情緒的な物語体験を特徴とする『OPUS』シリーズは、タイトルごとにゲームデザインや世界観を刷新しながらも、「愛」「魂」「自己実現」というテーマを一貫して描いてきた。最新作『OPUS: Prism Peak』では、写真撮影を軸としたインタラクションを通じて、新たなグラフィック表現と体験設計に挑んでいる。
※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 334(2026年6月号)からの転載となります。
カメラを通して世界と向き合うゲーム体験
台北に拠点を置くインディーゲームスタジオ、SIGONO INC.が手がける『OPUS』シリーズは、独自の物語体験を追求してきた作品群だ。宇宙を舞台とした『OPUS 地球計画』(2015)や、終末世界を描いた『OPUS 魂の架け橋』(2017)など、作品ごとにアプローチは大きく異なるが、「愛」「魂」「自己実現」というテーマを一貫して描き続けている。
開発:SIGONO INC./販売:集英社ゲームズ/リリース:発売中/価格:3,480円/Platform:Nintendo Switch2、Nintendo Switch、PC(Steam)/ジャンル:さよならを撮り直す、フォトアドベンチャー
opuspp.shueisha-games.com
©SIGONO INC. / SHUEISHA, SHUEISHA GAMES
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最新作『OPUS: Prism Peak』(以下、Prism Peak)では、このテーマを踏襲しつつ、かつて報道カメラマンとして活動していた中年男性を主人公に「撮影」というインタラクションを核に据えた体験へと発展させた。
SIGONO INC.のクリエイティブディレクターであるブライアン・リー氏は、「クラシックカメラを通して見える世界と手触りにより、“心で世界を見る” ことを重視しています」と語る。シャッター時のレンズ調整や、ゆっくりと変化する被写界深度、レンズによる視野の圧縮といった表現を通じて、プレイヤーに「自ら一瞬を捉えた」という実感を与える設計となっている。
Brian Lee/ブライアン・リー氏
Co-Founder/Creative Director SIGONO INC.
www.sigono.com
開発は約20名の少人数チームで行われた。カンバン方式によるタスク管理を基本とし、日々の進捗共有をもとにミーティングを最適な時間にスケジューリングするしくみを導入。会議は原則として午前中に限定されており、各メンバーが集中して開発に取り組める環境が整えられている。
パブリッシングは集英社ゲームズが担当。グローバル展開に向けたマーケティングや各プラットフォームへの対応に加え、多言語ローカライズやボイス収録、展示会出展などの面でもサポートを行い、作品を世界へ届ける役割を担っている。こうした体制のもとで構築された『Prism Peak』のビジュアルは、どのような思想と技術によって支えられているのか。以降、その画づくりのアプローチを詳しく見ていく。
2Dと3Dの融合で描く郷愁の世界
感情に訴えかける独自のスタイライズド表現
『Prism Peak』のビジュアルは、鮮やかなキャラクター表現と、どこか懐かしさを感じさせる風景表現の対比によって特徴づけられている。本作では「郷愁感」や「夢の中でしか見られない故郷」といったキーワードを起点に世界観が設計されており、日本のアニメーション作品もリファレンスとして参照されたという。
キャラクター表現については、前作『OPUS 星歌の響き』(2021)で確立されたアニメ風スタイルを踏襲しつつ、本作ではフル3Dによる表現へ拡張。前作では主に静止画ベースの演出が中心だったが、本作では3D空間内で一貫したルックを維持する必要があり、新たなアプローチが求められた。
「アニメ風のスタイルに近づけたかったのですが、ありきたりにはしたくありませんでした」(リー氏)。その方針の下、本作ではキャラクターモデルの描画時に色面の面積を減らす処理を導入。これにより、2Dキャラクターが登場した際にも3Dとの乖離が生じにくくなり、独自の美しいビジュアルを実現している。
環境表現においては、広大さやスケール感を強調するのではなく、「記憶に残る感情の断片」を丁寧に積み上げることが重視された。夕暮れの稜線、湿度を感じさせる逆光、自然の中に佇む人物の小さなシルエットといったモチーフを通じて、プレイヤーの感情に訴えかける構図が設計されている。その実現のため、3D表現はフォトリアルではなくスタイライズドな方向性が選択された。
