国内でいち早くフォトグラメトリー専用スタジオとして設立されたAVATTA。本稿では、フォトグラメトリーとは何か、撮影ではどのような機材が必要なのか等を、同スタジオ設立者の桐島ローランド氏に聞いた。

※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 223(2017年3月号)からの転載となります

TEXT_野中阿斗(ラークスエンタテインメント
EDIT_斉藤美絵 / Mie Saito(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada

フォトグラメトリーとは

近年、フォトグラメトリーという技術が注目を集めている。このフォトグラメトリーとは、被写体を複数のアングルから撮影した2次元画像(写真)の情報を専用ソフトで解析し、テクスチャを含む3次元データを作るという写真測量技術だ。カメラで撮った画像がそのままテクスチャとして反映されるので、実物に近いリアルな3Dデータを作ることができる。写真を基に3Dデータを起こすため、あくまで現実に存在するものしか再現できないが、この技術を利用すればゼロからリアルな3Dモデルを作るよりも早く、低コストでハイクオリティな3Dモデルを作成でき、最近では映画やCM、ゲーム、フィギュア、VRコンテンツなど様々な分野で使われはじめている。

今回紹介する桐島ローランド氏が起ち上げたAVATTAは、日本でもいち早くフォトグラメトリー技術を採り入れたスタジオだ。AVATTAの設立は、3年ほど前に桐島氏が参加したシリコンバレーの視察ツアーまでさかのぼる。そこで現地の最新鋭の技術に刺激を受けた桐島氏が、自身のもつプロのフォトグラ ファーとしてのノウハウとその技術を組み合わせて何か新しいことができないかと考えたことがきっかけになったという。「かつてハイテクノロジーだった写真は、今ではどちらかというと徐々に取り残されつつある技術となり、写真業界も様々な意味でフラットになってきています。そのような中で、現地のIT系ベンチャーがやっている技術が面白く、自分も新たなチャレンジをしてみたいと思いました」(桐島氏)。もともと桐島氏は4年くらい前から人を3Dスキャンして作成するフィギュアに興味があったことから、視察ツアーから帰国後にインターネットで調べているとフォトグラメトリーに出会い、自身で試してみたという。「今は多くの情報がネットに出ているとはいえ、まったくの素人の自分が40台以上のカメラで同時に撮影して3Dデータが作れるかどうか、まず試さなければいけませんでした。幸い自分はフォトグラファーなのでメーカーさんともお付き合いがあり、ニコンさんが2週間限定でカメラを貸してくれることになったので、その2週間で無事に3Dデータを起こせたら事業にし、ダメだったら止めようと決めて挑戦したのです」(桐島氏)。結果的に上手く3Dデータを起こすことができたため、そこから3ヶ月後には会社を設立し、半年後には現在の場所にスタジオを設けたそうだ。

一見トントン拍子にことが進んでいるかのようだが、事業を起こしてからここまでくるのは、やはり簡単ではなかったという。今では何の問題もなくできることでも、例えば初期の段階ではカメラの適正な台数はいくつか、何十台ものカメラデータをどのようにPCと繋ぐかなど、作業を進めるたびに細かな問題が次々に発生し、それをひとつひとつ解決していったそうだ。「当時の僕はCG関係に関しては素人で、フォトグラメトリーという技術を全部手作りでゼロからつくったので、常にリサーチして常に勉強して、試行錯誤しながらやってきてあっという間に3年が過ぎました」(桐島氏)。現在ではCMやゲーム、TVドラマなど映像作品の仕事で多くの実績を積み上げている。

3Dスキャンの種類には、レーザースキャナやデプスセンサーなどもあるが、フォトグラメトリーはカメラで撮影した写真がそのままテクスチャに反映されるため、自動的にハイクオリティなテクスチャが作れるというメリットがある。つまり、撮った写真の良し悪しがスキャン(撮影)やテクスチャ、3Dデータのクオリティに直結するため、いかに良い写真が撮れるかが重要なのだという。

Topic AVATTA・全身スキャンスタジオ

2017年1月に改装されたばかりの全身撮影用のスタジオ。100台を超えるカメラで高精細なフォトグラメトリー撮影が行える。


内側から見たスタジオの様子。多数のカメラが取り付けられている


被写体が立った状態のスタジオ。360度全体をカメラが取り囲み、撮影を行う。カメラのほかに、ストロボも設置されている。ライティングは桐島氏のフォトグラファーとしてのノウハウのたまものだ

フォトグラメトリー撮影で押さえておきたいポイント

フォトグラメトリーを前提とした写真撮影の場合、撮影時に気をつけることとしてまずピントがある。「当たり前のことですが、ちゃんと1枚ずつピントも露出も合っていて、綺麗でシャープな写真が撮れることが重要です」と桐島氏。同じ一眼レフカメラでもエントリークラスとハイエンドクラスとでは、当然精度もちがってくる。また写真のクオリティ面では、レンズが特に影響するという。AVATTAでは高精細なフェイシャル撮影ではハイエンドな一眼レフカメラと単焦点レンズを使用している。もしキットレンズで撮影する場合は、ワイドにすればするほどクオリティが落ち、逆に望遠の方が綺麗に撮れるが広い撮影スペースが必要になるそうだ。あまりスペースのない室内でのフォトグラメトリー撮影の場合、FXレンズで言うところの50mm、DXレンズで言うところの35mmがちょうど良いレンズとのこと。画像サイズは設定できる中で最も大きなサイズで撮影しているという。なお、データ形式についてはクライアントの要望次第だが、AVATTAでは基本的にJPEGが採用されているそうだ。

