クラウドファンディングで3,622万4,000円を集めたしたアニメ映画『この世界の片隅に』。今年6月に正式に映画化が発表された同作品のレイアウト展「アニメ映画『この世界の片隅に』レイアウト展~戦時下の暮らしを調べ、描き、残す~」が北九州市漫画ミュージアムで開催された。その期間中に行われた片渕須直監督のトークイベントを紹介する。
片渕須直監督。展示の各レイアウトについて「最初は夫婦2人だけで作業をしていた」といったエピソードを披露
2016年秋公開のアニメ映画『この世界の片隅に』は、アニメ化に向けてサイバーエージェントの「Makuake」にて行われたクラウドファンディングで最終的に3,622万4,000円を記録した。目標としていた額の2,000万円を8日間で早々に達成しただけでなく、邦画の史上最高額となったことでも注目を集めている。
5月16日から北九州市漫画ミュージアムにて開催された同作品のレイアウト展「アニメ映画『この世界の片隅に』レイアウト展~戦時下の暮らしを調べ、描き、残す~」の一環として、6月6日、片渕監督によるトークイベントが実施された。『この世界の片隅に』は、マンガ家・こうの史代氏が描く同名マンガが原作。これまでも同作のレイアウト展やトークイベントは行われてきたが、6月3日に映画の制作が正式に決定したという嬉しい発表があった直後であったため、関心が集まっていた。
『この世界の片隅に』のアニメ化企画は、2011年から動いていた。企画の発端は山口県防府市を舞台とした2009年公開の片渕監督作品『マイマイ新子と千年の魔法』まで遡る。同作は小説家・高樹のぶ子氏が自身の子供時代をモデルにして執筆した『マイマイ新子』を原作として制作されたアニメ映画だが、この作品の中の登場人物である新子のお母さん(青木長子)を主人公にしてその世界を描いたら面白いのでは......というのがはじめの着想だった。「昭和30年代は自分の子供の頃の延長として描けるが、昭和20年代は世の中の様子ががらっと異なり、現在とは断絶されている気がして描くことが難しい」と片渕監督。しかし「新子のお母さんのように同じ人物が登場するなら、道はつながっていくのでは」と考えたのだという。
『マイマイ新子と千年の魔法』@JR防府駅(公開当時)
こうの氏のマンガとの出会いは、その『マイマイ新子と千年の魔法』の関連でトークした防府市文化財課長が持っていた『夕凪の街 桜の国』のクリアファイルがきっかけだったという。戦時中の広島を舞台とした『この世界の片隅に』が、ちょうど監督が「描きたい」と思っていた時代だったためアニメ化を打診。こうの氏も片渕監督のアニメ『名犬ラッシー』を見ていたことなどからアニメ化の企画が実現することとなった。
各レイアウトの事例では、本作品の公式サイトでも見られる「大正屋呉服店」が中心に描かれているカットについて触れられた。この大正屋呉服店は原爆投下後も破壊されずに残った建造物で、現在も「平和記念公園レストハウス」として利用されており、6月3日の制作記者発表も同所で行われた。
取材により、当時その周囲に何があったのかが綿密に調べられたため、劇中では当時の状況が鮮やかに立ち現れる。片渕監督は「時代考証をしていくと、マンガに描かれていない部分まで、どこまでも世界が広がっていく」と制作時の苦労を語った。「これだけ綿密に精査して描いた背景でも、作中では3、4秒しか出てこないことがあります。と言うと、ものすごい世界が展開されているんだろうと思うかも知れませんが、出来上がる映画では、普通に通り過ぎてしまうんです」。
会場には数多くのレイアウトが展示された
トーク後、聴衆からの質問に、「現在、アニメ映画は子供向けとマニア向けという2つの方向性の作品が多い。それ以外の単発作品だと、引っかかりがないので目に止まりづらいんです。仮に目に止まったとしても、実写ファンは関係ないと思って、見に来てくれない場合が多いです」と片渕監督が答え、どうすれば作品を見てもらえばいいのかといった悩みについても話した。
またそれ以上に「アニメ映画のファンではない、一般の人に対してアピールしていくこと」が大切だと片渕監督は言う。「映画館に行く前に『そういうのがあることを知らない』というのは、選択肢に入る以前の問題。頑張って作ったとしても、そういう作品があることを世の中の人は知らないまま終わってしまう可能性がある。名前を聞いたことはあっても自分とは関係のないものだと思ってしまう。どうしたら観客にとって"関係のある作品"だと思ってもらえるのかという点が、とても難しいです。テレビであれば何となく見て、面白かったらそのまま見続けるかもしれないし、マンガだったら雑誌を読んでいて目当て以外の作品も目に留まることがある。ところが単発のアニメ映画作品だとそういったきっかけがないし、DVDになってレンタルショップに並んでいても"ちょっと借りてやろう"となる前に手が出ないまま終わるパターンが多いんです」。
ひとつひとつのレイアウトにじっくりと見入る来場者の姿も多くみられた
「そもそも間口が狭くなってしまう作品だが、それを打ち破る方法があるなら知りたい」と言う片渕監督。今回のレイアウト展やトークイベントも、そうした普及活動の一環として実施しているという。
トークイベントが行われた北九州市漫画ミュージアムでの展示は7月10日に終了。さらに遡って6月20日にはザザシティ浜松(静岡県浜松市)でパネルトーク「アニメーション映画監督が調べた 日本のくらし/戦時の日常生活」、27日・28日(日)にJMSアステールプラザ(広島市)で「広島メディア芸術振興プロジェクト~広島ゆかりの作家、作品展」が開催された。
TEXT&PHOTO_真狩祐志
映画『この世界の片隅に』
http://www.konosekai.jp
北九州市漫画ミュージアム
http://www.ktqmm.jp