7月14日から京都みやこめっせで開催されたBitSummit 2023。数々のゲームが出展し、注目が集まっていました。マリオのコスプレをする人や、PlayStationブースに数々の書き込みが見られるなど盛り上がりが見られました。
出展したゲームは数多く、その中でも本記事ではゲーム開発や3DCGに焦点を当ててみたいと思います。
個性的な3Dゲームたち
Indie-us Games『UNRESTRICTED』
『UNRESTRICTED』とは?
"UNRESTRICTED"は、巨大な惑星を舞台にしたスーパーヒーローアクションゲームです。世界中を自由に飛び回り、最強のスーパーヒーローを体感できるゲームを目指して開発しており、前作『UNDEFEATED』と同じ世界線を共有しています。
Unreal Engine 5で開発中の『UNRESTRICTED』についてリードゲームデザイナーの兵藤 大瑚氏とゲームディレクターの篠原 友磨氏にお話を伺いました。二人は専門学校の同級生で、学生時代に『UNDEFEATED』を開発していました。その後、Unreal Engineでゲームを作りたいと熱意を持って専門学校を飛び出し、二人はそれぞれ別のゲーム会社で経験を積んで、Indie-us Gamesで合流。本作の開発に熱意を持って取り組んでいます。
本作の開発では、プロトタイプを3段階に分けて考えていて、ようやく3段階目に達し、これからシナリオをより作りこんだり、フィールドを拡大したりと次の段階へと開発が進んでいるようです。本作の開発の傍ら、マーケットプレイスにSuperhero Flight Animationsという人の飛行モーションをアセットとして販売。開発で得たノウハウを活かしているようです。
篠原氏は主にエフェクトなどのビジュアル面やプレイヤーに関する部分を担当しています。ツールについては他には特に使用せず、Unreal Engine内でアニメーションなども制作しています。これによって、リテイクの回数が軽減されるメリットがあるとのことでした。
兵藤氏は開発においてはプレイヤーの成長といったゲームデザインを担当しています。また、バトル部分のゲームデザインも担当したいとしつつも、開発規模が大きくなることを考えると他のメンバーに任せた方が良さそうだと、今後の開発を見据えていました。
スーパーヒーローアクションである本作について、今後主人公のアクションが環境に影響を与える(主人公の熱気で海が蒸発したり、主人公が雨の中を歩くと凍ったり)といったことも非常に難しいとしながらもチャレンジしたいと意欲的に開発に取り組んでいく様子でした。
『UNRESTRICTED』はSteamにてページを公開中です。
オーツ―『ちっぴーとのっぽー なかよしコンビのわくわく工場』
個性がちがう2人の力でおもちゃを組み立てよう!
【パーツを運んでくっつけて、設計図通りにおもちゃを組み立てよう!】
「ちっぴーとのっぽー」は、パーツを組み立てておもちゃを作るアクションパズルです!
工場内のパーツを集めて、色や形を加工して、設計図と同じおもちゃを作ります。
ただしちょっぴりぬけてる工場長がチェックするので、多少ちがってもクリアできちゃうかも…!?