ライティングに関しては、部屋を真っ白にしたり、バウンス光にしたり、とにかくフラットなライティングにすることが大事だ。ただし光を均等に当てると、どの角度から撮影しても逆光になり、ハレーションが起きてしまう。そのあたりのライティングのバランスは非常にコツがいるという。このように、露出やピントの細かな調整やレンズの選択、ライティングなど、写真のノウハウをクオリティアップに活かせるのは、プロのフォトグラファーである桐島氏ならではの強みだろう。

3Dデータ化するにあたっては、被写体自体に得意なものと不得意なものがあるという。フォトグラメトリーは複数の角度から撮影された写真をソフトが解析して対象物の特徴となるポイントを識別し、そのポイントを結んで形や大きさを導き出して3Dデータを作成していく。ゆえに、ある程度コントラストのあるものやランダムなパターンがたくさんあるもの、なるべく艶のないマット調のものと非常に相性が良い。例えばシワの多い顔やジーンズなどは、拾えるポイントが多くなるので比較的上手く再現できる。一方エナメル素材やボーダーの服、レースやチュールなど苦手とする素材もある。フォトグラメトリー撮影をするにあたって撮りやすい被写体かどうかも、上手く仕上げるためには重要になってくるのだ。

Topic 撮影機材

ここでは撮影に用いられた機材について少しみてみよう。



  • 縦のポールに取り付けられたカメラは、被写体に合わせて1台1台設定が施される。同じ被写体の撮影でも、レンズも最適なものが選定されるのだ



  • 100台以上のカメラが用いられるということで、下からのアングルもしっかり押さえている



  • 解像度は最も高い値を設定。保存されたデータはメモリカードではなくUSB接続でPCに送られる



  • カメラと同様に被写体を取り囲むようにストロボも設置された。通常の撮影と異なり、フォトグラメトリーの場合は硬いライティングだとテクスチャに固定の陰影が入ってしまうため、柔らかい光の方が良い



  • ほかにも、天井に向けたライトも設置され、スタジオ全体のライティングが調整されている



  • 縦に並べられたストロボ

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フォトグラメトリースタジオというビジネス

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フォトグラメトリースタジオというビジネス

AVATTAの業務は基本的にBtoBがメインとなる。要望があれば個人からの依頼にも対応するが、主に業者からの受注のもと、TVやCM、ゲーム向けの人物の3Dデータ化等に活用されているという。全身やフェイシャルのフォトグラメトリー以外にも、空撮用ドローンを使った建物、レーザースキャナを使った内装など、小さなものから大きなものまで様々な撮影も取り扱っている。また、生成した3Dモデルのリトポロジーやリギングにも対応し、最近はモーションキャプチャ収録も手がけはじめたそうだ。「ここまでできるスタジオはおそらく世界中でもうちしかないと思います。現在はうちとしてもVRをプッシュしていて、業者に向けてVRコンテンツのヘルプなども行なっています」(桐島氏)。

なおAVATTAでは、今春に全身スキャナのスタジオをアップグレードし、夏頃にはスペキュラが作れるスキャナも新たに増設することで、よりハイクオリティなフォトグラメトリー撮影が可能になるという。

フォトグラメトリーの可能性

フォトグラメトリーの可能性は無限にあると桐島氏は語る。今までは実存する人間をリアルにつくることはハードルが高かったが、フォトグラメトリーによってそれが可能となった。実写のスタントシーンなど生身の人間が行うには難しいシーンの撮影で、フォトグラメトリーによって役者の3Dモデルを作成してデジタルダブルとして活かすこともできる。フォトグラメトリーの活用方法はこれからど んどん増えていくことだろう。

また桐島氏は、今後個人としても作品をつくっていきたいと話す。「僕がフォトグラファーとして30年近くやってきた中では、例えば日本の街中で撮る場合に本当はいらない電信柱やガードレールなどの背景が映り込んでも仕方なく妥協していた部分があります。しかしCGはある意味全て自分で作れる、妥協しなくてもよい世界なので、自分の思うようにクリエイションができる楽しさがあります。最近やっと自分の作品をつくる時間をもてるようになってきたので、CGアートやVRアートみたいなものをつくってみたいですね。ZBrushなど専門分野はその道のプロに任せて、ライティングなど自分のフォトグラファーとしての経験を活かすことに注力して面白い作品をつくりたいと思います」(桐島氏)。

2016年はVRやARなどひと昔前までは夢だった先端技術が、ゲームなどを通してわれわれ一般人の身近なものとなった印象的な年だった。今後それらの技術との組み合わせがさらに進めば、フォトグラメトリーの可能性は大きく広がりをみせていくにちがいない。

