リアルタイムCGテクノロジーの進化により、映像系のCG・VFXプロダクションがインタラクティブ領域へ事業を広げる動きが活発になって久しい。2021年1月にデジタル・ガーデン、TTR(旧TYOテクニカルランチ)、ルーデンス、メディア・ガーデンの4社が合併して誕生したTREE Digital Studioも、映像制作の技術分野で培った長年の歴史と実績を土台に、REALIZE事業部を通じてインタラクティブ領域で活躍している。本稿では、企画提案からシナリオ、CG制作、キャラクター/グラフィックデザイン、そしてプログラム開発までをREALIZEが一貫して担当した宇宙ミッション体験コンテンツ『スペースワーカーズ』を紹介する。

記事の目次
     綾部市天文館パオ / 宇宙ミッション体験コンテンツ『スペースワーカーズ』 

    ワンストップ体制の確立に向けた大きな一歩

    京都府にある天文台「綾部市天文館パオ」の新たな体験型コンテンツ『スペースワーカーズ』は、“宇宙ではたらく”をテーマに、プレイヤーが宇宙船のクルーとなり、未来の宇宙空間で任務を遂行する体験型コンテンツ。最大3人のプレイヤーがそれぞれ操縦桿を操作しながら同時にプレイし、協力して任務達成を目指すというものだ。

    ミッションは、火星に荷物を届ける『宇宙の宅配便』、スペースデブリを回収する『宇宙の清掃隊』、そして地球へと向かってくる巨大隕石を破壊する『地球の防衛隊』の3種類。難易度の異なるミッションから1つを選択する。


    コックピットの前方に配置された3面の大型4Kモニタには、宇宙船の窓越しに広がる宇宙空間が映し出され、操作アクションに応じて座席が振動することによって、まるで本当に宇宙船を操縦しているような没入感が体験できるという。

    綾部市天文館パオ 体験型コンテンツ『スペースワーカーズ』紹介動画
    <TREE Digital Studio Staff>
    コンテンツディレクター:藤木秀作
    クリエイティブディレクター / プランナー:岡村靖弘
    テクニカルディレクター:根岸雅人
    CGデザイナー / エンジニア:山本秀樹
    CGデザイナー:小林唯斗
    アカウントプロデューサー:楽々朝光
    プロジェクトマネージャー:新井遼太郎

    本コンテンツは、京都府綾部市によるプロポーザル案件として採択されたもの。TREE Digital Studio REALIZE事業部(以下、REALIZE)は企画提案をはじめ、シナリオ制作、CG制作、オリジナルキャラクターおよびグラフィックデザイン、プログラム開発までを一貫して担当した。

    同社のオウンドメディア『REALLAB』記事によると、REALIZEは以前から、受託案件だけでなく、自分たちが主体となって企画から納品までワンストップで請け負える体制の確立を目標に掲げていた。

    この案件のきっかけは、プロジェクトマネージャーを務めた新井遼太郎氏が、以前在籍していた新規事業開拓を担うBusiness Development事業部時代に公募を見つけたことだった。公募案件への挑戦は今回が2回目。1回目は採択に至らなかったが、その経験から確かな手応えをつかんでいた。そこで今回は、宇宙系コンテンツの制作に携わったデザイナーやプログラマーを中心に、最初から知見をもったチームで臨み、見事採択された。

    “子ども騙し”ではなく、“ガチ”の宇宙体験を目指す

    ここからはQ&A形式で本プロジェクトの制作舞台裏を紹介しよう。

    ——まずは全体的なスケジュールと制作体制を教えてください。

    コンテンツディレクター 藤木秀作氏(以下、藤木)
    公募への入札後、2025年5月から7月にかけて、企画のブラッシュアップとそのプレゼンを経て、企画内容を最終決定するという流れで進みました。その後、現地調査などを経て、9月からコンテンツ制作が始まりました。

    コンテンツ制作では、3つのストーリー(ミッション)を、プロトタイプから作成して、10月と11月の2ヶ月間でテストを繰り返しながら段階的に仕上げていきました。プロトタイプでは、デザイン要素を含まない状態でのプレイ感を確認し、その後、デザイン要素が含まれたアセットの入れ込みを行なっていくという要領で開発を進めました。

    そして年末にはコンテンツの全体の完成形が確認できる状態まで実装を行なった後、2026年1月に現場施工、機材の搬入などを進めて2月に納品というながれでした。

    制作体制については、コンテンツ自体をわれわれREALIZEのメンバーが担当しました。コクピットの筐体は、これまでも様々な案件でお世話になっているコンセプトカーメーカー「村上商会」さんにデザイン・設計・制作まで一括してご担当いただきました。そしてコンテンツ全体の建築設計・施工は、京都を拠点に特建(特殊建築物)の実績も豊富な「イチケン」さんにお願いしました。

    ——本プロジェクトは、「天文館パオ」を運営する京都府綾部市によるプロポーザル案件だったそうですね。文字通り皆さんから提案する必要があったわけですが、“宇宙ではたらく”というテーマはどのように生まれたものですか?

