ゲームや映画に使われるアセットのハイクオリティ化に従い、描画負荷を軽減するLODの重要性も日々高まっている。そんな中、最適化ツールInstaLODの最新版「InstaLOD 2023」をリリースした開発チームにインタビューの機会を得た。InstaLODの提案するソリューションとは何か。LODについての解説や、ハイエンド化する昨今の3DCGが抱える課題と合わせて紹介する。

記事の目次

    ※本稿は2023年3月に開催された「Game Developers Conference 2023」での取材内容を元にしています

    ますく(坂本一樹)

    1991年生まれ、多摩美術大学卒。

    原型・ゲームモデリングの専門会社で修行を積み、大手ゲーム会社 R&D部門にてAIを活用したアバター生成技術の特許を取得したのち独立。アプリケーションやゲームなどリアルタイム分野のモデリングに特化したCGスタジオ「KATASHIRO+」を設立。CGWORLDの執筆に多く携わり、 ブログやFanboxなどのメディアに力を入れており、3Dモデリングやゲームエンジン、CG原型、3Dスキャンなどの指導を教育機関・個人へ行なっている。制作依頼、企業への技術顧問、教育機関・個人指導について、お気軽にお問い合わせください。
    X(Twitter):@mask_3dcg

    ■LODとは?

    突然だが、皆様はLOD(レベル・オブ・ディテール)をご存知だろうか。

    年々、ゲームや映画に使われるキャラクターや背景アセットはハイクオリティ化しており、描画負荷も増す一方だ。しかし、レンダリング時間の短縮やリアルタイムレンダリングの需要も上がっているため、描画処理を軽くするためカメラとの描画距離やレンダリング環境に応じて3Dモデルをハイクオリティなものから軽量で簡素なものまで段階的に複数用意し、様々な条件において複数の3Dモデルを切り替えながら描画することが重要になる。

    1つの用途の3Dモデルに、複数のポリゴン数の差分モデルを用意することで、プロジェクト全体の容量は増えるが、描画負荷は圧倒的に軽くなる。この、ハイディテールから軽量なモデルまでの複数の差分モデルのことをLODと呼んでいる。

    また、描画距離に応じて差分モデルを用意することを“ディスタンスLOD”と呼称し、レンダリング環境(ハイエンドPC、コンシューマゲーム機、モバイルゲーム機、スマートフォン、タブレットなど)に応じて3Dモデルを複数バージョンをつくり分けることを“プラットフォームLOD”と区別して呼称する。

    ■LOD差分を手作業でつくるのは鬼の所業

    昨今では3Dアセットに求められるクオリティが増す一方で、1つの3Dモデルを作成するだけでも非常に大変な作業だ。単なるスタティックな(可動しない)3Dモデルを軽量化するだけでも作業負担は大きい。

    最近の3Dモデルは、PBRやスタイライズド表現のために複雑なマテリアルと大量のテクスチャが含まれることが多く、それらの構造を軽量化した3Dモデルに引き継ぐことが難しいからだ。デシメーションや、リトポロジーでポリゴンをリダクションした後、再度UVの定義をし直して、テクスチャベイクをし直す必要がある。

    さらに悪夢なのが、ボーンアニメーションで可動するキャラクターなどのスケルタルメッシュ(可動する3Dモデル)の軽量差分の作成である。

    スケルタルメッシュの軽量差分を手動でつくるためには、リダクション、UVの調整、スキンウェイト転送とウェイト調整作業、テクスチャのミップマップ化など、ほぼつくり直しになるほど。あるいはゼロからつくり直した方がマシだと思えるほど困難な作業になることも多い。

    ■LOD差分の自動生成への苦悩と希望

    3Dモデルの軽量化は、Houdiniなどの昨今のDCCツールに搭載されたビジュアルスクリプティング機能や、各種DCCツールに搭載されたデシメーション、ラッピング機能、ベイク機能などで比較的可能ではあった。

    しかし、スケルタルメッシュでは自動処理の難易度が一気に上がる。というのも、とくに関節部分を自動で頂点削減してしまうと、スケルタルメッシュの関節運動が破綻してしまうため、ウェイト転送にしろ、ボーンの削減にしろ、一筋縄ではいかないからだ。

    もし、アニメーション中の3Dモデルが少しでも違和感のある軽量差分モデルに切り替わってしまうと、元の3Dモデルのように可動しないため非常に悪目立ちしてしまう。ましてや、プラットフォームLODとして機能するローポリ差分を自動的に生成するのは不可能だと思われてきた。

    そこで登場したのがInstaLODのソリューションで、キャラクターなどのスケルタルメッシュも自動でLOD化してくれるのが最大の特徴だ。

    InstaLODを用いれば、キャラクターの顔や関節部分などのLOD差分を生成するときに保護したい場所を指定できたり、ボーンの数をパラメータで調整可能など、かなり細かいコントロールができるのが大きな利点だ。

