安野モヨコ氏の漫画『オチビサン』のアニメ化作品である本作。鎌倉のどこかにある豆粒町で暮らすオチビサンが、移りゆく季節の中で過ごす日常が描かれている。制作にあたったのはスタジオカラーで、メインツールにはBlenderを採用。新版画風の画づくりがなされている。
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オチビサンたちの生活を彩るプロップや背景
オチビサンのほのぼのとした日常が展開される本作。食器から家具まで、登場する約300種類もの小物も3DCGで制作されている。中には1エピソードにしか登場しないものも多いという。
Information
プロップからガイドモデルまで繊細に描かれる暮らし
オチビサンたちの日常生活を丁寧に描く本作。その様々なシーンに登場するプロップ類は欠かすことができない重要アイテムだ。水筒やこたつ、ピアノから、パンくいの食べるパンまでプロップの種類は多岐にわたり300を数えた。
原作の絵を基に、制作はグリオグルーヴが行なった。小物とひと口に言っても種類は様々で、洗濯板のように単色のものもあれば、ガラス瓶のように半透明で中身が見えるものまであり、制作上の難度も様々だった。リギングはスタジオカラーの若手スタッフが、自動リグツールを使って次々と行なっていった。
オチビサンの身長設定は150cm程度だという。「頭身のサイズ感に合わせて、プロップをどこまでデフォルメするかは考えました。食器などキャラクターが直接触れるものについては少し大きく、家具などはできるだけ原寸に合わせるかたちにしています」(若月氏)。
原作の場合、オチビサンの家はその時々のコマに背景として映るだけだったが、アニメにおいてはこれらを整理して1枚の見取り図としてまとめ、その上で設定をつくっていった。「ドールハウスのようなニュアンス」を目指し、天井をやや低めに、ドアも小さめに設計した。美術設定は家具を3DCGでガイドとして出し、美術スタッフに新版画風に仕上げてもらう手順を採った。
このときCG側で着彩まで行なって参考にしてもらったという。一般的には写真参考でつくってもらうことが多いが、鬼塚氏は「本来は美術さんの領域だと思いますが、僕らが原作から汲みとったイメージを色でも伝えたかったんです」と、こだわりを話す。
この他に鬼塚氏は「汎用住宅一覧」という資料を見せてくれた。これは原作に登場した様々な住宅のアセット。これらは風景として使うだけなので外観のみカラー社内で作成した。縁側のある昭和らしい平屋から大きな瓦屋根の家まで、汎用と言えども、もちろん統一した世界観でつくられている。
約300種類におよぶオチビサンたちの小物
本作のプロップの数は約300点もあり、あまりにも多いためリビング用品、食器、日用雑貨など分野ごとにまとめてリストを制作したほどだ。釣井氏は「原作からお話を選ぶときに、それまで一度も出てきていないアセットが登場するエピソードを選ぶかの葛藤はありましたが、やはりお話として面白いものを選ぶことにした結果、この数になりました」と、作業の効率とストーリーを天秤にかけた葛藤を滲ませる。
また、1話しか登場しなかったプロップも珍しくないばかりか、中には2カット程度しか登場しなかったものも……。鬼塚氏は「この程度の登場頻度のものを作画で済ますと、ほとんどのプロップが作画になってしまうので、『じゃあ、がんばってつくるか』ということに」と笑う。下記はプロップリストのごく一部。
背景のレイアウトモデル
ナゼニの家は3DCGの仮モデルを作成した上で背景美術を起こしている。その理由について鬼塚氏は「こうした背景のカットは社外に発注する際にレイアウトが難しいとされます。そのため、こちらで仮のレイアウトモデルをつくって渡し、参考にしてもらっています」。
オチビサンの部屋の見取り図と設定
オチビサンの家の設定をつくる際には、まず見取り図から作成した。背景に屋内が写っている原作のコマを集め、それぞれの整合性をとってつくり上げた。釣井氏は「整合性をとるのに検証を重ねまして、可能な限りCG上で再現することができました。原作にいっさい写っていないゾーンについては、他の空間の状況から推理し補いました」と語る。鬼塚氏は「一度これを作っておくと、絵コンテを描くときにとても楽なんです」と話す。
CGWORLD 2024年2月号 vol.306
特集:アニメCG最新トレンド調査
判型:A4ワイド
総ページ数:112
発売日:2024年1月10日
価格:1,540 円(税込)
TEXT _日詰明嘉/Akiyoshi Hizume
EDIT_海老原朱里/Akari Ebihara(CGWORLD)、山田桃子/Momoko Yamada