2010年代以降に幼少期を過ごした女子から圧倒的に支持されるコンテンツ『アイカツ!』。TVシリーズの放送以降、劇場版も3作公開されているが、2023年1月20日(金)からは10周年を記念して新作アニメ『アイカツ! 10th STORY ~未来へのSTARWAY~』が劇場公開となった。

TVシリーズ放送当時はステージライブシーンを3DCGで描くことはまだまだ珍しかったことから、制作スタッフ陣は作品と共に技術を磨き続け、本作での表現に昇華させた。12名のキャラクターがハイクオリティな3DCGで歌って踊る演出は必見である。

記事の目次

※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 296(2023年4月号)からの転載となります。

集大成となる10周年記念映画の華やかなライブ

映画『アイカツ! 10th STORY ~未来へのSTARWAY~』
企画・原作・制作:バンダイナムコピクチャーズ/原案:バンダイ/監督:木村隆一/配給:バンダイナムコピクチャーズ/配給協力:バンダイナムコフィルムワークス
www.aikatsu.net
©BNP/AIKATSU 10TH STORY

本作のキャラクターモデルは、2012年から『アイカツ!』に携わっていたサムライピクチャーズが制作したものを、2016年のTVアニメ『アイカツスターズ!』以降を担当するバンダイナムコフィルムワークスが受け継いで活用している。また本作では、これまで同社が手がけてきたシリーズ作品とはちがい、参照元となるゲーム機用ムービーのない、オリジナル新曲のステージが登場。過去作を研究しつつ、イチからつくり上げたという。

後列左から、2Dコンポジター・李 鑫/リ キン氏、3Dモデラー・赤塚慎一氏、3Dアニメーター・小幡幸平氏、3Dモデルチーフ・高橋将太郎氏
前列左から、制作進行・石井美裕氏、2Dコンポジットチーフ・中西明日香氏、3Dアニメーター・數藤恵理奈氏、3Dモデラー(キャラクターモデリング担当)・萱嶋いちご氏
取材協力、CGプロデューサー・井上喜一郎氏、3DCGチーフ・村上佳代子氏
(以上、株式会社バンダイナムコフィルムワークス

3Dアニメーターの數藤恵理奈氏は、「当時からのファンにも楽しんでもらえるように、キャラクターたちの個性を研究してフェイシャル作業に力を入れました」と、歴史ある作品にリスペクトをもって制作にあたったと語る。2Dコンポジットチーフの中西明日香氏も「愛情を込めて、体力の限りできることはやったつもりです。かけがえのない宝物のような経験になりました」と話す。

取材の最後、CGプロデューサーの井上喜一郎氏も「『アイカツ!シリーズ』のことが本当に好きなメンバーが集まってつくりました。CG技術の集大成となったステージをぜひご覧ください」とコメントしてくれた。アイドルたちの姿をぜひ劇場で見てほしい。

<1>キャラクターの“可愛い”を引き出すモデリング&アニメーション、カメラワーク

本作における3DCG関連の制作期間は約1年。キャラクターモデルの外見については、サムライピクチャーズがTVアニメ『アイカツ!』で作成したモデルを活用したが、中身のセットアップは現在の環境に合わせて再構築した。

通常、キャラクターモデルの造形には1体あたり30日程度かかるが、本作では、モデルの流用によって最初の1体(星宮いちご)に3週間、以降は1体あたり10日間ほどと、スピーディに制作できた。なお、衣装については新曲に合わせ、ソレイユとルミナスの計6人分を追加で制作している。

アニメーションについては、木村隆一監督から「リアルなライブ会場にいるような臨場感」とのオーダーがあり、まずはカメラワークからつくりはじめた。その後、リップシンク、フェイシャルの作成を行い、モーションキャプチャデータをながし込んで、キャプチャ時の映像から手足などのプライマリ調整を施した。

セカンダリではSpring Magicをかけて揺れものを調整したが、そのままでは髪の毛や衣装がめり込んでしまうため、コマ単位で、手動で修正。この作業が最も大変だったそうだ。

星宮いちごのモデルデータ改修

キャラクターモデルはTVシリーズ当時のデータを利用したが、ソフトのバージョンアップなどの関係でリグなどの内部構造に不都合が出ていたため、その部分は再構築。また、主人公の星宮いちごを中心に、ソレイユのメンバーは新曲「MY STARWAY」のための新衣装がフルスクラッチで制作されている。

作業期間は約2ヶ月、ポリゴン数は約10万、リグ数は2,500以上と、歴代最高レベルの物量である。使用ツールは3ds MaxAfter EffectsSpring MagicPencil+ 4。そのほか、3ds Maxから位置情報を取得してAfter Effectsに受け渡すためのプラグイン「After3dsMax」も使用している。

