昨年4月に開催され、好評を博したAllegorithmicのSubstance製品ユーザーイベント「Substance Day Tokyo」が今年も去る5月9日(水)に東京・秋葉原のアキバホールにて開催された。日々機能拡張されていくSubstance製品は、いまや大規模ゲーム開発の現場のほとんどで利用される業界標準のツールとして認知され、さらにゲーム以外の分野にも広がりを見せている。盛況だった本イベントの様子をレポートする。
TEXT&PHOTO_安藤幸央(エクサ)/ Yukio Ando(EXA CORPORATION)
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)
<1>キーノート:「Substanceの今後について」
Sebastien Deguy/セバスチャン・ドゥギー氏(創設者兼CEO/Allegorithmic)
まず最初に「Substanceの今後について」と題し、Allegorithmic・創設者兼CEOのSebastien Deguy/セバスチャン・ドゥギー氏による基調講演が行われた。冒頭、Substance製品を活用したコンテンツの例として、Mikros-MPC、MIKROS technicolor 、brunch studio、FRAMESTORE による映画、ゲーム、広告等の映像が上映された。
特にSubstance Designerを活用した映画『ブレードランナー2049』(2017)のラスベガスのシーン、ソーラーファームのシーンでのテクスチャリングワークフローについては、Allegorithmicの公式ブログでも詳しく解説されているとのこと。
FRAMESTOREが担当した映画『ブレードランナー2049』の1シーン。原画(左)と最終画像(右)(BLADE RUNNER 2049'S OSCAR-WINNING TEXTURING WORKFLOW AT FRAMESTOREより)
そのほか、ブラジルのTVCM事例、映画の予告編、建築CG、インダストリアルデザインの領域での活用が紹介された。高級バッグで著名なルイ・ヴィトンでも、実製品を生産する前に質感を確認・検討する手段としてSubstanceが活用されているのだという。このように、2017年は幅広い分野、多くの作品でSubstanceのツールが活用され、とても興味深い1年だったとドゥギー氏はふり返った。
GDCで上映された Substance のデモリール ※当セミナーで上映されたものとは若干異なります
●Substance Share について
2015年からスタートしたSubstanceコミュニティサイト「Substance Share」は、コンテンツ、マテリアル、ブラシなどをユーザー間で共有するためのプラットフォームとして活用されている。昨年だけでも350万ものファイルがダウンロードされたという。引き続き、ユーザーのみなさんにもおおいに活用してほしいとのこと。
Substance Share - Free Exchange Platform
●Substance Automation ToolkitについてSubstance Designerのための自動化ツール群Substance Automation Toolkitは常に進化を続けている。特に大手プロダクション業務において、テクニカルアーティストや、グラフィックスエンジニア、パイプラインディレクターに使われることが多いとのこと。
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大量のアセットのテクスチャリングなどの作業を自動化できるSubstance Automation Toolkit。1アセットあたり1分程度で作業を完了する
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クリエイティブアセンブリによる『Halo Wars 2』のSubstance Automation Toolkit活用事例
続いてPBR対応のマテリアルライブラリSubstance Sourceについて説明された。Substance Sourceは、汎用的で多様なマテリアルを揃え、カスタマイズも可能であり、PBR対応のライブラリとして世界最高峰のもののひとつである、とドゥギー氏。ライブリンク機能に対応しているアプリケーション、Unreal Engine、Unityなどであれば、Substanceで編集したものをすぐにゲームエンジン上に反映し、確認することができるとのこと。
中央のタイヤを元素材とした、様々なカスタマイズ事例
●Project Alchemist
続いて、3月に発表した新プロジェクト「Project Alchemist」が紹介された。これはSubstanceのエコシステムにおけるスタンドアロン型の新しいツールであり、拡張マテリアルの制作を念頭に置き、プロシージャル(手順型)、キャプチャ(取り込み)、A.I.(人工知能)、アーティストの手作業の4つの軸を融合したツールになるのだという。クローズドベータの提供は6月を予定しているとのこと。
Project Alchemist Announced
●日本マーケットについて最後に、ドゥギー氏は「Substance製品は、日本でも数多くのクオリティの高い作品、スキルの高い人たちに使っていただいている。スタジオばかりでなく、個人アーティストの方たちにも活用されており、フォトリアリスティックな作品のみならずノンフォトの作品も含め、ワールドクラスの質の高い作品が生み出されている」と日本のマーケットの重要性に言及。そして、せっかく素晴らしい作品をつくっているのに、日本のアーティストたちはまだまだ世界に知られていないのが残念であること、ぜひArtStationや、Behanceなどの作品ポートフォリオサイトに、恥ずかしがらずに自信をもって作品を公開していってほしいと語った。
