2026年9月9日(水)、東京・有楽町の Tokyo Innovation Base(TIB)にて、「現代版トキワ荘」起業家育成プログラムの第1期生によるプロトタイプ発表会が開催された。東京都が進める「世界に羽ばたくアニメーター等の育成支援事業」の一環として、約11か月にわたり制作と事業化に取り組んできたクリエイターが、自身が作り上げたオリジナルIPと、その今後の展望を発表し、また、そのIPをともに発展させていく支援者を募るイベントだ。

当日は、アニメプロデューサー・脚本家の櫻井大樹氏による基調講演に続き、起業家育成プログラム第1期生の8名が登壇。Webコミックや、生成AIを活用したアニメーションなど、多彩な取り組みが紹介された。どのような手法で、またどのような思いから作品が作られたのか、そしてその作品をIPとしてどのように育てていくつもりなのか、本記事ではそれぞれの制作者自身が語ったプレゼンテーションの内容と、業界関係者による講評をお届けする。

記事の目次

    制作環境と事業化支援を結びつける「現代版トキワ荘」起業家育成プログラムとは

    「現代版トキワ荘」起業家育成プログラムは、アニメや漫画のクリエイターに制作の場と学びの機会を提供し、オリジナルIPの事業展開を支援する取り組みである。活動の拠点となるのは、東京・中野の東京コンテンツインキュベーションセンター(TCIC)内に整備された「アトリエラボ」。

    作画から音声収録、編集までを一貫して行える環境に加え、専任支援員によるデジタル制作スキルの指導、経営の知識や資金調達のノウハウの提供、さらには販路開拓や協業先・投資家等とのネットワーキングといった出口支援など、IPの誕生から発展拡大までを見越した一貫したサポート体制が設けられている。

    第1期は2025年10月にスタート。デジタル技術の活用を学び、共通課題の制作に取り組んだ後、2026年春から各自のオリジナルIPをもとにプロトタイプと事業化プランを練ってきた。今回の発表会は、そこで生まれた成果を業界関係者へ届け、協業につなげる場でもある。

    司会進行を務めたのは ABCテレビの北村真平アナウンサー。冒頭では、小池百合子東京都知事がビデオメッセージを寄せ、2026年秋に開催予定の「TOKYO ANIME NEXT」の開催にも触れつつ、東京都が日本のコンテンツ産業を盛り上げていく決意を語るとともに、第1期生が作品を通してコンテンツ産業の担い手となり、世界へ羽ばたくことへの期待を述べた。

    続いて、日本動画協会理事長・石川和子氏の挨拶を、同協会専務理事の鈴木則道氏が代読し、アニメーションの世界が技術の進化やグローバル市場の拡大による大きな変革期にあること、そしてそんな中で、クリエイティブの力はもちろん、それをビジネスへと昇華させる起業家精神を持った人間がこれまで以上に求められているというメッセージが語られた。

    ▲発表会に寄せられた小池百合子東京都知事によるビデオメッセージ

    櫻井大樹氏が語る、クリエイティブとビジネスの視点

    続いて、株式会社サラマンダー代表・櫻井大樹氏による基調講演がなされた。講演のテーマは「グローバルで活躍するクリエイターになるために――クリエイティブとビジネスの視点」だ。

    櫻井大樹氏は『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』で脚本家としてデビューし、『精霊の守り人』『おじゃる丸』などに参加。『ジョバンニの島』をきっかけにプロデューサーへ転身し、2017年にはNetflixへ入社、アニメクリエイティブチームのディレクターとして『ポケモンコンシェルジュ』『機動戦士ガンダム 復讐のレクイエム』などの企画に携わり、2023年6月にサラマンダーを設立。現在は同社の代表取締役として、作品の企画・開発に取り組んでいる。

    様々な立場で多彩な作品に携わってきた櫻井氏だが、実は当初からクリエイティブの世界を志向していたわけではないという。大学院でメディアの研究をしていた頃、指導教員に勧められてProduction I.Gを訪ね、意見交換したことをきっかけに『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』に関わることになったそうだ。その後、スタジオジブリへ制作として出向した際も、そこで築いた人間関係が後の仕事へと繋がっていった。

