前回に引き続き、北海道夕張市で開催されていた「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2014」から、VFXに関するイベントを紹介。第2回目となる本稿では、最新映画のVFX技術を紹介した「実写版『魔女の宅急便』メイキングセミナー」と、世界を股にかけて活動するビジュアルデザインスタジオWOWの意欲的な取り組みが紹介された「WOW株式会社の未来ビジュアルデザイン戦略」、そして「VFX-JAPANアワード2014」表彰式の様子をレポートしていく。

様々なアプローチで映像化された、主人公キキの飛行シーン

映画『魔女の宅急便』の公開前日に行われた「実写版『魔女の宅急便』メイキングセミナー」では、VFXスーパーバイザーを務めた秋山貴彦氏(4Dブレイン 代表取締役 /VFX-JAPAN代表理事)が、本作で使われたVFX技術について解説。様々な場面で使われたというVFXの中から、主人公・キキの飛行シーンと黒猫・ジジのキャラクターメイキングが紹介された。


秋山貴彦氏(VFXスーパーバイザー)

2013年8月初旬に撮影が終了してから、同年12月半ばまで行われたという本作のポスプロ。中でもキキの飛行シーンやジジはボリュームが多い上に、清水 崇監督から「『ハリー・ポッター』のクオリティを超えたい」、「『ライフ・オブ・パイ』を目指せるか」などと無茶振りなというオファーがあり、制作には時間も予算も圧倒的に不足していたという。その問題を解決するため、本作の飛行シーンでは様々なVFXの手法が用いられた。
まず主人公・キキの撮影方法を見ても、①実際に現場で役者を吊るして撮影、②グリーンバッグを背景に役者を吊るして撮影、③グリーンバックの中で箒にまたがった役者を特殊な装置に乗せ、この装置を人力で動かし撮影、④4D Viewsの使用、という4種類ものアプローチがとられている。この中でも"新しい試みだった"と秋山氏が言うのが、③の人力ライドである。これはキキが箒を自由に操って飛ぶ感覚を作り出すために、役者の演技が先行して重心移動などの動きができるよう、モーションライドとよばれる機械仕掛けの装置をあえて使わず、人力で箒の動きを役者の演技に合わせて作り出せるシステム。またさらなる新兵器として4D Viewsで撮影されたキキのデータが、作中で使用されている。これは、四方をすべてグリーンバックで囲み、その中にいる役者をグリーンバックに空けた小さな穴から複数台のカメラで撮影。この撮影した被写体の画像を3Dポリゴン化するという技術だ。ポリゴン化された被写体のデータは、後から様々な角度で撮影された背景にマッチさせることができる。しかし4D Viewsは、技術的にまだ高い解像度で撮影できるわけではないためアップでの使用が難しく、解像度的に問題のないシーンでのみ、使用されているのだとか。
一方、背景プレートについても、①ヘリコプター/ラジコンヘリコプターによる空撮、②船上からの撮影、③スチル写真、④フル3DCG(嵐の海)など様々な方法で撮影・制作されており、その種類の多さから現場が混乱しないよう、あらかじめ撮影監督とともにバーチャルカメラを使ったプリビズで検証を行い、コンセンサスをとっておいたそうだ。


リアルな黒猫を効率的に制作

飛行シーンと共に、本作のVFXの見どころとなっているのが黒猫・ジジのキャラクターだ。このジジは3DCGで制作されているのだが、その"動き"の解析をするために、飛行シーンでも使われた4D Viewsが使用されている。これは、マーカーをつける必要があるモーションキャプチャでは、本物の猫の動きを自然にキャプチャすることが難しく、代わりに4D Viewsを利用したためだ。3DCGキャラクターのジジに、こ4D Viewsでデータ化した本物の猫の動きを手付けのアニメーションのリファレンスとして使ったことで、よりリアルなアニメーションが実現できたという。こうして制作されたジジのキャラクターアニメーションと、実際に撮影された背景とをマッチさせるために、本作ではFAROという3Dレーザースキャナも活用している。このFAROで撮影現場をスキャニングすることで、地面の複雑な起伏をデータ化し、ジジのキャラクターモデルと接地部分のマッチングの精度を上げていったのだとか。
また、このジジのキャラクターに短期間でリアルなライティングを行うために、新しい手法としてライトリグというプログラムも導入されている。これは、現場で撮影されたHDRイメージから、3DCGのライトを自動生成するというもの。ジジのような"毛の生えた黒い猫"を3DCGで制作する場合、撮影用と同じライティングの中にキャラクターモデルを配置しても真っ黒に潰れてしまうため、ライティングの調整に時間がかかるのだが、ベースとしてこのライトリグを使ったことで、作業時間が圧倒的に効率化できたという。
このように、限られたリソースの中でクオリティを上げるために、制作方法を使い分け、さらに新しい技術を導入するなど、作り手の苦労が感じられた本作のVFXメイキング。現在、映画が公開中なので、劇場で確かめてみてはいかがだろうか。

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Webから映像・ビジュアルデザインへ

"VFXの未来"をテーマに行われた「VFXの未来 ~仙台、東京、ロンドンを結ぶ~」では、ビジュアルデザインスタジオWOWの髙橋裕士氏(President / Executive Producer)、田崎佑樹氏(Creative Director)が、映像制作にとどまらず、インスタレーションなど幅広いジャンルに挑戦し続ける同社の取り組みを紹介した。


左から、田崎佑樹氏(Creative Director)、髙橋裕士氏(President / Executive Producer)

現在は「モーショングラフィックス」、「インスタレーション」、「UI&UX(ユーザーインターフェース&ユーザーエクスペリエンス)」の3つを主軸にしているというWOWだが、そのスタートは少し意外なものだ。「1997年に仙台で起業した時はWebの制作会社でした。はじめに仮想のショッピングモールを起ち上げたんですが、全然、出店依頼がなくて(笑)。なので1年程で方向性をかえて、映像制作をベースにしたビジュアルデザインをスタートしました」(高橋氏)。
それから17年経った現在では、仙台のほか、東京、ロンドンにも拠点をおくなど、順調に事業を拡大している。「振り返ってみると、仙台で会社を始めた頃が一番つらかったですね。東京やロンドンの事務所を起ち上げた頃は、不安よりも"東京やロンドンでどんなことがやれるんだろう"という好奇心の方が強かったですから」(高橋氏)。
そんな同社の特長のひとつとして高橋氏が挙げているのが、スタッフのほとんどがデザイナーやプログラマーといった"つくり手"だという点だ。これは同社の"会社内ですべての答えを出していく"という方針のためで、作品も内製が多く、このことがWOWならではの独創的な制作物を生み出すポイントになっているように思う。


映像の枠にとどまらず、あらゆるビジュアルデザインを創造

では現在のWOWは、どのような作品を手がけているのだろうか? 会場では同社のこれまでの作品が映像とともに紹介されたのだが、中でも印象的だったのが、世界最大規模の家具見本市「ミラノサローネ」で開催された「NEOREAL WONDER キヤノンデジタルイメージングの世界」用の展示作品。体育館ほどもある巨大な空間に設置された曲面スクリーンと、無数に張り巡らされた水糸にプロジェクターで映し出した映像を組み合わせ、まるでオーロラのような美しさが表現されていた。「我々の代表作として、今後も残っていく作品だと思います」(高橋氏)という同作は、東日本大震災の直後、2011年4月に展示された。制作スタッフの中には家族の安否を気にしている人もおり、非常に不安定な中での作業だったという意味でも、思い出深い作品になっているのだとか。こうした苦労の中、完成した同作品は、ミラノサローネの期間中に行われた「ELITA DESIGN AWARDS 2011」で、見事グランプリを受賞している。
今後はさらに、新機軸としてプロダクトの開発・生産・流通にもチャレンジしていきたいという高橋氏。「デザインは"美しくあるべき"という日本人にとって当たり前の感覚を、どうやって昇華させるかという点が、時代を超えて素晴らしいものを作る鍵だと思います」(高橋氏)と言う言葉通りに、WOWの作品はさらなる"美しさ"を求め、広がりを見せていきそうだ。


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多彩なジャンルから魅力あふれる作品が集結


今年で2回目となった「VFX-JAPANアワード2014」では、優れた3DCG/VFXを活用した作品の中から全6部門の最優秀賞作品が発表された。対象となったのは「劇場公開実写映画」、「劇場公開アニメーション映画」、「テレビ番組」、「ゲーム映像」、「CM・プロモーションビデオ」、「イベント・LIVE映像」の6部門。秋山貴彦氏(VFX-JAPAN代表理事)が司会を務めた表彰式では、優秀賞作品の紹介映像が流れたのだが、いずれも高い技術や斬新なアイデアが光る、魅力的な作品ばかりであった。 最優秀賞受賞作品は、以下の通り。

●イベント・LIVE映像部門最優秀賞
『TOKYO CITY SYMPHONY』
クリエイティブディレクター:大八木 翼氏、馬場鑑平氏、映像ディレクター:TAKCOM氏、テクノロジスト:橋本俊行氏、音楽家:三浦康嗣氏


「映像の賞をいただくのは今回が初めてなので、とても嬉しいです。ありがとうございました」(TAKCOM氏)



●CM・プロモーションビデオ部門最優秀賞
『Silicon;BootDrive』
ディレクター:A.T.氏(淺井 健氏)、プロデューサー:林 達郎氏、プロデューサー:遠藤正人氏、プロデューサー:鈴木章仁氏、CGディレクター:太田吉洋氏、プロデューサー:樋口 良氏、プロデューサー:増尾隆幸氏


「なにかの間違いじゃないと思うくらい、ほかの作品が優秀に思えたので、とても驚いています」(A.T.氏)、「たくさんのプロダクションが関わって作った作品ですので、代表してお礼を言わせていただきます。ありがとうございました」(増尾隆幸氏)



●ゲーム映像部門最優秀賞
『ジョジョの奇妙な冒険 オールスターバトル』
プロデューサー:新野範聰氏(バンダイナムコゲームス)、プロデューサー:佐々木夕介氏(バンダイナムコゲームス)、CG・VFX:松山洋氏(サイバーコネクトツー)


「この作品は、原作者・荒木飛呂彦先生の魅力的なタッチをどうしたらゲーム上で再現できるかという点を、サイバーコネクトツーさんと何度も何度も試行錯誤しながら完成させた作品です。これも集英社さんを始めとする、皆さんのご協力があってこそ実現できたものです。ありがとうございました」(佐々木夕介氏)、「荒木先生の漫画のテイストや美麗なカラー原稿の魅力を、リアルタイムなCG描画でプレイヤーが自由に動かして遊べる......そんな夢のようなゲームを作りたいという一心で、本作の表現を完成させることができました。これからも弊社では、超アニメ・超漫画的な表現を突き詰めていきたいです」(松山洋氏)



●テレビ番組部門最優秀賞
『八重の桜』
NHK「八重の桜VFXチーム」


「大河ドラマというのは1年間に50話ありまして、毎週、制作し続けることがとても大変でした。一緒にやってきたプロダクションさんや、チームの皆さんに感謝したいです。これからもまた"ゆうばり"に戻ってこられるよう、がんばります」(松永孝治氏/NHK)

●劇場公開アニメーション映画部門最優秀賞
『キャプテンハーロック』
監督:荒牧伸志氏、VFX:東映アニメーション、VFX:マーザ・アニメーションプラネット


「制作している時から業界の関係者に"ぜったい失敗するなよ"とプレッシャーをかけられてきた作品でした。国内では"大成功"......とまではいきませんでしたが、海外で高い評価をいただいて、面目を保てたかなと思っています」(荒牧伸志監督)。「『ハーロック』という作品は、自分が小さい頃から知っていた思い入れのある作品で、下手なものは作れないなと思っていました。海外で評価されているという話を聞くと、"やってよかったな"と、嬉しい気持ちになります」(竹内謙吾氏/マーザ・アニメーションプラネット)



●劇場公開実写映画部門最優秀賞
『少年H』
監督:降籏康男氏、VFXスーパーバイザー:戸枝誠憲氏(テレビ朝日クリエイト)、VFXプロデューサー:山本貴歳氏(テレビ朝日)


「CGの見せ場がある映画ではないんですが、作品全体に、演出としてVFXが馴染んでいるかどうかを再優先で考えながら制作しました」(戸枝誠憲氏)。

最後に、劇場公開実写映画部門最優秀賞を受賞した戸枝誠憲氏が話してくれた、映画『少年H』降籏康男監督とのエピソードが印象的だったので、ここに紹介しておきたい。
「『少年H』の監督は、巨匠と呼ばれている降籏康男監督なんですが、映画の制作が始まってすぐの頃は"降旗映画にCGなんて"という雰囲気があったんです。ところが、制作が進むうちに監督とお話する機会があったんですが、その時"自分が助監督だった頃、監督の命令で、雲が出てくるのをわざわざ待っていたことがある。それが映画というものだと思っていたから。でも今回『少年H』をやって、雲がほしかったら描いてもらえばいいじゃないかと思うようになった"とおっしゃっていただいて。僕の中では、その言葉がすごく励みになっています」(戸枝誠憲氏)。
国内の映像制作において、VFXが重要な役割を占めてきたことを実感させるエピソードだった。この勢いが続き、これからの国内VFXがますます盛り上がるよう、今後の「VFX-JAPANアワード」に注目していきたい。

※「VFX-JAPANアワード2014」優秀賞作品についてはこちら

TEXT_山田桃子
PHOTO_弘田 充

『ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2014』

『ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2014』

開催期間:2014年2月27日(木)~2014年3月3日(月)
会場:アディーレ会館ゆうばり(旧夕張市民会館)、ゆうばりホテルシューパロ、夕張市内会場
主催:ゆうばり国際ファンタスティック映画祭実行委員会、特定非営利活動法人ゆうばりファンタ
公式サイト:http://yubarifanta.com