2026年6月23日(火)、Epic Games Japan本社にて、報道関係者向けのラウンドテーブルが開催された。本イベントは、6月にアメリカ・シカゴで開催された「Unreal Fest Chicago 2026」の発表内容を日本向けに紹介するもので、Unreal Engine(以下、UE)5.8やUE6の方向性、オープンなクリエイターエコシステムの実現に向けたロードマップなどが解説された。


Epic Games Japan代表の河﨑高之氏、カスタマーサクセスディレクターの篠山範明氏に加え、国内パートナー企業としてバンダイナムコスタジオより『鉄拳8』テクニカルディレクターの稲城 聡氏が登壇し、ゲーム開発現場におけるUE5の活用事例を紹介した。本レポートでは、その内容をクリエイター向けに整理して紹介する。


記事の目次

    Epic Games Japanと日本市場の位置づけ

    まず河﨑氏から、Epic Gamesにとって日本市場が重要な位置づけにあることが語られた。

    「日本は世界で最も影響力のあるゲーム会社やアニメーションスタジオ、テクノロジー企業が集まる国です。こうした企業やスタジオから寄せられるフィードバックが、Unreal Engineの世界規模での進化の方向性を形づくっています」(河﨑氏)。

    ▲Epic Games Japan代表・河﨑高之氏

    その一例として挙げられたのが、日本で開催される「Unreal Fest Tokyo」だ。2025年は約1,800名が参加し、過去最大規模を記録したという。


    背景にあるのは、UEの活用領域の広がりだ。現在ではゲーム開発だけでなく、映像制作や建築、自動車、製造業など幅広い分野で導入が進んでおり、それに伴って国内コミュニティも拡大を続けている。


    続いて河﨑氏は、Epic Gamesが目指すクリエイターエコシステムについても説明。「UEと『フォートナイト』、そして『フォートナイト』向けコンテンツを制作できるUnreal Editor for Fortnite(UEFN)を横断し、より効率的に制作・協業し、お客様へリーチできる、オープンなエコシステムの実現を目指しています」(河﨑氏)。

    その中でも重要な役割を担うのがUEFNだ。『フォートナイト』の月間アクティブユーザーは8,000万人を超え、2025年にはUEFNで制作されたコンテンツの総プレイ時間が43億時間に達したという。


    日本でも、ユーザーがUEFNで開発したコンテンツのプレイ時間比率は70%以上に達しており、ユーザー制作コンテンツを楽しむ文化が大きく広がっている。


    河﨑氏は、こうした統計について「クリエイターエコシステム全体で、開発者やクリエイターにとってゲーム開発の機会がますます広がっていることを示しています」と評した。


    余談になるが、ここで、Epic Gamesが掲げるクリエイターエコシステムを象徴する国内事例として、『めっちゃカメレオン』にも触れておきたい。開発者へのインタビューによると、レモリオン氏とはがねいろ氏がゲーム開発を始めたきっかけは、UEFNのサービス開始だったという。

    両氏はUEFNで様々なゲームを制作しながら開発スキルを磨き、その後、Steamでの販売を見据えた本格的なマルチプレイヤーゲームとして『めっちゃカメレオン』をUEで開発した。オンラインマッチングにはEpic Online Servicesも採用し、その結果、本作は大きなヒットを記録している。

    『フォートナイト』のプレイヤーがUEFNを通じてゲーム制作を学び、その経験を活かしてUEによる商業作品へと発展させる。この流れは、Epic Gamesが目指すクリエイターエコシステムが現実の成功事例としてかたちになったケースのひとつと言えるだろう。

    Unreal Engine 5.8アップデートの三本柱

    続いて篠山氏より、6月18日に正式リリースされたUE 5.8について、「高品質なグラフィックスを維持しながら、パフォーマンス向上やカクつきの解消に重点を置いた、実践的かつ現実的なアップデート」と位置づけが語られた。50〜60項目に及ぶ更新の中から、特に重要な3つの機能が紹介された。