2人同時プレイで、目的のおもちゃを組み立てる強力プレイが面白い本作。キャラクターのちっぴーとのっぽーはそれぞれできることが違い、のっぽーは、ジャンプ力が強くブロック2段を飛ぶことができたり、ちっぴーは、小さな隙間に入っていくことができたりと個性を活かしておもちゃ作りに取り組んでいきます。
100%再現できなくても次のステージに進むことができるようになっていて、気軽に楽しんでもらえる作品になっています。ステージ後半では、ブロックをカットしたり、削ったりといった高度な技術も必要になり、やりごたえのあるステージも用意されています。
Unreal Engine4の物理エンジンを使用している本作ですが、ブロックが常に同じ方向に向くようにしたり、うまくくっつけることができるように物理エンジンをカスタマイズをし、エンジニアはかなり苦労もしたとのことでした。
3DモデルはBlenderで作り、細かな仕様や調整はMAYAで行ない、FBX出力を行っているとのことです。Blenderについては、モディファイアがMAYAより使いやすい点や、レンダリングが良いなどの点で採用をしています。
また、テクスチャをほぼ使用していない3Dモデルも使用できたのもUnreal Engine 4のレンダリングの良さがあってこそとのことでした。デザイナー主導で開発をした本作でもブループリントが活躍し、様々な要素を追加することができたようです。
『ちっぴーとのっぽー なかよしコンビのわくわく工場』はSteam/ニンテンドースイッチで発売中です。
newcore games『The Devil Within: Satgat』
『The Devil Within: Satgat』は、悪魔の血に感染した東洋の戦士の旅を描くアクションアドベンチャー。スタイリッシュなアクションで敵を倒しながら、廃墟と化した世界の秘密を探ろう。
https://store.steampowered.com
Unreal Engine4での開発を行っていた本作もUnreal Engine5に移行し制作を行っています。
『悪魔城ドラキュラ』を昔楽しんでいて、起業した時に同じように2Dアクションを作りたいメンバーが集まって作った本作。コアメンバーは4人で、開発期間は2年に及んでいます。韓国の有名ゲーム会社で経験を積んだ彼等はどのように開発をしたのでしょうか。
以前は3D MAXを使っていましたが、今はBlenderでモデリングを行っているとのことです。なお、韓国ではゲーム開発にMAYAを使うことは15年ほど前はありましたが今は珍しく、3D MAXでの開発が多くを占めているとのことでした。国によっても異なるようです。モーションはUE5になってからは、UE5内にて行っている。最適化についてもUE5内で行っているとのことでした。
Steamにて2023年第4四半期に早期アクセス版を提供予定、その後コンソールで提供予定です。
ステージコンテンツ:AIとゲーム
BitSummitといえばステージで様々なアトラクションが行われますが、7月14日には「AIとゲーム」と題した講演も開催され、『がんばれ森川君2号』の作者・森川幸人氏と『シーマン』の作者・斎藤由多加氏による対談が約1時間にわたって行われました。
森川氏が手掛けた『がんばれ森川君2号』はバックプロパゲーションというニューロンネットワークを活用した技術を用いているのに対し、斎藤氏が開発した『シーマン』は音声認識を利用したゲームで、作るなら人間が面白がるような反応をする生き物にしようと考え、クリエイターが頭を使って、人間が言いそうなことを予測して作っていったとのことで、当時、斎藤氏の元に送られてきたハガキに、主婦から感激したというのもあったと言います。
『シーマン』は、去り際に「●●(プレイヤーが入力した職業)、がんばれよ。」と言うので「主婦、がんばれよ。」と言われて、その女性は主婦を仕事と見てくれたシーマンにとても感激したっていうエピソードを語り、実は機械的に当てはめている部分を、人間(プレイヤー)が拡大解釈した事例だと思う。と当時を振り返りました。
このように、AIについて両者が異なるアプローチをしたことが明らかになり、トークの内容は現在お二人が取り組んでいることへと進んでいきます。
