月刊『CGWORLD + digital video』vol.338(2026年10月号)の特集「アニメ『攻殻機動隊 THE GHOST IN THE SHELL』」より、一部を抜粋してお届けする全3回連載。第1回は、本作で初監督を務めたモコちゃんに話を聞く。士郎正宗の原作をアニメ化するにあたり、監督が選んだのは、自身の解釈を押し出さず、原作の面白さを正面から伝えることだった。その方針は、脚本や絵コンテ、日々の演出判断にどう反映されたのか。全48ページにわたる本誌特集から、サイエンスSARUによる新たな『攻殻機動隊』の出発点を紹介する。

記事の目次
    ▲12月23日(水)発売|アニメ『攻殻機動隊 THE GHOST IN THE SHELL』Blu-ray BOX(特装限定版)コマーシャルフィルム

    多くの人の思いが宿る『攻殻機動隊』を預かる

    CGWORLD(以下、CGW):まずは、モコちゃんが『攻殻機動隊』の監督に起用された経緯からお聞かせください。


    モコちゃん:本作の企画をサイエンスSARUが頂戴して、社内で「モコちゃんを監督として推薦しては?」という話が出たのがきっかけでした。正式に決定したのは、『ダンダダン』第1期(2024)の制作中盤だったと思います。

    モコちゃん(サイエンスSARU)

    1992年生まれ。2015年にサイエンスSARUへ入社し、湯浅政明監督の下でキャリアを積む。『平家物語』(2022)、『四畳半タイムマシンブルース』(2022)、『スコット・ピルグリム テイクス・オフ』(2023)で絵コンテ・演出を担当。『ダンダダン』(2024)では副監督として制作を支え、第4話やエンディングの絵コンテ・演出も担当。本作『攻殻機動隊 THE GHOST IN THE SHELL』が初監督作品となる。

    CGW:『ダンダダン』の制作と並行して、本作も進めていったのでしょうか?


    モコちゃん:『ダンダダン』の演出の作業をやりながら、本作のプリプロダクションも少しずつ進めていきました。


    CGW:『攻殻機動隊』の原作漫画に初めて触れたのは、学生時代だったそうですね。


    モコちゃん:高校生の頃に、士郎正宗先生の原作漫画と、押井 守監督の映画『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』(1995)に出会いました。どちらが先だったのかは覚えていないのですが、ほぼ同時期だったと思います。自分にとっては、大きな影響を受けた作品でした。フィクションというものを、どう捉えるか。その見方の根本的な部分をインストールされた、原点みたいな作品だと思います。


    CGW:どの部分に惹かれたのでしょうか。


    モコちゃん:士郎先生と押井監督には共通して、メタ的な視点があると感じました。士郎先生の漫画は、コマ枠の外にも注釈が書き込まれていて、漫画というメディアの枠組みそのものを表現として使っています。押井監督も「アニメとは何か」、「『攻殻機動隊』とは何か」といった俯瞰的な視点から表現を組み立てている印象があります。私自身もメタ表現が好きなので、そういった部分に昔から強く惹かれていました。


    CGW:監督として向き合い始めてから、改めて原作を読み込んだとも聞きました。


    モコちゃん:原作は何度読んでも新たな発見がある漫画で、脚本や絵コンテの作業時に参照するのはもちろん、演出チェックや作画のときも常に手元に置いていて、何度も読み返しました。一方で、押井監督の映画版は、制作中は観返さないようにしていました。とはいえ、それまでに何度も観てきた作品ですし、自分の血肉になっている感覚はあります。無意識のレベルでは、絶対に影響を受けていると思います。ただ、制作中に改めて観てしまうと、どうしても引っ張られる気がしたんです。今回の出発点は、あくまで士郎先生の原作だったので、それ以外の『攻殻機動隊』からは表面上は距離を置いていました。


    CGW:くり返し映像化されてきた『攻殻機動隊』という作品を預かる重圧は、相当なものだったのではないですか?


    モコちゃん:ものすごく重かったです。『攻殻機動隊』は、本当にたくさんの方の思い入れが積み重なっている作品です。ファンの方々はもちろん、歴代の映像作品やゲームなどに関わってこられたクリエイターの方々や声優さんも含めて、それぞれの中に、それぞれの『攻殻機動隊』がある。制作を進める中で、関係者の方々とお会いする度に、その重みが増していったような気がします。また、原作をどう解釈するかにも難しさがありました。こうした表現が適切かはわかりませんが、『攻殻機動隊』は"霊感"に満ち、受け手によって多様な読み方が生まれる作品です。長い歴史の中で、そこには多くの方々の解釈や思い入れが幾重にも積み重なっています。その蓄積と向き合いながら新作をつくることには大きな重圧がありましたが、同時に、そこへ挑む意義も感じていました。