    ▲カスタマーサクセスディレクター・篠山範明氏

    まず取り上げられたのは「MegaLights」だ。従来、ライティングアーティストはパフォーマンス上の制約から、使用できるライト数を意識しながら配置する必要があった。MegaLightsではこの制約が大きく緩和され、数千単位のダイナミックシャドウ付きライトを配置しても、描画負荷を一定に保てるようになった。これにより、ライティング表現の自由度が向上するとともに、パフォーマンス検証に費やす工数も大幅に削減できるという。

    続いて紹介されたのは「Lumen Light」だ。これは、UEのグローバルイルミネーションシステム「Lumen」を軽量化した新モードである。LumenはリアルタイムGIとして広く活用されている一方、処理負荷の高さから採用が難しいプラットフォームもあった。


    Lumen Lightでは、画質をできる限り維持しながら描画負荷を大幅に削減。これにより、これまでLumenの利用が難しかったNintendo Switch 2などのプラットフォームでも採用しやすくなるという。


    最後に紹介されたのは、「マーカーレスモーションキャプチャ」だ。人物を撮影した映像から、キャラクターの身体・顔・手の動きを抽出し、アニメーションデータとして出力できる。従来のモーションキャプチャのように専用スーツやマーカーを必要とせず、モーション収録のハードルを大きく下げられる点が特徴だ。


    会場では、本機能のデモも披露された。スマートフォンで撮影した映像を入力するだけでモーションデータを生成でき、その手軽さが印象的だった。

    デモでは、頭部や四肢だけでなく、手指の細かな動きまで取得できることが示された。

    出力できるのはボディアニメーションだけではない。デモではフェイシャルアニメーションにも対応していることが示され、一般的なゲーム開発で必要となるモーション収録の多くをカバーできる印象を受けた。

    一方で、会場で確認したデモでは出力フレームレートは30fpsだった。高フレームレートで細かな動きを収録したい用途では、従来のモーションキャプチャシステムが引き続き優位となる場面もありそうだ。

    それでも、スマートフォンだけでモーション収録を行えるメリットは大きい。大規模なモーションスタジオを用意できない少人数チームはもちろん、プロトタイピングやモック制作のために素早くアニメーションを作成したい場面など、幅広い用途での活用が期待される。


    UEとAIをつなぐ実験的機能「MCPサーバ」

    さらにUE5.8では、実験的機能として、UEとLLM(大規模言語モデル)を接続するMCPサーバが実装された。

    MCP(Model Context Protocol)は、LLMがアプリケーションやツールと連携するための共通プロトコルだ。これにより、UEをClaudeやGeminiをはじめとする様々なLLMと接続し、開発ワークフローへ組み込めるようになる。

    デモでは、ClaudeをLLMとして使用し、自然言語で指示を与えながらUE上のシーンをリアルタイムに構築していく様子が披露された。

    例えば「モダンなリビングルームを作りたい」と入力すると、指定したAIモデルがシーン内にソファや家具を自動で配置する。さらに「本が散らばっている部屋にしてほしい」と追加で指示すると、室内の各所へ本を配置し、シーンをリアルタイムに更新していった。


    さらに、都市規模の環境構築もデモとして紹介された。地区の区画定義から道路や建物、植生の生成までを一貫して実行し、LLMと連携することで大規模なワールド構築も効率的に進められることが示された。

    同様のアプローチはライティングにも応用できる。例えば夕暮れの空を紫色に演出したい場合、従来は太陽の角度や雲の状態、ポストプロセスなど複数のパラメータを手作業で調整する必要があった。MCPを活用すれば、こうした調整も自然言語による指示だけで実行でき、ライティング作業の効率化につながるという。

