ゲームや遊技機のCG制作を手がけるデジタル・メディア・ラボ(以下、DML)。CG制作事業の傍ら、高校生を対象として教育分野の新規事業を展開しており、今年度前半には神奈川県の秀英高等学校で実施されている選択授業(以下、セレクト授業)のなかで『「現代アート」に触れながら学ぶ映像スクール』(以下、アートプロジェクト)というタイトルで講座を開講した。

今回は、アートプロジェクトにおけるDMLと秀英高校の双方のキーマンにインタビュー。本プロジェクトの取り組みの経緯や、講座プログラムの設計、講座を通じて高校生がどのような学びを得られたかをご紹介しよう。

記事の目次

    CGプロダクションが高校で授業を受けもつ理由とは?

    CGWORLD(以下、CGW):本日はよろしくお願いします。まずはみなさんのプロフィールと今回のプロジェクトでの役割をお伺いできますか?

    小林正俊 氏(以下、DML 小林):DMLの小林です。新規事業を扱うNB(ニュービジネス)営業部の部長を務めています。弊社はゲームや遊技機などのCG制作を中心としている会社です。その傍ら、専門学校などに講師としてスタッフの派遣もしておりまして、CGと教育を結び付けたビジネス展開を日々模索しています。今回のアートプロジェクトでは、私は弊社側の窓口としてメンバーの取りまとめなどを行なっています。

    瀬戸本 勉 氏(以下、DML 瀬戸本):DMLでディレクターとしてNB営業部に所属しています。NB営業部以前は展示映像のほか、プラネタリウムやモーターショー用の映像制作を多く手がけてきました。今回のアートプロジェクトでは、学生に対して映像制作の初歩やAfter Effectsの操作指導などを行ないました。

    デジタル・メディア・ラボ

    ゲームや遊技機向けのCG・映像制作を中心に事業を展開。「創れない世界はない。」という理念を掲げ、CGを活用した先進的映像づくりに挑戦し続けている
    >>同社HP

    小原 遼 氏(以下、秀英高校 小原):秀英高校で教務主任をしております。当校には、学生たちが自由に授業を選ぶことのできる「セレクト授業」という制度があり、私のほうで取りまとめをしています。セレクト授業は火曜日と木曜日の週2回、一つの講座ごと半期で計8回となるように開講しています。昨年は60以上の講座を設けて、学生にはその中から好きな授業を選択してもらいました。今回のアートプロジェクトもセレクト授業の講座のひとつとして開講したかたちになります。

    播谷航平 氏(以下、秀英高校 播谷):秀英高校で国語科を担当しております。前任者から引き継ぐ形でアートプロジェクトの担当をしており、受講生とのコミュニケーションや講座の進行を行ないました。

    秀英高等学校

    登校日数を選べる、好きな授業を受けられるなど、自由度の高いカリキュラムを用意している通信制高校。通信制ながら校舎・設備が充実しており、実地での体験型の授業も多く実施している
    >>同校HP

    CGW:DMLさんのNB営業部の活動について詳しくお伺いできますか?

    DML 小林:NB営業部は、4年ほど前に新規事業分野を開拓するために立ち上げた部署です。教育分野の業務のほか、弊社のアニメーション作品『やさいのようせい』のライセンス管理なども行なっています。教育分野については、CGクリエイターの裾野を広げていきたい、クリエイターの力を教育に関連付けたいという思いで、講師派遣であったり、デジタル教育の授業を実施しています。また、教育機関へのパソコンなどの機材や制作ソフトの販売も行なっております。これまでに、文部科学省がうちだしている高等学校DX加速化推進事業(DXハイスクール)の制度を活用した、メタバースでDXについて学ぶ講座を展開したり、映像制作のマインドを教える講座を開いたりといった実績があります。

    CGW:アートプロジェクト開講までの経緯についてもお伺いできますか?