    クリエイティブディレクター / プランナー:岡村靖弘(以下、岡村):
    いただいたオリエンの骨子は「宇宙船を模した装置の座席に操縦桿を設置。宇宙船を操縦しながらミッションをクリアしていく」というもの。コンテンツの内容としては自由度の高い課題設定でした。

    そこで、天文台という子どもたちにとって学びのある空間に設置されるコンテンツであることを考慮し、単なるライド系シューティングではなく、プレイした子どもたちが未来の宇宙に対して現実的な興味や想像を抱くようなコンテンツにしたいと考えました。プレイヤーとなる“子どもの視点”をベースに、コンセプトやストーリーのフレームを明快に提示するという方針で企画を詰めていきました。

    そして“宇宙ではたらく”というテーマの根底にあるキーワードとして掲げたのが「想像力とリアリティ」です。

    子どもは想像力の塊です。ただし、その一方でとても現実主義的でもあります。例えば、スマホが欲しい子どもは、おもちゃのスマホではなく、大人が使っている本物を欲しがる。子どもは“子ども騙し”が嫌いなんです。同じことは体験型コンテンツにも当てはまります。要は、大人と同じ“リアルな体験”がしたいわけです。

    ▲ 岡村氏が企画段階で作成したアイデアメモより。岡村氏はクリエイティブディレクターとして、コンセプト立案/企画監修/キャラクターデザインを担当した

    岡村:
    このアイデアを詰める上で参考になったのが、キッザニアでした。キッザニアの街並みには、実在する企業がパビリオンを出展しています。各パビリオンの体験では、ユニフォームや道具、使う食材なども全て本物そっくりで、子どもたちは「子ども扱い」されることなく、ひとりの小さな大人として扱われる。この“ガチの職業体験”が人気を集めています。

    宇宙をテーマに“ガチ”を実現するのは難しいですが、“宇宙ではたらく”というミッションの設定にリアリティを込めることで、没入感とともに、宇宙に対して現実的な興味を持ってもらえるはずだと考えました。

    “スペースデブリ(衛星などの破片ゴミ)”はすでに問題になっていますし、日常的に身近な“宅配便”も、宇宙で確実に必要になるはずです。そうしたリアリティや自分ごと化こそが、体験の価値だと考えています。その体験から“もっと知りたい”という気持ちが生まれれば、学びにつながるのだと思います。

    細部までリアルさにこだわった操縦席

    • ▲ 村上商会によるコクピットの設計図
    • ▲ 完成した操縦席。子どもたちが触れるものなので安全性には細心の注意を払い、ミリ単位の調整を重ねたという
    • ▲ 操縦桿のアップ。村上商会は10人ほどのチームで、コックピットの企画・デザインから設計、部品の制作、現地での荷上げまでトータルで担当した
    • ▲ 村上商会の星宮祐樹氏が特に見てほしいのは、背面デザインとのこと。設置スペースの制約上、平面にする必要があったそうだが、ラインを光らせたり、内部のエンジンが透けて見えるかのような精細なシールを貼るなど奥行きを感じるデザインにすることでハイクオリティに仕上げられた

    子どもたちが自然と協力し合える3人同時プレイの設計

    ——『スペースワーカーズ』のターゲット設定についてお聞かせください。

    藤木:
    小学生をターゲットに設定して、各ミッションは1〜3人で同じ体験ができるように設計しました。

    今回の空間設計では、宇宙船を模した筐体、遊び心をかき立てる操縦桿、そして大きなモニター3枚に囲まれた没入型の空間という、誰もが「一度はやってみたい」と思わせるようなワクワクする要素が揃っていました。
     
    だからこそ、来館いただいた子どもたちとそのご家族に満足してもらえるよう、リアリティを感じる宇宙表現の作り込みや、舞台のダイナミックさも意識しました。3つのミッションは難易度こそ異なりますが、いずれもシンプルな操作設計を重視して、幼児でも楽しくプレイできる内容に仕上げています。

    ——最大3人で同時プレイできる点がユニークです。

    藤木:
    ここが最も苦労したところです(苦笑)。開発過程では1人でプレイするときでは成立していた体験が、3人になると破綻してしまうといった問題に何度も向き合いました。
     
    例えば宇宙船の操作では、3人がそれぞれ行きたい方向に操縦桿を倒すと、機体がバラバラに動いているように見えてしまい、同時プレイの一体感が薄れてしまいます。そこで、3人の入力を合算する処理を採り入れました。1人が上、もう1人が左に操縦桿を倒すと、宇宙船は左上に移動する。この仕様によって、1つの宇宙船をみんなで操っている一体感を生み出しました

    チームワークについても同様です。3人の操作が同時に行われたときのみインタラクションが反応するように設計することで、プレイする子どもたちが互いに協力し合う意識を高められるように演出しています。

    ——3つのミッションはどのようなアプローチで設計していきましたか?

