言わずと知れた荒木飛呂彦氏の漫画作品『ジョジョの奇妙な冒険』(以下、『ジョジョ』)シリーズ。2012年に『ファントムブラッド』と『戦闘潮流』がアニメ化された際の再現度、完成度の高さ、そしてオープニングムービーの格好良さは未だに忘れがたい記憶である。
あれから10年、現在『ジョジョの奇妙な冒険 ストーンオーシャン』(以下、『ストーンオーシャン』)のアニメ全38話が地上波とNetflixで放送・配信中である。今回はそのオープニングムービーのブレイクダウンをお届けしていく。手がけたのは『ファントムブラッド』~『スターダストクルセイダース』のオープニングムービーも担当していた神風動画である。
※本記事は、CGWORLD vol.292(2022年12月号)掲載の記事に加筆・再構成したものです
原作を最大限リスペクトしたオープニング映像
神風動画は『ストーンオーシャン』の前、同シリーズの『ダイヤモンドは砕けない』と『黄金の風』のアニメ版ではOPを手がけていないが、これについてOPディレクターの水﨑淳平氏は、「『ストーンオーシャン』は『ファントムブラッド』から『スターダストクルセイダース』までと地続きな面があるので神風動画にご依頼いただいたのだと思います」と語る。
アニメ『ジョジョの奇妙な冒険 ストーンオーシャン』
原作:荒木飛呂彦(集英社ジャンプ コミックス刊)/総監督:鈴木健一/監督:加藤敏幸/アニメーション制作:david production
Netflixにて第1話~ 第24話まで配信中、第25話~最終話第38話は2022年12月1日(木)より全世界独占先行配信開始
TOKYO MX、MBSほかにて、TV放送中
jojo-portal.com/anime/so
©LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社・ジョジョの奇妙な冒険SO製作委員会
スケジュールとしては2020年10月頃から制作をスタートし、2021年秋には完成。そして、第1話~第12話が12月より先行配信された。
なお、ストーリー展開の都合上、第1話~第12話と第13~第24話オープニングでは細かな部分にちがいがあるという。制作ツールについては、2DはPhotoshopをベースに各デザイナーが好みのツールを、3DCGはLightWave、撮影はAfter Effectsを使用している。
CGディレクターを務めた宇都宮隆文氏は、自身も原作ファンのひとりとして、OP制作には力を入れたという。「本編については自分自身も一視聴者の立場ですから、エピソードの公開を楽しみに待っていました。
第13~第24話、第25話~最終話第38話と進むにつれて物語が加速していくようなので、その物語と一緒にオープニングムービーも楽しんでいただけると嬉しいです」(宇都宮氏)。
<1>プリプロで描き出すポップで洗練された世界観
本OPムービーの演出・構成は「ワンカットでカメラが刑務所の中を走り抜けていく」というところからスタート。
その骨子に主人公・空条徐倫のスタンド、ストーン・フリーの糸をサウンドの波形のように織り交ぜて表現する、というのが水﨑氏による第13~第24話のOPムービーの演出案である。こうしたアイデアやイメージボードを基に、映像のながれやコンテは各デザイナーの裁量で進められた。第1話~第12話とのちがいについて宇都宮氏は、「第1話~第12話では普通の糸でしたが、第13~第24話では、ドラムに合わせて波打たせることで音を可視化し、糸が中心の没入感を味わえる映像構成を目指しました」と語る。完成したOPムービーでは実際、全編を通して糸のモチーフが登場しており、シーンのワイプなどにも糸が使われている。
もうひとつの特徴は「カラフル」であること。ストーンオーシャンは女性たちが主役ということもあって、舞台が監獄でもポップで前向きに生きる姿をアートディレクターの中野友愛氏を中心に鮮やかな色彩設計で表現している。
また、ムービーの中には様々な暗示が含まれており、それもまた非常に『ジョジョ』らしい。
色彩豊かなイメージボード
デザインワーク担当のいっさ氏が制作したイメージボード。ストーンオーシャンが女性を中心としたストーリーということもあり、カラフルなイメージである。また、モチーフとして徐倫のスタンドがもつ「糸」の能力を散りばめている。原作の世界観を余すところなく表現している点に注目したい
カメラワークのためのVコンテ
OPムービーのプリプロでは絵コンテも描かれているが、カメラワークが激しく、つながりの確認が必要だったため、基本的にはVコンテをベースとした。「実際はカメラも各キャラクターも結構バラバラにつくっていますが、最終的にはカメラ1台が動いて撮っているように見せたかったので、つながりを確認するためにもVコンの方が適していました」と宇都宮氏
<2>原作の再現に腐心した女性らしさとタフさを兼ね備えた空条徐倫のモデル
熱心なファンの多い本作、モデリングは原作のイメージから外れないよう、配慮して制作が進められた。特に顔や服、服のシワがつくるシルエットなど、荒木氏の特徴的な絵柄の再現にこだわったという。どこをどう見ても徐倫に見えるように、どこから映っても『ジョジョ』の絵柄に見えるようにこだわりました。例えば、シワがつくるカクっとしたシルエットはかなり特徴的ですが、それがどこから見てもそう見えるように意識しています。一部、ファンでないと見抜けない再現もあります」(モデリングディレクター・小林 涼氏)。
キャラクター全般について、荒木氏の絵らしく見えるポイントとして宇都宮氏は、「ライティングによる影を加えない」ことが大切だと語る。「ポーズの調整などもあるとは思いますが、ルックデヴという観点ではライティングによる影がないことでCGっぽさが減っていると思います」。
また、基本は細かくタッチを入れ、筋肉の線なども入れているが、遠景で使用する場合はそういったラインを減らしたり、目元を暗く落としたりすることで、情報量のコントロールを行なっているという。
