大手一流企業や地方自治体のメタバース空間を企画・プロデュースしたり、VR関連の著書を多数出版したりするなど、VRChatを含めた界隈で広く活躍している株式会社往来。ここでは同社代表の東 智美氏(通称・ぴちきょ)と、業界に精通したライターの武者良太氏にVRChatについてまず押さえておきたい基本情報をわかりやすく解説してもらった。

記事の目次

    ※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 313(2024年9月号)からの転載となります。

    東 智美(@pichikyo
    株式会社往来 代表。2021年3月にVRメタバース コンテンツやプロダクトを中心とする株式会社往来を起ち上げる。主な事業内容は、VRChatを活用した企業ワールド構築やイベントプロデュース
    ouraivr.com

    武者良太(@mmmryo
    フリーランスのライター&エディター。主軸とするジャンルは、スマホ・PC・デジカメ・IT・IoT・VR・AR・MR・メタバース。株式会社往来との共著に「メタバースの歩き方」などがある

    基礎情報編

    Q01 最近話題のVRChatとはなんですか?

    XやFacebookといったテキストSNS、Instagramのような写真SNS、YouTubeにTikTokなどの動画SNS。SNSには様々なものがありますが、メタバースのひとつと呼ばれるVR SNS(ソーシャルVR)もあります。その代表格と言えるのがVRChat。アバターを操り、仮想空間内でお喋りしたり、ゲームをしたり、ダンスや演劇、音楽ライブなどが行えたりするサービスです。

    アメリカ発祥ですが近年はVRChat内で起きたイベントがXのトレンドにも上がるようになり、日本のユーザーが増えていることが窺えます。

    ▲VRChatでよくあるひとコマ、集合写真。思い思いのアバターで参加

    Q02 どんな遊び方で楽しめますか?

    平日ならば毎晩どこかで、週末となると昼間からハッピーなパーティが行われているのがVRChatです。音楽ライブを聞きに行ってもいいし、Clubワールドで開催されているDJイベントで踊っても良いでしょう。雑談が楽しめる飲み会やキャバクラ、ホストクラブのイベントも開催されています。

    また数分で楽しめるカジュアルゲームから、泣いて逃げ出したくなる本格的なホラーワールドまで、様々なコンテンツが公開されています。

    Q03 積極的なユーザーは何人くらいいるのですか?

    VRChatはアプリのダウンロード数や、DAU(月間アクティブユーザー数)、MAU(日間アクティブユーザー数)を公開していません。そのため正しい数字は不明ですが、VRChatのサーバステータス(status.vrchat.com)や、有志によるVRChat API Metrics(metrics.vrchat.community)を見ると、週末のピークタイム時はほぼ10万人のユーザーが仮想空間を求めてアクセスしていることがわかります。

    このうちSteamVR版のユーザー数が約4万人だとしたら、Meta Quest版/Viveport版/Android Beta版は約6万人(諸説あり)となっており、モバイルベースの機器で遊ぶユーザーが増えていることがわかりますね。

    ▲VRChatサーバステータス
    • ▲風楽(@Foorack)氏が運営するVRChat API Metrics、1ヶ月のMAUデータ
    • ▲VRChat API Metrics、2017年8月~2024年7月のMAUデータ

    下準備編

    Q04 どんな機材でログインできますか?

    Androidスマートフォン、Meta Quest、ゲーミングPC(Windows)など、様々なデバイスでアクセスできるVRChatですが、美しい仮想空間内のグラフィックを見る・アーティストやパフォーマーの舞台を見る・インタラクティブアートを体験するという目的であれば、ゲーミングPC+XRヘッドセットがほしいところ。わかりづらいのですが、ゲーミングPCがあればアクセスできる仮想空間・見られる/使えるアバターの制限がなくなるんですね。

    Meta Quest版/Viveport版/Android Beta版はいわゆるモバイル版のワールド/アバターしか利用できないので注意が必要です。

    ▲XRヘッドセットとコントローラ

    Q05 ゲーミングPCの推奨スペックを教えて

    例えば人気のClubイベントには、細部の隅々にまで神が宿った造形のアバターが何十人も集まり、最先端のVJ映像が空間を埋め尽くしますが、こういった場で高いfpsを出すには、CPU/メモリ/GPUの全パーツにおいてハイスペックなゲーミングPCが必要です。

    筆者のメインマシンはCore i7-13700K/64GB/RTX 4070 Tiというスペックで、これだと20fpsくらいの描画しかできないイベントもある反面、アバター姿で喋るだけならばCore i5-11400H/32GB/GeForce RTX 3060 Laptopのゲーミングノートでも快適です。

