コンピュータ科学分野の国際学会(ACM)の分科会「SIGGRAPH」、そのアジア版となる「SIGGRAPH Asia 2018」についての記者発表会が東京国際フォーラムで開催された。SIGGRAPH Asiaは今年で11回目となり、国内での開催は2009年の横浜、2015年の神戸に続き3回目となる。本稿では、"CROSSOVER"をテーマに掲げたSIGGRAPH Asia 2018の記者発表会をレポートする。

TEXT & PHOTO_神山大輝 / Daiki Kamiyama(NINE GATES STUDIO
EDIT_山田桃子 / Momoko Yamada


発表会の冒頭ではSIGGRAPH 広報マネージャ 河西 仁氏による挨拶および登壇者の紹介が行われた。当日、登壇したのはSIGGRAPH Asia 2018カンファレンスチェア 安生健一氏、SIGGRAPH Asia Conference Chief Staff Executive プラカッシュ・ラマジュ氏、SIGGRAPH Asia ナショナルマネージャー宮崎元一郎氏。また、ゲストスピーカーとしてフォーラムエイト代表取締役 伊藤裕二氏、デジタルハリウッド大学学長 杉山 知之氏となる2名を加えた合計5名での進行となった。

大きな期待が寄せられる「CG分野の中心」東京での開催


SIGGRAPH Asia Conferece Chief Staff Executive プラカッシュ・ラマジュ氏からは、開催概要に関する説明及び挨拶が行われた。プラカッシュ氏は「日本での開催決定は、この分野における日本の業界や研究機関の成長と成功を示している」とし、第11回をCG分野の中心となる東京で開催できることに対して大きな期待を寄せていると述べた。また、SIGGRAPH自身にとっても、今回の東京開催はアジアパシフィック地域におけるコンテンツ、規模の両面においてもさらなる成長となる折り返し地点と認識しており、コンピューターグラフィックとインタラクティブコンテンツの国際会議として確固たる地位を築いて行きたいと語った。「SIGGRAPH Asiaは単なる学会にとどまらず、アート、テクノロジー、リサーチ、ビジネスのギャップを埋めるもの」とし、日本だけでなく各国の参加者との積極的な意見交換を期待すると締め括った。なお、次回の開催国は既に決定しており、2019年は豪ブリスベン、2020年は今年8月に正式決定となる見込みとのこと。

テーマは「CROSSOVER」ー安生氏が語る開催コンセプト


SIGGRAPH Asia 2018カンファレンスチェア 安生健一氏からは、SIGGRAPH全体に関する説明が行われた。SIGGRAPHは40年以上前より毎夏北米で開催される世界最大のCG国際会議で、昨年は米ロサンゼルスで開催され、16,000人以上の参加者を集めている。

SIGGRAPH Asiaは毎年11月か12月にアジア圏で行われるSIGGPRAPHのことで、「基本的には学会だが、学術的なことだけでなくその応用、産業界でどう使うかまで含めて"CGとインタラクティブ技術の最先端"を得ることのできる場所となる」と説明する。SIGGRAPH Asia 2018のテーマは"CROSSOVER"。CGという言葉からは映画やテレビ、ゲームなどが連想されるが、昨今のVR/AR分野の産業界での発展を背景に、学術だけでなく産業も含めたCROSSOVERを目指して行くと語った。また、このテーマには国外の参加者と国内の参加者による文化的な交流に期待するという意味合いもある。


なお、同イベントのロゴはデジタルハリウッド大学の学生がつくったもので、ACM SIGGRAPHのロゴで「人」という漢字(他にも富士山の頂上や東京タワーの頂点など、様々な意味を内包している)が囲まれたデザインとなっている。

「東京という多くの産業や芸術文化が交錯するデジタル産業都市で、論文発表や展示会、そして体験型のイベントなど多種多様なプログラムを用意し、最新のテクノロジーとその未来を届けたい」と語り、積極的な参加を呼びかけた。