    「最初はそこまで乗り気ではないと思っていたことが、その後のチャンスに繋がっているなと思います。初めはあまり興味がないなと思っても、ノーと言わずに、とりあえずやってみようか、とりあえず行ってみようか。そういう姿勢は役に立っていたかなと、今になって思います」(櫻井氏)。

    一方、自ら強く希望して参加した『おじゃる丸』では、脚本が通らない時期が続いた。周囲の脚本家が次々と作品を仕上げる中で、自分だけなかなか採用されず、翌年はもう声がかからないのではないかと思いながらも脚本を書き続けていたところ、4年目に突然、脚本が採用されはじめ、監督からも「突然上手くなったのはどうして?」と驚かれたという。

    「自分の成長には、意外と自分自身では気付かないものだと思います」と、本人の経験を交えながら、なかなか芽が出なくても、努力を続けることの重要性を櫻井氏は語った。

    さらにNetflixへと転職してからは、当初は日本企業との仕事のやり方の違いに戸惑いつつも、国際的なチームで働くための考え方を学べたという。

    こうした経験を経て、櫻井氏はサラマンダー(Salamander Pictures)というアニメーション制作会社を設立した。櫻井氏がサラマンダーにおいて社員やスタッフに伝えていることが3つあるという。1つ目は、クリエイティブの能力を持っていること、2つ目は、予算やスケジュールの管理のマインドを持っていること、そして3つ目は、英語の能力を身に付けること。

    「大手であれば一つの領域においてスペシャリストであればそれが強みなるかもしれないが、小さな会社だと、ユーティリティプレイヤーとして、ひとりが様々なことをこなせることが求められると思います。今後、クリエイターの方々がグローバルな舞台で活躍したいと希望する場合は、やはりクリエイティブが強いだけでは通用しづらく、マネジメントの能力や英語能力も必要のではないかと思います」(櫻井氏)

    講演の後半では、生成AIを使った短編アニメーションの制作事例が示された。櫻井氏はAIについて、賛成か反対かという立場から扱うのではなく、制作のためのツールとして捉えていると説明した。生成AIを使いたくないクリエイターには使わない環境を、使いたいクリエイターには使える環境を用意することが会社の役割だとして、サラマンダーでも制作中の作品4つのうち、1つは生成AIを使用し、他の3つは全く使っていないという。

    今回紹介されたのは、長い時を経ることで魂が宿った道具「付喪神」を題材にしたアニメーション作品の、制作途中の映像だ。

    「予算が安くなるとか、スケジュールが短縮できるということ以上に、AIでこれをつくったことに意味があるものにしたいと思い、この題材を選びました。古い道具が新しい道具に置き換えられていく、そんな話を、最新の道具であるAIで作るのは皮肉が効いているんじゃないかと思ったんです。AIであっても、100年後には古い道具になるわけですから」と櫻井氏は語った。

    そして最後に、過渡期であるアニメ業界、エンタメ業界を担う次世代のクリエイターが様々な場で学び、日本と世界で活躍することへの期待を述べ、講演を締めくくった。

    続いて、第1期生のプロトタイプ発表が始まった。

    第1期生の発表に講評を寄せたのは、今泉裕美子氏(ツクリエ)、宇田英男氏(ノーヴォ)、武井梨名氏(Chammi)、西山司氏(DLE)、土方隆氏(KADOKAWA)の5名。各発表に対し、2名ずつがコメントした。

    石塚瑛介氏『鉛鳩(ダヴズマン)の契約書』

    最初に登壇したのは、アニメーションクリエイターの 石塚瑛介氏。東京工科大学デザイン学部で映像を専攻し、卒業後は独特な世界観のアニメーション作品を多数制作してきた。写真をコラージュしてアニメーション化する映像表現を得意とし、国内外の映画祭への出品・受賞経験も持っている。

    そんな石塚氏が今回発表したのは「鉛鳩(ダヴズマン)の契約書」というwebコミック作品。従来のwebコミックと異なる、漫画の途中にフルカラーのアニメーションページを組み込む「フルアニメ入りWebコミック」という形式であることがアピールされた。スマートフォンでスクロールして読み進めると、特定の場面でキャラクターが動き出すことで、従来のコミックとは異なる読者体験が生まれることを狙っている。