    アニメ『攻殻機動隊 THE GHOST IN THE SHELL』

    放送・配信開始:2026年7月7日
    各種配信サービスにて、全10話配信中

    原作:士郎正宗『攻殻機動隊』(講談社 KCデラックス刊)
    監督:モコちゃん
    シリーズ構成・脚本:円城 塔
    キャラクターデザイン・総作画監督:半田修平
    アニメーション制作:サイエンスSARU
    製作:THE GHOST IN THE SHELL COMMITTEE

    独自解釈を押し出さず、原作をアニメへ「翻訳」する

    CGW:本作は、どの段階から原作をベースとする方針が決まっていたのでしょうか。


    モコちゃん:企画書には、最初から「原作をベースにする」と書かれていました。ただ、どの程度までなぞるかは、まだ決まっていませんでした。私自身、当初は「原作をベースにする」とはどうすることなのかを何度も問い直しました。原作を尊重しながらも、アニメとして独立した面白さを成立させなければならない。その認識から、プリプロの初期段階では独自のテーマや視点を盛り込むことも考えていました。


    CGW:なぜ、その考えが変わったのですか?


    モコちゃん:業界の大先輩に相談した際、少し厳しい意見をいただきました。そこで、自分はまだ『攻殻機動隊』を十分に理解できていないのだと痛感したんです。理解しきれていない人間が、新しい解釈を付け加えるべきではない。原作をきちんと受け止めることが先なんじゃないかと思うようになりました。


    CGW:そこで、ご自身の役割も定まった?


    モコちゃん: はい。自分が原作を面白いと感じているのなら、新たなテーマを付け加えず、正面からアニメ化してもよいのではないかと気づきました。原作に忠実であろうとしても、そこに表れるのは結局、私自身の読書体験です。だからこそ、自分を前面に出そうとせず、あえて「私」を捨てた先に何が生まれるのかを見てみたいと思いました。ただ、そのようなつくり方をしたアニメには、ほとんど前例がありません。そこへ踏み出す怖さはありましたが、ふり返れば、ある意味で最も挑戦的な方法を選んだような気がします。

    CGW:プリプロ段階では、シリーズ構成・脚本の円城 塔さんと、どのようなことを話し合っていったのですか。


    モコちゃん:最初の半年ほどは、円城さんに相談しながら、原作をどうアニメへ「翻訳」するかを考えていました。円城さんは『攻殻機動隊小説アンソロジー』(2017/講談社)への寄稿経験もあり、作品世界に非常に造詣が深い方です。私自身、教えていただくことが数多くありました。原作に登場する出来事や用語、設定について、個別に話し合いながら解釈を詰めていきました。例えば、ある単語が人名なのか、デバイス名なのか、場所を示す名称なのか。それを明確に定めるべきか、あえて曖昧なまま残すべきか。そうした細部の検討を積み重ね、アニメの脚本を書くために必要な共通認識を築いていきました。


    CGW:シリーズ構成は、どのように固めていったのですか?


    モコちゃん:円城さんが原作を基にラフ脚本を書き起こした段階で、原作漫画1冊分を映像化すると、10話程度になることが見えてきました。原作は1話完結に近いエピソードが多く、それぞれにまとまりがあります。中途半端に区切ってしまうと収まりが悪いので、可能な限り区切らずに各エピソードを成立させると、全10話か11話くらいの構成が適切だろうという判断になりました。


    CGW:結果、全10話に着地したわけですね。


    モコちゃん:先に話数を決めて原作を当てはめたのではなく、原作1冊分をアニメ化するのに必要な話数を考えた結果、全10話になりました。原作に新しい解釈を付け加えるのではなく、作り手が感じている原作の面白さをどう作品として立ち上げるか。その考え方が、本作全体の構成を決める軸になっています。

    絵コンテから完成映像へ。モコちゃん監督が自らレイアウトを担当した、第01話カット80(お花見カット)の制作過程

    ▲モコちゃん監督による絵コンテ
    ▲背景美術のレイアウト。Bookの分け方も指示されている
    ▲桜の花びらのレイアウト。花びらは撮影処理で表現
    ▲キャラクターのレイアウトの一部。芝居はもちろん、木漏れ日の当たり方まで指示されている
    ▲完成映像。本カットではフチコマも作画で表現された