    DML 小林:3年ほど前にDXハイスクールを活用した取り組みの流れで、長野県の高校さんとともにメタバースを作るプロジェクトを実施したことがありました。その後、偶然にも私の知人のお子さんが秀英高校に通っていたことが接点となり、弊社の過去の実績をご紹介しつつ、それからセレクト授業のお話を伺い、プロのクリエイターに教えてほしいという話を受け、昨年からセレクト授業の講座を受けもつに至りました。

    DML 瀬戸本:昨年の前期で開いた講座では、秀英高校の学校紹介映像を作ることを目標にして、撮影や編集などの作業について講義を行いました。ただやはり、そもそもの撮影技術が学生さんたちに無かったこと、実写映像の制作への関心が低かったりで、完成までたどり着くことができませんでした。昨年後期は、アナログで絵を描くのが好きな方であったり、デジタル動画編集やBlenderが好きな方に参加いただきました。ですので、そのあたりの技術をミックスしたような形で後期の授業に挑みました。結果的にAfter Effectsを使ったボールアニメーションを作成してその背景を自ら描いて映像制作するという講座に落ち着きました。

    秀英高校 小原:DMLさんに講座をもっていただいて2年目となる今年は、昨年受講して今年も持ち上がりでアートプロジェクトに参加した学生もいました。1年生から3年生まで受講していて、興味や関心もバラバラななか、初心者でも映像づくりができるように授業を設計いただくのは大変だったかと思います。

    学生のスキル・志向に合わせてプログラムを設計

    CGW:今回のアートプロジェクトの概要を教えていただけますか?

    DML 小林:現代美術作家の原 高史氏にご協力いただき、同氏の絵本作品「階段」を題材にして絵本を見て学生自身が感じたインスピレーションをもとにストーリーを考えて、After Effectsのパペットツールを使った動画素材やPhotoshopを使った背景素材を制作して、30秒~1分程度アニメーション作品を制作するプロジェクトでした。

    現代美術作家の原 高史氏の絵本作品「階段」のなかの1ページ

    秀英高校 小原:受講した学生の作業については、個々人それぞれのスキルや志向をもとに分担していただきました。今回参加した学生は当初10名ほどおりまして美術部員のほか、動画編集に興味のある学生が参加していました。セレクト授業では、受講する学生数や各自のスキルはふたを開いてみないとわからない部分があり、学生がどこまでできるのか我々もひやひやしながら見守っていました。実際には、DMLさんの協力もあり授業として成立させることができました。

    DML 瀬戸本:制作チームを2つに分けて、美術を得意としている学生には映像の背景画像を手描きで制作してもらい、動画編集に興味のある学生にはAfter Effectsを駆使してエフェクト作成や編集作業をしてもらうようにしました。また、今回協力いただいた現代美術作家の原氏とは多摩美術大学時代の同期でして、彼の個展に足を運んだことが契機になり、ご本人もアニメーション化に興味をもたれていたのでプロジェクトに協力してもらう運びとなりました。

    • 授業中に学生が作成したストーリーの構想作業に使われたコンテ
    • 手描き背景のアイディアをまとめたエスキース

    CGW:今回制作された映像作品について教えていただけますか?

    DML 瀬戸本:登場人物の女の子の歩行アニメーションは私のほうで制作しています。背景素材を美術部の学生3名に作成してもらい、それをスキャンして動画制作チームに共有し、動画制作チームの学生がエフェクトやBGMを入れたり編集を行なって映像を完成させました。混沌とした背景で描かれる寂しい映像のから、徐々に希望を感じつつ歩んでいくというストーリーになっています。

    • 美術部に所属する学生が手描きで作成した背景用の絵
    • 手描きの絵をスキャンして取り込み、画面サイズにトリミングされた画像素材

    秀英高校 播谷:できあがった映像はもともと3つのシーンが分かれて構成されていたんですが、シームレスにつなげたほうが良いというアドバイスを瀬戸本さんからいただいたり、オープニングやエンディングを入れることをご提案いただけたことでしっかりとした映像作品になったと感じます。

    完成映像の1コマ。手描きの背景素材が使われているほか、キラキラとしたエフェクトや画面処理が見て取れる

    集団でのクリエイティブ制作の貴重な機会となったプロジェクト

    CGW:実際にアートプロジェクトの講義を実施してみていかがでしたか?

