2023〜2024年にかけて公開された森ビルブランドのムービーのうち、今回はTREE Digital Studio LUDENS事業部が3DCGを手がけた3本について、特別にメイキングを解説する。第2回となる今回は20238月に公開された『麻布台ヒルズ ムービー2023GREEN, LIFE, TOKYO.を紹介。複雑な建造物と膨大な植栽の再現に注力した力作だ。

記事の目次

    Information

    『麻布台ヒルズ ムービー2023|GREEN, LIFE, TOKYO.』
    クリエイティブディレクター・菅野 薫/クリエイティブディレクター、コピーライター・藤本宗将/クリエイティブディレクター、プランナー・保持壮太郎/ディレクター・辻川幸一郎、田中翔太
    麻布台ヒルズ公式サイトwww.azabudai-hills.com

    「ヘザウィック・スタジオ」建築による低層部から超高層の麻布台ヒルズレジデンスまで再現

    『麻布台ヒルズ ムービー2023|GREEN, LIFE, TOKYO.』TREE Digital Studio LUDENS事業部(以下、LUDENS)が3DCGを手がけた森ビル関連ムービーの第2作目として制作された。今回の一連の作品は最初からLUDENSが制作すると決まっていたわけではなく、前作の『虎ノ門ヒルズムービー2023WELCOME TO TORANOMON HILLSの好評を受けて、2作目のプロジェクトが動き出す際に、「今回もぜひ」と声がかかったのだという。
     
    なお、この作品は全てのカットの3DCGをLUDENSが担当したわけではなく、冒頭のラインアートが輝いて徐々に街が出来上がるカットなど、いくつかのカットはMARKが担当している。

    ▲1列目左から、CGデザイナー・寺戸 俊氏、CGデザイナー・大村彩乃氏、CGデザイナー・Bae Hyeona/ベ ヒョンア氏、CGデザイナー・遠山真葵氏、CGデザイナー・山中渓太氏、VFXプロデューサー: 野瀬正裕氏
    ▲2列目左から、CGチーフデザイナー・原 恭平氏、CGチーフデザイナー・上野雅志氏、CGチーフデザイナー・小嶋裕士氏、CGプロダクションマネージャー・今若弘大氏、CGデザイナー・秦 駿介氏
    ▲3列目左から、CGデザイナー・金子一打氏、CGデザイナー・Luomeng Yuan/ラモウ エン氏、CGデザイナー・加藤美智子氏、VFXスーパーバイザー・政本星爾氏、CGデザイナー・清水 亮氏、CGデザイナー・田中舜理氏
    (以上、TREE Digital Studio LUDENS事業部)
    www.tdsi.co.jp/ludens

    制作期間は約1ヶ月半ほど。麻布台ヒルズの外観とその周辺区域から遠景を含む街全体をフルCGで制作。まるで空撮のような上空から地上までカメラが降りていき、象徴的なヘザウィック建築を通り抜けて、中央広場上空でまた旋回し四季変化を見せて麻布台ヒルズの中へと入っていく。この一連の映像などがフルCGで仕上げられた。

    この映像のポイントとなるのは大量の植栽だった。街ひとつ分の植栽をつくらなければならず、量が多いため制作前から難度が高いことは予想できていた。そのため、ツールにtyFlowを使用して、プロシージャルに植え込んでいく方法を採用したという。「最初は植栽が多すぎてレンダリングが回らず、苦労しました」と担当したCGデザイナー・金子一打氏はふり返る。植栽データを減らすために3ds Maxでポリゴンをリダクションするスクリプトを書いて、一個一個データを開いてはリダクションして閉じるという作業を自動化。それをみんなで1時間ほど見守るというような一見シュールな時間も。まさしくデータ量との戦いだった。
     