  • 星宮いちごのモデル。シェーディング表示
  • ボーンのみ
  • リグを入れた状態
  • モデルとリグを同時表示

卒業記念ライブにふさわしいきらびやかなソレイユの衣装

新規衣装のモデル制作にあたっては、3Dモデルチーフの高橋将太郎氏もデザインの会議に参加して、制作コストやスケジュール面のヒアリングを実施。デザインとしては、スカート部分は6層と多く、裏地やタイツまで装飾が付いているというこだわりようで、上腕にはモコモコしたファー、背中には金属製の豪華な翼が付いている。このデザインに対して3DCGチームは、ポリゴン数の限界値を見定めながら立体化していった。

星宮いちごの卒業記念ライブの衣装デザイン画
完成モデル。細かな装飾が繊細に表現されている

カメラに合わせて口の位置を自動調整

2021年のTV番組『アイカツプラネット!』から実装されたセットアップ。カメラとキャラクターの画角に沿って、口の位置が自動で移動する(手動での調整も可能)。口の位置を中心からずらすことで、作画のような表現になるのだ。「この自動化で最初のひと手間を省くことができ、効率化につながりました」と高橋氏は話す。

  • 調整前
  • 調整後。口の位置がやや左に移動している
  • コンポジット後の本編カット
  • 3ds Maxでのワイヤーフレーム+シェーディング表示

可愛らしさと個性を追求した表情付け

表情づくりについて、3DCGチーフの村上佳代子氏は「社内にいる『アイカツ!』ファンと相談しながら、多数のファンがもつイメージから離れないように、キャラクターの可愛い表情をとことん追求して、気を配りながら制作しました」と語る。

數藤氏も「各キャラクターの個性に合わせて、歯や舌を出してみたり、ウインクのタイミングや目線といったひとつひとつの動作に可愛らしさが感じられるように調整しています」と話してくれた。「本作では、過去作のステージを研究して取り入れた部分がたくさんあります。ですから、ファンの方にも『この表情はあのときの表情だ』と気づいてもらえたら嬉しいです」(數藤氏)。

  • 歯を見せて微笑む神谷しおん
  • ペロッと舌を出す有栖川おとめ

モーションキャプチャをベースに手付けでアイドルらしいしぐさに仕上げる

アニメーションにはモーションキャプチャデータを利用しているが、指の動きはデータの読みとりが難しいことがわかっていたため、アニメーターが現場でアクターの指の動きを動画で撮影し、手付けで修正している。「アップになったときに可愛く見えるように、指を内側にするのがポイントです」(數藤氏)。

  • モーションキャプチャデータをながし込んだ状態。撮影時の指の動きまでは読み込めていない
  • アニメーション付けの作業画面
  • 完成したプライマリアニメーション
  • セカンダリアニメーションの修正後。大空あかりと新条ひなきの衣装の立体感とめり込み、あかりと氷上スミレの頭髪が修正されているのがわかる

自由なカメラワークで表情豊かにキャラクターを撮る

実写的なカメラワークを使いつつも、ステージを邪魔せず思い切りキャラクターの表情をアップにできるのがアニメの良いところ。レンズの使い方も自由度が高い。「実写でのステージ撮影は望遠で撮ることが多いですが、3DCGなら広角で近づいて、ステージの中から撮ることができます。必然的にアップの画もバリエーションが豊かになりますね」と、カメラワークを担当した3Dアニメーターの小幡幸平氏。

また、リップシンクは曲に合わせながら、そのキャラクターの特徴が出るようなフェイシャルを作成する。「アップのときはカメラ目線にしたりと、モーションやフェイシャルを調整しています」(數藤氏)。

3ds Maxでのカメラワーク作業
本編カット

<2>観客をライブ会場へと引き込むステージ演出とエフェクト

観る者の心を打つダンスシーンが魅力の本作だが、ステージ設計とコンポジットによる演出にも工夫が凝らしてある。ステージ設計については、従来作ではゲーム用に制作したステージをベースに再構築していたところ、本作の「卒業記念ライブ」ではイチからステージを制作。過去のステージを彷彿とさせるパーツを盛り込みながら、3ユニットのイメージに合わせた装飾や質感を整えた。

3Dモデラーの赤塚慎一氏は「光の反射や宝石調の装飾など、3DCGの強みを活かしたリッチな表現を目指しました」と語る。

もうひとつ魅力的なのがコンポジットによる演出。多様なエフェクトや撮影処理により、キャラクターたちをより可愛らしく、感動的に描き出している。ただし、そのテイストはあくまで『アイカツ!』に沿ったものを目指した。カメラワーク同様、リアル路線の表現を心がけたという。

