月刊『CGWORLD + digital video』vol.338(2026年10月号)の特集「アニメ『攻殻機動隊 THE GHOST IN THE SHELL』」より、一部を抜粋してお届けする全3回連載。最終回は、CGスーパーバイザーの李 欣恬氏が語るフチコマの制作秘話。カットによって作画と3Dを使い分けるフチコマには、どちらで描かれても同じキャラクターに見える設計が求められた。原作の印象を残しつつ、作画に馴染む形をどう見つけたのか。Blenderによるモデル制作と、豊かな表情や大胆な変形を可能にするしくみを紹介する。全48ページの本誌特集では、フチコマに加え、メカや人形使いの3DCG、モニターワークス、撮影の現場も取材している。
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アニメ『攻殻機動隊 THE GHOST IN THE SHELL』
放送・配信開始:2026年7月7日
各種配信サービスにて、全10話配信中
原作:士郎正宗『攻殻機動隊』(講談社 KCデラックス刊)
監督:モコちゃん
シリーズ構成・脚本:円城 塔
キャラクターデザイン・総作画監督:半田修平
アニメーション制作:サイエンスSARU
製作:THE GHOST IN THE SHELL COMMITTEE
演出意図を理解し、アセット制作からカットの画づくりまでを担う
CGWORLD(以下、CGW):『攻殻機動隊』では、どのような役割を担当しましたか?
李 欣恬氏(以下、李):CGスーパーバイザーとして、フチコマをはじめとする3DCGアセットの制作と、それらを使ったカット制作を担当しました。モデリング、セットアップ、アニメーションまで、ひと通りの工程に関わっています。カットによっては背景セットやエフェクトも制作し、レンダリング後の素材へ処理を加えて撮影工程に渡すところまで担当しました。
李 欣恬氏
台湾出身。國立臺灣藝術大學でマルチメディア・アニメーションを学び、学士号と修士号を取得。その後、GOBELINS Parisで3Dキャラクターアニメーションを専攻。フランスのIllumination Mac Guffや台湾のRayarkでアニメーターを務めた後、2022年12月にサイエンスSARUへ。『攻殻機動隊 THE GHOST IN THE SHELL』にはCGスーパーバイザーとして参加している。
CGW:アセットの制作は、どのような順番で進めましたか?
李:最初にフチコマ、続いて公安1課の思考戦車、阪華精機の社長、Y-3という潜水艦状のサイボーグ、最後に第10話に登場した球体状の人形使いという順番です。フチコマは登場カットが多く、作画と3Dの両方で描かれるため、最初に基準となる形を固める必要がありました。他のアセットも原作を基にしながら、本作の演出意図に沿った芝居ができるよう、可動部分までつくり込んでいます。
原作に登場する、フチコマ、公安1課の思考戦車、ジェイムスン型義体を3DCG化
CGW:各工程では、どのようなツールを使用しましたか?
李:デザインの検討や2D素材の制作には、主にPhotoshopとProcreateを使いました。モデリング以降の工程はBlenderです。モデリング、セットアップ、アニメーションに加えて、背景セットやエフェクトも基本的にはBlenderで制作しています。レンダリングした素材はAEで調整し、撮影で扱いやすい状態にして渡しました。
CGW:李さんが、モデリングからカット制作までを横断して担当する利点は何ですか?
李:3Dモデルをつくる段階で、実際にどのような動きをさせるのか、どのようなカメラアングルで使われるのかを考えられることです。見た目が設定画に似ているだけでは、アニメーションで必要なポーズをとれなかったり、作画LOのパースに合わせられなかったりします。反対に、カット制作で問題が見つかったときは、セットアップやモデリングへ戻って調整できます。工程を分けて考えるのではなく、完成画から逆算して必要な機能を加えていきました。
CGW:各工程の多くの作業を、李さんが担っていたのでしょうか?
李:私が中心となって進めましたが、ひとりで完結したわけではありません。3Dチームを統括するLouis Ventreさんをはじめ、チームのメンバーにも一部の工程をサポートしてもらいました。また、監督のモコちゃんや、キャラクターデザイン・総作画監督の半田修平さんとも意見を交換しています。特にフチコマは、原作の印象を残しながら、本作の作画と並んだときに違和感のないデザインへまとめるために、多くの試行錯誤を重ねました。
CGW:3Dの中だけで完成形を決めるのではなく、作画側との関係を前提に設計した?
