福岡市内のクリエイティブ企業へのU/Iターン転職プロジェクト「福岡クリエティブキャンプ(FCC)」。11月19日(土)にCGWORLDとFCCのコラボイベントが日本電子専門学校(東京都新宿区)で行われた。タイトルは「1日限りの『SUSHI POLICE』DAY!」

『SUSHI POLICE』は和食ブームの一方、日本人の目から見れば珍妙な料理が世界的に広がる現状をベースに、「間違った寿司」を提供するレストランを摘発する『SUSHI POLICE』を活躍を描いたコメディだ。TOKYO MX開局20周年記念アニメとして制作・放映され、ハイセンスで特徴的なルックや文化摩擦をベースとしたストーリーが注目を集めた。一話5分で13話が2016年に放映され、再編集版を劇場公開。DVD&ブルーレイの発売や、ストリーミング配信も行われている。

▲SUSHI POLICE Official Trailer Blu-ray&DVD Release #4

制作を手がけたのは「KOO-KI」を中心とした福岡のCGスタジオだ。企画・コンポジットをKOO-KI。モデリングと美術をTriF Studio。アニメーションをアイメージをはじめ9社がエピソードごとに分担している。アフレコ、音楽、サウンドエフェクト、ミックスなどの工程も、一部をのぞき「オール福岡」で進められた。いわば福岡から世界に向けた挑戦となった本作について、第一部では3つのパートから舞台裏があかされた。

TEXT_小野憲史
PHOTO_大沼 洋平

「実写映画として進めてきたが、アニメCGでの可能性を探っている案件がある」という相談からパイロット版を提案した(企画/プロデュース編)

▲(右)河原 幸治 氏(KOO-KI・プロデューサー)/(左)木綿 達史 氏(KOO-KI・監督)

もともと本作は配給会社から「実写映画として進めてきたが、アニメCGでの可能性を探っている案件がある」という話を聞いて、パイロット版を制作することを提案したところからはじまったという。河原氏は「KOO-KI初のテレビシリーズだが、一社ではまかなえない規模なので、福岡中の企業に声をかけた。福岡にノウハウを残したかった」とあかした。

「生真面目な日本人の三人組が強制捜査をする」という基本コンセプトはすぐに決まったが、一話完結にするか、ストーリー仕立てにするかで議論が分かれた。海外展開を見こした資金回収スキームだったため、一話完結では日本賛美と取られるリスクもあったからだ。最終的に「日本の食文化を守るVS自由な食の楽しみ」というテーマをもりこみ、ストーリー仕立てにすることに決定した。

キャラクターデザインは海外展開を念頭にTOBI TOREBURUYA氏を起用。木綿氏のラフデザインをベースにTOBI氏がクリーンアップし、結果的に日本と海外のテイストがミックスしたルックとなった。主人公三人組の名前も海外で認知度の高い固有名詞という意味で、「ホンダ・スズキ・カワサキ」とバイクメーカーから引用。「ヤマハがないと言われそうだが、マイナーな名字なので難しかった」(木綿氏)

▲木綿監督の修正案を下に、TOBI氏が描き直した完成形のベースとなるデザイン画

前述の通りアニメーションは福岡市内のCGスタジオをメインに、エピソード単位で発注した。基本設定や尺などは遵守のうえで、比較的自由に作業してもらったという。「自分のイメージとは異なっていても、クオリティが担保されていたらOKにした」(木綿氏)。GoogleDriveでデータを共有し、他社の進捗を見られるようもした。互いに競争心を感じつつ、楽しんで仕事をしてもらいたいという思いからだ。オール福岡で進めたことで、安心感を持って進められたという。

自分たちのイメージを膨らませて、より自由に動きをつけられた(アニメーション編)

▲伊藤 了太郎 氏(アイメージ・Director)

社員数11名と福岡でも小規模のCGプロダクション、アイメージ。実写・3DCG・2DCGなど多彩な仕事をこなし、近年ではドローンによる空撮も行っている。同社ディレクターの伊藤氏は「絵コンテの段階で2Dによる背景パートと3Dによるアニメーションパートが色分けされており、非常にわかりやすかった。ツールは3ds Maxを使い、キャラクターはBipedで組まれていて、ゆれものや眼鏡などのカスタムリグもできていた。アニメーション制作だけの集中でき、有り難かった」と語った。

▲第1話のレイアウトより。(左)3DCG要素が介在しない2Dカットの例(CUT 44)。2D要素は桃色で塗り分けられるため、画面全体が桃色となる/(右)背景も3Dベースのカット例(CUT 45)。キャラクターの芝居に関する演出指示はオレンジ色で、カメラワークに関するものはシアン色で書かれている。そしてカメラワークのフレーミングについても始点は赤色、終点は青色と視覚的にわかりやすい

同社が担当したのは5話と4話の一部で、新人+After Effectsのアニメーター+Mayaのゼネラリストという3名のアーティストが担当した。もっとも3名のスキルが異なるため、積極的に意見を交わすようにしたものの、当初はぎこちなかったという。そこで午前中の作業内容について、昼休み後に3名でチェックし、夕方に伊藤氏を含めて再度チェックするルール決めをしたところ、うまく回り始めた。余談だが全員が3ds Maxでの作業は初めてだったが、特に不都合はなかったという。