    作品の舞台は、怪物から人々を守るため、遺伝子操作によって生まれた社員たちが働く企業。組織の中で生きるキャラクターの生き様と、それを通じて社会への違和感を描くという狙いがある。また、新人と直属の上司のバディものとしての物語としても、サラリーマンのバトルアクションとしても楽しめる。特にメカを装着したサラリーマンのアクションについては、「これは単純に僕のフェチです。異論は認めません」と、石塚氏は強く思い入れを語った。

    会場では実際の作品内容についてのPVが上映され、世界観やストーリー、キャラクターの紹介などがなされた。今後はWebコミックとして、出版社などと協業しながら、モーションコミック動画の配信やタイアップに繋げていく展開を目論んでいるとのことで、広く協力を呼び掛けた。続いて、講評の時間となった。

    土方氏は、ブラック企業をある意味肯定的に使っているところが現代風で面白いと評価しつつ、紙では実現できない漫画の見せ方を評価した。一方で、1人でやっていくにはカロリーの高い表現であることを指摘し、これから仲間を見つけていけば面白いことになるのではないかとコメントした。

    宇田氏は、これまで言及されていた石塚氏のスーツへのフェチズムについて改めて言及し、やりたいことが一貫していることを評価した。

    ▲石塚瑛介氏によるwebコミック作品『鉛鳩(ダヴズマン)の契約書』

    あるみらん氏『王女のブルーアネモネ号』

    続いて登壇した あるみらん氏は、漫画・イラスト・映像を横断して活動するクリエイター。商業作品の連載と並行してオリジナルIPシリーズの企画・制作に取り組むなど、精力的に活動を続けてきた。そんなあるみらん氏が今回プレゼンしたのは、オリジナルIP『王女のブルーアネモネ号』。

    この『王女のブルーアネモネ号』は、YouTubeショートの総再生数が、現時点で3,500万回を超えているという。特に反響が大きいのは、キャラクターの表情や感情、互いの関係性を切り取った動画だという。コメント欄には登場人物への長文の感想が寄せられ、グッズを購入するファンもおり、既に多数のファンが付いている作品でもある。

    あるみらん氏が本プロジェクトに参加したのは、この『王女のブルーアネモネ号』を、さらなる次のステップに進めたいという思いがあったからだという。あるみらん氏がそんな意気込みを語るとともに、会場内で作品紹介ムービーが上映された。

    オリジナルの音楽や音声を組み込んだアニメーションは、あるみらん氏にとって初めての試みだったという。これからは漫画作品を完成に向けて進めつつ、作品を知ってもらうための様々な入り口を設けるため、現在は1人でおこなっている制作体制を、専門的な力を持つチーム制作での環境へと移行させていきたいと語った。

    原作漫画を中心として、そこまでの動線となる入り口を増やしていくために、シナリオや企画をともに考える伴走者、資金や継続の仕組みを相談できるパートナーを集めたいと呼び掛け、プレゼンテーションを締めくくった。続いて、講評となった。

    武井氏は、漫画、イラスト、ショート動画などの多面的な展開を、本人が主導している点を評価した。また、現時点で既にSNSを中心に熱量の高いファンがついていることはビジネス的に強く、作品の可能性を数字で示す材料になるだけでなく、販売やマーケティング、制作仲間の募集などもSNSでやっていけるのではないかと助言し、次の展開を楽しみにしているとコメントした。

    西山氏は、あるみらん氏が3月の発表会でほぼ初めてアニメーションに挑戦し、今回の発表でもうかたちにすることができるところまで持ってきた努力を、自身もアニメ制作者であるという立場から評価した。また、キャラクター同士の交流や関係性を重視する作風にも期待を寄せた。

    アンドウマキュウ氏『コスモっ子』

    映像作家の アンドウマキュウ氏は、家庭用ゲームやアニメーションなどのCG制作に携わりながら、個展やアートフェスで絵画・映像を発表するなど、多彩な表現に取り組んできた映像作家。そんなアンドウマキュウ氏が今回紹介したのは、宇宙から地上へやってきた、小さな宇宙人のキャラクター『コスモっ子』の映像作品だ。