森川氏が率いるモリカトロンはブースも出しており、Chat GPTやStable Diifusionを利用してマーダーミステリーゲーム『Red Ram』を披露しています。本作は、事件やトリック、登場人物、その背景とメッセージ、証拠品などの要素をほぼAIに任せてゲームを作ったとのことです。この狙いとしては、全部AIでゲームを作らないと、人間がどこに参加して開発をしたら良いか、どのように棲み分けをするかが見えないからだとしています。
なお、森川氏はゲーム開発にAIを入れるのは肯定的だが、キャラクターにいれてしゃべらせるとかはあまり肯定できないとのことです。理由として、森川氏はChat GPTは実はChat GPT 2くらいから触れていたため、Chat GPTが進化するにつれて、コンプライアンスを意識したようなソツのないことばかり言って面白くないと語りました。
一方、斎藤氏は「シーマン人工知能研究所」http://seaman.ai を立ち上げて、独居老人向けの話し相手スピーカーロボットを作っています。福島県から助成金を得ることができた理由として、斎藤氏は、相槌をうったりわかったフリをしたりといった機能をいれたためで、現在のAIに無いものを入れたので採択されたと思っていると語りました。
今後の目標として、AIが人間に質問を投げかけるようにしたり、音声認識で笑いやくしゃみ、咳を理解してAIが人間を心配したり相槌をうってくれるようにしたいとしています。
なお、Chat GPTを使って『シーマン』を作りませんか?と打診を受けることは多かったものの、Chat GPTはシーマンが持っていないような余計な知識がありすぎるため、シーマンに当てはめるにはChat GPTの知識を削ぎ落していく必要があり、逆行してしまうと指摘していました。
森川氏は、AIを2つにわけて考えており、正しいAIと楽しいAIのうち、ディープラーニング以降は正しいAI、すなわり正しい情報を伝える、正しい情報を見つけるなどの分野ばかり進化していると指摘し、斎藤氏が取り組んでいることは楽しいAIで、今後楽しいAIが発展するのではないかとの考えを披露しました。
また、森川氏はAIがロボットのように身体を持てば、バッテリーの交換時期に自分で交換しないといけなくなるのでAIに自発性が芽生えるのではないかとも語っていました。
斎藤氏は、人を楽しませるAIが既存のAIとは全く別の文脈で現れ、違う分野の人々、たとえばゲーム業界のようなユーザーを楽しませる仕事をしている人たちがAIに取り組むことで新しいAIや新しい市場が登場するかもしれないと語りました。
森川氏は、AIの研究の中で正しいAIを敢えて崩してエンターテイメント性を持たせようとしているが、斎藤氏のような人間中心のアプローチもAI研究に取り入れないとちょうどいい点に行かないと思っているとしています。
また、対話AIに抜けている要素として斎藤氏の著書『指名される技術 六本木ホステスから盗んだ、稼ぐための仕事術』を挙げました。本の中にはAIが学習しているインターネット上に登場しない職業観や倫理観を持つ人々のメソッドが登場しており、もしこういった内容をAIに学習させるには現実を生きている人間が必要だろうと意見を述べました。
斎藤氏もこれを受けて、既存のAIと異なる人間のアプローチを今後も続けていきたいと意気込みも語りました。
最後に、あらゆる制限がなければ森川氏は何を作りたい?との斎藤氏の質問に対し、森川氏は少し考えた後人工生命を作りたいと回答し、斎藤氏のような一人の人間を丸ごとコピーして、デジタルクローンを作ってみたいと述べました
斎藤氏もこれには興味があり、「デジタル自分」を作りたいと考えているとのこと。これは、終活の時に、自分のコピーが遺品を整理したり、葬儀の参列者を読んだり、誰に何を頼むかとか、死んだ後も、デジタルの自分がだれかの話し相手になったりできたら面白いのではないかと語りました。
何十年と生きた人間のログを集めることで、もしかしたら実現できるのではないかと二人は、今後もこの話をしましょうと両者の視点から新しい物を生み出す予感を感じさせる内容でした。
学生の作品もpickup
BitSummit 2023では専門学校生の出展も見られました。京都コンピュータ学院は、以下の3作品を出展していました。常に来場者が作品をプレイする姿を見かけ、盛況でした。
『NEOND(ネオンド)』
超能力×サイバーパンクが特徴の3Dシューティングゲームです。