女性らしいフォルムの徐倫
『ジョジョ』シリーズは全般的に筋肉質でごついイメージのキャラクターが多い。しかし、この空条徐倫のモデルは、どちらかというと女性的なフォルムになるよう注意したそうだ。小林氏は特に本作から『ジョジョ』に触れる視聴者のことも意識したという。「私の周りには『ジョジョ』を特徴的な絵柄から避けてしまう人もいて、そういう方にも見ていただきたいという気持ちがありました。徐倫はまだ19歳ですし、作品の冒頭では本当に普通の生活をしている女の子。女性らしさが失われないように意識しました」
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こだわりの詰まった表情モーフ
ジョースター家の血筋と主人公らしさの両方を感じさせる徐倫の顔のモーフモデル。特に口の形は特徴的である。荒木氏は絵を描く際、西洋絵画や彫刻を参考にしているそうで、小林氏はその点に留意してモデルのディレクションを行なったという。「青年漫画と写実的な絵画の中間を目指して画づくりを行なっています。気をつけたのは顔の中で一番大きく動く口の形ですが、唇が厚いのも『ジョジョ』の特徴です。漫画的な誇張された口の開き方と、解剖美術的な表情筋、人体が動かせる範囲のリアルな筋肉の動きの両方をかなり意識しました」(小林氏)。画像は口の動きのモーフ例
ストーン・フリーのモデル
徐倫のスタンド「ストーン・フリー」は、徐倫よりもやや筋肉質で、男性味のあるフォルムに仕上げられている。その理由として小林氏は「スタンドが発現したときは精神的にも成長のフェーズに入るというか、何も知らない女の子が様々な戦いを積んで成長するという段階だと思います。ですから、スタンドは徐倫よりも若干、筋肉質でたくましい印象にしています」と語る。なお、アニメの設定画の段階ではストーン・フリーもやや女性的なデザインになっていたが、原作のテイストも合わせつつ、現在のモデルに落ち着いたという
<3>手描きアニメテイストながら3DCGの表現力も活かしたカット演出
本OPのレイアウトとカットは各キャラクターの素材を個別に制作して、After Effectsで合成している。重視したのは見た目として良い画をつくることで、3DCG的な整合性ではない。CGディレクターの高橋真樹氏はそうした理由について、「アニメ的な演出を映像に盛り込む際、キャラで魅せるシーンでは“かっこいいハッタリ”を重視しており、3Dの正確過ぎる空間が逆に絵づくりを邪魔する場合があります。今回はメインであるキャラのアクションが見辛くならないよう整理して3D的な整合性は横に置き、カメラからの見栄え優先で構成しました」と語る。
また、映像に手描きアニメのような印象をもたせるコツは、「コマを落とす」こと以外にもある。カメラを動かすのではなく、キャラの配置やポージング重視でレイアウトをすることだ。「アクションカットでは、カメラを固定した上でポージングやシルエットの配置からレイアウトを作成し、それを基に背景をアニメーションすることで擬似的に空間を表現しています。キャラの魅せ方を重視する中で使わざるを得ない“バレないカッコいい嘘”が3Dアニメーションに手描きの魅力を加えてくれます」(高橋氏)
アニメ的誇張を盛り込んだアクションシーン
アクションシーンでは原作の再現を最優先に、3Dモデルをかなり変形させた画づくりを行なっている。以降2点ずつ、シーンのビューポートと完成ショットを紹介する
ポップに変化していく背景色
本OPムービーのポップさを際立たせている要素のひとつに、高彩度の背景色がリズミカルに変化していくという演出がある。そのねらいを中野氏は「『ジョジョ』の世界観でこれだけポップな色遣いをしているのはおそらく『ストーンオーシャン』が初だと思います。ですから、その色味を前面に出そうということで、派手な印象に仕上げました」と語る。イメージボードからベースカラーをピックして、撮影時に各担当者が色を決めた。色変更のタイミングはOP曲のドラムに合わせているため曲への没入感が高まっている
漫画的表現でポップさを加える
本OPムービーには、漫画特有の表現であるスクリーントーンやカケアミの表現が盛り込まれている。これらは中野氏が映像にポップさを加えたいという理由で採用したもの。イメージボードを描いて画面の雰囲気を確認してから適用したが、映像になった際には回転などによりちらつきが生じた。そのため、撮影したものを見ながらトーンの細かさや載せ方を調整し、バランスをとったそうだ
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世界観に合った手描きスタッフロール
OPムービーで表示されるスタッフロールは、第1話~第12話では一般的な編集テロップで入っていたが、第13~第24話からは荒木氏のタッチを思わせる手描き文字で表現されている。これは第1話~第12話当時はギリギリまでスタッフ名が確定しなかったことも一因ではあるが、世界観としてはやはり手描きの方が馴染むという判断で採用された。素材は神風動画のデザイナー・桟敷大祐氏による描き起こしである。「徐倫のスタンドであるストーン・フリーには人が喋っている声を拾って文字を視覚化する能力もあったので、それをやりたかったのです」(水﨑氏)
ダイナミックに変形する鉄格子
ムービー中盤に登場する刑務所内のシーンは、鉄格子が大きく変形してダイナミックな印象に仕上がっている。これは宇都宮氏がカメラに近いモデルだけ大きくなるようなノードをLightWaveで組んで表現している
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CGWORLD vol.292(2022年12月号)
特集:モデリングの今が示す、デザインの未来
判型:A4ワイド
総ページ数:128
発売日:2022年11月10日
価格:1,540 円(税込)
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