    MCPの活用範囲はゲームロジックにも及ぶ。危険度を示すUIの表示や、キャラクターの接近に応じた煙や爆発エフェクトの発生など、インタラクティブなしくみもMCPサーバによって構築できるという。こうした機能は手作業で実装すれば数か月を要するケースもあるが、MCPサーバとUEを組み合わせることで数日程度まで短縮できると説明された。

    一見すると、画づくりの大部分をLLMへ任せるようにも見えるが、篠山氏は「LLMに全てを任せるのではなく、開発者自身がクリエイティビティを発揮しながら細かく指示を加えることで、本当に作りたいものを忠実に形にできます」と説明。負担の大きい作業をAIへ委ねることで、人間がより創造的な判断やアイデア創出に集中できる環境を目指しているという。

    ゲーム開発の大規模化に伴い、人手による実装や調整に多くの工数を要することは、近年の開発現場における大きな課題のひとつとなっている。AIを活用してそうした負担を軽減する取り組みも昨今ではよく耳にするようになり、MCPサーバもその流れを象徴する技術のひとつと言えそうだ。

    さらに映像・VFX制作向けのワークフローとして、UEのシーンレイアウトの深度情報を画像生成モデルに入力し、高品質な画像や動画を生成する手法も披露された。



    ▲深度情報で構成したレイアウトを生成モデルに読み込ませ、プロンプトで生成したい画像を指示する

    画像生成にはNano Bananaが使用されており、生成した画像はUnreal上で手動編集できる状態で出力される。こちらも実験的機能として、来年の公開を予定している。



    ▲「1950年代のガソリンスタンド風の室内を作りたい」とプロンプトで指示すると、深度情報で構成したレイアウトを基に、高精細な画像や映像が生成される

    Unreal Engine 6に向けた3つの開発指針

    UE5.8の紹介に続き、講演では次世代バージョンとなるUE6の方向性についても説明された。

    篠山氏は「UE6ではUE5とUEFNを統合し、既存のActorやBlueprintも引き続き利用できます」と説明。UE6は事前の発表で「Blueprintが将来的に非推奨になる」ということに関して、ユーザーから賛否両論の反応があったものの、当面は継続して利用できる見込みだという。また、Verseへの移行に向けて、Blueprintからの移行ツールも提供する予定としている。

    UE6は2027年末頃にアーリーアクセス版を公開し、その6〜12か月後に正式版をリリースする予定だ。

    篠山氏は、「UE6には次世代のゲーム開発に向けた3つの指針があります」と語る。第一の指針は、次世代プログラミング言語「Verse」の採用だ。

    VerseはUE6の基盤となる言語であり、大規模かつ持続的なゲームワールドの構築を言語レベルで支援するよう設計されている。従来はプログラマーが個別に実装していた並列処理や同期処理なども、より意識せずに記述できるようになるという。

    さらにVerse上には新たなゲームプレイフレームワークも構築される。制作したコンポーネントを複数のゲーム間で再利用しやすくし、開発効率の向上を目指す。

    第二の指針は、「ポータビリティ」の実現だ。作成したコンテンツやコードを、ゲームやエンジンの垣根を越えて利用できる環境の構築を目指す。

    具体的には、glTFやUSDといった業界標準フォーマットをファーストクラスのフォーマットとして採用。標準規格が存在しない領域については、Verse APIやアセット規約、ドキュメントを含めたUnreal独自仕様をオープンに公開し、あらゆるエンジンやツール、スタジオが自由に実装できるようにするという。

    ポータビリティの実践例として、『フォートナイト』のスキンをUE6のオープンモジュールとして公開し、他のゲームから『フォートナイト』の衣装を利用できるしくみの構築も発表された。あわせて、他ゲーム向けに制作した衣装を『フォートナイト』でも利用可能にするツールの提供も予定しているという。

    さらに、MetaHuman DevKitをMITライセンスでオープンソース化し、あらゆるゲームやエンジン、プラットフォームでMetaHumanを利用できるようにする方針も示された。まずはリグ ロジックとMetaHuman DNAの2つのツールセットを公開し、今後順次拡張していく予定だ。

