現場でトラブルになりがちな権利の問題について「クリエイターとしてやってはいけないこと」「権利を侵害されたときの具体的な対処法」をわかりやすくまとめたクリエイターのバイブル『クリエイターのための権利の本(ボーンデジタル)』から一部の記事を紹介。

  • クリエイターのための権利の本
    著者:大串肇、北村崇、染谷昌利、木村剛大、古賀海人、齋木弘樹、角田綾佳
    定価:本体2,400円 + 税
    発行・発売:株式会社 ボーンデジタル
    ISBN:978-4-86246-414-9
    総ページ数:224 ページ
    サイズ:A5判、2色
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写真などの素材から、人物や構図をトレースするのはOK?

Q:人物のポーズや服装、背景の建物や構図など、写真をトレースできれば楽ちん! 写真加工じゃなくて、トレースしてイラストにするのなら著作権は問題ないのでは?

写真は著作物! 盗作にならないよう注意しよう

写真(著作権法10 条1 項8 号)には、著作権が発生し、原則として撮影者が著作権者となります。「トレースはイラストを描き起こすので問題がないのでは?」と思いがちですが、他人の著作物である写真に依拠した上、それを複製している以上、複製権侵害に該当するおそれがあります。
もし、「誰でも撮影できて、同じ写真が撮れる」ものであるのなら、自分で撮影してしまったほうが早いかもしれません。それなら著作権を気にせず自由にトレースできます。
他人が撮影した写真を参考にしたいのなら、素材1 枚だけを探してトレースするのではなく、違う角度、違う撮影者の写真を探して見比べて、参考としてイラストに取り入れるようにしましょう。

トレースが写真の著作権侵害になるかの判断は難しい

写真からのトレースが著作権侵害になるかの判断に迷うようであれば、著作権をよく取り扱っている弁護士に相談するとよいでしょう。一つだけ実際に裁判になった事例を紹介します。

●トレースに関する裁判例(写真素材トレース事件)

[Memo]東京地判平成30 年3月29日(平成29 年(ワ)第672 号、同年(ワ)第14943 号)裁判所ウェブサイト〔写真素材トレース事件〕

(図01)は被告となった方が同人誌イベントに出品する小説同人誌の裏表紙に描いたイラストです。3 つのイラストスペースのうち、下部のスペースで左の男性が持つ雑誌の裏表紙となっているイラストは、右の「原告が写真素材集として販売していたCD に含まれていた写真(02) 」を被告がインターネットで見つけて、トレースして描いたものでした。
裁判所の判断は、被告のイラストは原告の写真の著作権侵害ではない、というものです。写真の表現上の特徴は、被写体の配置や構図、色彩の配合、被写体と背景とのコントラストなどの総合的な表現にあります。他方で、このイラストでは、写真にはない雑誌を開いた際の歪みによって生じる反射光を表現した薄い白い線がある上、白黒であることから写真の色彩の配合は表現されていません。また、写真における被写体と背景のコントラストもイラストでは表現されておらず、シャツの柄も違うことなどを裁判所は指摘しています。
2.6 センチメートル四方と小さく描かれている特殊性もありますが、この程度の類似性だと、たとえトレースであっても写真の著作権侵害とまではいえないという参考になるでしょう。

01:被告の同人誌裏表紙のイラスト[出典:写真素材トレース事件別紙]

02:原告の写真素材集に含まれていた写真

著作権的に問題のない写真を選ぼう

イラストや漫画に利用しやすい「ポーズ集、背景集」といった「トレース用素材」は書店やオンラインでたくさん販売、配布されています。トレースや加工を目的に作られたものなので、様々な角度で用意されており参考になります。これらから描きたいポーズや背景がないか探してみましょう。また、ロイヤリティフリーの写真素材を購入し、トレースする手もあります。

[Memo]トレースという行為そのものは、私的使用目的で行う限り複製権侵害にはなりません(著作権法30 条1 項)。ただし、それを作品として発表したり、配布・販売したりすると、私的使用の範囲を外れてしまい著作権侵害になります(著作権法49 条1 項1 号)。

しかし、どちらの場合も「著作権は放棄していない」ことがほとんどです。トレースしたイラストを自分の著作物として発表・販売する場合には「利用規約」でトレースした作品の商用利用が可能かどうかを必ず確認するようにしましょう。