    このキャラクターが生まれた背景には、アンドウ氏自身の経験がある。アンドウマキュウ氏は以前、ひどく体調を崩し、仕事や日常生活が難しくなった時期があったが、そんな時でもスケッチブックに絵を描き続けていた。そんなスケッチブックの中から生まれたキャラクターが、その当時の孤独で辛い気持ちが投影された『コスモっ子』だった。

    初めて開いた個展で披露すると、多くの人が『コスモっ子』を気に入り、作品を手に取ってくれたという。さらに個展を重ねるうち、ワークショップやアートフェス、ピッチイベントに参加する機会も生まれた。

    「『コスモっ子』の物語は、僕自身の物語だったと思っています。自分が育てたというよりも、この子が紙の中から出てきてくれて、僕の手を引いて、ここまで歩いて来たような感覚です」と、アンドウマキュウ氏は語った。

    今後の展開として、今回プロトタイプとして発表した2分の映像を、10分ほどのショートフィルムにまとめて、国内外の映画祭に出品していきたいと考えているそうで、そのための知見を持つ人に、話を聞かせてもらいたいと呼び掛けた。

    講評において宇田氏は、シンプルに素敵な映像だと評価するとともに、作品作りによって自身が救われたという経験を多くの人に伝えていってほしいと語った。

    武井氏は、キャラクターの可愛さや色づかいを評価するとともに、「孤独」が、世界中の誰もが感じたことのある普遍的なテーマであることを指摘した。また、映画祭への出品を目指すなどの今後の展開については、全てを自分でやろうとせず、ビジネスが得意な人と組むなど、自分のやりたいことをどんどん沢山の人に伝えることで、チームでもっと大きな展開に繋げられるのではないかとアドバイスした。

    加藤都子氏『市場で暮らす魚たちの物語』

    加藤都子氏は、東京水産大学(現、東京海洋大学)を卒業後、鮮魚店、水産食品メーカー、漁業系団体等に勤務しながら、イラストや漫画を制作してきた。

    今回の企画の出発点も、その現場で感じてきた課題だという。近年、海の環境の変化によって魚が獲れなくなったり、獲れる魚の種類が変わったりしており、さらに日本では魚を食べる人の減少もあって、水産業を取り巻く環境は厳しい。「そこで私は、水産業を元気にするために、魚のファンを増やしたいと考えました」と加藤氏は語る。そして、そのための方法が、魚をモチーフにしたIPの創作だった。

    ここで、加藤氏の制作した、市場で暮らす魚たちを描くアニメーションが上映された。三陸沖を泳いでいたマサバが市場にやってきたことから始まり、チョウチンアンコウやマダコなど、様々な魚介類のキャラクターと出会っていく。加藤氏は、この『市場で暮らす魚たちの物語』をYouTubeで毎週金曜日に公開しているそうだ。

    会場で配布された魚のキャラクター入りカレンダーをはじめ、今後はぬいぐるみやガチャ景品、トレーディングカード、シールなど、キャラクターIPを活用した多様な展開を構想しているという。キャラクターを入り口に魚のファンを増やし、そのファンが産地まで魚を食べに足を運び、魚も地域も好きになる、そうした流れをつくり出すことが加藤氏の目標だ。

    加藤氏は水産業界には相談できる仲間がいるが、この先の展開のためにも、エンターテインメントやキャラクタービジネスの知見を持つ人との出会いを求めているという。助言を柔軟に取り入れ、スピード感を持って制作するという姿勢をアピールし、プレゼンを終えた。

    続いて講評に移り、これまでも面談で加藤氏から映像について相談を受けてきた西山氏は、制作の過程をふり返りながら、キャラクターの可愛らしさとともに、耳に残る音楽を高く評価した。

    今泉氏も、魚のファンを増やすという目的とアプローチが明確だということを評価し、またその狙い通りの素敵な映像になっていると讃えた。また西山氏と同様、音楽についても高く評価し、制作方法を加藤氏に質問。歌詞は自分で考え、歌唱と作曲をAIで生成したと加藤氏は回答した。

    ▲加藤都子氏は『市場で暮らす魚たちの物語』をYouTubeで毎週金曜日に公開している

    USAP氏『THE LAST SOUL――最後の魂が歌になる』

    USAP氏は、ミュージシャンとして活動しながら、ご当地VTuberのプロデュースにも取り組んできた。そんなUSAP氏が今回発表したのは、「地域から始まる物語を映像化し、さらに盛り上げていく 」というコンセプトで制作されたSFファンタジー映画『THE LAST SOUL』。

