2023年6月、オンラインアトリエ『INEI ART ACADEMY Atelier』が開設から1年を迎えた。アトリエはバーチャルオフィス空間Gather上にあり、「絵を描くあなたの居場所」をコンセプトに、INEIとCGWORLDが運営している。
アトリエのメンバーは現在数十名。なかには、富安氏の仕事を手伝うメンバーも出てきており、アトリエの活気やメンバーの成長ぶりがうかがえる。
今回は富安氏、そしてアトリエメンバーのラルフ氏・yoshiii(よっしー)氏の3名に、現在のアトリエの様子や両氏がINEIの仕事を手伝うようになった経緯、アトリエ入会前と現在のスキルの変化などを深掘りする。
スケッチ会、部活、任意の課題……過ごし方は自由
CGWORLD(以下、CGW):オープンからあっという間に1年が経ちました。あらためて、アトリエの現在の状況を教えていただけますか?
富安:今アトリエにいるメンバーはふたつのタイプに分かれていて、ひとつは「コンセプトアーティストになりたい」「プロとしてやっていきたい」という方。もうひとつは、そこまでガチではないんだけど、絵を描くのが好き、アトリエの雰囲気が好きっていう方。このどちらのタイプも居心地よく過ごせる場所にこれからもしていきたいですね。
CGW:本気でプロを目指す人と、比較的ゆるく参加している人がいるんですね。ラルフさんとyoshiiiさんは、どのような経緯でアトリエに入られたんですか?
ラルフ:もともと地元の富山県で教員をしていたのですが、絵が好きで大学時代に芸術系の学科で学んでいたこともあり、「創作を再開したい」と思っていたところ、検索でたまたま「コンセプトアーティスト」という職業を知って。そこから富安さんの存在も知って、CGWORLDさんのチュートリアルを購入して見よう見真似で描いていたら、Twitter(現X)でアトリエオープンのお知らせを見つけて。「これはもう入るしかないな」と、リリースの日に入会しました。
yoshiii:僕は2018年の『映像制作の仕事展』で富安さんのことを知って、当時は普通の大学に通っていたのですが、就職活動中だったこともあって、ダメ元でINEIさんのインターンシップに申し込みました。最初はだめでしたが、「なんでもいいんです、お手伝いできることはありませんか?」と伝えると、熱意を買っていただき「INEI ART ACADEMY Basic」の生徒役として出演することができました。以来INEIさんにインターンとして携わりつつ、美術の専門学校に通いながら、アトリエで絵の勉強をしています。
CGW:アトリエでは普段、どんなことをして過ごしていますか?
ラルフ:僕は「富安さんから直に絵を教わることができる」というのがこれ以上ないメリットだと思っているので、金曜夜のスケッチ会(毎週22時から1時間程度)にはなるべく参加しています。あとは、課題。「テーマをいただいてやる」というのは、独学では難しいので、とにかくこのスケッチ会と課題提出を重視して参加しています。
yoshiii:アトリエにはメンバーが自主的に立ち上げた「部活」というものがあって、僕自身も「Blender部」や「AIアート研究会」をつくって、ツールに触ってみよう、と熱中した時期もありました。あとはスケッチ会でジェスチャードローイングを描いたり、課題も毎回出すようにしています。アトリエの活動にはだいたい、手を出しているつもりです(笑)。
ラルフ
2022年7月にINEI ART ACADEMY Atelierに参加。2023年4月、富山県の教職員を退職しフリーランスへ転身。以後、INEIから業務委託を受けコンセプトアーティストとして活動する一方、地元富山の会社や団体からイラストや3D造形の依頼を受け活動中。
yoshiii(よっしー)
大学在学中に熱意を買われINEIのインターンに参加。Basicの生徒役として出演して以来、INEIのインターン生として活動。
大学卒業後は美術専門学校に進学を決め、現在はアトリエと専門学校で絵の勉強をしつつ就職活動に励んでいます。
課題制作をきっかけにINEIの仕事を手伝うことに!?
CGW:お二人は、アトリエに入ったことをきっかけにINEIの仕事を手伝うようになり、現在も進行中だとか。富安さん、どのようなお仕事なのか、差し支えのない範囲で教えてください。
富安:ゲームのコンセプトアート、及びその周辺のアート関係ですね。……このぐらいしか言えないです(笑)。真相は2〜3年後におわかりいただけるかと。
CGW:ふたりに仕事をお願いするようになったきっかけはなんですか?
