2024年1月25日に開催されたAutodesk主催「Autodesk Animation Day」のイベントから、株式会社IKIF+によるセッション「メイキング 『映画 すみっコぐらし』~こうやって作ってるんです~」のレポートをお届けする。

『映画 すみっコぐらし ツギハギ工場のふしぎなコ』はサンエックスが展開する「すみっコぐらし」のキャラクターを使った映像作品で、本作で3作目の劇場用映画作品となる。アニメーション制作を担当しているIKIF+は木船徳光氏と石田園子氏による作家ユニット「IKIF」から3DCGアニメーションを専門とする部署として設立されたプロダクションで、劇場用アニメーションからTVアニメ、ゲームPVなどのアニメーションの企画制作業務に幅広く携わっている。

今回は、CGプロデューサー奧村優子氏(IKIF+)、ディレクター熊倉ちあき氏(IKIF+)、3DCGデザイナー石田龍樹氏(フリーランス)の3名が登壇し、3シリーズを通した『映画 すみっコぐらし』のメイキングが紹介された。

記事の目次

    Information

    ▲『映画 すみっコぐらし ツギハギ工場のふしぎなコ』本予告(60秒)

    『映画 すみっコぐらし ツギハギ工場のふしぎなコ』
    サンエックスが展開する人気キャラクター「すみっコぐらし」を劇場アニメ化した『映画 すみっコぐらし』シリーズ第3弾。
    監督:作田ハズム
    原作:サンエックス
    脚本:角田貴志(ヨーロッパ企画)
    美術監督:日野香諸里
    アニメーション制作:ファンワークス
    配給:アスミック・エース
    ©2023 日本すみっコぐらし協会映画部
    sumikkogurashi-movie.com

    登壇者

    IKIF+ CGプロデューサー 奧村優子氏

    IKIF+ ディレクター 熊倉ちあき氏

    3DCGデザイナー 石田龍樹氏

    プリプロダクション

    キャラクターらしさの追求

    まず最初に、開発の初期段階からIKIF+がどのように関わってきたのかが紹介された。IKIF+は劇場映画1作目から本シリーズの制作に携わっており、2018年にファンワークスからすみっコぐらしの「3D化を前提とした」映像制作の相談があったという。すみっコぐらしのキャラクターたちは、商品化される際のデザインが細やかに決め込まれており、ファンが見ているキャラクターのポージングが限定的で、あらゆる角度から見えてしまう3D化はハードルが高い作業になると分析されていた。

    「完全に2次元イラストとして描かれているキャラクターを3Dで作ると、パースが付いたり、斜めの角度になったり、これまで誰も見たことがないポーズが生まれて、既に浸透しているすみっコのフォルムに調整することが難しい。このような‟イラストから3Dキャラクターを起こす”という作業は、難しい仕事になることが多いのですが、これを解決していくことがクリエイティブの苦しみでもあり、最大の楽しみでもあると我々は考えています」と奧村氏。

    ▲企画初期のプリプロダクションのながれを解説する奥村氏と会場の様子
    ▲数㎜のパーツ配置のちがいやちょっとした形状のちがいで、全く印象が異なったキャラクターになってしまう

    キャラクターの印象を崩さない仕組みの開発

    シンプルなキャラクターをオリジナルの印象を残したまま3D化するためには、「キャラを崩さない仕組み」、「あまり動かないキャラの存在や衣装替えをふまえた、モデリングとリギングなしでバリエーションを作る仕組み」を構築する必要があった。これらを実現するために、3ds Maxを使用して3D化する方法と、Mohoというツールでの2次元イラストを基にした切り紙アニメーション的な手法の2つのスタイルが考案された。
    サンエックスとの打合せにおいては、キャラクターの制作方法についてのプレゼンシートが作成され、シーンやキャラクターの動き、状態に応じて手法を使い分ける制作スタイルが提案された。プレゼンシートによって制作手法についても認識を正しく共有することができ、無事に制作を開始することが決まっていったという。

    ▲キャラクターらしいルックの指標と制作手法が早期から示され確認された

    フローとアセットの検討

    続いて、フローとアセットの検討過程がディレクター熊倉氏によって紹介された。本作では、サンエックスから提供された‟スタイルガイド”と呼ばれるキャラクター設定画像に合わせてモデリングが行われている。正面と横向きで整合性がとれたモデルをベースモデルとして作成し、リグに仕込んだデフォーマの機能を使ってシルエットが編集できるようになっている。

    「1作目の制作時に、シルエットを変形させるためのボーンを仕込むのであれば、すみっコ全員同じ身体のシルエットのベースモデルにして、ボーンの構造も全部同じにしてしまえば、構図とかアニメーションを全て兼用できるからいいじゃない?っていう案が出たんです。ただ実際に試作してみると完全にデータを兼用することはできないっていう結論に達し、最終的に1体ずつのアセットにばらしています。本作では、2作目のときにアニメーターからのフィードバックを基に全改修されたアセットを使用しています」と熊倉氏。