[Memo]法律上は、トレースと模写に違いはありません。どちらも「類似性が高い」場合には、著作権侵害となります。

クライアントからの提供素材は必ず出典を確認しよう

クライアントから「こういうイラストを描いて」と、参考写真やイラストを渡されるケースもあるでしょう。その場合、まずは提供素材の出典を確認して著作権がどこにあるのかを把握しましょう。クライアント自身が指示用に撮影した写真であれば問題ありませんが、プロに依頼して撮影した写真やイラストの場合は注意が必要です。
イメージを伝えるためのイラストであれば、アレンジを加えて独自性を出すこともできます。ただ、医療や建築など、厳密な作図が求められる場合は、独自アレンジを加えることが難しく、結果として参考イラストをそのまま真似てしまうケースもあるかもしれません。その場合、著作権侵害になる可能性があるので注意してください。

[Memo]もし、デザイナー側が「著作権違反であることを承知で」その素材を使用した場合、たとえクライアントから指示された素材であっても、デザイナー側も法的な責任を問われるおそれがあるので注意してください。

クライアントからトレースや模写をすることを前提として素材を提供された場合、その写真やイラストが「トレースや模写をしていい素材なのか」をクライアントに確認しましょう。その上で、もし問題がある素材なら、人の体や建物のシルエットなど「そのものを伝えるために絶対に必要な形」と、髪型やシワや風になびく樹の形など「時間や場所や個体差などで変化する形」で分けて考え、オリジナリティを出すように工夫をしましょう。

まとめ

  • ・写真のトレースは著作権侵害になるおそれはあるが、その判断は難しい。侵害か迷った場合は専門家に相談する。
  • ・トレースが必要な場合は、著作権に問題がない素材を利用するか複数の資料を参考にして新しく描く。
  • ・クライアントから提出された写真素材は著作権を要確認。

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フリー素材は自由に使ってOK?

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フリー素材は自由に使ってOK?

Q:デザインをする際に、ネットにアップされている無料のフリー素材を使っています。フリー素材って最近はバリエーションも多くて便利ですね。フリーだから無制限に、しかも無料で、自由に使えるんですよね?

「フリー」=「自由」とは限らない

例えば、「フリー素材」とブラウザの検索窓に打ち込むと、たくさんのウェブサイトがヒットします。しかし、一言で「フリー」といっても「無料」と「自由」の意味があります。

  • ・著作権者が無料で使用許諾を出しているが、個人利用に限る
  • ・著作権者が無料で使用許諾を出しており、個人・商用利用ともに制限はないがアダルトなど一定の使用用途は禁止されている
  • ・著作権者が無料で使用許諾を出しており、使用用途にも制限がない
  • ・著作権の保護期間が切れている、もしくは著作権者が著作権を放棄している

上記はすべて「フリー素材」と呼ばれます。これらは、「著作権者から提示された条件に沿っている限りにおいて」無料で使用することができます。もし、その条件に沿わない場合は使用することはできません。
フリー素材を使用する前には、必ず利用規約を確認するようにしましょう。また、利用規約は変更されることもあるので、念のためフリー素材をダウンロードした時点の利用規約を保存しておくとよいでしょう。

[Memo]例えば、ゲッティイメージズの画像を使用する場合、「ゲッティイメージズ コンテンツに関するライセンス契約」に従わなくてはなりません。
https://www.gettyimages.co.jp/eula/

「ロイヤリティフリー」と「ライツマネージド」

「ロイヤリティフリー」とは、使用許諾を得た以降は使用許諾の範囲内であれば何度も使用できるという意味です。つまり、「フリー」なのは使用許諾を得たらフリー(無料)となる、という意味であって、すべて無料で使えるということではありません。同じ「ロイヤリティフリー」の素材であっても、完全に無料で使える素材もあれば、最初に使用料を支払って許諾を得るものもあります。一方、「ライツマネージド」は、使用媒体や期間を特定した使用許諾であり、その範囲外は再度許可を得る必要があります。

商用利用の境目

使用許諾には「非営利に限り無料」とされているケースが多々あります。このように「商用利用が禁止」されている場合、どこからが「商用」なのか迷う人も多いことでしょう。
販売する商品に使用するのなら、当然ですが商用利用になります。クライアントからデザインを受注してデザイン料を受け取る場合も商用利用です。これはクライアントが法人ではなく個人であっても同様です。
無料で使用できる場合の利用許諾には、点数の制限があることもあります。無料で使えるフリーイラスト素材で有名な「いらすとや」(図01) では、商用利用は20点まで無料、21点以上は有料という規約を設けています。

01:いらすとや(https://www.irasutoya.com

モデルの写真は使用用途や肖像権に注意

フリーの写真素材に、顔がはっきりわかるモデルが写っている場合は「モデルリリース」と呼ばれる「肖像権使用許諾」を得ているか注意が必要です。

モデルリリースを得た写真であったとしても自由に使用できるとは限りません。例えば、フリー素材を多く公開している「ぱくたそ (図02) 」では、モデルの写真をSNSなどのアイコンに使用したり、その人が特定の商品を試したように写真を使用したりする「なりすまし」を禁止しています。このような使い方は、たとえ自由に使えるフリー素材であったとしても規約違反になりますし、モデルの名誉を毀損するおそれもありますので注意しましょう。

02:ぱくたそ(https://www.pakutaso.com/

有名サービスのアイコン

フリーで配布されているアイコンセットの中に、 FacebookやTwitterなど有名サービスのロゴマークが含まれている場合があります。
確かに、Facebook やTwitter などのアイコンは、公式サイトのガイドラインに従っていれば無料で利用ができます。ただ、それぞれの公式サイト以外で配布されている素材が、ガイドラインに沿っているとは限りません。
もし、ガイドラインに違反している素材を使用してしまうと、たとえそれがフリー素材として配布されたものであっても、著作権侵害や商標権侵害に問われる可能性もあります。特定のサービスのアイコンは公式サイトからダウンロードするほうが安全でしょう。

[Memo]公式サイトが配布しているアイコンセットであっても、古いアイコンなどを使用してしまうと、ガイドライン違反になることがあります。なお、データが公開されているロゴであっても、利用に申請が必要であったり、限られた事業者のみに許されていたりする場合もあります。

「フリー素材だと誤信した」は言い訳になる?

フリー素材のサイトからダウンロードした素材を自分のウェブサイトで使用した場合、実はその素材が著作権者から許諾を得ていないものであったらどうなるでしょうか?
結論をいえばフリー素材だと誤信したという言い訳はなかなか通りません。

●フリー素材に関する裁判例(弁護士法人HP写真無断使用事件)

[Memo]東京地判平成27年4月15日(平成26年(ワ)第 24391 号)裁判所ウェブサイト〔弁護士法人HP写真無断使用事件〕

裁判例では、ストックフォトサービスを提供するアマナイメージズが自社で管理する写真素材を許諾なくウェブサイトに使用したとして法律事務所を訴えた事件があります。裁判所は、「仮に法律事務所のウェブサイト作成業務担当者が写真素材をフリーサイトから入手したものだとしても、識別情報や権利関係の不明な著作物の利用を控えるべきなのは著作権等を侵害する可能性がある以上当然であり、警告を受けて削除しただけで直ちに責任を免れると解すべき理由もない」、として被告の主張を採用していません。
結局のところ、素材を使用する人が責任をもって権利関係を確認することが求められます。自分で素材の権利関係について調査するのは手間も時間もかかり現実的ではありませんので、権利関係を明確にしているサービスを利用するほうがよいでしょう。

[Memo]例えば、アマナイメージズでは、素材のモデルリリース(肖像権使用同意書)、プロパティリリース(肖像権以外の権利許諾)などの権利取得状況について、ユーザーが確認できるように明示されています。また、万が一素材を使用してトラブルが発生した場合に一定限度補償する「無料免責サービス」も提供しています
https://amanaimages.com/indemnity/index. aspx?rtm=bnr-footer

まとめ

  • ・フリー素材と一言でいっても「フリー」には様々な意味がある。
  • ・フリー素材を使用する前に必ず利用規約を確認しよう。
  • ・利用規約は変更されることもあるので、フリー素材をダウンロードした時点の利用規約を保存しておくのも望ましい対応。
  • ・モデルの写真は肖像権や使い方に注意。
  • ・フリー素材だと誤信したという言い訳は通らない。

著作権トラブル解決のバイブル! クリエイターのための権利の本

  • クリエイターのための権利の本
    著者:大串肇、北村崇、染谷昌利、木村剛大、古賀海人、齋木弘樹、角田綾佳
    定価:本体2,400円 + 税
    発行・発売:株式会社 ボーンデジタル
    ISBN:978-4-86246-414-9
    総ページ数:224 ページ
    サイズ:A5判、2色
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