    感情を持つことが違法とされた2045年の東京・渋谷で、あと90分で「心」を消される18歳の少女LISAが、異なる正義について葛藤し、答えを出していくというストーリーのアニメーション作品だ。

    今回のプレゼンで上映されたのは、もともと120分の映画として構想された内容を、3分余りのダイジェストにまとめたもの。原作、脚本、キャラクター設定など、物語の根幹に関わる部分は全てUSAP氏が創作したという。そして本編映像に関しては、生成AIをフルに活用して制作されたそうだ。

    「これまで数千万円、数年単位でやってきたことが、今では数百万円、数ヶ月単位でできるようになった。僕はここに可能性を感じます。AIに関してはポジティブな意見もネガティブな意見もあるかと思いますが、僕はフルAIでフルスピードで沢山作っていきたいと思っています」とUSAP氏は語った。

    講評において、USAP氏にメンターとして向き合ってきた土方氏は、USAP氏の抜群の吸収力を高く評価し、また今回の作風とは異なる可愛らしいキャラクターの作品も作れることを紹介し、その幅広いクリエイティブを讃えた。今後は、今作の舞台となった渋谷のように有名な都市だけではなく、誰も知らないようなところからでも新しい物語を作り、その場所と世界を繋げていくモデルを作れるのではないかと期待していると語った。

    宇田氏は、これまで限られた人しか関われなかったアニメ作りが、AI技術の進歩によってフラットになりつつある中で、どこに軸を置くかが重要であると指摘し、その上でUSAP氏がご当地VTuberという形でローカルなところに目を付けていることが素晴らしいと評価した。地方を盛り上げたいと考えている人間は多くいるので、今後は仲間が増えて、そういった取り組みがより広がっていくといいと期待を寄せた。

    ▲USAP氏によるSFファンタジー映画『THE LAST SOUL』

    駒々ゴマ氏『ハムっと!フロンティア』

    漫画家・シナリオライターとして活動中の 駒々ゴマ氏が本プロジェクトを通じて新たに制作したIPが『ハムっと!フロンティア』だ。

    今回のプレゼンは駒々ゴマ氏自らが作品をプレゼンテーションするのではなく、上映されたアニメーション映像中で、「黒ゴマ」と「白ゴマ」という2匹のキャラクターが、作者に代わって作品をプレゼンテーションするという趣向になっている。

    「黒ゴマ」と「白ゴマ」が映像中で掛け合いをしながら、ハムスターや蛇、ザリガニなど、様々な小さな生き物をモチーフとしたキャラクターたちが登場する『ハムっと!フロンティア』の物語世界が観客に紹介された。そしてラストでは、「まず漫画の単行本の出版を目標としながら、「全世界ハムっと!フロンティア計画」を進めていきたい」という駒々ゴマ氏の目標が、アニメーション映像中のキャラクターの口を借りて語られた。

    アニメーションによるプレゼンが終わると、最後には駒々ゴマ氏自らによって、「自分は1人で作品を完成させるより、誰かと一緒に作品を作ることで、予想もしていなかったものができる瞬間が好きです。私と一緒に面白いものを作りませんか」という呼びかけがなされ、プレゼンは終了した。

    講評において、今泉氏は、プレゼンテーションをキャラクターにさせるというアイデアと、それぞれのキャラクターが分かりやすく、楽しく見ることができた点とを合わせて評価した。

    西山氏は、線のタッチ、色づかいのチョイスがマッチしていることによって、キャラクターが可愛らしく仕上がっていることを高く評価し、これからこの個性的なキャラクターたちがどういう物語を紡いでいくのか楽しみにしていると語った。

    八田羊氏『六畳半と10万階のダンジョン』

    八田羊氏はヤンマガWebで連載された『終戦後のスカーレット』を代表作とし、デビューから12年間、漫画家として活動を続けてきた。そんな八田氏のプレゼンテーションは、漫画業界の働き方がいかに過酷であるかの紹介から始まった。