富安:僕が仕事を頼むときって、事前に「いいヤツだ」ってわかっておきたいんです。二人は課題をまじめに出してくれていたのと、素直なんですよね。素直な人って伝えたことをそのまま受け取ってくれるから、成長が早いんですよ。絵をある程度描けることは前提として、その成長ぶりとふたりの素直さが仕事を頼もうかなと思うようになりました。
CGW:(二人に)依頼を受けたときは、どのような状況だったんですか?
ラルフ:たしか、アトリエ内で、運営メンバーの方のひとりから「ちょっと話があるんだけどいい?」とINEI部屋に来るよう言われて。
ラルフ:それまでにないシチュエーションだったので、「これはただごとじゃないぞ」と思いました(笑)。ちょうどコロナ療養中、かつ転職活動に失敗した直後で心身ともにきつい時期だったので、めちゃくちゃ嬉しかったです。業務委託なので期間は決まっていますが、その中で頑張らせていただけるのはすごく嬉しいですね。
富安:正直、最初は「僕がほとんどやることになるだろうな」と思って覚悟して依頼をしたんですけど、二人とも本当によく頑張ってくれました。私のディレクションを素直に聞いて反応できるのがとてもよかったですね。
CGW:お二人にとって、“プロとしてお金をもらってコンセプトアートを描く”というのは初めての経験だったと思いますが、苦労した点はありますか?
yoshiii:最初はプレッシャーがめちゃめちゃ大きかったです。「もしかしたら実力的に及ばないかもしれない。でも、なんとか食らいつこう」という気持ちで望んでいたんですけど、クライアントの意向に添いつつも、どの程度「自分の考え」を絵に反映させていいのかがわからなくて。アトリエ内でラルフさんに相談したり、自分の中で模索したり……。でも、大変なことより、納品できたときの嬉しさのほうが大きかったです。「これが自分の初仕事として今後世に出るんだ」と思ったら、本当に楽しみですね。
絵が下手なままでいるほうが難しい
CGW:ちなみにアトリエは、富安さんやメンバーともともとつながりがない人でも、ポンッと入っていける雰囲気なのでしょうか?
ラルフ:あ、僕がまさにそうで、つながりがまったくない状態で入った立場なんですが、以前からいる方が陣取っていたり(笑)、空気が出来上がっていたり……ということは一切なくて、むしろウェルカムに受け入れていただきました。Gatherの特性上、自然にそろ〜っと入っていけちゃう感じだったので、非常に入りやすかったです。
CGW:yoshiiiさんは学生さん、ラルフさんは現在フリーランスとのことですが、会社で働きながら参加しているメンバーもいるのでしょうか。
ラルフ:ほとんどの方がそうだと思います。
富安:学生さんもいるけど、数えるくらいですね。男女比も半々ぐらいで、ゲームや映像系などのいわゆるエンタメ業界やITや広告や全くクリエイティブとは関係のない業界の方とか、本当にいろんなバックグラウンドの方がいらっしゃいます。
CGW:ラルフさんもyoshiiiさんも、現在とてもクオリティの高い作品を課題として提出されていますが、一年前はどれぐらいのレベルだったんでしょう。
CGW:すごい……お二人とも自主的に勉強されているからこその変化だと思いますが、スケッチ会や課題で富安さんに講評を受けていることも大きそうです。課題は、どんな風に出題されるんですか?
富安:3カ月に一度、僕がクライアント役になってコンセプトアートを発注するんですけど、ある回では、「クライアントが絵のことを何も知らないうえ、すごくわがまま」という設定にしたんですよ。それに対応する力も、コンセプトアーティストには大事なので。
だから「東京が廃墟になったところのかっこいい絵を描いて」ぐらいしか言わないんですけど、クライアントが頭の中に描いている「こういうのを描いてほしい」を見つけるのも課題のうち。「どうして廃墟になったんですか?」とか、「場所は東京のどこですか?」という質問をたくさんしてほしいですね。
アトリエは「土台」。絵が好きな人が、目的なく集まっていい場所
CGW:(二人に)アトリエの中で気に入っているポイントや、好きな点はありますか?