2Dコンポジットチーフの中西明日香氏は「曲を聞いておいて歌詞や曲調からステージのイメージを固めていき、カメラワークムービーを見ながら細かく演出を付けます。今回、音に絡むようなエフェクトはあまり入れずに、舞台装置のギミック的な演出を考えました」と話した。

キャラクターのイメージカラーを使ったライトアップの撮影処理

『アイカツ!』初代オープニング曲『Signalize!』を歌う「トライスター」と「ぽわぽわプリリン」。楽曲の後半からは夜明けのイメージで空色が変化する。

「カット53から63までは、客席なめでカメラがパンしつつ、キャラクターひとりひとりに寄るカットバックがくり返されるカメラワークです。そこで、引きの画にひと工夫して、ステージ全体の色がグラデーション状に変化するライトアップを施しました。このときの色は、カメラで抜かれてるメンバー専用のイメージカラーです。観客の電波(観覧客が頭に装着している推し色の星が出る装置)も、現実のライブでペンライトの色が変わるのと似たしくみで連動するようになっています」(中西氏)。

  • カット59の冒頭、撮影処理前
  • 撮影処理後
  • 同様に、カット59の末尾、撮影処理
  • 撮影処理後。次の撮影処理の前振りとなるライトアップが見える
上記の「撮影処理後」の前振りを受けて、北大路さくらのイメージカラーであるライム色で撮影処理が施されている

広角レンズで捉えた臨場感あるカット

前述の「自由なカメラワークで表情豊かにキャラクターを撮る」でも触れた、広角レンズを使ったカメラワークのカット例。いちごがカメラに視線を向けながら両手を広げて踊っている。

「ほかのカットよりも多く、コンポジットで処理を加えています。少しモーションブラーを足して、大げさなくらいに色収差を加えて、周囲にはビネットをかけて暗く落とし、いちごちゃんもカメラに身体を向けている間は少し暗く落として、臨場感のある感じを目指しました。一見してカメラの切り替えがわかる面白いカットになっていると思います」(中西氏)。

  • 撮影処理前
  • 基本撮影処理の適用後
さらに色収差、ビネットフィルタを適用

ユニット「コスモス」が紡ぐ華やかなエフェクト

星宮いちごと大空あかりによるユニット「コスモス」のユニットオーラ発生直前、その盛り上がりを演出するエフェクト。いちごとあかりが手を重ねた場所から光が生まれ、ハートの形にパーティクルが広がり、周囲にはコスモスの花とカラフルな光の粒が舞う。

「カメラがQTB(クイックトラックバック)するので、引きの画でも何が起きているのかがわかるエフェクトにする必要がありました。あらかじめカメラデータとキャラクターのポジション(頭、両手足、腰)を3D担当に出してもらっているので、ほとんどのエフェクトは3D空間に発生させています」(中西氏)。

  • 平面にパスでハートを描き、これをライトのポジションに貼り付け、Particularでライトをエミッタに指定。これによりライトがハートを描く軌跡を作成した
  • ステージに広がるホログラムのようなイメージで作成した周囲のコスモス
完成カット

光の粒が翼になる演出は逆再生を活用

ソレイユのライブシーンの冒頭で、光の粒子が集まって翼が生えるという演出。『アイカツオンパレード!』の『Future jewel』でお披露目した演出をここでも見せた。ただ、Particularは粒子を散らすエフェクトであって集めるエフェクトではない。そこで、翼を散らす映像をつくり、逆再生して使うことにした。ただしこのとき、カメラが動いていることから、マーカー位置情報も逆にして計算するという難しい作業が発生した。

「最大2回の逆再生があって、Particularのフェードイン、フェードアウトのタイミング計算が難しく、2~3コマをずらしてプレビューをくり返しました。さらに、Particularだけだと翼の形がはっきりしないので、翼の輪郭線を抽出してキラキラさせたり、翼を調整レイヤーにして後ろの背景を歪ませ、光の屈折を表現しています」と2Dコンポジターの李 鑫氏。

翼のパーティクルのパラメータ設定
完成カット

CGWORLD vol.296(2023年4月号)

特集:とことん深掘り! ゲームのアニメーション
判型:A4ワイド
総ページ数:112
発売日:2023年3月10日
価格:1,540 円(税込)

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TEXT_日詰明嘉
EDIT_海老原朱里 / Akari Ebihara、山田桃子 / Momoko Yamada