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<2>Substance Painter マスタークラス
<2>Substance Painter マスタークラス
Glauco Longhi/グラウコ・ロンギ氏(シニアスタッフキャラクターアーティスト/SIE Santa Monica Studio)
基調講演の後は、「Substance Painterマスタークラス」と題してGlauco Longhi/グラウコ・ロンギ氏によるクリーチャーのペイント手法が紹介された。ロンギ氏は、Substance Painterを使い始めて4年半、SIEワールドワイドスタジオの拠点のひとつであるサンタモニカ・スタジオでシニアスタッフキャラクターアーティストを務めている。キャリアのスタートは広告代理店で、その頃はCGとは関係なく、エアブラシやシリコン素材を使ったスカルプティングを担当していたという。
ロンギ氏の広告代理店当時の作品
その後、ゲーム『ゴッド・オブ・ウォー』(2018)の制作について、芸術的な側面から解説が行われた。Substance Painterで制作した内容は実際のゲームエンジン内で見られる質感とは若干異なることを把握した上で、作業を進めているとのこと。ロンギ氏にとって、エアブラシ時代と同じような使い心地で扱えるSubstance Painterは、とてもスムーズに作業できると評価も高い。
『ゴッド・オブ・ウォー』日本版トレーラー
ここでのクリーチャー制作の工夫は、皮膚表面が濡れた感じ、ヒゲ、触覚、頭頂部も全て左右対称ではなく左右で異なるUVマップを使っていることだという。制作フローとしてはゼロから組み上げていくのではなく、既存のものを壊して色を変えたり、粗くしたり、強調したりしていく。ジェネレータを使って自動的に生成できる部分にも、必ず自分の手作業によるペイントを加える。そうすることでSubstance Painterならではの良さを引き出すことができるとのこと。
<3>Substance Designerマスタークラス
Joshua Lynch/ジョシュア・リンチ氏(シニアエンバイロメントアーティスト/Red Storm Entertainment)
続いて登壇したRed Storm Entertainmentのシニアエンバイロメントアーティスト、Joshua Lynch/ジョシュア・リンチ氏。現在は2019年発売予定の『THE DIVISION 2』の制作に関わりつつ、Substance Designerの自作チュートリアルを有料で公開している。今回はSubstance Designerを使った屋根材の制作について、考え方、手順、テクニックなどが解説された。
マテリアルを作成するときのアプローチとして、まずそのマテリアルはどのような特性をもっているのか、どのくらい年月が経っているのか、どういう自然の影響を受けているのか、人間からどのような影響を受けるのかをみながら考えていく。より良いマテリアル制作には日常の経験を活かすことが大切で、日常生活で様々な素材を体験しておき、一般のゲームプレイヤーの目と、自分が考える感覚とが異ならないように気をつけることが重要だとロンギ氏は語った。
「さらにスケール感を大切にします。現実世界における、石畳の石の大きさ、ガラスの破片の大きさ、地面の小石の大きさなどです。これらの手順を進めるために重要なのは、リファレンスとなる画像です。制作のインスピレーションが得られる写真、この写真をみたら制作が頑張れる! というような写真です」。リンチ氏は、リファレンスであってもありふれた画像ではなく、ちょっとヒネリが効いた画像を好むという。また、中心となるリファレンス画像の他に、その写真をサポートする周辺の写真も重要だ。例えば、同じ場所の異なる時間帯を捉えた写真、同じ時間帯でも異なるアングル、異なる天候といったもの。オンラインで写真を探したり、ストックフォトも便利だが、実際に外に出て写真を撮影することを勧めているとのこと。
リファレンス写真の例。左:ハワイの黒い砂、中:サンタモニカのビーチ、右:ワシントンのビーチ。「これらの写真から、波打った感じに見える砂の共通項と、色のちがいなど、共通点と異なる点が発見できます。そしてそこからストーリーを読み取ります。雪が降るようなところなのか、生命の兆しがあるのか、動物の足跡があるのかなど」(リンチ氏)。
さらに大切なのは「フィンガーネイルテスト」とよばれる、そのマテリアルを触るとどれくらい表面が粗いのか、それとも滑らかなのか、また「重力感」と呼ばれるシミや苔(コケ)などが下に向かって落ちていくような感覚も重要なポイントだ。
Substance Designer で作成した石畳
手順としてバランスが取れた結果を導くには、マクロからマイクロへ大きな視点で捉えるところから、徐々に小さな視点、詳細へ目を向ける。どこから手をつけて良いのか迷ったときにも、このルールは役立つという。さらにもうひとつ大切なのは「リーダビリティ(読み取りやすさ)」。遠いところからも構造やパターンなどが読み取れるとともに、拡大したり近づいたりした際には、細かなテクスチャや細かな表面の様子、遠くからは見えなかった質感などが見えるといった、全てのスケールにおいて、気を配る必要があるとのこと。
「残念ながらツールの標準機能だけを使っていると表現はユニークになりません。ユーザーの皆さんも、いろいろ自分なりに工夫して表現していってほしい」とリンチ氏は語り、講演をしめくくった。
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「Substance Day Tokyo 2018」
日程:2018年5月9日(水)10:00~18:15
会場:〒101-0022 東京都千代田区神田練塀町3 富士ソフトアキバプラザ アキバホール
料金:16,200円
campaign.borndigital.jp/substancedays_tokyo2018