    1日12時間労働は当たり前で長時間労働が状態化しており、また連載が終了するとアシスタントが解散してしまうために、現場に技術やノウハウが蓄積されにくく、さらに収入は印税頼りで不安定。そして、そんな日本の漫画家の活動はほとんどが個人規模であり、1人で活動するには限界がある。八田氏はそこに問題意識を持ち、「漫画制作を個人戦から団体戦へとコンバートしていく」というコンセプトに辿り着いたという。

    八田氏はそのための具体的な行動として、ゲーム会社と協業し、漫画制作スタジオ「GAVV」を設立した。漫画制作を団体戦にするために、「GAVV」は主に3つの取り組みをおこなっているという。

    1つ目は、漫画の各工程を専門分野に特化した人材が担当することで、効率化を図るということ。2つ目は、ゲーム制作の現場で使われているUnreal Engineを背景制作に導入することで、この施策によって35%のコストダウンに成功したという。そして3つ目が、収益源の多層化を図るため、メディアミックスに力を入れ、原稿収入や印税だけに頼らない、IPを活用した収益向上を目指すということだ。

    そして、これらの取り組みを経て制作された、スタジオ「GAVV」第1弾のオリジナルIPが『六畳半と10万階のダンジョン』だ。これまでにない異世界系漫画を作ろうというコンセプトのもと、企画段階から漫画だけに留まらない展開を見据えて制作されたという。
    会場では予め『六畳半と10万階のダンジョン』の漫画が掲載された冊子が配布されており、さらにプレゼンテーションの一貫として、作品のプロモーションムービーが上映された。加えて、マルチメディア展開の一貫として、ゲームが開発中であるとの発表もなされた。

    スタジオ「GAVV」が今後も良質な作品を継続的に生み出していき、漫画業界のみならず、日本のコンテンツ業界の発展に貢献していくという意気込みを八田氏が語り、プレゼンは締めくくられた。

    講評として、武井氏は、漫画、映像、ゲーム、それぞれを作っていくのは相当な労力と資金力が必要であることを指摘しつつ、それらが海外展開していく際に、海外からの視点としては権利関係が多岐に渡っていることが展開のネックになりやすいと語り、それらを1社でまとめて管理できていれば、海外展開もしやすく長期的に見ればメリットになりうると語り、夢のある構想だと評価した。

    宇田氏は、八田氏が単なる漫画家、クリエイターに留まらず、業界の課題を解決するために起業家としてビジネスに取り組んでいくという視点を持っていることを高く評価した。これまでの日本の漫画業界で培われた良さも評価しつつ、新たな選択肢の提示に成りうるチャレンジとして応援し、今後の活躍を期待したいと語った。

    たなじゅん氏『星のまんが』

    たなじゅん氏は、美大を卒業後、ファッション教育の現場で企画・運営に携わりながら、オリジナルIP作品の制作にも取り組んでいる。今回は本人も推し活スタイルで登壇し、AIを活用したオリジナルIP『星のまんが』を紹介した。

    『星のまんが』の主人公「星子」は29歳、宇宙育ちのお嬢様。ゲーム、アイス、お菓子が大好きで、口癖は「働きたくない」「帰りたい」「できればずっと寝ていたい」。そんな星子が父親によって地球へ送り出され、日本のファッションスクールで働くことになる…というのが、ティザー映像で紹介された本作のストーリー。

    満員電車、推し活、SNS、原宿、人間関係…地球で暮らす人々には当たり前の日常も、宇宙人の星子にとっては全てが未知のものばかりだ。「地球人って、なんでこんなことをしているの?」という星子の疑問が、物語になっていく。

    「でも、これをただの怠け者コメディーにしたいわけではありません。ちゃんと生きられない日も人生の一部。星子の怠惰でズレた視点を通して、生きづらさを笑いへ変えたいと思っています。この物語を、「ちゃんとしなきゃ」にちょっと疲れている、20代30代の女性に届けて、「星子、ちょっと自分みたい」、と思ってもらえるキャラクターにしたいと思っています」と、たなじゅん氏は作品の狙いやターゲット層について語った。

    これまでにSNS漫画やショート動画、音楽、MVが作成され、これからはアニメ化やグッズコラボ、海外ライセンスを計画しているという。

    一時のバズだけではなく、世界観を大切にしながら、 時間をかけて愛されるキャラクターに星子を育てたい、とたなじゅん氏は語り、「最後にこの言葉で締めたいと思います。やる気がなくても人生は続く」と締めくくるとともに、「星子はもう家に帰っちゃうそうです」と、星子の気持ちを代弁しつつ、本人は対照的に会場へと名刺交換を呼び掛けながら、プレゼンを終えた。