SIGGPRAPH Asia 2018開催日時と各プログラムの内容


続いてはSIGGRAPH Asia ナショナルマネージャー宮崎元一郎氏より、開催に関する告知などが説明された。SIGGRAPH Asia 2018の開催日時及び会場については、以下の通りだ。

会期:2018年12月4日(火)~7日(金)
※カンファレンスは12月4日~7日、展示会は12月5日~7日
会場:東京国際フォーラム(東京都千代田区)

出展企業数から見ても過去最大規模となる見込みで、展示会場は東京国際フォーラムのHALL E(約5000平米)で行われる予定。これまでよりもさらに多い参加数を見込んでいる。今回はトータル10個のプログラムとコンピューターグラフィクスに関連する展示会で構成されており、2018年2月現在では以下のプログラムが公表されている。


中でも採択率2割と質の高い論文が厳選される「Technical Papers」では、発表者が論文内容を1分間で宣伝する人気イベント「Papers Fast Forward」を今年も開催予定で、他にも技術をアートの側面から捉える唯一の項目の「Art gallery」、研究途上のユニークな最新研究が発表される「Emerging Technologies」など目玉プログラムは多い。ただ、ここで着目すべきは、各プログラムのチェアーがアメリカ、中国、アイルランドなど、国際学術会議らしく様々な国の研究者から構成される点だ。


また、これら多くのプログラムや展示会を成し遂げるために、「学生ボランティア」というしくみがあると宮崎氏は説明する。毎年100~200名、SIGGRAPH Asiaとしても将来この分野での活躍に期待する「金の卵」である学生に学会全体を支援して貰いながら、共に大きく盛り上げて行く考えだと語った。

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SIGGRAPHと関わり続ける「フォーラムエイト」代表 伊藤氏が登壇

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SIGGRAPHと関わり続ける「フォーラムエイト」代表 伊藤氏が登壇


ゲスト講演では、フォーラムエイト 代表取締役社長 伊藤裕二氏が登壇した。フォーラムエイトは30年来CADソフトを手がけており、2000年には市場に先立ちVRソフトウェア「UC-win/Road」を発売している。近年VRは様々な産業分野で使われているが、「フォーラムエイトとしては高品質、高機能なシステム構築が可能なパッケージソフトウェアを基盤としたソリューションを提供している」と説明した。もともとは米サンディエゴで開催されたSIGGPRAPH 2003へ出展をきっかけにSIGGRAPHと関わりをもち、その後、2015年に神戸市で開催されたSIGGRAPH Asiaでは神戸市に研究基盤をもっていたという経緯からプラチナスポンサーとして協力し成功を収めている同社。今回の東京開催でもプラチナスポンサーを務めており、「SIGGRAPH Asia 2018では、VRやCGを活用した情報処理全般、AIやIoTも含めた最新のコンピューターグラフィクス関係の展示が数多く出展されればと思います。当社としても最大限、最新のVR活用やシステムについて展示をしたいと思います」と語った。

「SIGGRAPHには特別な文化がある」、学術と産業が融合する場所


2人目のゲスト登壇となったのはデジタルハリウッド大学学長 杉山知之氏。杉山氏によると、東京は世界最大規模のCGプロフェッショナルコミュニティがある場所で、SIGGRAPH Asiaの東京開催は大きな意味があるとのこと。また、アメリカで行われる本家SIGGRAPHは、その歴史から見てもハリウッド映画関連に向けた技術開発が興味を引くところだが、東京のコミュニティで大きいのは"ゲーム産業"と"アニメ産業"だと言う。「ハイクオリティでレンダリングをして大きな映画に耐えるようなものをつくっていくというのもメインではあるが、昨今のグラフィック技術の進化によりリアルタイムの世界も進んでいる。一番の応用はゲームの世界。東京開催ということで、最前線で働く方々も含めてコミュニティを大きく盛り上げていきたい」。こうしたモチベーションの根幹はSIGGPRAHの"特別な文化"にある。最新研究やエマージング・テクノロジーが産業にきちんと応用される、技術が人々を楽しませるというところに直結しているSIGGRAPH Asiaは、学術と産業が分かれて考えられがちな日本では価値的と言える。これまでSIGGRAPHに縁遠かった方々にも、ぜひ数多く参加して欲しいと語った。