    藤木:
    ミッションは、次の3種類です。

    A:火星に荷物を届ける『宇宙の宅配便』
    B:スペースデブリを回収する『宇宙の清掃隊』
    C:地球へと向かってくる巨大隕石を破壊する『地球の防衛隊』

    ……Aを比較的易しい内容とし、BからCにかけて操作のボリュームが増えるように難易度を分けています。体験時間は、どのミッションも8分程度で設計しました。

    ミッションAは、求められる操作がシンプルなものを中心に構成しています。一方、BやCでは、狙いを定めることが重要になる、やや難しい内容としました。また、繰り返しプレイしてもらうための工夫として、各ミッションのプレイ度合いをスコアとしてデータ化し、ミッションの最後にランクを発表する演出を組み込んでいます。

    ランクは3段階で、「かけだし」「一人前」「エリート」と上がっていきます。エリートクルーを目指して、何度も楽しみながらプレイしてくれる子どもたちの姿を見たときは、実装して良かったと感じました。

    ▲  試作段階におけるテストプレイの様子。操縦桿をむちゃくちゃに動かす、ボタンを連打するといった小学生ぐらいの子どもたちがやりそうな操作を繰り返しながら、機材の耐久性とUEシーンのデバッグを重ねたという

    難易度の異なる3つのミッション

    ▲ ミッション『宇宙の宅配便』プレイ画面。レンダリングサイズは、W11,520 xH2,160。中央のキャラクターが本コンテンツ向けに開発したナビゲーションロイド「パオット」。右のキャラクターは、綾部市のマスコットキャラクター「まゆピー」。制作途中でまゆピーも登場させることが決まったそうだが、2体のキャラが登場することでよりバラエティに富んだストーリーにすることができたという
    ▲ ミッション『宇宙の清掃隊』プレイ画面。前方3面の大型モニターには、宇宙船の窓越しに広がる宇宙空間が映し出される。これまでにも多くの宇宙関連のインタラクティブコンテンツや映像の制作に携わってきた経験と知見を活かすことで、子どもたちにとってのキャッチーさとリアリティを両立させている
    ▲ ミッション『地球の防衛隊』プレイ画面。宇宙での仕事体験というテーマに沿って、宇宙についてしっかりと学べるようにゲーム特有の誇張表現を抑えることも意識したそうだ
    ▲ ミッションクリア後のランク発表シーン。伝わりやすいデザインの工夫として、UIへのルビ振りだけでなく、文言についても子どもたちが1〜3人でプレイすることを想定しながらわかりやすい表現になるように、チーム内で様々な意見を出し合って決めたという

    見るだけでは得られない価値を、体験を必要とするあらゆる施設へ

    ——ミッションコンテンツの制作に使われた主なツールを教えてください。

    CGデザイナー / エンジニア:山本秀樹氏(以下、山本):
    主にUnreal Engine 5(以下、UE)を使用しました。

    UE上ではプレイの進行やミッション内での各インタラクション、UIの制御など、多くの処理をBlueprintで実装しました。一部のアニメーション作成にはUEのコントロールリグを、アニメーション制御にはAnimationBPなどの機能を活用し、効率的に作業を進められるよう工夫しています。

    ——今回のような体験型コンテンツを開発する上で意識されていることを教えてください。

    山本:
    体験型などのインタラクティブコンテンツと映像制作の大きなちがいは、「映像的に進行する」パートと「ユーザーが操作するインタラクション」パートをシームレスにつなぐ必要がある点だと思います。

    特に、メインとなる2体のキャラクターについては、パート間をまたいでも自然に、生き生きと存在しているように見せる必要がありました。単純にシーケンスを切り替えるのではなく、アニメーション同士が自然につながる仕組みを用意して、それを基にデザイナーがキャラクターへ動きを付けていく。このような進め方にすることで、プレイヤーとなる子どもたちの集中が途切れないよう工夫しました。

    ▲ UEによる開発例。宇宙空間にBox Collisionで範囲を指定した上でアクターをランダムに生成・配置する仕組みを実装している
    ▲ 一連の開発では、Blueprintを活用することで効率良く作業することを心がけたという

    ——REALIZEはデジタルガーデン時代の「DGI Interactive」チームが前身だと思いますが、これまで着実に実績を重ね、体制も拡充されてきたことを実感しました。最後に、REALIZEの今後の展望をお聞かせください。

    藤木
    多くのデジタルコンテンツに、いつでもどこでもスマートフォンやPCで簡単にアクセスできる時代において、エンターテインメントに求められるレベルも自ずと高くなっていると日々感じています。

    そうした背景がある中で、天文台や博物館など、発見・驚き・学びがある施設に私たちのコンテンツを導入していただけることには、とても大きな意義を感じています。

    REALIZE事業部としては、見るだけでは得られない価値や、その場へ行って体験することにこそ意味があるインタラクティブコンテンツを、それを必要とするあらゆる施設、そして訪れるお客様へ提供していく。そこに、よりいっそう力を入れて取り組んでいきたいと考えています。

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    cgworld.jp/feature/202003-jtkt-dgi.html

    TEXT & EDIT_NUMAKURA Arihito