    ■ SteamVR上のシステム要件

    プロセッサー

    Core i5-4590 / AMD FX 8350以上

    メモリ

    4GB以上

    グラフィック

    NVIDIA GeForce GTX 970 / AMD Radeon R9 290以上

    ■ 現実として求めたいスペック

    プロセッサー

    Intel Core i3-12100以上

    メモリ

    16GB以上

    グラフィック

    NVIDIA GeForce RTX 3060 12GB以上

    Q06 どうやったらVRChat友だちができますか

    VRChatは基本的に英語圏のサービスです。そのうち日本人のユーザーは10~15%ほどいると言われていますが、誰でも入れるパブリックな場所(ワールドインスタンス)にアクセスすると、まず日本語話者のユーザーとは出会えません。最初の体験を良いものとするには、日本語話者のユーザーが集う場所=ワールドを知っておく必要があります。

    またこの世界はルッキズムとは少し違うのですが、外見の良いアバター≒人気のアバターを重視するユーザーが多いため、悪趣味なデザインのアバターを使っていると嫌われる傾向があります。まずは現実と同じく、清潔感があるデザインのアバターを選ぶようにしたいものです。

    「DOBUITA & MIKASA WORLD(メタバースヨコスカ)」での歓談中の様子

    Q07 自作や購入したアバター姿になるにはどうしたらいいの?

    VRChatにはトラストレベルというパラメータがあります。始めたばかりの頃はVisitorとなりますが、ある程度プレイ時間を重ねる/フレンドが増えていくとNew Userになり、アバター/ワールドのモデリングデータのアップロードが可能に。さらにUserにランクアップすると、ワールドをパブリック化(一般公開)することができるようになります。

    さて、アバターやワールドの3DモデルデータをVRChatにインポートするにはUnityを使います。気に入ったアバターや自作アバターをUnity上で調整してからアップロードしましょう。

    ▲Unity、VRChat SDKを用いてアバターをVRChatにアップロードする。使用アバター・森羅(mio3io)

    アバター編

    Q08 アバターはどこで購入すればいいですか?

    日本の3Dモデル/アセットクリエイターが使っている主要なECサービスとしては、ピクシブが運営するBOOTHが挙げられます。ここには購入したデータを調整することなく、VRChatで使えるアバターも多数販売されています。

    なお2024年1月31日に公開された「BOOTH 3Dモデルカテゴリ取引白書2024」によると、アバターやバーチャルファッション、小物などのアセットを含めた取引額は31億円と、大盛況な様子が窺えますね。海外のクリエイターの作品が欲しいときは、GumroadEtsyをチェックしてみましょう。

    Q09 人気が高いアバターの探し方を教えて!

    人気アバターを探すには、BOOTHの3Dモデルカテゴリを「VRChat」で検索しましょう。上位に出たアバター=人気アバターの中から、自分が気に入ったルックスや造形のアバターをお迎えするだけです。

    さらに一歩踏み込むのであれば、BOOTHの3Dモデル/3D衣装カテゴリを「VRChat 対応」で検索し、気に入ったバーチャルファッションに対応したアバターを選ぶのも良し。Unity上のわずかな操作で着替えられるメリットがありますよ。

    以下は、BOOTHで販売されているVRChat向けアバターの例です。

    Q10 市販のアバターを改変して使えますか?

    VTuber用のキャラクターとして使えるか、出版物への掲載が可能かどうかなど、市販アバター、また無料で配布されているアバターにはそれぞれ利用規約があります。その中で改変(加工)に関する規約を定めているアバターがあります。

    見た目の年齢を変えるために頭身を変更したり、尻尾や動物の耳など他の3Dモデルデータを合体させて使いたいときは、アバターのモデルデータを編集する前に利用規約を確認しましょう。

    サニア 改変セット(Project Alt)。テクスチャ変更やアクセサリの追加を前提として販売されているモデルも

    Q11 自作するときは何に注意したらいいですか?

    アニメキャラなど、既存のIPそっくりのアバターをつくらないこと、ゲームなどからリッピングしたデータを使わないことが大前提。その上で、パフォーマンスランクに注意しましょう。VRChatアバターにはExcellent/Good/Medium/Poor/VeryPoorの5段階で示されるパフォーマンスランクがあり、ポリゴン数やスキンメッシュ、ボーンの数、そしてテクスチャの解像度によって左右されます。

    VeryPoorアバターは同じ場所にいる他のユーザーのPCに高い負荷をかける原因ともなるので要注意です。仕様の詳細はVRChat Creation(creators.vrchat.com/avatars/avatar-performance-ranking-system)をご確認ください。

    ▲アバターを自作したい初学者は、zen氏のYouTubeチャンネルで展開されている「ワニでもできる!モデリングforVRChat」シリーズを見て学ぶのがオススメ

    ファッション編

    Q12 自分好みの衣装を着せてもいいですか?