    InstaLOD 2023 Release Reel

    ■InstaLODのエンドツープロセス

    完全自動でLOD差分を作成し、コンテンツ実装まで面倒を見てくれるソリューションを提供してくれるのが、InstaLODだ。

    他社の似たツールを見ると、CADデータのコンバートや3Dモデルの軽量化を単体で行えるものはあるが、InstaLODは他社製品より簡単に扱える点が特長だ。

    また、様々なコンテンツの開発環境にパイプラインとして組み込めるため、多くのソフトを立ち上げてデータを行ったり来たりさせることなく、一貫した制作環境の中でデータ変換、LOD差分生成、シーンの最適化を行うことができる。

    InstaLODはUnreal Engine(以下、UE)をはじめとしたゲームエンジンや各種DCCツールにも組み込まれているため、ハイクオリティで重い3DモデルにワンクリックでLODが生成され、シーン描画負荷が軽量化し感動したUEユーザーも多いのではないだろうか。

    ■ドイツ仕込みのCAD変換ソリューション

    InstaLODはドイツ バーデン ヴュルテンベルク州のシュトゥットガルトに居を構える会社だ。同州には、メルセデス・ベンツ本社があり、ドイツ国内には他にも数多くの有名自動車メーカーの本拠地がある。

    自動車のデータは通常CADで管理されており、CADデータを広告やコンテンツに使うためには一度ポリゴンに変換して、レンダリングやリアルタイムコンテンツに落とし込む必要がある。自動車のCADデータはとても重いため、これを軽量化し、カーコンフィギュレータやWebカタログなどの広告宣伝目的に利用するのはとても大変なことだ。

    そのため、カービジュアライゼーションをはじめとしたプロダクトの広告業界では、自動車など様々な工業用CADデータをメッシュ変換したり、コンテンツ化のためのLOD変換するソリューションの研究が盛んに行われている。InstaLODにも、CADのポリゴン変換が基礎技術として搭載されている。

    ■CADとゲーム業界、どちらの需要が多いか

    では日本のユーザーにとっては、先述したCADのビジュアライゼーション需要とゲーム分野での需要、どちらが多いだろうか。需要というのは曖昧な表現だが「より困っている」という意味では、ゲーム業界の方がより多くの課題を抱えているとInstaLODのエヴァンジェリストは語る。

    ゲーム開発では、美しいゲーム、美しいキャラクター、美しい体験をしたいが、それを表示するにはハードウェアが強くないという課題を常に抱えている。

    例えば、ソニー・インタラクティブエンタテインメントのコンシューマゲーム機の例を挙げると、PS5向けにつくられた最新のコンテンツも、PS5の普及と生産が追いついていないばかりにPS4に対応しない選択肢はない状況にある。

    PS4は、PS5や昨今のPCゲームに比べて表示できるポリゴン数やテクスチャ数が限られているため、ゲーム開発者は初めからトポロジーが多すぎる、テクスチャが多すぎるという問題を認識している。これを簡単に解決するソリューションが、InstaLODにはある。

    ■InstaLODの活用事例『ソニックフロンティア』

    InstaLODは、単独のソフトウェアInstaLOD Studioや、Maya3ds MaxUnity、UE用のプラグイン、コマンドパイプライン版などが用意されていて、世界中のゲームや映画で使われている。最も効果的な活用事例の1つとしては、SEGA『ソニックフロンティア』が挙げられる。

    『ソニックフロンティア』では大量のリアルな背景オブジェクトが使用されており、シーン全体がとても重かった。近距離で見ることがない遠方の背景も多かったため、シーンを軽量化するためにはディスタンスLODをつくる必要があった。

    また、PS5・PS4・Nintendo Switchといった、ハードウェア性能の異なるプラットフォームで同じようにゲームを遊べる必要があり、大量の背景オブジェクトのプラットフォームLODを作成する必要もあった。そこで、シーンの最適化のために、セガの開発チームはInstaLODを用いてデータのリテンションを行なった。

    Sonic Frontiers x InstaLOD: Delivering a AAA Open World title at Supersonic Speed

    InstaLODは日本でも多く使われており、他に例を挙げると、ソレイユが開発した『ヴァルキリーエリュシオン』『Wanted: Dead』にも使用されている。

    ■InstaLODから日本の制作会社へのメッセージ

    最後に、InstaLODのエヴァンジェリストから日本のクリエイターへメッセージをいただいた。

    「ドイツと日本の職人気質はとても似ており、日本の開発者はドイツの技術者と同様に技術的な世界に深く入り込み、技術的なロジックや詳細設定にこだわりをもっていることを知っています」。

    「InstaLODは自動処理だけでなく、非常に多くの設定項目があり、職人気質なドイツ人や日本人の要望に答えるように、様々な詳細な設定を調整することができます。日本のユーザーからたくさんのポジティブな意見をもらい、とても嬉しく思っています。しかし、InstaLODをより良くするために、日本のユーザーからもっと多くの質問や要望をお待ちしています」。

    日本企業やユーザーへの深いリスペクトと、日本のコンテンツ産業とともにInstaLODのソリューションも成長させていきたいという熱意を感じられた。

    ■InstaLODについての問い合わせ

    InstaLODの機能はUEなど様々な場所で体験することができる。もし、より深く本格的にInstaLODを利用したい場合は、代理店であるボーンデジタルに問い合わせを。

    TEXT_KATASHIRO+ けろりん4410/ますく
    EDIT_山田桃子 / Momoko Yamada