    描くことで意図を共有する、監督としての演出実務

    CGW:モコちゃんは監督であると同時に、絵コンテや演出にも深く関わっています。実際の制作現場では、どのように各話へ関与していったのでしょうか。


    モコちゃん:第01話とオープニングは、自分で絵コンテ・演出を担当しました。第10話の絵コンテも、約8割は私が担当しています。それ以外の話数でも、絵コンテや各話演出の方々の意図を汲み取りながら、シリーズが目指す肌触りから外れないよう、全体の調整と整理を行なっています。本作では世界観そのものが重要な要素なので、各話の肌触りを揃えることが、その世界の実在感を伝える上で欠かせないと考えていました。一方、第03話のBahi JDさん、第06話の田中宏紀さん、第07話の横山彰利さんについては、シリーズ共通のフォーマットと芝居の大枠を調整するに留め、各話の表現の多くをお任せしました。


    CGW:各話ごとの面白さを成立させながら、同時にシリーズとしての連続性も担保していったわけですね。


    モコちゃん:はい。演出家ごとの個性を活かしつつ、全体としての統一感を出すことを目指しました。


    CGW:各カットのチェックも精力的に行なっていたそうですね。


    モコちゃん:私はアニメーター出身なので、言葉よりもイメージで伝える方が得意なタイプだと思います。文章で十分に伝わる内容はテキストで返し、口頭で話した方がよければ直接説明します。その上で、画にした方が意図を共有しやすい内容については、自分で描いてお見せすることが多かったです。


    CGW:相当な量を描かれたそうですね(笑)


    モコちゃん:相当と言えるかはわかりません。同期や先輩を見ていると、この業界で第一線に立つ方ほど、とにかくたくさん描きます。自分もそれくらいやらなければと、課していた部分はありました。話数にもよりますが、各話演出のチェックを経たカットのうち、1話あたり100カット前後を「監督チェックカット」として選定していました。その半数ほどには、私自身も何かを描いたり、動きをつくったりしたと思います。ただ、制作中は毎日、膨大な数の締切に追われていたので、今となっては、いつ何をしていたのかあまり覚えていません......。


    CGW:まさに「ちぎっては投げ、ちぎっては投げ」の状態だったんですね。1話あたりの平均カット数はどのくらいですか?


    モコちゃん:平均270カット程度ですが、人形使いが初登場する第07話は特に多くて、320カット近かったです。


    CGW:第01話の、草薙素子たちのお花見カットの絵コンテには、「自分でLO(レイアウト)やりたい」という書き込みが残っていますね。


    モコちゃん: あそこは、かなり早い段階から自分でやりたいと思っていたカットでした。原作の中でも印象的な場面ですし、桜の木やキャラクターの配置、草薙とフチコマの距離感、背景美術のBookの分け方、花びらの散り方なども含めて、自分の中でかなり明確な画のイメージがありました。

    CGW:作画、背景美術、3DCG、モニターワークス、撮影など、セクションによって、指示の出し方は変えていたのでしょうか。


    モコちゃん:現場では、スタッフも監督も常に時間と戦っています。そのため、スタッフがどこで迷っているのかを汲み取り、できるだけ簡潔かつ迅速に、要点を外さず返すよう心がけていました。ただ、初監督ということもあって、次々と飛んでくるボールを打ち返すだけで精一杯でしたから、どこまで上手く実践できていたかはわかりません。特に作画では、私が前に出て作業を進めすぎた面もあったと思います。制作の終盤になって、とりわけ新人スタッフの中に、やりづらさを感じていた方がいたと知り、反省しました。的確な答えをすぐに返すだけでなく、ときには相手と向き合い、一緒に時間をかけることも大切だったのだと思います。


    CGW:監督としてのコミュニケーションについても、学ぶことが多かった?


    モコちゃん:たくさんありました。一方で、その時々で、自分ができることをやるしかなかったとも思います。全ての結果に納得できたかと問われれば、改善の余地はあります。ただ、どこまでやっても完全な納得など存在しないでしょうし、「改善」という概念自体に、うっすらと人間の業のようなものも感じます。だからこそ、諦めず、真心をもって向き合うことだけは、最後まで大事にしました。

    「【全3回・第2回】『攻殻機動隊 THE GHOST IN THE SHELL』「3Dすげえ!」と思える画へ。モコちゃん監督が探る3DCGの可能性」は10月6日(火)公開です。
    ©2026 Shirow Masamune/KODANSHA/THE GHOST IN THE SHELL COMMITTEE

    INFORMATION

    月刊『CGWORLD +digitalvideo』vol.338(2026年10月号)

    特集:アニメ『攻殻機動隊 THE GHOST IN THE SHELL』
    定価:1,540円(税込)
    判型:A4ワイド
    総ページ数:128
    発売日:2026年9月10日

    詳細・ご購入はこちら

    TEXT&EDIT_尾形美幸/Miyuki Ogata(CGWORLD)
    文字起こし_大上陽一郎/Yoichiro Oue
    PHOTO_弘田 充/Mitsuru Hirota