    ▲熊倉氏によるプリプロにおけるフローとアセットの検討についての解説。課題を解決するための取捨選択がなされたようだ

    イラストに忠実なルック制作

    2Dイラストを3D化する場合、モデル形状の難しさもさることながら、手描きの雰囲気をどのように再現するのかも難しい問題となる。すみっコぐらしのイラストは、線が色鉛筆やクレパスで描いたようなガサガサとした表現となっているのがひとつの特徴である。この線のルックを再現するために、3ds MaxのPencil+4で出力したライン素材にAfter Effectsでエフェクトをかけて、主線と細い線を不透明度を調整しながらオーバーラップさせて表現しているという。

    また線の太さも、キャラクターが画面の奥にいるときは線が細く、手前にいるときは太くなり、一定以上は太くも細くもならないように設計がなされた。画面に対する100%サイズでの基準の太さを設定し、そこから奥と手前各4段階のサイズを用意して太さの変化率を割り出してカットごとに線の太さが決定されているという。

    ▲手書き感のあるラインのルックを構築した上で、カメラのからの距離での調整などがカット単位で施された

    ポーズの再現

    「スタイルガイドの通りに絵が動いたら可愛いということはわかっていたので、ベーシックなポーズや、逆に再現が難しそうなポーズを検証しながら開発を進めていきました。ポーズを検証しながらリグの検証や、ほしいコントローラのリクエストなどもこの検証の際に提案していたと思います。サンエックスのデザインチームの方にレンダリングされたアニメーションを見てもらったのですが、ポーズが変化しているだけでもキャラクターが動いていると喜んでもらえて、作った甲斐があったなと思いました」と開発当時を思い出し熊倉氏は話す。

    スタイルガイドを再現することができたことによって、このデータをアニメーション作業時に使用できればキャラの崩れは防げると判断され、ポーズデータを各キャラクターのアセットに読み込む仕組みが開発されていったという。

    ▲初期ポーズの再現を生かすポーズローダー(後述)のアイデアもこの段階で挙がったようだ

    「すみっコ的」な動きの検証

    モデルの形状やルックの検証と平行して、キャラクターの動き方についても検証が行われている。「各キャラクタ-で一番なじみのある角度のポーズを使って検証していきました。奥の足と手前の足が重ならないようにすることや、胴体と足の境界に線が入らないようにすることなど、サンエックスの方とお話ししながら修正を重ね、3次元的に回り込んでいるようなアニメーションデモをつくって確認していきました」と熊倉氏。1作目の監督から、キャラクターの動作はタメやツメを効かせたカートゥーンぽいクイックな動きにしたい、キャラクターの硬さはお菓子のグミぐらい、という具体的なイメージが提示されていたため、このイメージをアニメ-ションの指針としたという。

    ▲3次元で歩き方など動きが確認され、アニメーションの指針が制作された

    キャラクターらしさを実現するためのアセット制作

    プリプロダクションの各検証から得られた結果をふまえ、キャラクターアセットがどのように作成されたのかが石田氏によって紹介された。1作目では、メインキャラクターのアセット流用が考えられていたため、5体共通のリグが作成されている。この段階のリグでは、「しろくま」のデータの中に「とかげ」の背びれが仕込まれていたり、「ぺんぎん?」のデータの中に「ねこ」の耳部分が仕込まれたりと、ひとつのアセットで複数体のキャラクターが表現できる構造になっていたという。前述した通り2作目からはキャラクターごとの固有リグに改修されている。

    2作目以降のモデルデータの特徴は、外部参照をなるべく使用して、頂点数の変更を伴わないモーフターゲットの形状変更や、仕上げ用にマップチャンネルが必要になった場合など、なるべく手間を掛けずに修正できるように工夫されているという。

    Ray To Surface Transform Constraintの活用

    リグ開発において大きな特徴となっているのが、3ds Maxに標準搭載されているRay To Surface Position Constraint(現バージョンではRay To Surface Transform Constraint)を使用している点だ。キャラクター表現では、身体の表面に沿って目や鼻のパーツが移動するような表現があり、実現するために法線を利用したりと様々な手法を検証した結果、このRay To Surface Position Constraintに辿り着き、身体に沿ってパーツを効率良く動かすリグを開発することができたという。

    まず目を動かすヘルパーにRay To Surface Position Constraintを適用する。レイを受けるオブジェクトに胴体の法線を反転したオブジェクトを設定し、レイを飛ばすオブジェクトは身体の内側から外へ向くように配置している。レイを飛ばすオブジェクトには、ルックアットコンストレイントが設定され、常にターゲット方向を向くようになっている。この仕組みのおかげで身体の表面に配置されたパーツを身体から離さずに位置調整ができるようになったという。

    ▲身体の表面に沿って目や鼻のパーツを移動させるための仕組みに役立てられた

    デフォーマー/ポーズローダーによるアニメーション

    キャラクターの動きに応じて変形するボディには、プロジェクト内で「デフォーマー」と呼ばれた体型を調整するコントローラーが仕込まれている。デフォーマーはコントローラーにボーンに指定したスキンモディファイヤを適用しただけのシンプルな構造だが、デフォーマーを動かすだけで、キャラクターのフォルムを調整することができる便利な機能となっている。「ぺんぎん?」のそら豆のような身体のフォルムを調整するには非常に役に立ったという。