    好きなアバターに好きなバーチャルファッションを着させる改変も、VRChatの楽しみ方のひとつ。BOOTHなどで購入できるバーチャルファッションの多くは、Unityを使って着替えさせることができます。

    自分が使っているアバター用に調整されたデータが用意されているもの(対応服などと呼ばれます)であれば、[アバター→バーチャルファッション]の順にPrefabを同じヒエラルキーにインポートして、使いたいバーチャルファッションのみを表示させた状態にしてからVRChatにアップロードします。対応服でなくても、ModularAvatarなどのツールを使って着替えさせることも可能です。

    ▲Unity上で衣装を着替えさせている様子。使用アバター:森羅(mio3io)/衣装:Melty Lily(メルティリリィ)

    Q13 どんな衣装やアクセサリがありますか?

    女性アバター向けであればアイドルがステージの上で着るようなスポーティなドレスもありますし、現実のファッションに寄せたリアルクローズなアイテムも、布面積が少ないセクシーな衣装もあります。男性アバター向けのバーチャルファッションは数が少なめですが、スーツやデニムファッションといったリアクロ系と、SF映画やアニメで登場しそうなサイバーなアイテムがありますね。

    アクセサリは身体に着けるリングやピアス、ネックレスなどのほか、リアルな煙を空中に漂わせるタバコギミックや、手の動きに合わせてパーティクルを動かすギミックなども販売されています。髪型やカラーコンタクトを入れたような眼のデザインデータもありますよ。

    Q14 衣装やアクセサリはどこで探して購入すればいいですか?

    BOOTHで好みのバーチャルファッションやアクセサリを探してみましょう。バーチャルファッションの場合は[3Dモデル→3D衣装カテゴリ]で、自分が使っているアバター名を入力して対応服をチェックするのがオススメです。

    また[3Dモデル→3D衣装]、[3Dモデル→3D装飾品]、[3Dモデル→3D小道具]のカテゴリで「VRChat」または「VRC」と検索すると、VRChat向けに調整されているアイテムを見つけやすくなります。

    ▲まめひなたに対応した3D衣装や3D小道具の例

    Q15 衣装を自作するときに気をつけることは?

    アバターを制作するときと同様に、パフォーマンスランクへの影響を考慮しましょう。しかしVRChat内で数人としか会わないと決めているときは、いわば勝負服と言えるVeryPoorなバーチャルファッション&アクセサリで身を包むのもまた楽しい遊び方。

    自分用につくる、またはヘビーウェイトなデータであることを明記してBOOTHなどで販売するのであれば、3Dモデリングのスキルを存分に活かした作品に仕上げても良いでしょう。

    • ▲自作時に特に重要になるのがポリゴン数を削減すること。画像は、無駄な頂点が多い状態
    • ▲形が崩れない程度に頂点数を減らした状態

    ワールド編

    Q16 VRChatのワールドとは何ですか?

    VRChat内でアクセスできる様々な仮想空間。例えるなら『フォートナイト』などのゲームにおけるマップの数々。それがVRChatにおけるワールドです。4畳半ほどの小さな空間から、端から端まで移動するのに何時間もかかる広大な空間まで、様々なワールドが存在しています。

    トラストレベルが上がれば誰でも自作のワールドを公開できることから、世界中のクリエイターが日々いくつものワールドをアップロードしています。

    下画像は世界中のクリエイターによって制作されたワールドの例です。

    ▲ロボットの街「Complex 7」

    Q17 どんなワールドがあるのですか?

    宇宙世紀シリーズの『ガンダム』で描かれた円筒式スペースコロニーもありますし、Nゲージのような仮想鉄道模型を動かせるワールドもあります。ワールド表現は3D空間クリエイターの夢の結晶と言えるもので、ロマンを感じるものが多く存在します。

    また多くの人が日々集う居酒屋や飲み屋横丁を模したワールド、音楽とパーティクルを連動させたアート嗜好のワールド、企業がプロモーションのために制作したワールドもあります。

    • ▲新宿の有名な飲み屋街であるゴールデン街を模したワールド「ポピー横丁」
    • ▲耐衝撃ウオッチ“G-SHOCK” のカスタマイズを体験できる仮想店舗「G-SHOCK STORE」

    Q18 VRChatで体験できるギミックを教えて

    踊りモーションが組み込まれたNPCアバターや記録された音声データの再生、テーブルの上に置かれたアセットの移動に、アイテムを投げるとそれを嬉々として拾ってくる犬など、様々なギミックが導入できます。

    さらにアバターが近づくと会話ができる生成AI導入NPC、ステージの上に立つミュージシャンが奏でた音に合わせてパーティクルが踊りだすオーディオビジュアライザーなど、Unityで実現可能な様々な表現をワールドに組み込むことが可能です。

    Q19 ワールドを自作するときに注意することは?