    秀英高校 小原:プロジェクトの最初の講義では原さんと瀬戸本さんのお二人にお越しいただいて、学生と直接コミュニケーションをしてもらえました。美術の分野で現役で活躍されている先生に指導いただけ、美術関係の学生には貴重な経験になったはずです。講義のなかでは、学生にあわせてフランクに接していただいたことで、学生もコミュニケーションがとりやすかったと思います。

    DML 瀬戸本:絵本の「階段」という題材を今の若い学生たちがどのように受け取るのか、我々も興味がありました。絵本には文字が全くなくて、それを見る人がどう感じるのかを問いかけています。協力してくれた原氏は「もっとアートにぶつかってほしい」と学生に檄を送ってくれました。講座に参加してくれた学生も、「本気でやりたいんだな」と感じさせてくれる方が多く、こちらも背中を押してあげたくなりましたね。美術部の部室に一緒に行って背景制作も指導したり、学生との触れ合いができて良かったです。

    秀英高校 播谷:瀬戸本さんから集団作業の大切さを説いていただいたのが学生に響いたようで、今年は2年生に編集等のデジタル作業が得意な学生がいたのですが、彼が中心になって、他の学生がわからない部分を教えてくれたり、作業の中心となってくれたことでプロジェクトが円滑に進んだ部分があったと感じています。また、3年生がサポートしてくれたりしてお互いに助け合って制作していたのが印象的でした。

    アートプロジェクトでの原氏による講義の様子

    CGW:プロジェクトを通じて、学生のみなさんの反応はいかがでしたか?

    秀英高校 小原:うまくいかなかったことも多くありましたが、それらをふくめて学生にとっては勉強になったのではないでしょうか。映像制作においては独特な計画性やスケジューリング能力が必要になるなと見ていて感じました。しかも今回は美術チームと動画チームに分かれて作業が分担されていましたし、ご指導いただいた先生や違う学年の知らない学生も含めてコミュニケーションが必要でした。くわえて場合によっては他の学生に指示出しをしなければいけない。そういったことは普段の授業では得られない経験だったかと思います。困難な道のりでしたが、やる意義のあったプロジェクトでした。

    秀英高校 播谷:普段の高校生活において、特に文科系の部活で顕著ですが個人での作業が多く、チームワークを経験する機会があまりありません。ですので今回、集団でのものづくりが経験できたのが良かったですね。将来的にクリエイティブ制作の仕事に関わっていくのであれば、その経験の有無は大きいのではないかと思います。

    本プロジェクトでの制作映像が秀英高校の文化祭にて放映された際の様子

    CGW:今後、授業として取り組まれたいことはありますか?

    秀英高校 小原:来期に関して具体的なことはまだ決まっていないですが、今後も世の中の状況や学生のニーズをキャッチして講座を考えていきたいですね。ゲームやアニメに関心のある学生は多いので、そういった作品を作るような講座ができれば受講者も増えそうです。様々な意味で学びがある学習機会を作っていきたいと思っています。

    秀英高校 播谷:今回のアートプロジェクトでは、通常の部活動ではできない学びを提供できたと思っています。プロの方に指導をいただけたのもそうですし、美術部の学生と動画編集できる学生がコラボレーションして一つの作品を集団で作り上げるという体験は、セレクト授業だからこそ実現できたことでした。

    DML 瀬戸本:もしやれるのであれば、ストップモーションアニメーションの授業に挑戦したいですね。人の手が入るぬくもりがある作品制作がしたいです。学生に制作してもらうことを考えると共同作業できるものになるかなと思いますね。それ以外ですとBlenderを使った映像制作などもイメージしています。

    DML 小林:セレクト授業は秀英高校さんの大きな特徴の一つで、チャレンジングなことをやられています。今回のアートプロジェクトでは、アートにふれたり、コンテンツをつくったり、コミュニケーションを構築したり、中高生の方に対して多方面で体験を生み出せたのがとてもよかったと思っています。今後も、講座を通じてクリエイティブ業界の認知を高めていきたいですし、クリエイティブを生み出す面白さを知ってもらえるように努力していきたいです。

    TEXT・EDIT_小倉理生(種々企画