李:そうです。本作のフチコマは、カットによって作画と3Dが使い分けられています。同じキャラクターがどちらで表現されても、別の存在に見えてはいけません。そのため、機械として正確につくることだけでなく、作画スタッフが描きやすい形であることや、本作の柔らかな画に馴染むことも重視しました。そこが、フチコマの3Dモデルを設計する上で最初の大きな課題でした。
3Dモデルの顔へ2Dの口を貼り込み、可愛らしい表情と豊かな芝居を生み出す
原作の揺らぎを整理し、丸みのあるフチコマへ
CGW:原作の印象を残しながら、作画と馴染む3Dモデルにするため、まず何から着手しましたか?
李:最初に、原作に描かれたフチコマを細かく見比べました。原作では、登場するコマによってプロポーションや細部のデザインが少しずつ異なります。コックピットの形状も常に同じではありません。漫画では、それぞれのコマに適した形で描かれていますが、3Dモデルはひとつの基準となる形を決める必要があります。そこで、原作のどの要素を残し、本作ではどのようなフチコマとしてまとめるのかを整理していきました。
CGW:デザインは、どのように詰めていったのでしょうか?
李:モコちゃんや半田さんと意見を交換しながら、全体のプロポーションや各パーツの形状を決めました。原作をそのまま立体へ置き換えるのではなく、本作の作風や、作画のフチコマと並んだときに違和感がないことを重視しています。試作やテストをしながら検討を重ねた結果、最終的にはオーガニックで丸みのある形状になりました。
CGW:一般的なメカの3Dモデルよりも、柔らかなシルエットに見えます。
李:そうですね。硬い面や直線を強調しすぎると、本作の作画から浮いて見えてしまいます。また、作画スタッフが参考にしたり、実際に手で描いたりすることも考え、複雑すぎない形にしました。ただし、単純にパーツを減らしたわけではありません。フチコマらしさを決める大きなシルエットを保ちながら、細部の情報量を調整しています。
CGW:一方で、思考戦車としての説得力も必要になりますよね?
李:はい。可愛い形にするだけではなく、機械としてどのように成立しているかも考えました。例えば、ボディ下部のグレネードランチャーや腕部の機関銃から発射される弾の大きさを基準にして、各パーツと全身のスケールを検証しています。武器の口径に対して本体が小さすぎたり、大きすぎたりすると、画にしたときに説得力がなくなるからです。
CGW:実在する機械も参考にしましたか?
李:バイクや自動車などを参考にしています。パイプや接続部分を追加し、各パーツがどのようにつながっているのかを想像できる構造にしました。赤い機体の質感も、単なる赤色ではなく、車両の塗装を意識しています。正面にあるランプは、バイクのヘッドライトのような見え方を取り入れました。現実の乗り物から要素を借りることで、架空のデザインに機械としての実在感を加えています。
CGW:フチコマは兵器でありながら、キャラクターとしての可愛らしさも内包する存在です。その点はどのように捉えましたか?
李:私は、フチコマには小動物のような側面があると考えています。原作にも、頭身が低く、よりデフォルメされた可愛いフチコマが描かれています。そのニュアンスを3Dモデルにも取り入れました。大きく丸いボディと、そこから伸びる腕や脚のバランスによって、思考戦車でありながら、生き物のようにも見えるシルエットを目指しています。
CGW:機械としての構造と、キャラクターとしての生命感を両立させたわけですね。
李:どちらか一方だけでは、今回のフチコマにはならなかったと思います。武器やコックピットを備えた機械としての説得力があり、その一方で、ポーズや動きによって感情を感じさせることができる。カットの中で大きく動かしたり、作画的に形を誇張したりしてもフチコマらしさが失われないよう、全体のバランスを整えました。正確な立体物をつくるというより、アニメーションの中で生きるためのモデルとして設計しています。
IK/FKやTweakコントローラを設定し、パースに合わせてモデルを大胆かつ自在に変形させる
INFORMATION
月刊『CGWORLD +digitalvideo』vol.338(2026年10月号)
特集:アニメ『攻殻機動隊 THE GHOST IN THE SHELL』
定価:1,540円(税込)
判型:A4ワイド
総ページ数:128
発売日:2026年9月10日
TEXT&EDIT_尾形美幸/Miyuki Ogata(CGWORLD)
文字起こし_大上陽一郎/Yoichiro Oue
PHOTO_弘田 充/Mitsuru Hirota