その後、伊藤氏は修正を繰り返しながらアニメーションがどのようにブラッシュアップされていったか、4点のカットで紹介した。最初はビジュアルコンテ通りだが、どれも動きがぎこちなかったが、修正を加えるたびに、次第に動きが洗練され、キャラクターの性格まで表現されたものに変わっていった。「主人公キャラは1話の動きがベースになった。これに対してゲストキャラは自分たちのイメージを膨らませて、より自由に動きをつけられた」(伊藤氏)。

もっとも誤算もあった。動きの少ないシーンを新人に割り振ったところ、コンテ通りに動きをつけるだけでは、画面が間延びしてしまったのだ。そのため伊藤氏らベテラン勢がフォローして、独自の芝居をキャラクターに追加したという。これらも一日2回のミーティングを定例化させたことで可能になったことだ。伊藤氏は「ミーティングの実施で目的を持って作業ができ、スキルの異なる3名で意見の交流もできた」と語り、ワークフローの重要性について強調していた。

編集とコンポジットはKOO-KIで行いたい(コンポジット&背景編)

▲(右)中石 賢悟 氏(KOO-KI・コンポジター)/(左)木綿 達史 氏(KOO-KI・監督)

本編の尺が3分。通常だと平均30カットの映像だ。ところが本作は連作モノということもあり、平均80カットと3倍近く増えることに。カットが増えるとそれだけコンポジットの手間が増える。にもかかわらずスケジュールが3週間から10日に短縮された。いったいどうすればいいのか......。KOO-KIの中石賢悟氏は「人を増やす」「機材を増強する」「3Dではなく編集段階でライティングを行う」という3つの手法でのりきったと振り返った。

当初はメインコンポジター1名、サブ+エフェクト担当が1名、サポート1名だったコンポジットチーム。これをメイン2名、エフェクト1名、サポート2名に増強し、2ライン体制で回すようにした。その上で、真の修羅場を迎えるまでの1ヶ月半、アルバイトで雇ったサポート2名を教育し、ワークフローに組み込んだ。機材面でもレンダリングに特化した「renderPro」と、ハイエンドワークステーションの「APEXX4 7201」を2台ずつ用意し、高速にレンダリングできる環境を整えた。

▲第1話CUT74の完成形。After Effectsによるコンポジット作業時に実写素材やParticularにてさらなるエフェクトが施された

編集とコンポジットはKOO-KIで行いたい......。これには監督の木綿氏によるこだわりがあった。「キャラクターアニメーションは実写映画における役者のようなもの。こちらの意図に沿っていれば、あとはアニメータの個性に任せたい。これに対してコンポジットは、お話にあわせて画面のどこを強調するかなど、演出に関係するところが大きい。自分はディレクターだから、社内でやりたかった」(木綿氏)。分業体制と監督のこだわりが、うまく落ち着いた結果だといえる。

第二部 座談会 『SUSHI POLICE』チームが語る、福岡のCG業界だからできること

第二部ではKOO-KIの河原幸治氏と木綿達史氏、そしてアイメージの伊藤了太郎氏が登壇し、福岡のCG業界をテーマに座談会を行った。モデレータはCGWORLD(ボーンデジタル)の西原紀雅がつとめた。

東京に比べて小規模スタジオが多い福岡のCG業界。KOO-KIで約30名。アイメージは約10名で、この規模が平均的だという。もっとも「人口も市場も業界も、東京のざっくり1/10」という環境要因だけではないようだ。木綿氏は「大企業で活躍したい人は東京に行く。もっと自由に仕事をしたい、尖った仕事をしたい人が福岡に残っている」とコメント。これには河原氏も「プレイングマネージャーが多いのが福岡の特徴」、伊藤氏も「一人でマネージメントしながら、クリエイティブも行うのは10人程度が限界」と同意した。結果的に小規模で個性的なスタジオが多くなっているようだ。

小規模スタジオでは一般的に、スペシャリストよりもゼネラリストが求められる。クリエイティブも実写・2DCG・3DCGと幅広く、CM・アニメ・ゲーム・プロモーション用のエフェクトなど、アウトプットも多彩だ。特に福岡は通販系の企業が多く、広告系の仕事が多いという。一方でクライアント=広告代理店=CGスタジオの関係が固定化せず、仕事の自由度が広いという特徴も。そのため求められる人材も「個人で任されるエリアが広く、自分からステップアップしたい人が向いている。いろいろな仕事ができることが楽しめる人が向いている」(木綿氏)と説明された。

このほか「通勤時間が短い」(河原氏)。「子育てがしやすい」(伊藤氏)。「お祭りが熱心で、福岡出身の芸能人も多く、エンタテインメントに理解のあるお国柄」(木綿氏)など、さまざまなコメントが並んだ。逆に課題点については三名とも「人材不足」をあげた。CGアーティストをめざす大学や専門学校の絶対数が少なく、新人だけでは限界があるというわけだ。最後に抱負について尋ねられると、異口同音に「福岡発のデジタルコンテンツをメジャーにしていきたい」という発言が聞かれた。『SUSHI POLICE』と同じく、個々の規模は小さくても、複数のスタジオが連携して大作に取り組むスキームは今後も考えられそうだ(実際『SUSHI POLICE』2ndシーズンといった構想もあるという)。自治体が全面バックアップする福岡のCG産業に今後も注目していきたい。


[INFORMATION]

  • 福岡クリエイティブキャンプ
    主に首都圏で活躍しているIT・デジタルコンテンツ等の開発経験者(クリエイティブ人材)の福岡市内企業へのU/Iターン転職を応援するために,福岡市が実施するプロジェクト。
    URL:fcc.city.fukuoka.lg.jp/