2023年2月18日(木)、PLATEAU(プラトー) AWARD 2022の最終審査会が東京で開催。17組のファイナリストによる最終プレゼンテーションののち、審査委員によってグランプリ1作品と部門賞6作品が選定され、表彰と賞金が授与された。
PLATEAU AWARDとは
PLATEAU AWARD 2022のベースになっているのは、国⼟交通省が2020年度から手がけている、まちづくりのデジタルトランスフォーメーション(UDX)推進事業「Project PLATEAU」。⽇本全国の都市の3Dモデルを整備してオープンデータとして公開し、活⽤に向けたユースケースの開発を進めるという先端的な取り組みである。内閣府の科学技術政策Society 5.0 やデジタルツイン実現の向けたデジタルインフラとしてデータを活用し、「多様な⽣き⽅や暮らし⽅を⽀えるサステナブルで⼈間中⼼のまちづくりを実現すること」を⽬指している。
オープンデータとして都市モデルが存在することを周知し、多方面に向けて活用を促進するため、様々な領域で活躍するエンジニアやクリエイター、プランナーによるユースケースを発表する場として設けられたのがPLATEAU AWARD 2022である。
2022年6月末の作品募集開始後、70作品におよぶ秀作が集結。2022年12月から2023年1月にかけて、審査委員による厳正な一次審査が実施され、ファイナリストとなる17作品が選定された。審査基準は「3D都市モデルの活用」、「アイデア」、「UI・UX・デザイン」、「技術力」、「実用性」という5つだ。
審査委員はAR三兄弟⻑男の川⽥⼗夢氏、ITエンジニア兼漫画家の千代⽥まどか(ちょまど)氏、Code for YOKOKOHAMA共同代表の⼩林巌⽣氏、Takram Japan株式会社デザインエンジニア/ディレクターの松⽥聖⼤氏、国⼟交通省の内⼭裕弥氏という5名で、審査委員長は川田氏が務めた。
グランプリ:『snow city』by シマエナガ
グランプリを獲得したのは、チーム シマエナガによる『snow city』。部門賞のひとつ、「UI/UXデザイン賞」も受賞しており、ダブル受賞となった。
『snow city』は、「実在の街をスノードームに入れる」をコンセプトに開発したオンラインアプリ。文字での説明よりも触ってみるのが手っ取り早いので、ぜひこちらから一度操作してみてほしい。
都市や背景をプリセットから選択して、画面上でスノードームをグルグルと回して鑑賞できるのはもちろん、地図から範囲を選択してオリジナルの都市モデルをスノードームに閉じ込めることもできる。
都市データの活用アイデアはもちろん、コンテンツ全体に適用された高級感のあるデザインと幻想的なBGMから、統一感のある作品に仕上がっている。
使用した技術はWeb技術にNext.js、TypeScript、Tailwind CSS、three.js、Leaflet、バックエンド(Amazon EC2にデプロイ)にGo、モデリングにBlender、動画制作にPremiere Proなど。
審査委員の松田氏はその優れたUI/UXデザインを評価。「デザインから音楽まで世界観がしっかりできあがっているところが良いですね。データとユーザーをきちんと繋いでいる、素晴らしい作品です」。
審査委員長の川田氏は、「素晴らしいのは、札幌に訪れた人が持ち帰るものがあって、観光用のツールとして使えるということ。それと、こういうものは長い目で見たときに、言葉を選ばずに言えば、『売り物』にならなくちゃいけなくて。たぶんこれは3Dプリンタを使ったりすれば売り物になるんですよね。そういう、総合的な意味でグランプリにふさわしいなと」とコメントした。
特別賞(マッドデータサイエンティスト賞):『PLATEAU Tools』 by 株式会社大林組 上田博嗣
こちらは、ファイナリストたちの作品レベルが高いことから急遽用意された特別な部門賞。受賞したのは株式会社大林組の上田博嗣氏による『PLATEAU Tools』である。
『PLATEAU Tools』は、PLATEAUの3D都市モデルを使用した様々な都市環境評価を、最大3つの入力だけで全自動解析するクラウド解析ツール群。AI分野で注目されている、「自然言語×画像生成」と同様に、都市のデジタルツインにおいても「自然言語×物理情報(解析)」ができるはずで、それが実現することで解析が手軽かつ短時間で行えるようにするツール群がPLATEAU Toolsである。
ツールは大きく4つからなる。取得したPLATEAUデータを簡易にOBJ形式に加工し出力するツール、日射解析ツール、眺望評価ツール、そして特に評価の高かった風速予測AIツールである。風速予測AIツールは、気象庁のデータと連係することで風環境の評価を解析し、そのデータを教師データとしたディープラーニングによる学習を経て、風速を予測するツールである。形状加工ツール以外のツールからの出力フォーマットはVTK形式に統一されており、将来的にはアプリケーションなどを通じて利用できるようにしたいと考えているという。
なお、これらのツールは全てオープンソースで構成されている点も特長のひとつだ。
審査委員長の川田氏は、「上田さんの人柄を含めて素晴らしく、プレゼンテーションでは淡々とすごいことを言っているのにグッときてしまいまして、急遽賞を用意してもらいました。特に風速予測の部分は本当に素晴らしいです」と評した。
イノベーション賞:『PLATONE』 by Alex ORSHOLITS
サウンドスケープに着目したコンテンツでイノベーション賞を受賞したのはAlex ORSHOLITS氏による『PLATONE(プラトーン)』 。
『PLATONE』は「都市空間を聴覚的に拡張するバーチャルレイヤー」をもたらすリアルタイム空間サウンドスケーププラットフォーム。GPS装置付きのヘッドホンを装着しながら街歩きをすることで、日本橋の麒麟像からうなり声が聞こえてきたり、通りに馬車の音が聞こえてきたりといったユニークな聴覚体験が行える。
PLATEAUの3D都市データを利用することによって、壁や通路への音の反響が計算されるため、聞こえてきた音が現実のものなのか、それともPLATONEによるものなのかがわからなくなるといった、没入感の高いサウンド体験が得られるという。技術的には、Microsoft Project Acousticsによるサウンド伝搬のシミュレーション結果をUnreal Engine 5のAudio Spatializerに読み込んで立体オーディオを出力している。
審査委員長の川田氏は、「僕は東京でラジオ番組をやっているんですが、これを使ったら新しい形のラジオができるんじゃないかと思って、今、次々とアイデアが出てきています。素晴らしい作品をありがとうございます」と話した。
エモーション賞:『VARAEMON』 by きっポジ@KITPOSITION
エモーション賞に輝いたのはきっポジ@KITPOSITION氏による『VARAEMON』。「現実の街でロボットを操縦したい!!」という思いとPLATEAUの3D都市モデルを組み合わせ、ロボットをVRで操縦し、ARで召喚するというコンテンツに仕上げた。
技術的なポイントはVRとARにおけるマップのズレをどのように解決するかという点。『VARAEMON』ではPhoton Fusionを使って座標の同期と通信を行い、PLATEAUの3D都市モデルを含めた座標同期にCesium for Unityを使うことで、これを解決している。また、ARではURP用マスクシェーダとCesium採用による精度向上により、リアルタイムで建物の陰に隠れるオクルージョン処理も実現。
審査委員の千代田氏は、「大変情熱を持って、好きなモノを突き詰めて形にされていることがわかる作品でした。審査員として感情を揺さぶられたので、エモーション賞とさせていただきました」と評した。
データ活用賞:『情報加算器』 by HollowByte合同会社 米田 将
PLATEAUのCityGMLに対してオープンデータなどの新たな情報を追加するWebアプリ『情報加算器』でデータ活用賞を受賞したのはHollowByte合同会社の米田 将氏。
エンジニアやクリエイターがPLATEAUの3D都市データをどのようなファイル形式で利用するかというと、過去のハッカソンではFBXまたはOBJ形式での利用がほとんどで、CityGMLはわずか11%という結果だった。利用率が低い理由のひとつとして、CityGMLは箱として優秀ではあっても、セマンティック(中身)が不足気味であることが考えられた。そこで米田氏は、手軽にPLATEAUに情報を追加できるWebアプリ『情報加算器』を開発。
現在は、追加する情報の作成をより簡単に行えるよう、オープンデータ自体を整備して誰でも取得しやすくしておきつつ、変換のアルゴリズムもノーコーディングで設計できる仕組みを開発中だという。
審査委員の小林氏は、「僕は普段オープンデータ同士を連係させるような仕事をしているのですが、データを繋ぐというのは本当に大変で、米田さんの会社でもおそらく同じところで苦労されているのではないかと思い、共感しました。さらに便利になるように開発を続けているということで楽しみです」と期待をにじませて語った。
PLATEAU賞:『PLATEAU Window』 by PLATEAU Window's
過去に戻って好きな場所、好きな高さから窓の外を眺めることができる作品『PLATEAU Window』でPLATEAU賞を受賞した、チームPLATEAU Window's。
日付と時間、住所または建物名を入力後、窓と部屋の位置(方角)と階数を指定してカーテンを開けると、窓の外にはその場所から見た外の様子が広がる。時間を進めることで日照や天候が変化し、主要な建物に看板のような目印を立てて表示できる。また、例えば「ランチ」と入力してTwitter検索を行うことで、ジオタグ付きツイートを参照して該当する位置に風船を浮かべることができる。
さらに、Wikipediaの年別の出来事やRSSを参照し、時間を過去に戻してその時に起こった事件の記事を見ながら、発生地を指し示すといったこともできる。
審査委員の内山氏は「この作品は2022年8月末に東京で開催したPLATEAU Hack Challenge 2022 in ヒーローズ・リーグでアイデア・ビジョンだけ出してもらっていたものです。その時に良いアイデアだなと心に残っていたので、このAWARDに向けて着々と開発が進んで、これでもう動かせますよというレベルまで高めてもらって嬉しいです。内容としても、形だけじゃなくて、都市全体のデータや属性情報をパッケージとしてしっかり使ってもらえていて、まさにPLATEAUがあったからこそ、PLATEAUのコミュニティがあったからこそ生まれた作品。ということで、PLATEAU賞に選ばせてもらいました」と、ここに至るまでのストーリーを含め作品を評価していた。
2022年度のProject PLATEAUの活動はAWARDの表彰式を持って盛況の内に幕を閉じた。2023年度どのような活動を行うのかはまだ明らかではないが、プロジェクトに参加してみたいエンジニアやクリエイターは、公式サイトの動向に注目してほしい。
TEXT _kagaya(ハリんち)