特に重視されたのが光の扱いだ。本作では現実の再現を目的としたライティングではなく、「夢の中のような朧げな感覚」を生み出すことが目指された。そのため、あえて写実的なシーンをベースとしながらも、光の反射やハイライトの調整によって印象的な画づくりを行なっている。
こうした表現を支える開発環境には、Unity 6とURP 17が採用された。3DモデリングにはBlenderとSpeedTree、アニメーション制作には外部との連携も考慮してMayaを使用。ツール選定においては「オープンソースを優先し、コストをコントロール可能にする」という方針が掲げられており、少人数チームでも高品質なビジュアルを実現できる環境が構築されている。また、開発プロセス全体を通して重視されているのがイテレーションの速度だ。
データ同期や開発フローの効率化を徹底することで、短いサイクルで検証と改善をくり返し、最終的なクオリティへと到達している。
アートスタイルと画面設計
光と空気感の演出
開発を支える独自ツール
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▲Blender向けに自社開発されたMountainToolbox Add-On。Unityプロジェクト内のFBXを直接インポート/エクスポートでき、元のBlenderファイルを保持せずに運用可能。自動チェックや修正機能も備え、人為的なミスの削減に寄与 -
▲Tool_FilmToolbox。MayaとUnity間のアニメーションパイプラインを連携させるエディタで、Maya上にUnityのシーンを再構築し、そのままゲーム内でのプレビューが行える
繊細な感情表現を支えるキャラクター制作
シルエット設計とシェーダ制御によるキャラクター構築
『Prism Peak』の魅力のひとつが、繊細なキャラクター表現だ。主人公ユージンは40歳の中年男性であり、その内面には複雑な感情が宿る。こうしたニュアンスをプレイヤーに伝えるため、本作では細やかな表情や身体の動きまで含めた表現設計が行われている。
2Dデザインから3Dモデルを作成する際に重視されたのは、シルエットの再現だ。まず全体の輪郭とキャラクターごとのプロポーションを決定し、その後にディテールを積み上げていく。この工程において特徴的なのが、画風の「数値化」である。目の間隔や鼻筋のカーブ、毛束のリズムといった要素を定量的に整理し、3Dモデルに反映することで、2D特有の印象を再現する。マテリアルも、ラフネスやエッジハイライトなどのパラメータを調整し、キャラクターの個性を強調する方向で設計されている。
キャラクターのメインシェーダにはNiloToonURPを採用。このシェーダは、ソフトフォーカスや明暗、シャドウキャスト、リムライトの方向や強度といった要素をレイヤー的に制御できる点が特徴で、シーンごとに最適な見え方を柔軟に調整できる。
感情表現の面では、フェイシャルとアニメーションの設計が重要な役割を担う。ユージンのような中年キャラクターは、細かな表情の変化やボディランゲージから複雑な内面を伝える必要がある。その一方で神霊キャラクターは動物的な外見をもちながら人間の感情を備えており、そのギャップを動きによって表現している。
カットシーン制作では、初期段階で絵コンテを用いて全体像を共有しつつ、主なカット割りは自社開発したDCCツールの3D環境内で行う。このツールはUnity TimelineとMaya間のデータ連携が可能となっており、アニメーションと実装を横断した制作フローを実現している。
具体的には、脚本をUnityへ取り込み、演出トリガーとセリフを設定。その後、Mayaへデータを移してレイアウトを作成し、ワンクリックでUnity Timelineへ書き戻してプレビューと調整を行う。ブロッキングから最終アニメーションまで段階的に仕上げていくながれだ。レベルデザインとアニメーションを並行して制作するため、このパイプラインによりディレクターと開発メンバーは早い段階から実機に近い状態で確認が可能となる。結果として、全体のクオリティと表現の一貫性を高めることができたという。
シルエットを起点としたキャラクター制作フロー
キャラクターデザインの制作フローは、キャラクター設定から始まり、デザイン画の作成、シルエットとボディランゲージの検証、3Dブロックアウト、ハイ/ローモデルおよびマテリアルの構築、リグとフェイシャルの設定、そしてUnity上でのライティング検証というながれで進行する。
モデル仕様とテクスチャ
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▲主人公のひとり、レンのメッシュ。ユージンとレンのポリゴン数はそれぞれ約26,000トライアングル、約30,000トライアングルで構成されている -