yoshiii:そうですね。いろいろな人とめぐり会うことで、自分の成長につながる場所でもあり、オフラインイベントや課題制作の中でチャンスもめぐってくるすごい場所だと思っています。とくに課題は、“出し得”だなと自分の中では思っていて。今回お仕事をいただけたのも、きちんと課題を提出して、自分の成長の度合いを見せられたことが大きいのかなと。
富安:CGWORLDの雑誌に載せてもらえるしね。
yoshiii:はい。CGWORLDさんに掲載される機会なんてそうそうないので、本当に、出すだけでチャンスを広げられる場だと思って、毎回提出しています。
ラルフ:個人的には、「個別ブース」があるのがすごく助かっていて。というのも、ひとりで作業しているときって、別に誰かと話したいわけでも相談があるわけでもないんですけど、「今、世界でこの作業をしているのは自分だけなんじゃ?」という感覚になってくるんですよね。なので、画面の中で「誰かが何かしているな」とわかるだけで心が軽くなる。アーティストとしての活動を続けていくうえで、仲間の存在を感じられる場があるのはいいなぁ、と思います。
yoshiii:月額で3,000円ちょっと支払っているんですけど、それ以上の価値が全然あります(笑)。
CGW:たしかに、富安さんと同じ空間で絵を描いたり、仲間の存在を感じられる居場所があるのは心強いですよね。最後に、お二人のこれからの目標や夢を教えてください。
ラルフ:そうですね。やっぱりコンセプトアーティストになりたいですし、途中遠回りをしたとしても、またこの道にたどり着けるように進みたいなと思っています。今は富安さんにお仕事をいただいている状況ですが、今後はきちんと自分で仕事を取ってこれるようになりたいです。
あと、今僕は富山を拠点に活動しているのですが、地方にいても世界で活躍できるようなアーティストになって、それによって地元の、絵とは全然関係のない人たちにもいい影響が与えられる人間になりたいなと思いながら活動しています。
yoshiii:直近の目標は就職活動を終わらせることです(笑)。現場で様々な仕事を経験して多くのことを学びたいと思っています。ゆくゆくは富安さんのようにコンセプトアーティストとして活躍していきたいと思っています!
CGW:富安さんは、アトリエをこれからどういう風にしていきたいですか? 構想があれば教えてください。
富安:僕は結局、絵を真剣に描いている人を見るのが好きなんですよね。みんなが絵を描いてるのを見るの、めっちゃ好きで。だからアトリエは「土台」で、各メンバーが好きなことをすれば良いと思っています。絵が好きな人が、目的もなく集まっていい場所。ほんと「お茶飲むだけ」とか、最高だと思う。
その土台の上に、今後はもう少し絵を勉強したい人向けのスタディコースをつくったり、さらにその上に、プロを目指したい人向けの特進コース的なのもつくりたい。自分で言うのもなんですが、ノウハウって蓄積していかないと意味ないので、私が得てきたノウハウの上に、それぞれの人たちが自分の力で得たものを上乗せしていけば良いんじゃないかなと思っています。いずれはこのアトリエから”本物のアーティスト”を輩出したいですね。
そうやってみんなが育ってくれたら、今度は教える側として、それまでの学びをほかの人に伝えてもらったり。そんな循環が生まれればいいなと思ってます。
この、私がしっかりとディレクションして若手がどんどん描いていくという流れは、クライアント側にはアートの数を増やせるというメリット、アーティスト側には新しいことにチャレンジできるというメリットがあり、どんどん広げていきたいなと思っています。なので、コンセプトアートを頼んでみたいという方はぜひお気軽にご相談ください。
INEI ART ACADEMY Atelierとは?
絵を描くあなたの居場所【オンラインアトリエ】
INEI ART ACADEMY Atelierは、絵を勉強する人たちが気軽に集まるオンラインアトリエです。アトリエでは毎週金曜日に『Weekly Sketch Study』としてアトリエメンバーがギャラリーに集まり絵を描く練習をしています。ほかにもメンバー各々が主体となりBlender部やAIアート研究会、写真部、スケッチ同好会、XR研究会などの部活動がつくられ活動しています。また、野外スケッチ会や美術館巡り、スタジオ訪問など毎月企画されるイベントもあり、アトリエメンバー同士の交流も盛んに行われます。