スポンサー企業・団体からのメッセージ

記者発表会の終わりには、5つの企業・団体からのビデオメッセージが会場で再生された。本稿では内容を要約して紹介する。


CG-ARTS専務理事 鈴木 郁氏
www.cgarts.or.jp


「CG-ARTSはACM SIGGRAPHとコーポレートアグリーメントを結んでおり、今回のSIGGRAPH Asia 2018を応援しています。世界中からクリエイターが集まるSIGGRAPH Asiaですが、待望の東京開催ということで絶好の機会となりました。産業界や学術分野はもちろん、CG分野で働きたいと思っている学生の方にもぜひ参加していただきたいです」。

VFX-JAPAN 代表理事 結城 徹氏
vfx-japan.jp


「当団体は設立7周年を迎えますが、現在VFX Japan Award、月齢セミナー、社員交流会の開催、フリーランスの方の健康保険など様々な活動を行なっています。世界各国からのビジター、国内のCG、VFX関係者が一同に集結し、情報発信やコミュニケーションがますます深まるよう、我々も可能な限りサポートしたいと思います。日本のCG、VFXがさらに発展し、Asiaの中心的な役割を果たせるよう願っています」。

SIGGRAPH Tokyo 安藤幸央氏
www.sig-tokyo.org


「私の考えるSIGGRAPH Asiaのポイントはインスピレーション、コミュニケーション、モチベーションの3つです。最新技術やアート作品、CG映像のメイキングからインスピレーションを受け、世代や業種を超えてコミュニケーションをとり、1年分のモチベーションをチャージして活力を得るのがSIGGRAPH Asiaの素晴らしいところです。本分は学会ですが、CGとインタラクティブ技術のお祭りといっていいほどの充実したカンファレンスです。SF映画に出てくるような未来都市東京へようこそ!」

イマジカ・ロボットホールディングス 代表取締役 塚田眞人氏
www.imagicarobot.jp


「弊社グループは米国で開催されているSIGGPRAHには初期からお世話になってきましたが、今回は日本での開催ということでゴールドスポンサーとして参加しました。参加される皆様には論文の発表などアカデミックな技術交流を期待していますし、海外の方との交流によってクリエイティブな刺激を感じながら、アジア初のコンテンツがワールドワイドに広がるようなネットワークづくりなど、幅広いチャンスをつくり出すお手伝いがしたいと思っています。今回は学生ボランティア(Student Voluntter Program)にも参加をしており、学生の皆様の来場に大変期待しています。また、弊社のブースではCG、VFXなど既存の領域に留まらずVR、MR、4K、HDRなどの新しい分野での映像制作と技術支援を行なっています。エンターテイメント分野だけでなく、スポーツや医療におけるCGの活用事例もご紹介します」。

ユニティ・テクノロジーズ・ジャパン 大前広樹氏
unity3d.com/jp



「UnityはゲームやAR、VRといったインタラクティブアプリケーションを開発するツールとして世界中で愛用していただいています。Unityでも、最先端のCGをつくり出すため、ここSIGGRAPHで生まれた沢山の技術が使われています。また、私達自身もSIGGRAPHで新しい技術や論文を発表するなどして、CGの進歩に微力ながら貢献してきました。SIGGRAPH Asia 2018、皆さんの力でぜひ盛り上げていきましょう!」



  • SIGGRAPH Asia 2018
    カンファレンス:2018年12月4~7日
    展示会:2018年12月5~7日
    東京国際フォーラム(TIF)
    sa2018.siggraph.org/jp