    現在のVRChatは、ゲーミングPCが必須となるSteamVR版ではなく、Meta Quest/Androidスマートフォンなどのデバイスでアクセスするユーザーが増えています。多くのユーザーに自分の作品となるワールドを見てもらいたいのであれば、表の仕様に合わせたつくりにしましょう。

    仕様の詳細はVRChat Creationを参照してください。いずれの場合も、データの総量が多い場合は読み込み時間が長くなることがあります。誰もが高速な通信回線を利用できているわけではないことに留意しましょう。

    • ▲クロスプラットフォーム対応ワールドの例
    • ▲PC Only対応ワールドの例

    ■ Meta Quest版/Viveport版/Android Beta版ワールド条件

    ワールド容量

    100MB未満

    シェーダの利用制限

    SDKで提供されるシェーダのみ使用できる

    コンポーネントの利用制限

    Post-Processingなど

    イベント編

    Q20 VRChatで開催される大きなイベントはありますか?

    まずは、現在夏と冬の年2回開催されている「バーチャルマーケット」。3Dモデルの展示即売会から始まったイベントですが、現在はVRChat内でブランドや商品、IPを宣伝したい企業ブースも多く展示されるようになり、会期中にのべ100万人以上のアクセスを記録したこともあります。

    同じく人気を誇るのが、音楽ライブを主軸とした「SANRIO Virtual Festival」。パレードやアーティストパフォーマンスなど、バーチャルフェスならではのコンテンツが盛りだくさんです。

    • ▲「バーチャルマーケット2024 Summer」
    • ▲「SANRIO Virtual Festival 2024 in Sanrio Puroland」
      © 2024 SANRIO CO., LTD. 著作 株式会社サンリオ

    Q21 イベント情報はどこで入手すればいいですか?

    最新のイベント情報を知るには、VRChatイベントカレンダー(vrceve.com)にアクセスしましょう。ここには一般公開されている数多くのイベント情報が登録されており、週末ともなれば100件以上のイベントが目白押し。自分のGoogleカレンダーにスケジュール登録することも可能です。

    また特定のグループ、コミュニティのみで開催されているイベントも多数あります。これらの情報を探すにはXを使うか、VRChatのフレンドから教えてもらいましょう。

    ▲カッコウ氏(@nest_cuckoo_)の個人有志によって運営されている

    Q22 CGクリエイターが見るべきイベントはありますか?

    2019年、2021年に開催された「Shader Fes」は、数多くのクリエイターが開発したシェーダが見られるイベントです。現在はワールドとして一般公開されており、いつでも見に行くことができます。またワールド制作における注意点とは真逆となりますが、ワールド容量が数百MBと大きなワールドは、クリエイターの想いが結実した世界観でまとまっているところが多く、一見の価値があります。

    PCまたはスマートフォンのブラウザでVRChat.comにアクセス、ワールドの詳細情報を見ると容量を確認できるので、参考にしてみてください。

    ▲リアルタイムで動作する様々なシェーダ表現が満載

    Q23 企業や自治体主催のVRChatイベントはありますか?

    企業や自治体のプロモーション用に公開されたワールドでも、特別なイベントが実施されることがあります。例えばアパレルセレクトショップのビームスは自社ワールド「TOKYO MOOD by BEAMS」にて、撮影会やライブなどのコラボイベントを実施してきました。当記事を制作した往来も、横須賀市や日産自動車、京セラのワールドでのイベント開催を行なってきています。

    これら企業/自治体ワールドのイベントはXで告知されることが多いため、それぞれのワールドの情報を発信しているアカウントをフォローしておくと、いち早くイベントの実施時期を知ることができますよ。

    ▲メタバースヨコスカ ドブ板通り

    CGWORLD 2024年9月号 vol.313

    特集:VRChatへ飛び込もう!
    判型:A4ワイド
    総ページ数:112
    発売日:2024年8月9日
    価格:1,540 円(税込)

    詳細・ご購入はこちら

    TEXT_東 智美(株式会社往来)、武者良太
    EDIT_藤井紀明 / Noriaki Fujii(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada