3DCGモデラー/コンセプトアーティスト森田悠揮氏による月刊CGWORLDの人気連載「Observant Eye」。2年間の同連載から選び出された作品と解説を1冊にまとめた森田氏初となる書籍の出版を記念する講演、幻獣アート制作技法書『The Art of Mystical Beasts』 出版記念セミナー「アーティスト森田悠揮氏はこうして作品を生み出していく」が、1月28日(日)森田氏の母校であるデジタルハリウッド東京本校(東京・御茶ノ水)で開催された。
TEXT_UNIKO
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)
PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota
やりたい仕事だけを受け続けるには、クオリティで勝負し続けるしかない
会場の様子
日曜日の19時からスタートした本講演には50名を超える来場者が詰めかけ、外の寒さとは対照的に会場内には訪れたCGクリエイターたちの熱意が満ち溢れていた。講演はデジタルハリウッド学長・杉山知之氏の挨拶で幕を開けた。杉山氏は、森田氏の人望の厚さに驚きを隠せない旨を語り、昨今の出版事情の厳しさに触れた。「フリーランスとして仕事をしながら自身の作品をつくり貯め "森田ブランド" を確立し、見事に書籍化を果たした」と心から森田氏の功績を称え、拍手と共に森田氏を壇上に招いた。
本講演はデジタルハリウッド大学准教授・小倉以索氏のナビゲートで進行され、森田氏への質疑応答のかたちで進められた。初めての出版を終えた感想と制作秘話を問われ森田氏は「連載をまとめた本なので、気がついたら出来上がっていたというのが正直なところですが、こうやってふり返ってみるとこんなに作品をつくっていたのかと驚いています」と述べ、毎月の連載事情を語った。連載の裏側を語る森田氏の口からは大変さを表す言葉はなく、日々仕事を抱える中でも自分なりに毎月テーマを見つけ、目の前にある課題に楽しみつつ挑んでいる様子が伝わってきた。
また、最近では海外の仕事を多く受けると話す森田氏。「これまではモデリングやテクスチャ制作の仕事が多かったが、最近はZBrushを使ったコンセプトアートの仕事が増えてきました」と近況を述べ、ZBrushを使うこと自体は今も昔も変わっていないが、求められるものが変わってきた実感があると語った。印象的だったのは、森田氏の仕事に対する自己分析だ。「好きなときに好きな仕事をして一定のレベルまでもっていけるところが、フリーランスとしての自分の強みになっています。その強みを活かすには仕事を選べるかどうかが重要で、やりたくない仕事を無理にこなしても納得のいくクオリティで納品できず、結果的に自分の名前に泥を塗ることになります。やりたい仕事だけを受け続けるには、クオリティで勝負し続けるしかないんです」(森田氏)。
とはいえ、仕事である以上クライアントの要求はつきものだ。森田氏は「自分で満足のいくレベルまではいくらでも頑張れるけど、そこを超えると途端に手が動かなくなることがあります。いかに自分でハードルを上げていくかが課題です」と自身をふり返った。このような場でも自分を客観視できる冷静さも森田氏の強みではないだろうか。
また、これから挑戦したいこととして、自身の作品集を出版したいと語る森田氏。「今回出版させていただいた書籍はメイキングの形式を取っていますが、次はファインアートとして自分の作品を集めた作品集が出版できるよう、いろんな人と協力しながらアーティストとして活動していきたい」と、新たな意欲をみせた。
会場に寄せられた質問には、森田氏が生き物を制作するにあたり日頃参考にしているものや、制作する際の考え方を問うものがやはり多かった。その一部をここで紹介しよう。
Q:クリーチャー制作をする際に生き物の生態に関する知識は必須でしょうが、何を参考にしていますか?森田:生き物をつくるアプローチは様々で、生態と進化の過程を重視してつくる方法もありますが、僕は興味をもったカタチからイメージがスタートして、その形に当てはめるように生き物にしていって、後から機能をもたせる方法でつくっています。同時に、頭の中でなるべく具体的にその生き物が生息している世界を想像しています。
Q:制作する際は、図鑑を見たり実際の生き物を参考にしたりしますか?森田:質感やディテールの参考に図鑑を見ることはありますが、実際に存在する生き物からインスピレーションを得てつくり始める、ということはあまりないですね。ベースを作る段階からそこにこだわってしまうと逆にやりにくくなってしまうんです。
質問コーナーの様子
この他、デジタルハリウッド在学中に制作された作品が紹介され、意外にも当時はZBrushをあまり使っていなかったことや、入学時から群を抜いて目立つ存在だったわけではないことなどが語られた。森田氏は、「ツールを覚えてCGの感覚が身につくのに半年かかりましたが、そこから面白くなって一日中CGをするようになり、ぐんぐんと上達していきました。CGを始めて半年くらいまでは、上手くつくれなくて当たり前です」と、会場にいるCG初心者にエールを送り、さらに「僕は、アニメーションに関しては卒業するまでボロクソに言われていました(笑)。自分の適性を知ることは大切です。続けていくためには自分の好きなものをよくわかっていなければ」と、アドバイスを添えた。
最後に、普段から森田氏と交流のあるMORIE Inc.代表取締役/ディレクターの森江康太氏から届いた祝辞が読まれて講演は幕を閉じた。終了後の会場には森田氏の作品集を手にサインを求める来場者の長い列ができ、森田氏の人気の高さを物語っていた。講演を終えた森田氏は「今日は7人も来てもらえば多い方だと思っていたのに、僕の本を実際に手にして、こんなにたくさんの人が集まってくださっている光景を目の当たりにして、"自分の本が世に出たんだな"と今日初めて実感することができました。とても感動しています」と話し、本講演で得た初の出版経験に対する実感が、新たな目標と挑戦への大きなステップとなったようだ。