    講評として、今泉氏は、大人の女性が等身大の自分を投影できるコンテンツは難しいという前提を語りつつ、本作は、星子が見る地球、みんなが我慢して生きている世界というのは等身大の世界を映した作品だと指摘し、海外でも熱狂的に受け入れられた『アグレッシブ烈子』を例に挙げ、市場に刺さる感じがすると絶賛した。

    土方氏は、主人公星子のキャラクターの面白さを讃え、そのために、日常の何でもないことをやっていくだけで、視聴者に面白がって貰えるような物語を作れていると評価した。また、今回は紹介しきれなかったサブキャラクターにもクセの強いプロフィールを持ったキャラがいることを指摘し、今後はそういったキャラクターが描かれることへの期待を寄せた。

    ▲たなじゅん氏による、AIを活用したオリジナルIP『星のまんが』

    コメンテーター陣による総評と、ABCアニメーション代表森好文氏による閉会の挨拶

    8名の発表を終えると、コメンテーターから総評が寄せられた。今泉氏は、長年クリエイターの事業支援に携わってきた経験から、クリエイターはプロデューサーの視点を得たときに力強く成長していくと語った。今回の発表者全員に、そういった様子を感じたという。

    宇田氏も、かつてはクリエイターとプロデューサーは別々の人である時代だったが、今はクリエイターでありプロデューサーである必要がある時代だと指摘し、その両方を担う大変さに触れながら、作品を作った本人の言葉だからこそ響きやすく、だからこそビジネスにつながる可能性があると述べた。

    武井氏は、今回のプレゼンテーションでは伝えきれなかった設定や映像などが、それぞれの作品にあるのだろうと語り、1年間のプログラムの濃さが想像できるプレゼンテーションだったとコメントし、今後、海外展開などで協力する機会にも期待を寄せた。

    西山氏は、自分自身もアニメーションを作る立場として刺激を受けたと語り、「これから作る作品をどんどん面白いものにして世の中に出していってください」と語った。

    土方氏は、第1期生に最初に出会った時から、それぞれの強みと弱みがあったと指摘し、弱みを克服することが一番いいが、強みで弱みを消すぐらい強みを尖らせる方法もあると助言し、これからの活躍に期待していると激励した。

    最後に、運営事務局を代表する ABCアニメーション代表取締役社長・森好文氏によって、閉会の挨拶がなされた。森氏は、今回の8人のプレゼンテーションと作品を通じて、改めて「現代版トキワ荘」起業家育成プログラムには3つの魅力があることに気付いたという。

    1つ目は、クリエイター同士の交流ができること。クリエイター同士が悩みや知見を共有し合って、そして新しい創作活動につなげていって欲しいという思いが、「トキワ荘」というネーミングにも込められているという。

    2つ目は、新しい技術を習得できること。中野坂上の東京コンテンツインキュベーションセンター(TCIC)内には、デジタルコンテンツ制作のために設置された「アトリエラボ」があり、その充実した機材を利用できる。例えばサウンドステージでクリエイター自らが声優を務めて作品の音声を収録したり、AIを活用したりと、これまで取り組んでいなかった工程にも挑戦できる。

    そして3つ目は、IPを作って終わりではなく、その先のビジネスのことまで考えることができること。

    森氏は「現代版トキワ荘」の、その3つの魅力を記憶に留めておいて欲しいと語り、この発表会をひとつの節目として一旦育成プログラムは終わるものの、「起業家育成」はこれで終わらず、次の海外展開というフェーズを目指していくという決意を述べ、今後も1期生の活躍・活動に注目して欲しいと述べた。

    「現代版トキワ荘」は2期生へとバトンタッチ、次回のプロトタイプ発表会は2027年3月予定

    第2期生のプロトタイプ発表会は、2027年3月に同じTIBで開催される予定だという。また閉会後には、第1期生、第2期生、来場した業界関係者によるネットワーキングの時間が設けられた。

    TEXT_オムライス駆
    EDIT_高木 了(CGWORLD)