安野モヨコ氏の漫画『オチビサン』のアニメ化作品である本作。鎌倉のどこかにある豆粒町で暮らすオチビサンが、移りゆく季節の中で過ごす日常が描かれている。制作にあたったのはスタジオカラーで、メインツールにはBlenderを採用。新版画風の画づくりがなされている。
Information
Point
・原作漫画を再現した、新版画風の画づくり
・季節や時間帯ごとに多彩な“固有色”を設定
・Blender向け自社ツールの開発による効率化
・日常生活を彩る約300のプロップ制作
スタジオカラーが目指した新版画風の美術と四季折々の多彩な固有色の設定
本作の特徴として挙げられるのが原作の漫画『オチビサン』でも用いられている新版画風の画づくりだ。さらに、季節ごとや時間帯、場所ごとに固有色を設定するなど、色には大変なこだわりが込められている。
原作をリスペクトした画づくりへのこだわり
アニメ『オチビサン』は2023年10月よりNHK総合で毎週放送されている5分間のショートアニメ。原作は安野モヨコ氏による1ページのカラーマンガで、四季折々の出来事をときにユーモラスに、ときに叙情的に描く心温まる作品だ。「原作がフルカラーでしたので、アニメ化にあたってはその豊かな色彩をいかに再現できるかにこだわりました」と語るのはスタジオカラーの鬼塚大輔監督。
季節感を重視するため、各季6話ずつ春夏秋冬の順でシリーズを進めていく構成とした。1話分は原作の5~6話分からチョイスして組み立てているが、その際に原作のページを並べ、シーンごとの色味を考慮している。
原作は型紙でマスクワークを行なった上から、スタンプで色を乗せていく、ポショワールという技法で作られた新版画風の技術で着彩が行われている。共同で監督を務めた釣井省吾氏は「美術でもアウトラインを黒でハッキリと描くなど、一般的なアニメとはかなりちがうつくりを採り入れています。シリーズでは何百枚も背景を描くことになるので、 何度もプリプロを重ねました」と話す。こうして美術の方向性が固まった後、これに合わせるようにキャラクターのルック開発を行なっていくほどの徹底ぶりだ。
制作に際して、カラーのシリーズ作品としては初めてBlenderをメインツールとして使用。プリプロの段階から開発が進められていた 「Pencil+4 Line for Blender」も実戦投入され、存分に力を発揮した。プリプロは2022年の春頃から始まり、他作品への参加もありつつ23年2月からプロダクションイン。そして10ヶ月後の11月には計120分の映像をつくり上げたほどのスピード業だ。
鬼塚氏は「オールカラーでダビングができ、きちんとリテイクを潰してオールラッシュを迎えることができました。余裕のあるスケジューリングは作品の質に大きく影響したと思います」と胸を張る。釣井氏も「皆さんが本当に良い仕事をしてくれて、自分たちとしても納得のいくかたちで世に送り出すことができて非常に嬉しいです」と喜びを語った。
新版画調の美術
原作マンガの新版画風の塗り柄をアニメでいかに再現するか、プリプロ時に何度もイメージボードでくり返し模索した。
時間帯や季節による多彩なシーン固有色の設定
カラーパターンは当初、季節ごとの4色や室内色など10色程度を想定していたという。ところが、美術監督から上がってくる美術ボードが想定以上にシーンごとに多彩な色遣いをしていたため、キャラクターの色彩設計もそれに合わせて増加した。例えば「夜のカラーパターン」と言っても、夜桜のシーンとホタル観賞では異なる。多いときには原作の1エピソード(シーン)ごとに変わっていて、シリーズ全体で70パターンにもなる。また、シーン色によってはキャラクターのアウトラインを黒から茶に変更することもあったという。以下は色見本のほんの一例。
CGWORLD 2024年2月号 vol.306
特集:アニメCG最新トレンド調査
判型:A4ワイド
総ページ数:112
発売日:2024年1月10日
価格:1,540 円(税込)
TEXT _日詰明嘉/Akiyoshi Hizume
EDIT_海老原朱里/Akari Ebihara(CGWORLD)、山田桃子/Momoko Yamada