▲レンの完成モデル。シェーダとマテリアル設定を適用した最終的なルック
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▲顔のベースカラーマップ。テクスチャは顔・髪・身体の3パーツに分割され、それぞれ1,024×1,024で統一されている -
▲顔の追加マップ。スペキュラやエミッションなどの機能テクスチャをパッキングしたもの
NiloToonURPで実現するアニメ調ルック
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▲NiloToonURPの設定画面。各種パラメータを用いてキャラクターの陰影表現を制御する -
▲ソフトフォーカス、明暗、シャドウキャスト、リムライトの方向や強度などを統合的に管理可能。2Dアニメのような陰影表現を3D上で実現している
キャラクターの感情を伝える表情と演技
▲モーションキャプチャ収録の様子。中年主人公の繊細な感情表現を再現するため、微細な動きを重視している
リアルタイム確認を前提としたカットシーン制作
詩的リアリズムを目指した環境表現
光と動線で設計するスタイライズド背景
『Prism Peak』の舞台となる「ボウの地」は、「見覚えがあるのに、どこか見知らぬ自然」というコンセプトの下、設計された。目指したのは詩的な印象とリアルさを併せもつ風景表現だ。東アジアの山林風景をベースにファンタジー要素を組み合わせ、光と影のコントラストやハイライトを強調することで、夢の中のような印象を生み出している。
背景制作は、まずリードアーティストが脚本とディレクターの要件を基にコンセプトアートを描いてカラートーンと雰囲気を確定、その後、レベルデザイナーがUnity上でグレーボックスを構築する。ここでは動線とレベル構造の大枠を決定すると同時に、使用するアセットのリストアップも行われる。
このグレーボックス工程は開発全体の基盤となる重要なフェーズだ。通路や障害物の高さなど、レベル全体で共通となる設計ルールを定め、必要なアセットの種類と数量を早期に確定する。これにより、後工程で制作されたモデルをスムーズに差し替えることが可能となる。
続いて、3DモデラーがBlenderを用いて背景アセットを制作。本作では高度なスタイライズド表現を採用しているため、テクスチャにあまり依存せず、自作シェーダによるパラメトリックな制御でルックを統一している。
ライティングは単なる見た目の調整にとどまらず、プレイヤーの動線設計とも密接に関わる要素だ。グレーボックス段階から光の方向や強度を設定し、シーンの誘導と演出を同時に成立させている。最終段階ではライトマップのベイクとポストプロセスを適用し、カットシーン単位でのライティング調整も行う。
空気感の表現においては、リアルなボリュメトリック表現に依存せず、スタイライズされた光と影の組み合わせによって奥行きを演出している。木漏れ日や影の境界といった視覚要素を用い、詩的な印象を損なわない範囲で空間の深度を構築している点が特徴的だ。
効率化の面では、モジュラー設計とプロシージャル手法を組み合わせた制作フローを採用している。自作シェーダにより、簡単なパラメータ操作で様々なマテリアル表現を生成し、UV展開やバリエーション制作にかかるコストを削減。さらにSpeedTreeを活用することで、多様な植生アセットを効率的につくり出している。
トーンと空気感を方向づけるコンセプトアート
レベル設計と連動した背景制作フロー
スタイライズドな光で構築する空気感
モジュール設計とプロシージャルによる効率化
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▲背景にはソフトブロック/ハードブロックといった進行制御用の要素を設定。グレーボックス工程で通路は四角形のアセットを使用する、ソフトブロックは腰の高さを超えないようにするなどいくつかのルールを設定することで、レベル全体で必要なモデルの種類と数を割り出している -
▲ソフトブロック(水色)、ハードブロック(赤)の配置を可視化した画面。アセットごとの役割を明確化
CGWORLD 2026年6月号 vol.334
集:WEB ✕ 3DCG
判型:A4ワイド
総ページ数:112
発売日:2026年5月9日
価格:1,540 円(税込)
TEXT_葛西 祝 / Hajime Kasai
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada