):
きっかけは、映画『ジュラシック・パーク』(1993)との出会いでした。スクリーンに映る恐竜たちのリアルさと存在感に衝撃を受けて、「映像でここまでの世界を創れるのか」と強く心を動かされました。
当時の私はCADオペレーターとして働いていましたが、立体を扱う仕事という共通点もあり、「自分もCGで命を吹き込む側に回りたい」と思うようになりました。そこから独学や試行錯誤を重ね、徐々にCG・VFXの道へと進んでいきました。
——独学でCGを習得される過程で、心がけていたことはありますか?
安岡:
正直なところ、「頂上を目指そう」と思って登り始めたわけではありませんでした。面白そうな"蝶"を追いかけていたら、いつの間にか山を登っていた、という感覚に近いです。
気になる表現や映像があれば分解して試し、上手くいかなければまた試す。その繰り返しでした。完成を目指すというより、「どうやっているのか知りたい」「自分でも再現してみたい」という好奇心が原動力でした。気づけば、それが積み重なって今につながっています。
——独学でのCG習得を経てCGアーティストとしてのキャリアをスタートした安岡氏はCGプロダクションで働いた後、フリーランスに転身。『ピンポン』(2002)や『鋼の錬金術師』シリーズ(2017・2022)などで知られる映画監督の曽利文彦氏が参画したunfilmのスタートアップメンバーを経て、2023年に現在の活動拠点であるクリーチャースタジオを設立した。
——安岡さんは基本的にフリーランスとして活動された後にご自身のスタジオを設立されました。不肖の身としては、安岡さんの独立独歩スタイルには頭が下がります。
安岡:
いやいや。会社に所属するという選択肢もありましたが、自分の中では「作りたいものの責任を、自分で引き受けたい」という思いが強くありました。
誰かの指示や枠組みの中で技術を磨く道も素晴らしいと思いますが、私はやはり、自分の判断で挑戦し、失敗し、その結果も含めて引き受ける道を選びたかったんです。
フリーランスとして大切にしてきたのは、まず「信用」です。技術はもちろんですが、約束を守ること、丁寧にコミュニケーションを取ること、最後までやり切ること。そういった積み重ねが仕事をつないでくれました。
もうひとつは、「面白いと思えるかどうか」。規模や条件だけでなく、自分が心から面白いと思える案件に向き合うことで、自然と熱量が生まれ、それが結果につながってきたと感じています。
クリーチャースタジオの設立も、その延長線上にあります。個人として培ってきた自由さと責任感を土台にしながら、より大きな表現や可能性に挑戦していきたいと思い、法人化というかたちを選びました。
破裂ではなく、転機にしようと思った。〜『ウチナー★ヒーローズ』誕生の背景〜
——『ウチナー★ヒーローズ』の構想はいつ頃、どのように生まれたのですか?
安岡:
具体的に動き始めたのはこの数年ですが、種のようなものはずっと前から自分の中にありました。怪獣という存在が好きでしたが、それを単なるオマージュではなく「自分の物語」としてどのように具体化するのかを考え続けていたんです。
転機になったのは、沖縄という土地を改めて見つめ直したことでした。守り神であるシーサー、独特の空気感、強い日差しと影、その中にあるユーモアと切実さ。怪獣という非日常の存在と沖縄の日常を掛け合わせたら、これまでにない物語になるのではないかと感じました。そこから「もし、この街に怪獣が現れたら?」というシンプルな問いが生まれ、少しずつ世界観とキャラクターが形になっていきました。
——拝見した企画書にあった「爆発寸前の自分がいました。赤く熟れたゴーヤのように」という言葉が印象的でした。この思いがクラウドファンディングへの挑戦につながりましたか?
安岡:
あの言葉は、正直な心境から生まれたものです。長く制作を続ける中で、外からは順調に見えていたかもしれませんが、内側では葛藤や焦り、自分自身への疑問を抱え続けていました。「このままでいいのか」「本当に作りたいものを作れているのか」といった思いが、静かに積もっていった時期があったんです。
赤く熟れたゴーヤという表現は、限界に近い状態。つまり"爆発寸前"の自分を象徴しています。ただ、そこで感情のままに破裂するのではなく、それをひとつの転機にできないかと考えました。壊れるのではなく、方向を変える。消耗するのではなく、創作へと転換しようと。
クラウドファンディングに挑戦する以前から、水面下ではずっと企画を書き直し、世界観を練り直し、自問自答を繰り返していました。誰かに見せる前に、自分自身を説得する時間だったのかもしれません。あの一文には、そうした静かな覚悟を込めました。
——山口県ご出身の安岡さんが沖縄を舞台に選ばれた理由は?
