2023〜2024年にかけて公開された森ビルブランドのムービーのうち、TREE Digital Studio LUDENS事業部が3DCGを手がけた3本について、特別にメイキングを解説。第3回となる今回は今年1月に公開された『森ビル ブランドムービー|DESIGNING TOKYO』を紹介。Houdiniを活用した印象的な演出、前作よりさらに洗練された植栽システムを中心に、見どころを解説していく。
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CG業界注目のブランドムービー刷新版にして、2024年森ビルブランドの“顔”となる作品
TREE Digital Studio LUDENS事業部(以下、LUDENS)が3DCGを手がけた森ビルのムービーのうち、最後の第3作目として制作されたのが今回解説する『森ビル ブランドムービー|DESIGNING TOKYO』だ。
これは2019年に公開された『森ビル ブランドムービー|DESIGNING TOKYO(2019)』を刷新したもので、後半30秒に虎ノ門ヒルズと麻布台ヒルズを差し込んで再編集されている。
第1回の記事でも触れたが、2019年度版は公開当時、CG・VFX業界に大きなインパクトを与え、今なおリファレンスとして挙げられることが多い作品だ。それを今回引き継ぐにあたって、VFXスーパーバイザーの政本星爾氏は「当時の作品にも統合前のLUDENSが参加する話がありましたが、諸般の理由でながれてしまいました。業界で評価されている作品に参加できなかったのは残念だったのですが、今回、改めて参加することができて嬉しく思います」と語る。
カットを担当したCGデザイナーの山中渓太氏も「学生時代に見た作品の続編に参加できるのは、とても嬉しかったです。学生当時に『すごい!』と思ったのとはちがう目線で、今は自分だったらこうつくるという目線で作品を見直して検討しました」とその視線の変化を語ってくれた。
本作ではこれまでに培われてきた3ds Maxの植栽システムがMayaとHoudiniにも移植され、より使い勝手の良いものになり、3作品の締めにふさわしいアップデートがされている。
見どころはクライマックスの人物と植栽が、季節が変化していく中で成長していく様子をカメラが回転しながら映していくカットだろう。当初は季節変化の表現のみだったが、ディレクターの鎌谷聡次郎氏から変化感や見栄えを出したいという要望があり、LUDENSで解決策を検討した結果、植栽の成長アニメーションを入れ込んだという。
「木の成長アニメーションを足したことにより、季節変化も前に比べてよく映えるようになり、鎌谷監督の要望にも応えることができたと思います」(CGチーフデザイナー・上野雅志氏)。
本作は撮影した人物素材や季節ごとに成長していく植栽の3DCG、さらに木の葉も舞うなど、合成する素材が大量で最終的な制作は総力戦となり、納期ギリギリまで続いた。その甲斐もあって、評価の高い前作と比べて遜色のない作品に仕上げられている。以下、特に見どころとなるカットのメイキングを解説する。
<1>虎ノ門ヒルズのT-デッキのタイルが波打つエフェクト
虎ノ門ヒルズのT-デッキのタイルが波打つように敷き詰められていくカット。このような大規模かつマテリアルが複雑なオブジェクトで、多くの情報を維持したままエフェクトを付けるのは無理があったので、ベースルックとエフェクトの2つの要素に分けて作業を進行することに。ベースルックはMayaで作成、After Effectsでコンポジット後、プロジェクション投影用にビルや要素ごとに素材を書き出した。また、エフェクトはHoudiniで作成し、Alembicで一度出力した後、Mayaでカメラプロジェクションで焼き付けた。
T-デッキのCADデータは提供されていたが、ポリゴン数が多くエフェクトを作成する際にそのままでは扱えなかったので、一度VDBメッシュに変換してからエフェクトを付けている。しくみ自体はシンプルで、指定したオブジェクトが通過すると、タイルが反応してポジション、ローテーション、スケールがアニメーションするというものだ。
このエフェクトを担当した山中氏は、Houdiniを扱うのは今回が初めてだったとのことで、アニメーションなどを制御するノードを極力少なくしてシンプルなシーンにすることを心がけたという。「はじめはMayaでできないかと検討しましたが、メッシュの数や計算の重さもあり、途中からやはりHoudiniでいくしかないと思いました(笑)」(山中渓太氏)。
人物はグリーンバックありの撮影素材が存在しなかったため、マスク切りされた加工済み撮影素材のみ使用。撮影に関しては被写体を真下から見上げつつ、正面から入っていき人混みをかき分けていく複雑なシーンのためモーションコントロール撮影がされた。
このカットは一度コンポジットした連番をさらにプロジェクション投影とエフェクト処理をしてレンダリング。その連番をもう一度コンポジットに戻してディストーションや収差を追加している。そのためポストエフェクトが必要ない背景ビルと、ポストエフェクトが必要なブリッジやルーフとに分けてMayaでレンダリングされた。
<2>虎ノ門ヒルズのステーションタワーから麻布台ヒルズのヘザウィック建築への変形
続いて、虎ノ門ヒルズのステーションタワーが麻布台ヒルズのヘザウィック建築へと変形していくカット。
<3>麻布台ヒルズの中央広場の四季変化と人物
クライマックスの麻布台ヒルズの中央広場のカット。人物の成長とともに、植栽も成長し季節の変化も描かれている。
カットの最後は人物を映しながらカメラが上昇していくが、この上昇アニメーションに対する実写のフォローとして3Dモデルが使用された。動画内では中央広場から空撮に乗り替わるところで撮影素材からCGに置き換わっている。その際、撮影した人物の足りてない部分にプロジェクションマッピングを貼っている。「撮影されていなかった足元や背中にSubstance Painterを使ってテクスチャを貼り込み、なんとかやりきりました」(CGデザイナー・清水 亮氏)
<4>Maya+Houdiniで構築した植栽システム
前作、『麻布台ヒルズ ムービー2023|GREEN, LIFE, TOKYO.』の制作でも多くの植栽に対応するためのしくみを構築したが、本作ではそれをさらに改良。Houdiniを活用することで、より効率的に植栽を作ることができるように工夫がされた。
ワークフローとしては以下のように3段階ある。
1)3ds MaxからMayaへのコンバート
2)MayaからHoudiniへのコンバート
3)MayaとHoudiniでそれぞれのレンダリング素材でコンポジット作成
3ds MaxからMayaへのコンバートは、3ds Maxで使用していた配置用マップを、Mayaでメッシュ化しMASHにて再配置。MayaからHoudiniへの情報はプラグインのsoupを使用し、ポジション情報やスケール情報、ID情報などをポイントデータとして出力した。
Houdini側では植栽ライブラリから成長アニメーション付きAlembicとvrsceneを読み込み、それぞれモデルデータと質感情報をHoudini内のデータベースとして構築しなおすしくみを用意。 Houdiniのデータベース内ではvray proxyの連番の形式にしている。
最終的にMaya側から出力された配置用ポイントデータとHoudini内のデータベース、植栽の群体としての成長アニメーションを統合して、変形中の建築物から植栽が生えてくるようなレンダリングをしている。
これらの処理により、葉っぱ1枚1枚全てを削ることなく、植栽の種類全てに固有の成長アニメーションを付けた状態で、建築形状に関してはCADデータを削ったり、プロジェクションで質感をごまかすことなく大型データをそのままレンダリングに回せている。
コンポ上ではMayaとHoudiniからそれぞれ出力されたレンダリング素材を良い所取りで混ぜ合わせている。MayaからHoudiniへの建築物の質感コンバートはディテール部分や調整用エレメント量で差異があり、建築物の変形中や植栽の成長中はHoudiniの素材変形が落ち着いたところからMayaの素材に切り替えられている。
<おわりに>TREE Digital Studio LUDENS事業部の制作力を遺憾なく発揮して作られた3作品
2023〜2024年にかけて公開された森ビルブランドのムービーのうち、今回はTREE Digital Studio LUDENS事業部が3DCGを手がけた3本について、メイキングを解説してきた。
取材していて、まず驚いたのが、映画のようなVFXの量とクオリティをほぼ1社で作り上げていることだ。統合して大所帯とはいえ、ここまでの作品をすべて賄えるVFXプロダクションも少ないのではないだろうか。VFXプロデューサーの野瀬正裕氏は「業界で有名な森ビルの案件を3本も担当できて、しかもYouTubeの再生回数も大きく伸びているようで、とても嬉しいです。引き続き、努力します」と手応えを感じているという。
また、取材時に感じたのはスタッフの雰囲気がとても前向きだということ。VFXスーパーバイザーの政本星爾氏は「若手にもリーダーを任せなければいけない場面もあり、大変だったけれど、みんなが成長した1年半でした。スタッフには苦労をかけたけど、みんなのやる気がすごかったですね。やる気は機械的には生まれないものですし、スタッフたちの熱意にはとても感謝しています」と作品に携わった1年半をふり返る。
納期が短い中で大量のカットをこなすには、スタッフの並々ならぬ苦労があったことは容易に想像できるが、それをやり切れるだけの社風がTREE Digital Studio LUDENS事業部にはあるように感じた。今後のさらなる活躍に期待だ。
TEXT_石井勇夫 / Isao Ishii(ねぎデ)
PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota
EDIT_海老原朱里 / Akari Ebihara(CGWORLD)