    第3の指針は、LLM(大規模言語モデル)を活用した開発効率の向上である。一部では「LLMがあればゲームエンジンは不要になるのではないか」という議論もあるが、篠山氏はEpic Gamesの考え方について「LLMはレベル設計やキャラクター制作、ライティング調整などを自動化・効率化し、クリエイターがより創造的な作業に集中できるようにするためのものです」と語った。

    UEは引き続き、高品質かつクロスプラットフォームに対応したランタイムとして中核的な役割を担うという。UE6ではLLMやエージェントワークフローをコンテンツ制作へ本格的に取り込み、自然言語で伝えた意図をそのまま制作パイプラインへ反映できる環境を目指している。

    あわせて、バージョン管理システム「Lore」のリリースも予定されている。Gitなどのソースコード向けバージョン管理システムとは異なり、ゲーム開発で扱う大規模なバイナリアセットの管理に最適化されたシステムで、MITライセンスのオープンソースとして公開される予定だ。

    バンダイナムコスタジオ『鉄拳8』におけるUE活用

    続いて登壇したのは、『鉄拳8』(2024年1月26日発売、現在シーズン3を展開中)のテクニカルディレクターを務める稲城 聡氏だ。バンダイナムコスタジオにおけるUEの活用事例を紹介するとともに、シーズン3で追加された最新キャラクターのトレイラーも披露された。

    ▲『鉄拳8』テクニカルディレクター・稲城 聡氏(バンダイナムコスタジオ)

    鉄拳7』で内製ライブラリからUEへ移行して以来、開発チームではUEを採用している。グラフィックスにはUEを活用する一方、『鉄拳』シリーズのゲームコアは独立したモジュールとして維持する方針を採用してきた。


    鉄拳8』でもこの構成は踏襲されている。コアライブラリが『鉄拳』ならではのプレイフィールを担い、UE5のレンダリング技術によってビジュアルを実現するという役割分担だ。


    演出面では、シーケンサーの本格導入が大きな転換点となった。『鉄拳7』ではMatineeを一部の演出に限定して使用し、バトルプログラムへの依存が大きかった。一方、『鉄拳8』ではシーケンサーを全面的に採用したことで、演出ワークフローの改善とクオリティ向上を実現している。


    シーケンサーは、バトル中の登場・勝利・因縁演出、ラウンド間演出、レイジアーツ(必殺技①)、ヒートスマッシュ(必殺技②)、投げ、ステージ演出(レベル常駐型・ステージギミック・バトルからのイベント通知型)、ストーリーモードのデモシーンなど、幅広い場面で利用されている。さらに、バトル以外でもキャラクターセレクトやプロフィール、カスタマイズモード、アーケードクエストなどに採用されているという。

    今後のUEに期待する要素として稲城氏は、Nanite、Lumen、MegaLightsによる高品質かつ安定したレンダリング、Scene Graphによるゲームスレッドの最適化、MCPや高速な起動・アセットロード・アセットビルド・シェーダコンパイルによる開発効率とイテレーションの改善、そしてVerseへの対応を挙げた。

    今回のラウンドテーブルでは、UEからUEFNまでを含めたクリエイターエコシステム全体の方向性が改めて示された印象だ。また、AIを活用した開発支援など、クリエイターがより創造的な作業に集中できる環境づくりが、今後の大きなテーマとして語られた。


    現在のゲーム開発は、個人・少人数によるインディー開発から、大規模なAAAタイトルまで、それぞれ異なる課題を抱えている。UE5.8で実装された新機能からUE6で掲げられた構想までを通して見えてきたのは、そうした幅広い開発現場が抱える課題を、共通のプラットフォームとして解決しようとするEpic Gamesの姿勢だった。


    TEXT_葛西 祝 / Hajime Kasai
    EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada