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2月27日(木)~3月3日(月)まで、北海道夕張市で開催されていた「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2014」。開催中、映画に関するさまざまなイベントが行われていた同映画祭から、CGWORLD.jp読者に向け、VFX関連のイベントをピックアップし、全2回でレポートする。第1回目となる本稿では、とくに"特撮"にまつわる2つのトークイベント「【スタジオカラー】が巻き込む、特撮・VFXの今」と「開田裕治を囲む会」を紹介。『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』シリーズでおなじみスタジオカラーによる「特撮と作画に学ぶアニメ3DCGの制作術」と、"怪獣絵師"の異名を持ち『ウルトラマン』や『ゴジラ』シリーズのイラストを手がけてきた開田氏による、怪獣映画制作の舞台裏についてレポートしていく。

特撮・作画から学ぶアニメ3DCG

スタジオカラー・瓶子修一氏(CGIプロデューサー)、小林浩康氏(CGI監督)、そして、特撮アニメ評論家氷川竜介氏によるトークセッション「【スタジオカラー】が巻き込む、特撮・VFXの今」では、スタジオカラー デジタル部が3DCGのクオリティアップのため"特撮・作画のノウハウを参考にしている"という話を紹介してくれた。


左より、瓶子修一氏(スタジオカラー・CGIプロデューサー)、小林浩康氏(スタジオカラー・CGI監督)、氷川竜介氏(特撮アニメ評論家)

「現在、日本では一年間に約360作品ものアニメが放送されていますが、そんなにたくさんの作品があり、かつクオリティを上げなくてはいけないという現状では、人手も時間も圧倒的に不足しています。そこで、鉛筆を持たなくても絵が描かける3DCGの出番なんです」(瓶子氏)。
『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』シリーズなどのアニメ作品で、高いクオリティの3DCGを制作しているスタジオカラー デジタル部だが、意外にもアニメ向けの3DCGは「作画と比べると、まだクオリティが不十分」だと言う。そのため、さらなるクオリティアップを目指すスタジオカラーでは"特撮・アニメ作画から学ぶ"という方法を実践しているのだとか。これは、優秀な作画スタッフがすぐ近くにいて、特撮の専門家にも協力を求めることができる、同社ならではの試みだ。

日本の伝統を尊重し、継承する3DCGへ

特撮を参考にするという話の中でもとくに興味深かったのが、『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』で使われた背景モデルの話。この作品では"ミニチュア的な特撮空間を3DCGで再現したい"という庵野秀明総監督の演出方針を実現するため、戦闘シーンの背景に使われているビルや電柱の3DCGモデルは、ミニチュアを手本に制作しているという。「特撮研究所の倉庫に行って、実際にミニチュアを見学してきました。さらに写真を撮ったり図面を借りるなど、実在するビルではなく、ミニチュアから得た資料をもとにモデルを制作しています」(瓶子氏)。この時、3DCGで特撮的空間を再現するノウハウとともに、"対象を徹底的に真似る"ことの大切さも学んだのだとか。「その後、ある作品のムービーで、実在する駅をモデリングすることになりました。その時に、スタッフ達が自発的に駅のあらゆる場所のスケールを計測しに行ったんです。地面のタイルの大きさなど、少しやり過ぎかと思えるくらい細かいところまで、測っていたようです」(小林氏)。こうした"対象に迫る姿勢"が、作品のクオリティをより高いレベルに押し上げたという。

特撮用のミニチュア(左)と、ミニチュアをもとにモデリングされた背景用の3DCGモデル(右)。じつはこのミニチュア、とても精巧にできているのだが、ミニチュアゆえにカメラに映らない背面は作られておらず、3DCGモデルに落としこむ時には少し工夫が必要だった

一方で、さらに作画アニメのクオリティに近づけるために、スタジオに在籍するベテランアニメーターへのヒアリングも行なっているのだとか。「影とハイライトの重要性や、作画ならではの"影の嘘"の話など、ベテランの方たちに直接教えていただける機会があり、とても勉強になります」(瓶子氏)。
また、実際に作画を3DCGでトレースして、その違いを技術的に検証することもあるという。「作画監督の本田さんが本編で描いたエヴァを、検証のために3DCGでトレースしたこともあります。ロボットなのに、すごくしなやかな動きなので、どうすればそれを再現できるのかと」(瓶子氏)。こうした研究は、仕事としてモデルを制作しているわけではないのだが、続けていくことで3DCGアニメーターひとりひとりの技術が向上するため、欠かせないのだという。
これから目指す先として「特撮や作画アニメの伝統を尊重し、継承する3DCGになるための努力をしている」と瓶子氏が語る、スタジオカラー デジタル部。中国やインドがアニメ市場へ進出してくる中で、国内のアニメ産業は危機的状況にあるとも言うが、3DCGアニメならではの量産性に加え、日本のアニメファンが求める"伝統"を3DCGに活かすことで、ますます技術に磨きをかけ同社のオリジナリティを発揮していきたいという。


検証のため、作画のエヴァ改2号機を3DCGでトレースしたもの。左右の腕の大きさが違うなど、作画ならではのデフォルメも3DCGで再現している

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開田流怪獣の描き方

「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2014」の会場で開催されていた「ART OF KAIJYU 怪獣絵師 開田裕治 原画展」にあわせて行われたトークセッション「開田裕治を囲む会」。同セッションでは、アニメ・特撮研究家の氷川竜介氏がMCをつとめ、金子修介監督(『ガメラ』シリーズほか)、田口清隆監督(『ネオ・ウルトラQ』ほか)、そして『ウルトラマン』や『ゴジラ』シリーズなどのイラストを手がける"怪獣絵師"開田裕治氏が、怪獣映画にまつわる裏話を披露し、盛り上がりをみせていた。


左より、氷川竜介氏、金子修介監督、開田裕治氏、田口清隆監督

中でも興味深かったのが、開田氏による怪獣の質感表現についての話。今回の展覧会で、開田氏の絵を改めて見たという金子監督が「開田さんの怪獣の絵は、ラバーの質感じゃないですよね?」と質問すると、開田氏はリアルの中に"怪獣らしさ"を見せる、独自の表現方法について答えてくれた。
「怪獣という、実際には存在しないないものを絵にするわけなんですけど、手がかりがないと絵にすることができないですよね。だから、僕の場合は絵を描く時、きぐるみの質感を手がかりにしています。とは言え、きぐるみを忠実に再現してしまうとリアルさが損なわれてしまうので、あくまでも怪獣っぽいゴツゴツとした質感は意識しつつ、例えばシワの入り方なんかは、きぐるみを参考に、イメージをふくらませていく場合が多いです」(開田氏)。
さらに話は、"開田氏はウルトラマンの覗き穴(目玉のような部分)をなぜ描かないのか?" という少々マニアックな話題に。じつはこの覗き穴については、『エヴァンゲリオン』の庵野監督にも怒られたことがあるという開田氏だが、そこには意外なこだわりがあるのだとか。「あの丸い覗き穴は、最初、ウルトラマンのデザインにはなかったものだったんです。実際に現場できぐるみを着ると視界が悪かったので、急遽、無理やり穴を空けたという裏事情がありまして。僕はその由来を知っていたので、であれば、デザイナーの意思を尊重して描いた方がいいなと思いました」(開田氏)。きぐるみは参考にしつつも、あくまで"宇宙人"としてどうリアリティを持たせるか......その絶妙なバランスが、開田氏の描く魅力的な怪獣たちを作り上げているようだ。


たくさんの怪獣映画ファンが集まり、盛り上がりを見せていた会場。壇上の4人の熱い怪獣トークに、笑いがおこることも

今年は怪獣映画の当たり年!?

『ガメラ2 レギオン襲来』(金子監督作品)ほか、多数の怪獣映画にエキストラとしても参加するほど熱心な怪獣映画ファンという開田氏を中心に怪獣談義は続き、話題は"これからの怪獣映画"の話に。金子監督によると、最近はスカイツリーなどの有名なランドマークを映画に登場させることが権利上難しい場合があり「大人の事情で怪獣映画が撮りにくくなってきた」というが、そんな現状でも開田氏は「観客の傾向が、良い方向に変わってきている気がする」と言う。
「昔は怪獣映画を好きな女性なんてまず見かけなかったんですが、最近では僕の展覧会にも女性のお客さんが増えてきてます。『パシフィック・リム』にしても、女性客のウケが良かったという話を聞きますよ」(開田氏)。これは、これまで一部のコアなファンのものだった怪獣映画の魅力が、一般客にも伝わってきた兆しなのかもしれない。「なかなか映画館に来てくれないんですけど......怪獣映画は"観れば面白い"んです」(開田氏)。
最後に、今後の怪獣映画への期待について開田氏は、次のように語っていた。「怪獣映画は、今、本当に雰囲気がよくなってきていると思います。今度の『3Dゴジラ』(ハリウッド版『ゴジラGODZILLA』 )も面白い映画であってほしいですし、これをきっかけに日本でもすごい怪獣映画が出てくることを期待しています」(開田氏)。
今年はハリウッド版『ゴジラGODZILLA』 が公開されるほか、国内作品でも『進撃の巨人』、『寄生獣』、『実写版パトレーバー』など、怪獣が登場する映画が多く公開される年。長年培われてきた日本ならでは"怪獣魂"と最新技術が融合し、2014年は新たな怪獣ブームが巻き起こるかもしれない。


「ART OF KAIJYU 怪獣絵師 開田裕治 原画展」会場の様子。開田氏による怪獣イラストが40点ほど展示されていた

TEXT_山田桃子
PHOTO_弘田 充

『ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2014』

『ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2014』

開催期間:2014年2月27日(木)~2014年3月3日(月)
会場:アディーレ会館ゆうばり(旧夕張市民会館)、ゆうばりホテルシューパロ、夕張市内会場
主催:ゆうばり国際ファンタスティック映画祭実行委員会、特定非営利活動法人ゆうばりファンタ
公式サイト:http://yubarifanta.com