去る5月27日(月)、人気男性ダンスボーカルグループのNumber_iが新曲『BON』のMVをYouTubeに公開。日本のみならず海外まで話題が拡がり、公開からわずか1週間で2千万回再生を突破した。7月末現在では3千6百万回再生を数え、いまだ再生数が伸び続けている。

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    『BON』MVにはVFXや3DCGがふんだんに用いられているが、その中にユニークな、アクションフィギュアを用いたような人形劇シーンが登場する。これもまた3DCGを用いて制作されており、NANON CREATIVEmino氏によるものである。

    CGWORLDでは早速mino氏に話を伺った。

    3Dスキャンデータをガイドにし、顔の造形はBlenderアドオンを活用

    CGWORLD編集部(以下、CGW):人形劇のシーン、ユニークな表現でしたね。

    mino氏(以下、敬称略):ありがとうございます。新保拓人監督の企画に「日本のカルチャーを表現するシーンで、フィギュアシーケンスを入れたい」という依頼があって、担当させてもらいました。故・鳥山 明先生へのリスペクトが込められたシーンがあったりと印象深いです。

    CGW:Number_iの各メンバーをアクションフィギュアに落とし込むのに苦労されたのでは?

    mino:そうですね。特に強く意識したのは「質感」と「デフォルメ感」のふたつです。質感はやはりミニチュアのフィギュアっぽさで、サイズ感が感じられるようなディテール表現にこだわりました。

    デフォルメ感としては、フィギュアらしい関節やプラスチックパーツの接合部分の表現に力を入れつつ、Number_iの各メンバーのイメージから離れすぎない、良い落としどころを目指しました。実際、本人の面影を残すべきか、それともデフォルメに振り切るべきかの調整にはかなり時間を費やしましたね。目の表現を変えたり、動きを加えるだけでも見え方が大きく変わるので、新保監督と相談しながら試行錯誤を重ねました。

    CGW:苦労された甲斐あって、各メンバーの個性が良く表れていると思います。3Dスキャンなどは行ったのですか?


    mino:はい、3Dスキャンデータをガイドとして使用しています。iPhoneで各メンバーをぐるっと約3周撮影して、その動画からRealityCaptureで3Dモデルを作成しました。

    参考:RealityCapture 1.3

    mino:ただ、あくまで簡易スキャンですから、ディテールはありません。あくまでガイドとして使ったというところです。

    CGW:なるほど。顔の部分はどうされたのですか?


    mino:顔は特に重要なので、Blenderのアドオン「FaceBuilder for Blender」で作成した3Dモデルをベースにしました。画像を数枚用意して、目・鼻・口といった特徴点を設定するだけで、手軽に再現性の高い顔を作成できるアドオンです。

    参考:KeenTools FaceBuilder for Blender — Official Demo

    CGW:では、このFaceBuilderで顔の再現はすんなりと?

    mino:いえ、FaceBuilderのベースメッシュは彫りの深い西洋人の顔をベースにしているので、アジア人の顔を再現するためにはかなり調整が必要でした。ただそれでも、FaceBuilderでつくったモデルは3Dスキャンとちがって綺麗なトポロジーになるので、その後のデータの調整はスムーズに進みましたね。

    CGW:NANON CREATIVEは次々と話題作に関わっていらっしゃいますね。

    mino:ありがとうございます。おかげさまで、うちにはCG、VFX、デザイン、VJ、リリックビデオ、モーショングラフィックスなど、幅広い分野に対応できるメンバーが集まっています。今後は、表現の枠を超えた映像作品を制作して、NANON CREATIVEが中心になるようなクリエイティブなプロジェクトを展開していきたいです。

    CGW:期待しています! 本日はありがとうございました。

    Number_i『BON』MVクレジット抜粋

    Action Figure CG :NANON CREATIVE


    CG Director :mino (NANON CREATIVE)


    CG Production Manager :Yukina Hayashi + Yoshiki Sakamoto (以上Cyran)


    CG Producer :Keita Sugai (Cyran)


    P.I.C.S. Webサイトより)

    NANON CREATIVE / mino氏について

    NANON CREATIVEは、実写やアニメーション、VFXまで幅広い表現でスタイリッシュなアウトプットを続けるmino氏を中心に、グラフィック、モーショングラフィックス、3DCGの3チーム9名からなる20代の若手アーティストたちで構成されたクリエイティブ集団。これまでも数々のアーティストのMV制作に携わっている。

    mino(NANON CREATIVE)
    VFX/CGアーティスト、ディレクター

    代表作
    THE ORAL CIGARETTES『MACHINEGUN』 CG.VFX
    DISH// 『Shout it out』 CG.VFX
    NOISEMAKER 『Hunter or Prey』 CG.VFX
    Vaundy『Go Stream』 VJ
    Vaundy『ZERO』 CG
    乃木坂46『好きというのはロックだぜ!』 CG.VFX
    femme fatale『Step into』 CG.VFX
    水曜日のカンパネラ『聖徳太子』 CG.VFX
    NewJeans 『Coke STUDIO SUPERPOP JAPAN 2023』LIVE VJ
    Japan Mobility Show 2023『Isuzu Group Movie』CG.VFX
    マキシマム ザ ホルモン『恋のアメリカ』CG.VFX
    ano『スマイルあげない』CG.VFX
    紫今『Not Queen』 Direction

    直近の公開作は、プロeスポーツチーム「REJECT」の「Yogibo REJECT」選手発表ムービー「SFL 2024 Yogibo REJECT Roster Reveal」のVFXだ。

    なお、CGWORLDではmino氏のメインツールBlenderにスポットを当てたインタビューやイベント登壇なども実施。併せて確認してほしい。

    ●インタビュー「ボリュメトリック✕Blenderで若手制作集団が魅せるマルチバース〜Vaundy『ZERO』MV」(CGWORLD.jp)

    https://cgworld.jp/article/202404-cgw308-zero.html

    ●Blender Fes 2024セッションページ「MV監督が考えるフォトリアルCG活用術 ~爆裂カーチェイスからフルCGインサートの極意~」(CGWORLD.jp)

    https://cgworld.jp/special/blenderfes/vol2/channel/channel-367/