安岡:
私は山口県下関市の出身ですが、沖縄に関わる中で強く感じたのは、風土と文化が地続きで生きているということでした。シーサーが街角に自然に佇み、祖先や土地への祈りが生活の中に息づいている。そうした精神性が観光的な記号ではなく、今も日常の中にあることに強く惹かれました。
また、沖縄の光と影のコントラスト、鮮やかな色彩、どこか哀しみとユーモアが同居している空気感も印象的でした。明るさの裏側にある歴史や記憶の重み。その両面性が、私にとっては非常に創作的でした。
怪獣という存在は、非日常の象徴でありながら、その土地の感情や記憶を背負わせることができる存在だと思っています。沖縄という場所で怪獣を描くことは、単なる舞台設定ではなく、土地の持つ強さや優しさ、そして痛みを物語に投影できる可能性があると感じました。
——『ウチナー★ヒーローズ』は、怪獣映画でありながらコメディというジャンルとして作られているそうですね。その意図を聞かせてください。
安岡:
怪獣という存在は、もともと恐怖や破壊の象徴として描かれてきました。その力強さや迫力は今も大きな魅力ですが、一方で私は、怪獣という存在に「少しの可笑しさ」や「人間的な余白」を感じる瞬間にも惹かれてきました。巨大で恐ろしいはずの存在が、どこか愛おしく見える瞬間。その感情の揺らぎこそが、怪獣という題材の奥行きだと思っています。
コメディを選んだのは、怖さを否定するためではなく、"振れ幅"を広げるためです。絶望や緊張があるからこそ、そこに差し込むユーモアが効く。笑いは緊張を緩めるだけでなく、観客の感情をより深く動かす力を持っています。
さらに、CG特撮という表現様式は物理的な制約が少ない分、ふりきった演出や極端な状況を描くことができます。実写では成立しづらいような大胆なデフォルメやタイミングの妙も、CGであれば精密に設計できます。その表現の自由度とコメディは、非常に相性が良いと感じました。
怪獣は怖いだけの存在ではなく、その土地や人間の感情を映す"鏡"でもある。CG特撮とコメディの掛け合わせは、その鏡の表面を少し曇らせたり、歪ませたりしながら、新しい角度から怪獣を見せる可能性があると感じています。
Blenderは、個人制作における最強の統合環境だと思う。
——企画書には「実写とアニメの境界を曖昧にする映像」という目標が掲げられています。映像技法的にはどのようなアプローチで実現しようとされていますか?
安岡:
「実写とアニメの境界を曖昧にする」というのは、単にフォトリアルを目指すという意味ではなく、"存在感"を本物に近づけるという意図です。
映像全体の設計思想は「光を中心に組み立てる」ことです。まずカメラと光の関係を決め、その中でキャラクターや背景をどう置くかを考えます。エフェクトは最後に足すのではなく、"光が当たる前提の環境"として最初から設計しています。
具体的には、雨は単に降らせるのではなく地面やキャラクター表面での反射や濡れ感まで含めて設計し、霧はボリュームとして配置して遠近感とスケール感を強調する。逆光はシルエットを強く出すことでCG特有の「のっぺり感」を消す。火花や破壊エフェクトは、物理的な重さと慣性を意識したシミュレーションで生成します。レンダリング後のコンポジット工程でも、レンズ特性(フレア、色収差、微細な揺らぎ)を加えることによって、実写カメラで撮影したような"偶然性"を意図的に創り出します。CGは整いすぎると嘘っぽく見えるため、あえて不均一さやノイズ感を加えることもあります。
——CAMPFIREページに制作ツールは、「Maya / Blender / After Effectsほか」と書かれています。MayaとBlenderはどのように使い分けていますか?
安岡:
実は、現在は作業の約8割をBlenderで行なっています。モデリング、リギング、アニメーション、エフェクト、最終レンダリングまで、ほぼ中核はBlenderです。
Blenderを積極的に採用しているのは、「個人制作における最強の統合環境」だと感じているからです。1つのソフトウェア内でモデリングからボリューム表現、ジオメトリノード、ライティング、レンダリング、さらには簡易コンポジットまで完結できる。この一体感は、フルCG短編を一人で制作する上で大きな武器になります。特に本作のように雨・霧・粉塵・破壊などのエフェクトを多用する作品では、ボリュームシステムやプロシージャルワークフローが非常に相性が良いと感じています。
Blenderは"コストパフォーマンスが高いツール"というよりも、"独立したクリエイターの思想に合ったツール"だと感じています。制限が少なく、カスタマイズ性が高く、コミュニティの進化も早い。個人で戦うには、非常に頼もしい存在です。
Mayaも長年使用してきたツールであり、信頼できる場面では今後も活用していきますが、スピードと柔軟性、そして発想をすぐ形にできる機動力という点では、現在は私ひとりで制作しているという意味でもBlenderが中心ですね。
——現在はおひとりで全ての制作を行われているそうですね。苦労されている点と、逆に個人制作だからこそ実現できていることを教えてください。
安岡:
今、一番苦労しているのは「判断をすべて自分で背負うこと」です。モデリング、リグ、アニメーション、エフェクト、レンダリング、コンポジットまで、工程ごとに求められる視点が異なります。客観性を保ちながらクオリティを担保し続けることは、技術的にも精神的にも負荷が大きい部分です。
1カットの密度を上げれば上げるほどスケジュールは圧迫されます……。どこまでやるのか、どこで止めるのか。その判断は常に難しいものがあります。
その一方では、個人制作だからこそ生まれる強みもあります。それは「トーンの統一」です。カメラの重さ、光の扱い方、怪獣の質量感、間の取り方など。全ての要素をひとつの感覚で設計できるため、映像全体にブレが生じにくいと感じています。
また、途中で思いついたアイデアを即座に反映できる自由さも大きい。脚本、演出、デザインが同じ頭の中で循環しているため、「キャラクターがもう一段階変身する」といった大胆な変更も組織的な調整を経ずに決断できます。
孤独な作業であることは確かですが、その分、作品の細部まで自分の責任と感覚が宿る。それが個人制作の厳しさであり、同時に最大の強みだと思っています。
——CAMPFIREの目標金額500万円ですが、企画書には総制作費1,640万円という記載があります。この差額について教えてください。
安岡:
企画書に記載した約1,640万円は、理想的な制作体制を想定した場合の総制作費です。言い換えれば、7分程度の映画クオリティのCGアニメーションを商業レベルで制作する場合の予算です。具体的には、外部クリエイターへの発注や専門スタッフの起用など、商業作品として万全の体制を整えた場合の見積もりになります。
それに対してCAMPFIREで設定した目標金額500万円は、「完成へ確実に到達するための最低ライン」として算出しました。多くの工程を自ら担い、制作体制をコンパクトにすることで、必要経費を大きく圧縮して進めています。理想予算と実行予算のあいだには、役割の内製化という明確な差があります。
500万円という金額は、戦闘シーンや最終仕上げ(レンダリング・音響・字幕など)に必要なリソースを投入し、作品を妥協なく完成させるための現実的な目標として設定しました。理想予算は作品のポテンシャルを最大限に引き出すための規模感、クラウドファンディングの目標金額は"必ず完成へ持っていくための現実的なライン"。この二層構造が、今回の数字の背景にあります。
——このインタビューを実施した時点では、約4分の予告編が完成しており、主要キャラクターの基本アセットや世界観の構築も、ショットワークに入るための土台は整っているとのこと。ただし、本編後半の戦闘シーンに向けた、破壊された建物などの専用アセット制作は引き続き進行中だという。さらに、キャラクターの変身形態のデザインおよびリグ調整、シェーダー再設計も重要な工程として残っているそうだ。
巨匠たちが注目する、沖縄発の怪獣CG特撮への本気度
——安岡さんのXポストをギレルモ・デル・トロ監督がリポストされました。ほかにも小島秀夫氏や、樋口真嗣氏など、第一線で活躍している監督たちがこのプロジェクトを応援されているそうですが、どのように受け止めていらっしゃいますか?
安岡:
とても光栄で、同時に身の引き締まる出来事だと感じています。
なぜ共感していただけたのかを正確に知ることはできませんが、ひとつは「本気でやり切ろうとしている姿勢」ではないかと思っています。派手な実績や大きな体制ではなく、限られた環境の中でも妥協せず、怪獣というジャンルに真正面から向き合っている点を見ていただけたのかもしれません。
安岡:
大げさに聞こえるかもしれませんが、怪獣や特撮という文化は、単なるエンターテインメントを超えた"思想"や"祈り"を内包しているジャンルだと感じています。巨大な存在を通して人間を描く。その構造に強く惹かれてきたクリエイターの方々だからこそ、『ウチナー★ヒーローズ』のテーマや情熱の部分に何か響くものがあったのではないか、と推測しています。
一連のSNS投稿では、完成形だけではなく、試行錯誤や葛藤も含めてありのままを見てもらおうと思っています。制作の過程そのものを共有してきたことが、同じ創作者の方々にとってはリアルに映ったのかもしれません。もちろん、まだ道半ばです。少しでも共鳴していただけているのだとしたら、それは"怪獣を本気でやる"という覚悟そのものに対してのものだと思います。
——最後に、2026年内の完成に向けて、CGWORLD読者へのメッセージをお願いします。
安岡:
基本的には最後までひとりでやりきる覚悟で制作しています。ただ、それは「誰の力も借りない」という意味ではありません。
もしCGWORLD読者の皆さんにお願いできることがあるとすれば、それは"本気で意見をぶつけてほしい"ということです。
クオリティに対して厳しい目を持つ方々に「ここは甘い」「ここはもっといける」と言っていただけることは、何よりも制作の推進力になります。また、ボリューム表現、破壊シミュレーション、最終レンダリング設計など、技術的な挑戦を共有し合える仲間も求めています。
『ウチナー★ヒーローズ』は、僕ひとりの作品でありながら、同時に"日本のCG特撮がどこまでいけるのか"という挑戦でもあります。無理をするのではなく着実に。その姿勢で2026年の完成を目指しています。
「怪獣を、本気でやりましょう」
——かつて「面白そうな蝶を追いかけていたら山を登っていた」と語った安岡篤志氏が、今また新たな蝶を追っている。それは沖縄の太陽の下でうごめく、誰も見たことのない怪獣の姿かもしれない。
INTERVIEW & EDIT_NUMAKURA Arihito