攻撃範囲や攻撃速度が異なる攻撃や回避などの超能力を使い分けてステージ突破やボス撃破を目指します。
※開発にはUnreal Engineを使用
『ONE MINUTE SOLDIER』
1分間でできるだけ多くの敵を撃破しつつ生き残ることを目標としたスコアアタックシューティングです。強みの異なる3種の武器からお気に入りを見つけ、ハイスコアを目指すのが醍醐味となっています。
1回あたりのプレイ時間が短く、スコアアタックというゲームの性質や高スコアを獲得することで突入可能な隠しステージの存在もあります。
※開発にはUnreal Engineを使用
『勇者mini』
敵を攻撃してコンボを稼ぐことで勇者を強化でき、強化した勇者でボス撃破を目指す2Dアクションゲームです。
※開発にはUnityを使用
京都コンピュータ学院の方に展示をした感想をお聞きしました。
「京都コンピュータ学院は今年、上記3作品を展示しました。おかげさまで、多くの方に遊んでいただきました。プレイ後はその場で感想を聞き取り、その日集まったフィードバックをもとに次の日には改良を加えたバージョンを展示するといった形でビジネスデイ+一般公開の3日間をより良いゲームにするためにフルに活用していました。
3本のうち2本がシューティングゲームということもあって、シューティングゲームファンの方が多数ブースにお越し下さり、何度も並び直して繰り返し遊んでくださる方もいました。」
力作を展示した京都コンピュータ学院は、8月、9月にオープンキャンパスを実施しています。ゲームクリエイターを目指す人は参加してみてはいかがでしょうか。
https://www.kcg.ac.jp
「インディーゲームに3Dゲームが増えているのでは?」―パブリッシャーに聞く近年の傾向
会場を歩きながら、3Dのゲームが増えている印象を受けました。ゲームエンジンやツールの普及などの理由も背景にあるのではないかと推察されますが、パブリッシャーの皆さんはどう感じているのでしょうか。本記事では2社のパブリッシャーにお聞きしました。
今年10周年を迎えた架け橋ゲームズ(Kakehashi Games)のザック氏にお聞きしました。
ザック氏は「日本のインディーは元々個人開発者が多く、ヒット作を出したクリエイターがパブリッシャーから資金提供を受けたことで、コストのかかる3Dゲームにチャレンジしていると感じている」としています。
また、この10年を振り返り、インディーゲームはずいぶん変わったとザック氏。
「元々アメリカでも、個人開発から開発規模が大きくなり、作るゲームの質が上がったという流れがありましたが、日本でも同じ流れで、ゲームの質や開発の質が上がっていると感じている」とのことでした。
集英社ゲームズ執行役員 経営管理部/マーケティング部 部長の森様にもお聞きしました。3Dのゲームが増えていると感じていますか?との質問に対しては
「増えているというよりは、3Dで表現したいゲームを作りたい人が3D開発という選択をしていると思う。これまではコスト面からやりたくてもできなかったけど、エンジンやツールの進化でできるようになり、広がっているのだと思う。ゲームを遊ぶ側としても3Dばかりではなく、ドット絵やHD2Dなど受け入れ側の受容性の幅も高まっていると思う」とのことでした。
この回答を受け、「インディーゲームには、昔見た、憧れたゲームを作ってみたいというクリエイターもいると思います。ファミコン世代のクリエイターがドット絵のゲームを作っていることもありますが、3Dのゲームに多く触れていた年齢の人が3Dのゲームを作るといった年齢による傾向はあるのでしょうか?」
と質問をしたところ、これについては、特にそういったことはないと森氏は返答しています。「20代のクリエイターがドット絵のゲームを作ることも多い。それは、ドット絵だから表現としてチープに見えるのではなく、ドット絵の表現もかっこいいとかクールに感じているという視点も多いのではないか」とのことでした。
様々なインディーゲームが一堂に会したBitSummit 2023。総来場者数は23,789名と大盛り上がりのイベントでした。今後も多くのインディーゲームクリエイターが作りたいゲームを作り、発表する貴重な場となると感じました。来年の開催にも期待が寄せられます。
TEXT_一筆社