    スタイルガイドに設定されたポーズを、シーン内のキャラクターに簡単に読み込むことができるように、ポーズローダーという仕組みが開発されている。アセットは3ds MaxのCATを使って基本的なリグが構成されているが、ポーズローダーはCATに組み込む形で実装されており、スタイルガイドの画像を貼り込んだオブジェクトと、ポーズ指定用の中間コントローラーによって構成されている。スタイルガイド上のキャラクターに読み込みたいポーズを中間コントローラーで選択し、LoadPoseボタンをクリックすれば簡単にキャラクターにポーズを適用することができる仕組みになっている。ポーズを反転する機能や、ポーズにキーを作成する機能もあるので、ポーズトゥポーズでのアニメーションも手際よく作成することができるという。

    ▲ポーズローダーの活用を実演する様子。ポーズトゥポーズでのアニメーションの作成に活躍したとのこと

    多岐にわたる出力素材を自作ツールで管理

    最終的なショットワークにおいて、1作目では3ds Maxを使った3D素材を使った手法と、Mohoを使った2次元的なアプローチを併用するため、出力されたラインの必要ない部分をAfter Effectsで力技で消していくという作業が発生してしまっていた。2作目では大部分のカットを3Dで完結させるため、仕上げの出力素材の見直しを行なった。その結果として、1作目ではRender Elementsから出力する素材は4点ほどであったが、2作目からは13点に増えてしまった。

    そこで、出力素材を効率よく管理するために、レンダリング補助ツール「すみっコツール(以下、smk_tools)」が開発された。smk_toolsはカット作業補助の役割をするShotToolsとレンダリング時の設定補助を行うRndToolsによって構成されている。ShotToolsにはシーン上のカメラの設定やキャラクターの管理、リグの選択などを簡易に行う機能が備わっている。RndToolsはレンダリング処理前に行うラインサイズ変化や、レンダリング素材の出力先、セル分けの規則に則ったファイル名などを自動的に設定できるようになっている。このようなツールを開発することで作業の効率化を図ったという。

    ▲ShotTools。シーン上のカメラの設定やキャラクターの管理、リグの選択などを簡易に行うことができる
    ▲RndTools。ラインサイズ変化の設定や、レンダリング素材の出力先、ファイルの命名などを自動的に設定可能

    アニメーションワークフローと制作の振り返り

    セッションの最後に、制作全体のワークフローが紹介された。プリプロダクション工程終了後、まずは絵コンテを基にしてビデオコンテを作成。この段階で美術設定やアセット、3Dレイアウト用のモデルなども作成された。

    各パートのコンテを基に、処理打ち会議を実施。作成するアセットや、担当、スケジュール、各部署への作業割り振りを時間を掛けて決め込む。その後、3D背景モデルやアセットを使ってカットごとのレイアウトが作成され、アニメーション作業、3dsMaxでの仕上げのレンダリング、After Effectsでのコンポジットを実施。最終的に撮影処理を施し、編集をして完成という流れになっている。

    レイアウトに使用するモデルでは、10cm四方のチェッカーが表示されており、ダミーのキャラクターを実際に配置してカメラワークのシミュレーションなども正確に行われたという。また、3D素材のレンダリング後のAfter Effectsでのコンポジット作業でも、腕の長さやシルエットのニュアンスといった細部にいたるまでのイメージの擦り合わせが行われ、映画3作目の完成映像を観た原作者のよこみぞゆり氏からも「完璧」のお墨付きがあったという。

    「キャラクターを可愛く見せるためのシステムが画づくりを支えていることは間違いないのですが、ここまでの画づくりが実現したことには他にも理由がありました」と奥村氏。1作目から参加していたコアメンバーが、継続して制作に携わったことが大きなポイントであったという。また、制作チームが非常にコンパクトだったことで、アニメーター全員にキャラクターへの共通理解が生まれ、メインのキャラクターの後ろに配置されているキャラクターにまでこだわってアニメーションがつけられていった。

    「最後の理由は、作品に関わる方々の愛に支えられてできている作品であることでしょうか。ファンの方たちも、サンエックスのデザイナーさんたちも、映像が出る度に可愛いところを見つけてくださるんです。CGでつくられたキャラクターたちの、細かい遊びとかにも気づいて褒めてくださる。そういった声を受けて、制作スタッフもこの作品のためにもっと頑張ろうと思える。この相乗効果が、作品のクオリティが上がった理由としてとても大きいのではないかと思います」と振り返る。

    この他にもTVシリーズ『アニメ すみっコぐらし そらいろのまいにち』やアニメPV『すみっコディスコ』の制作についても紹介され、IKIF+のすみっコぐらし愛が非常に感じられる講演となった。

    イベント詳細・期間限定オンデマンド配信はこちらから

    TEXT_大河原浩一
    EDIT_渡邊英樹、Mana Okubo(CGWORLD)
    PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota