安野モヨコ氏の漫画『オチビサン』のアニメ化作品である本作。鎌倉のどこかにある豆粒町で暮らすオチビサンが、移りゆく季節の中で過ごす日常が描かれている。制作にあたったのはスタジオカラーで、メインツールにはBlenderを採用。新版画風の画づくりがなされている。
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BlenderとPSOFT Pencil+ 4によるオチビサンたちのキャラクター表現
本作の制作にはカラーが得意とするBlenderとPSOFT Pencil+ 4を採用。キャラクターにも紙の質感を載せ、さらに手描き風のテクスチャを動かすことで、版画のようなイメージを表現している。
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手作業によるこだわりと ツール開発による効率化を両立
どんなマンガでも連載を続ける中で絵柄の変遷がある。それは本作のようなシンプルなキャラクターであっても同様だ。モデリングの際にどの時期の絵柄を基準とするかは制作当初、スタッフの間でも議論があったという。
スタジオカラーでは2021年6月『オチビサン』原作単行本第10巻発売のタイミングで、30秒ほどのショートムービーを制作したことがあったが、このときつくられたモデルは、連載の前期に近く、やや丸っこい印象。本作の制作にあたり、改めて原作者からの意見や他のキャラクターとのバランスを考慮した結果、後期の頭身が高めの絵柄を参照することになった。
オチビサンはその方針でスムーズにことが進んだが、パンくいにはテイクを重ねたという。「立体としてカチッと完成しているよりも、目の位置や耳の見え方がカット上で原作と雰囲気が近くなるかどうかを最重要視しました」(CGIモデリングディレクター・若月薪太郎氏)。
本作のモデルは目や口のパーツを顔から浮かせているため、位置の調整もカットごとに行うことができる。こうした調整をする際にBlenderのプレビュー機能がおおいに役立ったという。若月氏は「Pencil+のラインも出て、完成形に近い見た目でチェックと作業を同時にできるのがとても便利でした」と話す。
当初は撮影に入れる素材を極力少なくするため、コンポジットもBlender上で行うプランが進んだが、エフェクトなどの取り回しの難しさから、従来的なAfter Effects(以下、AE)での処理となった。
「画が合成された状態で撮影に入れていたら、こうした作業でクオリティを上げることはできなかったので、結果的にセル塗りで良かったです」と鬼塚氏は話す。本作はキャラクターの影をなしにして、マスクワークもシンプルにしている。
釣井氏は「落ち影は最終的にAE上でマスクとシェイプレイヤーを使って描き直すので、そのために最適なキャラコンポを撮影のMADBOXさんに組んでもらいました」と話す。
個性的なオチビサンたちのキャラクターモデル
原作のイメージを崩すことなくモデリングされたアカメちゃんとシロッポイ
モコモコとしたパンくいたちの表現
リグツールを活用したセットアップ
本作ではキャラクターのアセット数が膨大だった。そこで、どの作業者でも均一的な品質に仕上げられるよう、半自動でリグを設定できるツール(khオートリグ)を協力会社に制作してもらい、作業に当たった。
「福笑い」でつくるフェイシャル
キャラクターの表情づくりは「福笑い」の形式で行われた。目や口のパーツは顔のモデルから浮いており、レンダリング結果から逆算してそれぞれを置いていった。眉毛はパスで作成されており、変形させてそのカットで最適な表情がつくられている。アニメーターにとって解釈力と表現力が求められる作業だ。いわゆる「画力」に差が出やすいため、慣れない人でも対応できるよう表情見本も作成された。
和紙のような質感のキャラクタールック
“新版画”調であったことに合わせ、「キャラクターの方も毎フレーム版画を刷って、アニメーションさせているかのように見えるルック」(釣井氏)に仕上げられている。アウトラインが揺れて見えるのも版画1枚ごとのズレを表したものだ。
レイアウトを重視したカット制作のフロー
「『オチビサン』という作品は世界観がまず大事なので、作品の質はレイアウトで担保されると考えました。アニメーションのテイク数が少なく済んだのは、レイアウトをそれだけ入念にきっているからだと思います」と話す鬼塚監督。レイアウトに修正がある場合は監督が自らキャラクターを動かして仕上げた。止め絵でも画面が保つ水準にまでレイアウトの完成度を高めることで、この後のアニメーションが付けやすくなっている。
自社開発のツールによる効率化
カラーの自社開発ツール「assetmanager」。「アニメーションモデルをセルごとにレンダリングモデルに変更し、さらにシーンの固有色に一括で変更するアプリです」(CGIテクニカルディレクター・山内 研氏)。先述の通り、本作では季節やシーンごとに色の変更が多い。それを、ひとつずつ色変更をしていると色の変更ミスが生じやすいが、このように自動で、一括で色を変更できるツールがあることで、エラーを減らすことができる。「アニメーションが変わっても、レンダリングの状態は残っているので、次にレンダリングするときに同じ状態でレンダリングできるのがメリットです」(鬼塚氏)。
アニメーターの手描きよるラインの修正
本作ではモデルを軽くするためにフェイシャルリグは少なめで、その結果として調整が難しい部分が発生した場合はアニメーターがAE上でラインを加筆修正した。また、レンダリングをした結果、ねらい通りのラインが出なかった場合も同様に修正が行われた。「アップのカットのほとんどはこの修正を行ないました。1コマずつ(注:本作は3コマ打ち)追っていく地味な作業で、なかなか大変でした」(CGIルックデブディレクター・齋藤弘光氏)。
CGWORLD 2024年2月号 vol.306
特集:アニメCG最新トレンド調査
判型:A4ワイド
総ページ数:112
発売日:2024年1月10日
価格:1,540 円(税込)
TEXT _日詰明嘉/Akiyoshi Hizume
EDIT_海老原朱里/Akari Ebihara(CGWORLD)、山田桃子/Momoko Yamada