    VFXスーパーバイザーの政本星爾氏も「1回目のレンダリングができたときは興奮しました。みんなの努力がかたちになって嬉しかったです。植栽のシステムが優秀だったのが勝因でした」と話す。レンダリングリソースは社内のサーバーだけでは足りず、V-RayのChaosが提供するChaos Cloudも使用したということだ。

    <1>植栽のシステムの構築

    前述のように、本作の中でも特に注力したのが広大な麻布台ヒルズの植栽だ。CGデザイナーの金子氏が担当となり、tyFlowを使用して、プロシージャルに植え込んでいく方法を構築した。以下が、その大まかなフロー。

    ▲植栽図から植栽情報を抜き出してまとめたExcelデータ。植栽図は建築物工事用に用意されたものなので、それらをシステム構築用にわかりやすく整理している。各植栽の総数や単位なども記載
    植栽図を基に植物を発生させるエリアを指定するマップを作成。この図の赤く表示されている箇所はアガパンサス(ムラサキ花)が発生する範囲。こうしたマップは植栽ごとに用意されている
    実際に使用した発生範囲となるマップ。After Effectsから出力した発生範囲を指定するマップ
    tyFlowから発生させた植栽(1種類)の例。上記のマップを使用してtyFlowから植栽を発生させたもの
    tyFlow作業画面。赤枠のBirthノードに前述のExcelデータにまとめた単位数を入力して植栽の発生数を制御し、青枠のPosition Objectノードで発生させる地面のオブジェクトの指定と、発生範囲となるマップを指定している。そして緑枠のShapeノードから植栽アセット班が作成したアセットモデル(VRayProxy)を指定。これらのイベントが植栽の数と同数存在している
    tyFlow区画一部抜粋。全ての区画をひとつのデータで管理すると負荷がかかるため、同じ区画内でもシーンを分けて管理。この区画は3分割しているが、完成カットで最も映っている建物・植栽が多い区画である
    完成したカット。多種多様な植栽が景観に花を添えている

    <2>麻布台ヒルズのシンボル・ヘザウィック建築

    作中でも特に印象的な、麻布台ヒルズの中心のヘザウィック建築から街全体の俯瞰へ移動するカメラワークのカット。

    ▲建物のCGアセット、およびレンダリング画像。制作時は施工がある程度進んでおり、実際に中に入って取材を行い、質感が再現されている。外観のCADデータは精密なものが提供されたが、内部はCG側で制作された
    ▲植栽のシステムを通して植栽が施された区画の一部レンダリング画像。分量が多いため、植栽専門のスタッフを確保して作業が進められた
    ▲完成カット。麻布台ヒルズを飛び回るアングルのため、麻布台ヒルズすべての範囲に植栽が施されている。植栽の量が多すぎてレンダリングが回らず、リダクションに時間がかかったというが、結果として緑豊かな麻布台ヒルズが見事に再現された

    <3>OLSマップシェーダを活用したレジデンスの表現

    麻布台ヒルズの高層タワーのひとつ、「レジデンスA」の窓から見えるインテリアはOSL(Open Shading Language)シェーダを活用して表現されている。OSLシェーダはレンダリング時に空間が表示される仕様になっており、ビューポート上では雰囲気がわかるような平面画像が表示される。「OSLシェーダはレンダリングすると室内の5面がカメラマップ的に表示され、動くと視差が付くシェーダです。ライトはアルファを使って作成しています」(CGチーフデザイナー・小嶋裕士氏)

    • OSLシェーダのビューポート画像。視差はないが、どのようなインテリアになるかは確認できる。
    • OSLシェーダとレジデンスを合わせたビューポート画像
    • OSLシェーダのレンダリング画像。パースが正しく入っていて、板ポリ1枚とは思えない表現力だ
    • OSLシェーダとレジデンスをレンダリングした画像
    完成カット。自然な仕上がりになっている

    (3)へ続く。

    TEXT_石井勇夫 / Isao Ishii(ねぎデ
    PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota
    EDIT_海老原朱里 / Akari Ebihara(CGWORLD)