Topic 高精細な3Dデータの生成

フェイシャルの例。



  • フォトグラメトリーによって撮影された写真から生成された桐島氏の3Dモデル。ZBrushに読み込みブラッシュアップしていく



  • 完成した3DモデルをCGシーンの中に置いた状態。かなりハイクオリティな出来上がりだ


ポリゴン表示した目のアップ。かなりのハイメッシュだとわかる

Topic 作品事例


NHK大河ドラマ『真田丸』用にAVATTAで撮影した写真から生成された3Dモデル。大量のエキストラが必要な場面等で3Dモデルがあると、群衆シミュレーションなどに用いることができるため有用だ

NHK大河ドラマ『真田丸』 ©NHK

Noah's"Flaw"MVの例。100台以上のカメラでの同時撮影により、被写体がポージングした状態での撮影も行える。被写体の独特なポーズが活かされた事例だ

Noah's" Flaw" by Takcom・NOWNESS
©2015 flau・TAKCOM・P.I.C.S・McRAY

Topic フォトグラメトリーによる3Dデータの活用

『月刊ドロンジョ doronjo by 御伽ねこむ』の例。



  • Aポーズで撮影した御伽ねこむ氏の写真に衣装のオブジェクトを加え、ボーンとリグをセッティングしたもの。この3Dモデルをポージングさせる



  • 3Dモデルにポーズを付けた段階。衣装はMarvelousDesignerで作成された



  • 実際の写真をリファレンスに3Dモデルをセッティングする。この後、ヘア、まつ毛などを別のオブジェクトとして作成し、さらにレタッチを加えて仕上げていく



  • 完成画

『月刊ドロンジョ doronjo by 御伽ねこむ』 ©タツノコプロ

オリジナルのフォトグラメトリースタジオを構築するには?

フォトグラメトリーは撮影するカメラの台数が多ければ多いほど、綺麗な3Dデータが作りやすくなる。AVATTAでは現在、120台のカメラを使って撮影を行なっているが、桐島氏が会社設立時にどのくらいのカメラの台数がベストか試してみたところ、40台くらいだと3Dデータのクオリティ面で厳しさがあり、60台でもデータに穴が開く部分が出てきたという。もちろんカメラ台数が少ないほど設備投資費用はかからないが、事業としてはじめるにはクオリティの高い3Dデータが求められるため多くのカメラが必要となり、高額な初期費用がかかったそうだ。しかし撮影のしくみ自体は比較的シンプルで、個人でもチャレンジすることができる。そこで、低コストでフォトグラメトリー撮影をする方法を桐島氏に聞いてみた。

ここで紹介するのは、ターンテーブル式という方法である。おおまかに説明すると、まずエントリー レベルの一眼レフカメラを6~7台用意し、それを重さに耐えられるようなスタンドへ縦一列に取り付ける。そして市販されているモーター付きのターンテーブルに人やモチーフとなる被写体を動かないように立たせ、ターンテーブルを回転させながら1秒おきに同期したカメラで写真を撮る方法だ。シャッターを同期させる方法はいくつかあり、ケーブルの種類などカメラメーカーによって方法は異なるが、自作をしたりWi-Fiを使ったりする方法がネット上にあるので調べてみてもらいたい。

データはメモリカードを使うと1台1台取り出してデータを読み込まないといけないため、USBケーブルを用いるのが良いとのこと。ライティングは方向性のない光が好ましいため、強いLEDライトと、できればソフトボックスのような物を付けて使用すると理想のライティングに近付ける。ソフト面ではカメラの同時制御にKuvacodeのSmartShooterが、3Dデータ生成にAgisoftのPhotoScanがオススメとのこと。また、PCは当然ハイスペックなほど現像スピードが速くなるので予算が許す範囲で選択したい。

このように6~7台のカメラ、ライト、ターンテーブル、ケーブルなどの備品、ハイスペックなPC、Smart Shooter、PhotoScan等があれば50~100万円の予算でハイクオリティな3Dデータが作れるという。ここで紹介したような環境を整えることができる方がいれば、一度試してみるのも面白いかもしれない。



INFORMATION

AVATTA
所在地:東京都港区芝公園 2-11-20 Tel:03-5425-6556
avatta.net

『月刊ドロンジョ doronjo by 御伽ねこむ』
提供:Mファクトリー、制作・アタリ/AVATTA
©タツノコプロ

NHK大河ドラマ『真田丸』
制作:NHKエンタープライズ
©NHK

Noah's" Flaw"by Takcom・NOWNESS
ディレクター:TAKCOM、制作:P.I.C.S.
©2015 flau・TAKCOM・P.I.C.S・McRAY

  • 月刊CGWORLD + digital video vol.223(2017年3月号)
    第1特集:フォトグラメトリー考察
    第2特集:メカCG究極テクニック2017

    定価:1,512円(税込)
    判型:A4ワイド
    総ページ数:144
    発売日:2017年2月10日
    ASIN:B01NAL9IKN